2010年1月15日〆切、第1回京都アニメーション大賞 シナリオ部門応募作『さよりのあかし』
○ 明石駅構内・ファーストフード店(夕方)
テーブル席に、時子の隣に佐代里、向かいに未希が座っている。
時子「ねえねえ、みきちゃん、明日までに提
出の数Ⅰの宿題、もうやってる?」
未希「うん。出されたその日のうちに全部済
ませたよ」
時子「さっすが、みきちゃん優等生。見せて、
見せて」
未希「はい、時子ちゃん」
未希はカバンの中からノートを取り出し、時子に手渡す。
時子「ありがとう。いつも助かるよ」
時子は右手にシャープペンシルを持ち、書き写し始める。
それからほどなくして、店内にベルの音が響き渡る。
店員A「番号札十八番をお持ちのお客様、お
待たせ致しました」
佐代里「うちが取りにいってくるわ」
佐代里は立ち上がり、カウンターへ向かう。
時子は黙々と宿題を書き写す。
未希「時子ちゃん、たまには自分の力だけで解いた方がいいと思うよ」
時子「私もそう思ってはいるんだけどね。手に負えない問題ばかりだもん」
時子は苦笑いを浮かべながら言う。
そこへ、佐代里が戻って来る。
佐代里「お待たせー。時子がハンバーグパイとメロンソーダで、未希がココナツ味のと、オレンジジュースやったね」
時子「うん」
未希「ありがとう佐代里ちゃん」
佐代里は二人の分を置いて、先ほどと同じ席に着く。
時子「いっただきまーす」
時子は左手でハンバーグパイをつかみ、お口へ運ぶ。右手ではシャープペンシルを動かしている。
未希「時子ちゃん、わたしのノート、汚さないようにしてね」
時子「うん。気をつけるよ」
佐代里「時子はほんま、ハンバーグ好きやな。ドーナツの店やのに、あえてこれをセレクトするなんて」
佐代里はチョコドーナツを齧りながら話しかける。
時子「だって、すごく美味しいんだもん」
未希「わたしも大好き。けどさすがに毎日だと飽きてきちゃうかも」
佐代里「それに、午後の軽食にするにはちょっときついな」
時子「ハンバーグといえば魚の棚に、『たこコロッケバーガー』っていうのがあったね。中に挟まってるのはハンバーグじゃないけど、なんか久しぶりに食べたくなっちゃった。今から買いに行かない?」
未希「いいわね。行きましょう!」
佐代里「ごめーん、時子。うち、これから用
事あるから先に帰るね」
佐代里は申し訳なさそうに断る。
時子「そっか。それじゃ、さよりちゃんの分
も買ってきてあげるよ」
佐代里「ありがとう」
未希「佐代里ちゃん、また明日ね」
佐代里「うん。じゃあね」
佐代里は店を出る。
時子「やっと写し終わったーっ。ありがとう未希ちゃん」
時子は借りたノートを未希に返す。
未希「それじゃ時子ちゃん、行こう」
○ 魚の棚商店街
各店舗から威勢のいい掛け声が飛び交っている。
時子と未希はアーケード街を歩いている。
時子「あそこのお店だね」
未希「今はちょうど空いてるね。並ばずに買えそう」
《蛸や喜一》と書かれた看板が掲げられているお店の前で、二人は足を止める。
時子「おばちゃん、たこコロッケバーガー三つ下さーい」
店員B「三つね、少しお待ち下さいね」
× ×
時子「はい、未希ちゃん。ホカホカだよ」
時子は紙袋から包み紙を取り出し、未希に手渡す。
未希「ありがとう。でも、ここじゃ恥ずかしいからおウチ帰ってから食べるよ」
時子はアーケード街を歩きながら食べている。
時子「それじゃみきちゃん、また明日学校でね」
未希「うん。ばいばい、時子ちゃん」
○時子のおウチ
時子「ただいまーっ」
時子は玄関扉を開ける。
時子の母「おかえり。今日は時子の大好物、ハンバーグ作ってるの」
時子の母は廊下へ顔を出す。
時子「やったあ!」
時子は嬉しそうに叫び、廊下を走る。
時子の母「手洗いうがいしてからね」
時子「はーい」
時子はリビングキッチンの前を通り過ぎ、洗面所の方へ。
○ リビングキッチン
時子「いっただきまーっす!」
イスに座り、ナイフとフォークを使ってお口に運ぶ。
時子「美味しいーっ。ママのお料理最高!」
時子の母「ありがとう。嬉しいわ。でもお小遣いは値上げしないわよ」
微笑みながら言う。
時子「あーん。うまくいくと思ったのに」
○お風呂
時子「あー、今日も楽しい一日だったな」
時子は湯船に浸かりながら、ゆったりくつろいでいる。
○ 洗面所
時子は歯磨きをしている。
○居間
時子はドライヤーで髪を乾かしている。
時子「ママ、おやすみなさい」
時子の母「おやすみ時子。明日の朝は冷えるみたいだから、風邪引かないように暖かくして寝るのよ」
時子「はーい」
そう言い、階段を駆け上がる。
○ 時子のお部屋。
ぬいぐるみがたくさん置かれてある。
時子はイルカのぬいぐるみを抱きしめて、布団に潜り込む。
○時子のおウチ(朝)
スズメの鳴き声。
階段を駆け下りる音。
時子「ママ、なんで起こしてくれなかったの?」
時子は焦りながらリビングキッチンへやって来る。
制服には着替え終えている。
時子の母「時子ももう高校生なんだし、そろそろ一人で起きれるようにならなきゃいけないかなって思って。あと一分くらいして起きて来なかったら、起こしに行くつもりだったけどね」
にこにこしながら言う。
時子「もう、ママったらひどい。遅刻しちゃうよー」
時子はクロワッサンを一つ手につかみ、学校へと走って向かう。
○ 学校・一年二組の教室
担任「みなさん、おはようございます。それでは出席をとりまーす。葦田さん」
クラスメイト達からの返事が続く。
担任「衣川さん」
時子「はーい」
担任「あれー? いつの間に入ってきたのかな? 先生がさっきここへ来た時はいなかったはずなんだけど。忍者みたいね」
担任はにこっと微笑みかける。
時子「次からは気をつけまーす」
時子は笑顔で言う。
朝のホームルーム終了後、時子は紙袋を手に持ち佐代里の席へ向かう。
未希もそこへ寄ってくる。
時子「おっはよう、さよりちゃん、みきちゃん」
佐代里「おはよ、時子」
未希「おはよう時子ちゃん」
時子「さよりちゃん、たこコロッケバーガー持ってきたよ」
時子は紙袋を佐代里に手渡す。
佐代里「サンキュ、時子」
佐代里は包み紙を外し、美味しそうにほおばる。
担任「魚田さん、早弁は禁止ですよ」
佐代里「先生、これは早弁じゃなくて朝ごはんなんです」
担任「もう! 魚田さんったら」
担任は微笑ましく眺める。
未希「あのう、今度の休み、みんなでデパートへ遊びに行ない? 商品券が一万円分あるの。お母さんが昨日、福引で当てたやつもらったの」
時子「もちろん行くよ」
佐代里「うちも行く行く。やるねえ、未希の母さん」
担任「先生も行きたいな」
未希「えー、嫌ですよ」
担任「あーん、残念」
それからすぐに、一時限目開始を知らせるチャイムが鳴る。
担任「それでは授業を始めますね」
学級委員からの号令。
担任「ではさっそく、この間出してた宿題、回収しますね。後ろから集めて下さい」
× ×
担任「みなさんきちんとやってるみたいね。感心、感心」
回収されたノートの束を見ながら呟く。
担任「それじゃ、今から抜き打ちで小テストを行いまーす」
「えーっ」
多くのクラスメイト達から、ため息が漏れる。
担任「宿題ちゃんとやってたら簡単に満点取れるから安心してね。教科書とノートは片付けて、机の上は筆記用具だけにしてね」
担任は各列一番前の席の子にプリントを配布してゆく。
時子のM「まっ、まずい」
時子の鼓動はやや高まる。
担任「全員行き渡りましたね。それでは始めて下さい」
時子のM「タンジェント135度。うーん、明石だけに、日本標準時子午線のことじゃないよね。何だっけ? 図を描いて確かめよう」
時子が一問目にてこずっているうちに、タイマーのアラームが鳴り響く。
担任「はーいそこまで。一番後ろの人が集めてね」
時子のM「えっ! もっ、もうタイムアップなの? もう少しだけ。何か、一文字だけでも」
鳴り終わってもシャーペンを置こうとしない時子。
クラスメイトA「あのう、時子ちゃん」
時子のM「うーん、えっと」
クラスメイトA「時子ちゃーん!」
時子の耳元で、大声で叫ぶ。
「あっ、ごめんね」
クラスメイトAは困り果てている。
担任「今回の小テスト、とっても簡単でしたよね? 宿題に出していた問題、数値もそのままにしてあげましたし。おそらくは、ほとんどの子が十点満点取れたのではないでしょうか? もしも、六点未満だった子がいるようでしたら、放課後再テストしてあげるわね」
担任は回収されたプリントをパラパラッとめくり、にこにこしながら告げる。
時子のM「せっ、先生。わっ、私、まさしく再テストですよーっ」
○ 運動場・四時限目体育の授業が始まるまでの休み時間。
時子「さよりちゃん、見て見てーっ。蹴鞠」
時子と未希はバレーボール用のボールを使って遊んでいる。
佐代里「蹴鞠って言うより、サッカーのパス練習しとるみたいやな」
未希「佐代里ちゃん、いくよ」
佐代里「おう」
未希の蹴ったボールが佐代里のもとへ向かう。
佐代里「それーっ!」
佐代里は思いっきり蹴り上げる。
佐代里「あっ、しまった。飛ばし過ぎてしもた」
ボールはフェンスを飛び越えて、運動場すぐ横の池へと転がり落ちる。
時子「佐代里ちゃん、ナイスシュートだね」
未希「すごーい、佐代里ちゃん。きれいな放物線描いたね」
佐代里「あんなに飛ぶとは思わんかった。取りに行くの、面倒くさ」
佐代里はため息を漏らす。
○ 池の前
三人は水に浮かんだボールを見つめる。
未希「届きそうにないよね」
佐代里「体育倉庫に走り高飛びのバーあるやろ。それ使ったら手繰り寄せれそうや」
佐代里はバーを手に持ち、戻ってくる。
佐代里「簡単に届いたな」
ポールがボールにかかった瞬間、池の中から錦鯉がバシャッと飛び出す。
佐代里「きゃっ、きゃあっ」
佐代里は悲鳴を上げ、咄嗟に時子に抱きつく。
バーは池に沈む。
ボールはより遠くへ行ってしまう。
佐代里「あっ、ごめん時子」
佐代里は慌てて時子の体から手を離す。
時子「どうしたの? さよりちゃん。お顔が引きつってるけど」
未希「鯉が出て来た途端、急に青ざめたよね」
佐代里「じつはうちな、お魚さんやエビ、ものすごい苦手やねん。特に陸に揚げられた直後のやつ。ビチビチビチーッっていきなり暴れ出すんやもん」
佐代里は照れくさそうに言う。
時子「そうだったんだ。意外だねえ。さよりちゃんと同じお名前のお魚さんもいるのに。苗字も魚田なのに」
時子はにんまり微笑む。
佐代里「そんなの関係ないやん。昨日用事がある言うたんも嘘やってん。魚の棚には近寄りたくなかってんよ。雰囲気的に」
時子「そういう理由があったなんて、さよりちゃんかわいい」
佐代里「かっ、かわいないって。自分でも情けないなって思ってるんよ」
佐代里は頬を赤く染めながら言う。
時子「シゴセンジャーさんにお願いして、佐代里ちゃんのお魚さん嫌いを治してもらわなきゃね」
佐代里「あのヒーローにそんな役目ないし」
未希「佐代里ちゃんって、怖がりね」
佐代里「未希もお化け屋敷苦手なくせに」
佐代里はにやりと笑う。
未希「そっ、それは」
未希は反論出来ず、言葉に詰まる。
○学生食堂(お昼休み)
三人はメニューを選んでいる。
佐代里「うち、石焼ビビンバにする」
時子「さよりちゃん、相変わらず辛いもの好きだねえ」
佐代里「もちろん甘いもんも大好きや。甘いもん食べたあとに、辛いもん食べたら、より一層の辛さを味わえるからな。モンブランも注文しようっと」
未希「スイカに塩に代表される味の相乗効果ね。わたしは、オムライス食べよう」
時子「私はどれにしようかな。あっ、懐かし
の給食フェアもやってるのか。じゃ私、き
なこパンにしよう。鯨の竜田揚げもあるんだ」
佐代里「うち、こうゆう風に調理されたやつ
は平気なんよ」
時子「私がピーマン嫌いなのと同じようなも
のだね。私もピーマンは原型留めなくして、
ハンバーグとかに混ぜないと食べれないもん」
佐代里「まあ、そんな感じやな」
× ×
テーブル席に着く三人。
時子の隣に未希、向かいに佐代里が座っている。
時子「すごいね、さよりちゃん」
未希「コチュジャンたっぷり真っ赤かで、すごく辛そう」
平然とスプーンを進める佐代里を、驚きの表情で見つめる時子と未希。
佐代里「全然辛くないよ。うち、韓国料理や
四川料理も好きやけど、タイ料理はもっと
好きや」
時子「鯛焼きとか、鯛めしとかのことだね」
佐代里「時子、それちゃうって。時子も一口どうぞ」
そう言い、佐代里はスプーンを時子の口に突っ込む。
未希のM「かっ、間接キスだ」
少し頬を赤らめながら眺める未希。
時子「うっ、あっ、あふい、かっ、かっ、からあああああい」
時子は勢いよく立ち上がり、セルフサービスドリンクコーナーへと走る。
アイスココアを紙コップ満タンまで入れて、一気に飲み干す。
この作業を何度か繰り返す。
時子「やっ、やっと落ち着いたーっ。まだ舌がピリピリ痛むけど。もう! ひどいよ、さよりちゃん」
時子は涙目になりながら言う。
佐代里「ごめんな、時子」
未希「佐代里ちゃん、めっ!」
未希は佐代里の頭をコチッと軽く叩く。
○ 一年二組の教室
五時限目、化学の授業が行われている。
酒田先生「それでは、前回の復習問題からやりますね。質量モル濃度はみんな理解出来てるかな? えっと、今日は十一月の九日だから、出席番号九番の衣川さん」
時子は当てられたことにも気づかず、すやすやと眠っている。
酒田先生「あらあら、お休み中なのね」
酒田先生は久未の席へ歩み寄る。
酒田先生「おーい! 衣川さーん」
耳元で呼びかける。
けれども時子は、まだ目を覚まさない。
酒田先生「起きなさいー」
時子のうなじを指示棒で何度かつつく。
時子「ひゃっ、ひゃう!」
時子はびくっと反応し、上体を起こす。
時子「あっ、私、いつの間にか寝ちゃってたんだ」
時子は垂れた涎を、制服の袖でふき取る。
酒田先生「おはよう衣川さん、季節もよくなって、お昼ご飯食べて眠いところだけど、今授業中よ。衣川さん、水500グラム中に分子量180のグルコースが1.8グラム溶解している時、質量モル濃度はいくらになるか答えてね」
酒田先生は優しく問いかける。
時子「先生、グルコースさんって妖怪に変身出来るんですか?」
時子は笑顔で逆に質問する。
その瞬間、他のクラスメイトたちから笑いが起きる。
酒田先生「衣川さん、まだ寝ぼけてるわね。まあいいわ。この問題は、十一タス九、出席番号二十番の中森さんに答えてもらいましょう」
未希「0.02モル毎キログラムです」
未希は即答する。
酒田先生「はい正解。お見事ね。衣川さんも、部活の時と同じように、授業も真面目に取り組みましょうね」
時子「だって化学、つまんないもん」
酒田先生「もう、衣川さんったら」
酒田先生は教科書で時子の頭を軽く叩く。
時子「いたたた」
○ コンピュータ実習室
六時限目、情報の授業が行われている。
三人は隣り合うように座っている。
真ん中に時子。
時子「このアメリカのお菓子、ものすごく甘そう」
時子はホームページを眺めている。
佐代里「色もド派手やね」
未希「カロリーもとっても高そうね。日頃からこんなのばかり食べてたらすぐに太っちゃうよ」
佐代里と未希は横から覗き込む。
担任「こーら、仲良し三人組。授業に関係ないページ開かない。Excelを使って各
都道府県の人口と面積の合計値を求める課題出してるでしょ」
そこへ、担任が寄ってくる。
時子「はーい。分かってまーす」
○ 一年二組の教室
帰りのホームルームが行われている。
担任「では、小テストを返却するわね。呼ばれたら取りに来てね」
担任は出席番号順に名前を呼んでゆく。
担任「はい、衣川さん。次はもっと頑張りましょうね」
時子「あーっ、やっぱり再テストだった。の●太くんのレギュラーな点数とっちゃったよ」
困り顔の時子。
答案用紙右上に、『0』と赤い文字で書かれてある。
× ×
時子「ごめんね、待たせちゃって」
佐代里「ええって、ええって。うちも危なかったし。6点でギリギリ回避や」
未希「時子ちゃん、頑張れ。焦らずに落ち着いてやればきっと簡単に解けるよ」
時子の席のすぐ側で応援する二人。
時子以外にも、再テストを受ける生徒が数名いる。
担任「それでは、再テスト始めるわね」
担任が教室へ入ってくる。
時子「先生、勘弁して下さいよ。今日は週に一度の料理部活動日なのに」
担任「衣川さん、部活に打ち込むのもいいけど、お勉強も大事よ。顧問の酒田先生にはちゃんと伝えてるから。みなさん、制限時間、今度は十五分間あげるわ。さらに特別サービス。教科書とノート見ながらやってもいいからね」
担任はプリントを時子たちに配る。
担任「それでは始めてね」
担任が合図をかけると、時子は教科書を手元に置き、懸命にシャープペンシルを走らせる。
時子「あっ、教科書の例題と全く同じ問題が出てる。やったあ!」
担任「衣川さん、嬉しいのは分かるけど、テスト中は静かにやりましょうね」
時子「はーい」
× ×
タイマーの鳴る音。
担任「はいそこまで。シャーペン置いてね」
担任はプリントを回収し終えると、すぐに採点をして、返却する。
担任「はい、衣川さんは8点よ」
時子「わーい! めちゃくちゃ嬉しい」
時子は受け取った途端、満面の笑みを浮かべる。
担任「衣川さん、これでもまだ決して喜ぶような点数じゃないのよ。満点取るのが当たり前だからね。次はもっと頑張ってね」
時子「ねえ先生、次からはもっと簡単な問題にして下さいよ」
時子は担任の目を見つめ、お願いする。
担任「これが一番難易度低い問題なのに。これ以上簡単にするなんて、どうすればいいのかな」
担任は苦笑いしながら断わる。
時子「あーんもう。先生のケチッ!」
時子はふくれっ面になる。
担任「衣川さんかわいい。それでは、次の小テストもお楽しみにね」
担任はウィンクをして、教室から立ち去る。
○ 調理実習室
時子「酒田先生、数学の再テストと部活動はどっちが大事だと思いますか?」
酒田先生「数学の方が大事だと思うな」
酒田先生は笑いながら言う。
時子「酒田先生までその意見? 遅れちゃったし、さっそくホットケーキ作りに取り掛からなくっちゃ」
三人はエプロンを身につけて、黙々と調理作業を進める。
出来上がると四等分に切り分け、お皿に並べて試食し始める。
時子「私、ハチミツ味が一番好き」
未希「わたしも時子ちゃんといっしょ」
佐代里「うちはマーガリン派やな」
酒田先生「みなさんとっても上手ね。お店に出してもいいくらいよ」
時子「酒田先生。化学の成績、部活動の分も加点してほしいな」
酒田先生「ダーメ、それとこれとは話が別です」
時子「あーん。酒田先生のケチッ! それにしても酒田先生って、化学の先生なのに料理部の顧問なんて意外ですね」
酒田先生「そうでもないのよ。化学の知識って、家庭科と被る部分も多いの。高分子化合物の範囲になったらよく分かると思うわ。理系クラスを選択した子は習うわよ」
時子「じゃ、私には関係ない話だね」
佐代里「うちも文系志望。数学の授業これ以上むずいの受けたくないし」
酒田先生「中森さんは理系志望よね?」
未希「いえ。文系です」
酒田先生「あら、中森さん化学のテスト、いつも満点取ってるから、理系行っても十分ついていけると思うんだけど」
未希「わたし、化学よりは国語の方が好きなので。べつに先生の授業が面白くないとかじゃないですよ」
酒田先生「そっか。三人とも二年生からは化学とらないのね。部活だけになるからちょっぴり寂しいな」
未希「あのう、酒田先生。わたし、前々から思ってたんですけど、先生自身は、顧問をしてるのに全然お料理しないですよね?」
酒田先生「そっ、それはね」
酒田先生はぎくりと反応する。
時子「確かに言われてみれば、入部した時か
ら今まで、酒田先生がお料理してるとこ、
一度も見たことないね」
佐代里「さては先生、うちらが作った料理つ
まみ食いするために受け持ったとか」
酒田先生「そっ、そんなことは断じてないわよ。もう、魚田さんったら。あなたたちが一生懸命作ってるのを指図したら悪いかなって思うからよ。それに、バスケ部とかでも顧問は試合に出場しないでしょう? それと同じ原理よ」
酒田先生は、佐代里の頬をつねる。
佐代里「いたたた、ごめんなさーい」
酒田先生のM「じつは先生、それが目当てだったの。お料理なんて、インスタントものしか出来ないのよ」
○ 通学路
三人は一緒に下校している。
時子「ねえ、今度のお料理の献立、玉子焼きとイワシハンバーグにしようよ」
未希「賛成。先週は大学イモ、先々週はかぼちゃプリン。その前はマドレーヌで最近お菓子ばかり続いてたからね」
佐代里「えー、もろにお魚使うやん。うちは、お菓子作りの方がええわ」
時子「まあまあ、さよりちゃん、そう言わずに」
時子は佐代里の肩をポンッと叩く。
○デパート・お菓子売り場
時子「商品券は最高だね」
佐代里「時子、買いすぎ」
時子「だって私のママ、私がお菓子買い過ぎるからってお小遣い上げてくれないもん。今日は思う存分使わなきゃ」
チョコレートやキャンディーなどがカゴ一杯に詰められている。
佐代里「未希、ええのんか? こんなに使わせて。残額ほとんどなくなってまうよ」
未希「うん。わたしもお菓子、大好きだもん」
佐代里「そっか。服よりも菓子なんやな」
○ デパート・ゲームセンター
時子「ここのゲームセンターって、けっこうオシャレだね。すごくうるさいけど」
時子は店内をきょろきょろ見渡す。
未希「ここはファミリー向けだからね」
佐代里「みんなでプリクラ撮ろか」
○ ゲームセンター・専用機の中
佐代里「うまく撮れたみたいやな」
真ん中に佐代里。右隣に未希、左隣に時子が写っている。
時子「さよりちゃん、私の顔に落書きしすぎだよ。私、次はUFOキャッチャーやりたいな」
時子は機嫌良さそうに言う。
○ ゲームセンター・UFOキャッチャー前
時子「あっ、あのコアラさんのぬいぐるみさんかわいいな。私、めちゃくちゃ欲しい!」
時子はケースに手の平を張り付けて叫ぶ。
未希「時子ちゃん、あれは隅の方にあるし、他のぬいぐるみの間に少し埋もれてるわよ。物理学的視点で考えても難易度は相当高いよ」
時子「大丈夫!」
時子は自信満々に答える。
コイン投入口に百円硬貨を入れ、押しボタンに両手を添える。
佐代里「時子、頑張りや!」
時子「よーし。絶対とるよ!」
時子は慎重にボタンを操作してクレーンを操り、目的のぬいぐるみの真上まで持ってゆく。
次にクレーンを下げて、アームを広げる。
時子「あっ、失敗しちゃった。もう一度」
アームはぬいぐるみの右側に触れたものの、つかみ上げることは出来ない。
再度クレーンを下げようとしたところ、制限時間いっぱいとなる。
時子「もう一回やるう!」
時子はお金を入れて、再挑戦。
しかし今回も失敗。
時子「今度こそ絶対とるよ!」
三度目の挑戦。またまた失敗。
時子「とっ、とれないよう」
時子は目に涙を浮かべ、お目当てのぬいぐるみを指差しながら佐代里に縋り付く。
佐代里「まかせとき、機械に食われた時子のお小遣い三百円分の敵、うちが討ったる!」
時子「あっ、ありがとう。さよりちゃん、いつも頼りにしてごめんね」
佐代里「ええって、ええって」
佐代里は時子の頭をなでてあげる。
時子「佐代里ちゃん優しい。時子ちゃんもよく健闘してたよ」
その様子を未希はほのぼのと眺めている。
佐代里「はい、時子」
時子「ありがとう、さよりちゃん。こんにちは、コアラさん」
時子は、そのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
○ 明石公園(夕方)
三人は園内を散策している。
未希「もみじ、今がちょうど見頃ね」
時子「落ち葉の絨毯も、すっごくきれいだね。それーっ」
時子は落ち葉の上に仰向けに寝転がる。
佐代里「時子、服汚れるよ」
時子「べつにいいもん。なんかもみじ見てたら、箕面に売ってた『もみじの天ぷら』、急に食べたくなってきちゃったよ」
未希「わたしも食べたことあるけど、けっこう美味しいよね」
時子「この落ち葉持って帰って、作ろうよ」
未希「時子ちゃん、もみじの天ぷらっていうのは、この葉っぱでは出来ないよ。あれは食用の特別なやつ使っるの。それに、一年以上かけて作られてるみたいよ」
時子「え! そうなの? 残念」
時子は起き上がり、がっくりと肩を落とす。
佐代里「時子って名前だけ聞いて勝手にイメージする癖があるからな。炭酸煎餅にはうけたわ。普通のお煎餅を炭酸水に浸しても作れんよ」
時子「もう、さよりちゃんったら。恥ずかしいよ」
未希「わたしもちっちゃい頃、鯛焼きは鯛を焼いたやつだと思ってたよ」
時子「最初に聞いたら普通そう思うよね。ねえ、明日は水族館行かない?」
未希「いいわね。わたし、行きたい」
佐代里「えー、そんなとこよりUSJ行かへん?」
時子「佐代里ちゃん、魚嫌いをなんとかしたいんでしょ?」
時子は佐代里に顔を近づけて問い詰める。
佐代里「確かに、そうなんやけど」
時子「じゃ、決まりだね。明日、朝九時に明石駅前に集合しよう」
未希「分かった」
佐代里「九時か。起きれたらな」
○ 明石駅前(朝)
佐代里「時子は、まだこうへんな」
佐代里は携帯電話の時計を眺める。
九時十分を示している。
未希「昨日も遅れて来たから、予想は出来てたよ」
佐代里「呼びにいこっか」
佐代里が言った矢先、時子がやって来る。
時子「さよりちゃーん、みきちゃーん。待たせてごめんねーっ」
時子は二人のもとへ駆け寄る。
佐代里「時子うちなータイムやな。また寝坊したんやろ?」
佐代里は優しく問いかける。
時子「いや、今日は違うよ。さよりちゃんが、お魚さんを大好きになってくれるように、ここへ来る前に柿本神社で拝んできたよ」
少しの間。
佐代里「何とも言えん気分や」
○ 須磨海浜水族園・入口前
時子「着いたーっ。私、水族館大好き。動物園と同じで何度来ても飽きないよ」
未希「わたしも」
佐代里「なあ時子、未希。須磨浦公園の方行かへん。紅葉きれいし、遊園地もあるよ」
時子「遊園地はここのすぐ隣にもあるもん。さあ、さよりちゃん、館内へレッツエントリー」
時子は、佐代里の手をつかんで引っ張る。
○ 大水槽の前
未希「須磨水族園といえば、やっぱこれね」
時子「さよりちゃん、すごいでしょ?」
佐代里「確かに迫力あるな。水槽越しやったら、なんとか直視出来る」
○ 館内・デンキウナギの水槽前
デンキウナギが電気を発すると、大きな音が出て壁に掛けられてあるオシロスコープが反応する。
佐代里「七百ボルトの力を感じるな」
時子「鰻重にしたら美味しいかも」
未希「これは、食べる気にはなれないよ」
未希は微笑む。
○ 館内・ピラニアの水槽前
餌やりの実演が行われている。
アジが水槽に投下されると、多数のピラニアが一斉に群がる。
時子「あわわわ、一瞬で骨までなくなっちゃった。この中に落っこちたら、一巻の終わりだよね」
佐代里「ピラニアって、じつは臆病やねんよ。人間が入ったら、ピラニアの方が逃げ出すらしいよ」
時子「へえ。さよりちゃん物知りだね」
佐代里「まあな。テレビでたまたま見てん」
未希「佐代里ちゃん、けっこう楽しんでるじゃない」
佐代里「いやあ、そんなことないって」
三人はその他多くの魚たちを見て回る。
○ 館内・レストラン
時子の隣に未希、時子の向かいに佐代里が座っている。
未希「わたしが奢ってあげるよ。高いものでも遠慮せずに頼んでね。ミニ蛸めしうどんにしよう」
佐代里「ええんか? ほんじゃうち、奮発してステーキランチにするよ」
未希「どうぞ」
佐代里と未希のメニューが決まる。
時子「あのね、私、ラッコランチが食べたいの。お飲み物はミックスジュースで」
時子は顔をやや下に向けて、照れくさそうに小声でポツリとつぶやく。
佐代里「時子は外食する時、お子様向けメニューがあったら必ずそれを注文するな。ここは年齢制限なくて大人でも頼めるねんけど、うちはよう頼まんわ。時子、高校生になってからも相変わらずこうゆうの食べたがるなんて、かわいいとこあるな」
佐代里は微笑み、時子の頭をなでる。
時子「さすがにちょっと恥ずかしいんだけどね、どうしても食べたくなっちゃって」
未希「時子ちゃん、わたしも中学二年生の頃までは頼んでいたから、全然恥ずかしがることはないよ。堂々と頼んでね」
× ×
ウェイトレス「お待たせしました。ラッコランチでございます。はい、お嬢ちゃん。ではごゆっくりどうぞ」
それからすぐに佐代里と未希の分も運ばれてくる。
時子「エビフライも私の大好物なんだ」
時子は尻尾の部分を手でつかんで持ち、豪快に齧りつく。
時子「あー、めちゃくちゃ美味しいーっ!」
その瞬間、時子の表情はとても幸せそうなものへと変わる。
佐代里「時子、あんまり一気に入れすぎたら喉に詰まらせちゃうかもしれへんよ」
未希「モグモグ食べてる時子ちゃんって、なんかアオムシさんみたいですごくかわいい」
佐代里「うちのも少しあげるよ。はい、あーんして」
佐代里はステーキの一片をフォークに突き刺し、時子の口元へ近づける。
時子「ありがとう、さよりちゃん。でも、食べさせてもらうのはちょっと恥ずかしいな。このお皿の上に置いといてね」
時子のお顔は、赤くなっている。
○ 館内・イルカライブ館
まもなくショーが始まろうとしている。
時子「最前列行こう」
佐代里「あそこ濡れるし、夏やったらまだええけど」
未希「わたしも、真ん中くらいの席がいいな。その方が、全体がよく見えるよ」
時子「そっか。それじゃ、そうしよう」
ショーの最中、イルカが蹴り上げたボールが佐代里の座っている場所へ。
佐代里「わ、こっち飛んで来た」
佐代里はボールを跳ね返す。
観客から拍手が沸く。
時子「さよりちゃん、ナイスパス」
未希「イルカさんと心が通じ合ってるわね」
佐代里「いや、そんなことないって」
佐代里は照れくさそうに言う。
○ 館内・タッチプール
時子「さよりちゃん、ウニとかヒトデなら暴れないよ」
佐代里「これやったら、触れるよ」
佐代里はヒトデをつかみ、手のひらに乗せる。
時子「みきちゃん、ナマコだよ」
時子は嬉しそうに駆け寄り、未希の手の甲に置く。
未希「きゃっ、きゃあっ!」
咄嗟にタッチプールの中へ投げ捨てる。
時子「さよりちゃん、そんな扱い方したらナマコさんかわいそうだよ」
未希「だって時子ちゃんがいきなり」
佐代里「未希にも苦手な生き物あるやんか」
佐代里はナマコを手に持ちながら笑う。
○ 館内・スーベニアショップ
時子「このマンボウさんのぬいぐるみ、かわいい。記念に買おう」
未希「こういうのは大丈夫?」
佐代里「そりゃ平気やって。リアルなんがあかんねん」
佐代里は笑顔で答える。
○ 電車の中
時子「さよりちゃん、お魚さん好きになれたみたいだね」
佐代里「まあ、ほんのちょっとだけな。イルカはかわいかったよ」
未希「これで次の献立もばっちりね」
佐代里「それはどうかな」
○ 学校・調理実習室
酒田先生「みなさん、新鮮なお魚を魚の棚で仕入れてきましたよ」
酒田先生は買い物袋から取り出す。
未希「さすが酒田先生、気が利きますね」
時子「さよりちゃん、イワシは頭と内臓を取って細かく刻んでね」
佐代里「えーっ、うちがせなあかんの? 嫌やー。触りたくないー。突然生き返って暴れ出しそうな感じがするねんもん」
酒田先生「魚田さんお魚触れないのね。先生も、名前に酒って付いてるけど、お酒は全く飲めないわ」
佐代里「酒田先生、仲間や。嬉しい」
佐代里は笑みを浮かべる。
未希「でも先生、魚が苦手だと、困ること多いですよね?」
酒田先生「そうね。魚田さん、お魚が触れるようになると、お料理のレパートリーが増えて、より一層楽しめるようになるわよ」
佐代里「ほんまかな?」
時子「さあ、さよりちゃん。気を取り直してレッツトライ!」
時子はパックからイワシを取り出し、俎板の上に置く。
佐代里「やってみるしかない。けど、やっぱ怖いわー」
佐代里は俎板の前へ歩み寄り、包丁を手に持つ。
目を瞑って、勢いよく振り下ろす。
未希「佐代里ちゃん、目を開けてやらなきゃ危ないよ。それに、片方の手で押さえて切るの。このイワシはもう動かないから大丈夫よ」
佐代里「そっ、それは分かってるんやけど」
佐代里は恐る恐る目を開く。
佐代里「きゃっ、きゃあああっ! なっ、生首、生首。イワシさんの生首がーっ」
佐代里は包丁を持ったまま後ずさる。
未希「佐代里ちゃん、落ち着いて、落ち着いて」
佐代里「もうやだ。あとは二人でやってな」
未希「佐代里ちゃん、ここで止めたら意味ないよ」
時子「頑張れ、さよりちゃん」
佐代里「わっ、分かった」
佐代里はやや手を震わせながらも、作業を進めていく。
佐代里「ふーっ、なんとか出来た。一匹やってみて、気持ちが吹っ切れたわ。生きた魚やエビは無理やけど、料理に使うやつなら、もう今となっては抵抗なく触れるよ」
佐代里は他のイワシを手につかむ。
時子「おめでとう、さよりちゃん」
未希「よく出来たね」
酒田先生「魚田さん、百点よ」
パチパチ拍手する。
このあとは部員三人で調理作業を進める。
時子「イワシハンバーグ完成。次はタコさんの番だね」
佐代里「イワシに比べたらだいぶマシや」
未希「足の部分を一口サイズに切って、このボウルの中に入れてね」
佐代里「了解。まかせてや」
佐代里は楽しそうに作業を進める。
佐代里「ほら、出来たよ」
未希「ありがとう。こっちも生地の準備が整ったよ」
時子「私も出汁作ったよ。もう怖いものなしだね、さよりちゃん」
× ×
完成させた料理をお皿に盛り付け、試食を始める。
佐代里「めっちゃうまい」
時子「さよりちゃん、生姜たくさん入れたでしょ? 辛い」
時子はペロッと舌を出す。
未希「わたしも、辛いのはちょっと」
佐代里「すまんな、うちの好みやねん」
酒田先生「先生も辛党だから、これくらいがちょうどいいわ」
未希「けど成績は甘くつけてますよね」
酒田先生「そうね。今学期から厳しくしようかな」
時子「あーん、それは絶対ダメ。酒田先生の基準でも私、十段階の四だったのに」
佐代里「うちからも頼むわ」
酒田先生「ふふふ、冗談、冗談」
酒田先生はにっこり微笑む。
○ 佐代里のおウチ・玄関先
佐代里「ただいま、ん? 何やこの箱」
廊下にダンボール箱が置かれてある。
佐代里の母「おかえり佐代里、ついさっき、三重のお祖父ちゃんちから伊勢エビが届いたわよ」
佐代里「伊勢エビ! ほんまに?」
佐代里は段ボール箱のフタを開けて、中を覗き込む。
佐代里「わあ、本物や。すごい!」
佐代里の母「そういえば佐代里、お魚さんとかエビさんは、怖いんじゃなかったっけ?」
不思議そうな表情で尋ねる。
佐代里「料理部に入った、というか時子や未希のおかげで少し克服出来てん」
佐代里は嬉しそうに話す。
佐代里の母「それは良かったわね」
佐代里「うん。触り心地めっちゃ良さそうやなあ、こいつ」
佐代里がつかんだ瞬間、伊勢エビは突然暴れ出す。
佐代里「うわあっ! びっくりした。まだ生きてはったんか!」
佐代里はびっくりして、思わず母にしがみ付く。
佐代里の母「そりゃ、今朝水揚げされたのを当日配送したものだもの。新鮮で美味しいわよ」
母はにっこり微笑む。
佐代里「やっぱうち、魚とエビは苦手やーっ。もう二度と触りたくなーっい」
佐代里は今にも泣き出しそうな声で叫ぶ。
完




