2-①
リュシアン視点の番外編です!
ある日のパーティーの夜のこと。
会場を出て王宮の廊下を歩いていると、控え室からかしましい声が聞こえてきた。どうやら参加者のご令嬢が話をしているらしい。
「今日のセルジュ様いつにも増して素敵だったわね! 緑のコートが似合っていて」
「本当! すごく素敵だったわ! かっこいいわよねぇ、セルジュ様。公爵家のご長男で王家の血筋の方なのに全然偉ぶらなくて。物腰も柔らかで」
令嬢たちは興奮気味に話している。話題はルナール公爵の息子で次期ルナール家当主のセルジュ殿のことらしい。
セルジュ殿は俺の従兄で、勉学でも剣術でも、何をやってもあっという間に吸収してしまう天才型の人間だ。
それなのに驕った態度を一切見せないので、周りからの評価は大変高い。
俺は子供の頃から、何度そんなセルジュ殿と比べられてきたかわからない。少々複雑な思いを抱く相手だった。
さすがセルジュ殿は誰からも好かれるのだなと思いながらその場を通り過ぎようとすると、突然自分の名前が耳に飛び込んできて、俺は足を止めた。
「でも、どうせだったらリュシアン様よりもセルジュ様が王子だったらよかったわ。そうしたら私、もっと気合いを入れてアピールするのに」
「あら、リュシアン様かっこいいじゃない。テレーズさんだって随分ご執心なさっているように見えたけれど」
「あの人は顔だけでしょ。この国の第一王子だからどうにかして気に入られたいだけよ。あーあ、セルジュ様が王子だったらなぁ」
「確かにセルジュ様の方が本物の王子様みたいだけどね」
令嬢たちはそう言って笑う。
今話している女の一人、テレーズは、いつも出くわす度にうっとうしいほど張り付いてくる女だ。表ではわざとらしいくらいに俺のことを褒めて持ち上げてくるのに、裏ではこんなことを考えていたのか。
イラついて文句でも言ってやろうかと扉に手をかけると、テレーズの一際高い声が響いた。
「ジスレーヌ様だって同じじゃない? あの人もリュシアン様に付きまとって必死だけど、リュシアン様が王子じゃなくなったらあっさりほかの人に乗り換えそう」
扉にかけた手が落ちる。
半年ほど前に婚約者に決まったベランジェ侯爵家のジスレーヌは、俺を見つけるたびに目を輝かせて駆け寄って来て、妃教育のない日でもしょっちゅう王宮を訪れては会いに来る。
ジスレーヌもうっとうしいほど俺に張り付いてくる点ではほかの令嬢と同じだ。というか、ほかの令嬢よりも大分執拗に付きまとってくる。
……でも、ジスレーヌは違う。あいつは鈍くさくて策略なんかまるで見えないタイプだから、そんな器用に立ち回れるわけがない。
そう思うけれど、嫌な気持ちが拭えなかった。
ジスレーヌだって貴族令嬢の一人だ。そうは見えなくても、両親に命じられて王家との繋がりを作るために俺と関わろうとしていることも十分にあり得る。
そんなことを考えたら、テレーズの言葉には不愉快さしか感じなかったのに、なぜだか胸がズキズキ痛んだ。




