表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】愛する君と日付の書かれた婚約破棄書 ~信じてほしい、君以外考えられない~  作者: 群青こちか@愛しい婚約者が悪女だなんて~発売中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/41

6月27日 貴重書架2

「なにを急に? なぜ……リュシが?」


 油断していた、うまく言葉が出てこない。


「ルドウィクさんのわたくしに対する態度も、よそよそしい気がします」

「よそよそしいもなにも……まず、そんなに仲良くないではないですか」


 苛立ちのあまり、つい冷たい口調になってしまう。

 それでもアレシアは視線を逸らさない。


「ずっとリュシエンヌさんとお話したいと思っているのですが、まったく会う機会がありません。一度は約束していたのに、彼女の都合で流れてしまって……」


 約束だって? そんなことは聞いたことがない。

 アレシアが勝手に勘違いをしているのではないか。


「先日、案内状をいただいたときも、お話しできなかったでしょう? お茶会にも二人は参加されなかったし……」


 君と関わらせたくない……なんて、さすがに口にはできない。

 理由を聞かれたら、本当のことは答えられないからだ。

 だからこそ、アレシアは必死になってしまうのかもしれない。

 ……いや、それを置いても、アレシアはリュシエンヌに執着している気がする。

 本当に話がしたいだけなのか? 他に理由がある気がして仕方がない。


「話す機会がないのは、ただの偶然だろう。18日は二人で出かける予定が前々からあったんだ。別に君を……避けているわけではない」


 アレシアとの距離が近すぎて、思わず一歩下がった。

 嘘をついているという後ろめたさもあり、なるべく離れていたい。

 それでも、アレシアはじっとこちらを見つめ続けている。


「わたくしはいつも、午前中に図書館(ここ)にいます。図書館の方たちに聞くと、リュシエンヌさんは午後からしか来られないとか……」

「彼女にだって予定はあるよ、最近は乗馬を始めて忙しいんだ」

「乗馬ですか! わたくしも好きですよ」


 アレシアは少しだけ眉を下げ、微笑んだ。

 話が終わりそうにない……。

 彼女は色々な人と、すぐに仲良くなれるタイプだ。

 それなのに、リュシエンヌとだけ話をしてないことに違和感があるのだろう。


 そして、いつもリュシエンヌの傍にいるのは俺。

 リュシエンヌを守っているだけなのに、気を遣っているように見えていたのか……。

 しかし今は、どうすることもできない。

 これ以上彼女と話しても、堂々巡りになるだけだ。


「では……」

「お二人は……」


 二人で同時に話し始めてしまった。

 アレシアが「失礼いたしました」と、頭を下げる。

 このまま終わらせたいところだが、それも不自然だ。

 次の彼女の言葉を聞いて、今度こそ切り上げよう……。


「いえ、こちらこそ。どうぞ、お話をお続けください」


 少し戸惑っている様子のアレシアに、話すよう促した。

 アレシアは小さく頷き、口を開いた。


「あの、わたくしのこと……本当の素性を、ルドウィクさんはご存じですよね?」


 思っていたのとは違う質問が投げかけられた。

 彼女はドゥロール国の王女、もちろんわかっている。


「ええ」


 そう答えると、アレシアはわずかに微笑み、話を続けた。


「実は、この国での滞在が終わったら婚約者が決まりそうなんです。でも、一、二度顔を合わせただけの方……いわゆる政略結婚です」


 彼女は国王の一人娘。

 好きな相手と結婚ができないのは、仕方ないとはいえ悲しいことだ。これは素直に同情してしまう。


「それは、なんといっていいか……」

「はい。なので、少しお話を聞きたくて……あなた達二人も、政略結婚と聞きました。とはいえ、幼馴染なのでわたくしとは違うと思うのですが……」

「は? ちょっと待ってくれ」


 思わず足を踏み出し、彼女の肩に手を置きかけた。

 驚いたアレシアが、今度は一歩後退る。


「ルドウィクさん……どうかなされましたか?」

「誰と誰が政略結婚だって?」

「……エルネスト家と、パーヴァリ家が……えっ違うんですの?」


 アレシアは、こぼれ落ちんばかりに目を見開いて、驚きと困惑の混ざった表情で俺を見つめた。

 真っ白な肌が一段と血の気が引いたようになり、今にも倒れそうだ。


 これは演技には見えない。

 彼女は俺達を政略結婚だと思っていたのか? 

 何故そう思った? 不可解すぎて言葉が出てこない。


「お二人のこと……わたくし聞いてしまって……ごめんなさい。でも、あなたがとても我慢をしていらっしゃると……」

「俺……が、我慢? さっきから君は一体……」


 問い詰めようとして、言葉を飲み込んだ。

 目の前のアレシアは戸惑いを隠せず、両手を強く握りしめている。

 到底嘘をついている人間の表情には見えない。


 おかしい……よく考えるんだルドウィク。

 彼女はこの国に来てまだ一か月もたっていない。

 一人でこんな妄想をするような人物でもない。

 

 ――誰かがアレシアに嘘を吹き込んだ。


 彼女を疑うより、そう考えるほうが正解だ。

 現に今も『聞いた』と言っていた。まず、その噂の出所を確かめなければいけない。


「アレシアさん、声を荒げてしまって申し訳ない。少し時間をもらってもいいかな?」

「ええ……大丈夫です」


 ほんの少しだけ、頬の緊張を解いた彼女に、椅子を引いて座るように促した。

 彼女が座るのを確認してから、正面に座った。


「では、まずアレシアさんが知っている話を、聞かせてもらえますか?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ