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第18話 変わりゆく町

 選挙当日までいよいよあと一日。

 やれるだけの事はやった。あとは明日、最後の仕上げを行うだけだ。


 朝からふらりと町へ出てみる。


「お、お兄ちゃん!」

「グレンさん!」

「おはよう!」


 アイオミ区の住民達が俺に向かって笑顔で挨拶をしてくれる。ゼンノ候補の支援者として俺の存在は既に広く認知されていた。そして俺が相当な額の金を持っているということも彼らはみんな知っている。


「明日はゼンノさんに投票するよ」

「エルフの森を守ろう!」


 人々の態度は変わった。劇的に変わった。

 酷く壊されていたゼンノさんの選挙事務所は有志の手によって綺麗に補修され、玄関口には色とりどりの花が飾られていた。


 所詮、金の力だ。だがそんなもんだよな、とも思う。彼らにとってみれば、エルフの国と戦争をするのなんてどうでもいいのだ。ただ、日々を普通に過ごすことが出来れば、そしてたまには贅沢をし、時には楽しい出来事があって……。


 俺も、アルフヘイムでのんびり暮らしたい。戦争なんて馬鹿げている。互いに手を取り合えるなら、絶対にその方がいいし、人間とエルフはそういう関係を築くことが出来る間柄なのだ。


 昨日、俺の策が功を奏し、イーノは手持ちの金の全てを失った。その代わりとして人々と兵士にアクラッツへの投票を呼び掛けた。しかしその動きは俺の予想通り。そもそも群衆をけしかけたのは俺なのだ。


「イーノにいくらもらったか教えてくれたら、選挙後に俺がそれ以上の額を差し上げますよ」


 こう言い含めておけば充分だ。これだけで明日のゼンノ票は確定する。そして俺は実際に金を持っている。アラクネの目玉を売り捌いた金だ。あんなもの、別に無くなったっていい。この戦争を回避する為にあの金が必要だというのなら、俺は喜んで差し出すだろう。


 街路を歩く俺を、物陰から監視している者達の姿があった。イーノの差し金だろう。怪しい動きを俺がしていないか確認する為だな。


 今日は、もう何もしない。明日、朝一番で投票所の前に陣取り、最後の演説を行うだけだ。


 エリナとホーリィからの報告によればリンチ区、ヘイレン区では多くの住人が二人の話に耳を傾けてくれたという。かなり好感触だったようだ。今日はもう、演説には出かけなくていいだろう。二人とも、よく頑張ってくれた。そしてゼンノさんも。


 だが今回の最大の功労者は何といってもローリエだろう。単独で、敵愾心(てきがいしん)剥き出しの住民や兵士達の中を突っ切ってアルフヘイム入りし、50余名にも及ぶエロフ達を引き連れて凱旋した。

 彼女の働きによりワイルド区、ローズ区ともに兵士達のエルフに対する意識を大きく転換させることが出来たし、人間とエルフの共存可能性について兵士によく理解させることも出来たはずだ。


 それだけではない。彼女にはもう一つ、頼み事をしておいた。

 そして俺もワイルド区とローズ区を回り、明日へ向けて必要な情報を収集してきた。


 今日は俺もしっかりと体を休め、明日に備える。もしかしたら明日は少し、予定が狂うかもしれない。イーノが俺の考えている通りの男なら、アドリブで動かなくてはならない場面があるかもな。

 どういう事態が待ち受けているにせよ、俺がやるべき事は一つ。


 選挙に勝つこと。ゼンノさんを何としても当選させる。これだけだ。


 と、その時、俺は街路の向こうからやってくる見知った顔を見つけ、立ち止まった。

 漆黒のローブを纏った小柄な女性。


「ユナ」


 俺から先に声をかける。


「グレン様、少しお時間を頂戴してもよろしいですか」


 鈴の音のように清涼な声。懐かしい気分だ。宮廷ではよく一緒に研究をしたものだ。俺の教え子の中では一番、薬法の才能があった。


「いいのか? 俺はイーノに監視されてるみたいだが。君が一人で会いに来るのはマズくないか」


「大丈夫です。もしクビになったらグレン様に雇っていただきますから」


「雇うって……俺だって無職だよ」


「ご冗談を。あなた程のお方なら引く手数多(あまた)でしょうに」


 艶然(えんぜん)とユナは笑い、すぐに表情を引き締めた。


「グレン様。選挙戦の前に、手短に今のヤンク王国の状況についてご説明させていただきたく思います」

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