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第16話「対魔術師戦」

少しずつスキルが充実してきました! 今回もよろしくお願いします!

 ふと、俺は目が覚めた。うっすらとぼやけた視界に、小さく燃える焚き火が映る。その近くで毛布にくるまり、丸まって眠るシーナさんとハーヴェの姿が見えた。レジェルは静かな眼差しで、焚き火が消えないように枯れ枝を放りこんでいる。

 魔物の夜襲を警戒して、1人は見張りを立てての睡眠だ。シーナさんの事前の調査により、この辺りにはそう危ない魔物も居ないとわかっている。


 じゃあ、何で起きたんだ?


 あたりを見渡して、異変に気付く。クーちゃんの様子がおかしい。

 いつも早期警戒網として、獣の感性で敵意や危険を捉えるクーちゃん。毛皮を逆立てて、鼻をふすふす言わせている。準警戒ってあたりか。

 何か、居るのか?


「どうした、マコト」


 俺に気付いたレジェルが声をかけてくる。辺りはまだ暗い。休める時に休むのは冒険者の資質だ。俺は目覚めたての頭を起こすために、かばんから水を出して飲む。


「いや、何か居る気がして」


 レジェルの眉がぴくりと動く。俺の様子と、クーちゃんの様子をちらりと見た。


「魔物じゃないか? スライム程度ならオマエさんの敵じゃないだろう? "スライムバスター”のマコト」

「ホント、誰が流してんだよ、その2つ名……」

「いいじゃないか。冒険者なら知名度があがるのは悪いことじゃないぞ。オマエさん。腹は空いてないか? 何かあったはずだ……」


 レジェルがかばんをごそごそとあさり出す。



 じゃり、と地面を踏む音が微かに聞こえた。足音を殺さねばここまでは小さくならないだろう音。

 次の瞬間、それは連続した走る足音になる。


「きゅっ!」


 クーちゃんの鳴き声が響く。

 襲撃!?


 木立の影から、勢いよく人影が飛び出してきた。鎧は無い。覆面、構えた片手剣はすでに抜き身。

 そこからは一瞬の連続。

 一番速い反応を返したのはレジェル。かばんから抜いた投げナイフを襲撃者に投げ放った。

 ずっとかばんの中で握ってたのか!


 襲撃者がひるんだ様子で投げナイフを剣で弾く。何より勢いが大きく削がれた事が大きい。レジェルはその隙に自分から距離をつめた。腰から剣を抜き打つ!

 襲撃者の反応も素早い。身体を真っ二つかと思われたレジェルの剣閃は、襲撃者の脚を斬り裂くに留まった。

 レジェルは無理な追撃はしない。


「敵襲ッ!」


 レジェルの短い号令。その声にシーナさんが即座に反応した。

 寝ながら抱いていた短剣を抜き放ち、四つんばいの姿勢から跳びすさって襲撃者から距離を取る。


「起きろ! ハーヴェ!」


 コイツを起こさないと、サクっと殺されてしまう。事情はわからないが急がないと!

 俺はハーヴェを強く揺すると、むりやり腕を取って引っ張って立たせた。


「んにぇ? もう朝でござるか……?」

「敵だよ!」


 かかわってらんねえ! 起きてるなら自分でなんとかするだろ。

 俺はひのきのぼうを構えると、戦場の様子を確認する。レジェルが襲撃者とにらみ合っている。いつの間に増えたのか、2人目の覆面がレジェルと対峙し、3人目の覆面がシーナさんと剣を交えていた。


 おいおい、ホントになんだよこいつら。ホントに俺らを殺す気か?


 背中が、手足が、強張る。寒いのか、熱いのかわからん。ひのきのぼうを握る手に力が入る。

 俺、異世界に来て、魔物と戦って、戦うことに慣れたつもりでいたけどな……。


「ひ……ひひ……」

 

 変な笑い声が俺の口から漏れる。どうすればいい? どうすればいい!?

 加勢か? 邪魔にならんか? 魔術撃つか? 巻き込まないか!?

 脳みそが加熱する。思考がぐるぐる回る。


 見ろ! 見ろ! 何ができる!?


 ……ん? あの覆面……。


「ハーヴェ、あいつの覆面変じゃないか?」

「なんでござるか……?」


 ハーヴェの声が硬い。護身用の短剣を抜いて構えてはいるが、得意そうな感じはしない。

 だが、浮き足立ってはいない。意外と冷静だな、コイツ。


「鼻面のところ盛り上がってるだろ。人の顔じゃない」

「確かに! あやつら、獣人でござるか!?」


 話していられたのはそこまで。さらに2人の覆面が姿を現す。

 おいおいおい……!

 シーナさんに近い位置に現れた2人。そのうち1人が抜き身の剣を手にシーナへと走り出す。残った1人の覆面が、少し距離を取ったまま、ねじれた木を組み合わせ、先端に黄色い水晶球を付けたような短い杖を構えた。


「シーナ殿!!」


 ハーヴェが叫ぶと援護に駆けていく。その姿を、俺はもう見ていなかった。

 


 あのショートワンドを構えてる奴、『魔術師』か!


 俺の口元に、にたりとした笑みが浮かぶ。魔術を撃ってくれる魔術師……! 魔術師(エサ)だ!


「<まぼろしのたて(魔法防御力上昇)>!」


 俺は小声で魔法を発動させる。ぼんやりとした白い光。この魔法は対魔術師には必須!


「<火弾ファイアショット>!」


 力ある声。覆面魔術師が突きつけた杖の先に魔法陣。砕け散ると同時に、火の塊。

 撃ち出された火の塊は予想以上に速い。俺はかろうじて避けた。着弾した火の塊が、爆発音をばら撒く。


「魔術師ですって!?」

「なっ……!」


 シーナさんとレジェルの驚く声が聞こえる。その隙を狙うかのように対峙している覆面が攻撃を繰り出した。あわてて迎え撃つシーナさんとレジェル。

 遠距離攻撃を持つ魔術師は、近距離戦士にとっては最悪の組み合わせだろうな。



「俺が……! あいつは俺がやる!」


 ああ、言っちゃったよ! カッコイイねえ、俺! ちくしょう! 動いてくれよ、身体。


 魔術を使うなら――スライムと変わらねえ!


 俺はひのきのぼうを構えると、覆面魔術師と相対する。基本は一緒だ。よく見ろ!


 魔術師の身体に力が入る。小さく動いている口元は、魔術の詠唱か?


「……<火弾ファイアショット>!」


 魔法陣が砕け散る。しゅごっ、と大気を灼いて火の塊が飛ぶ。集中した俺が振るうひのきのぼうが、その火の塊を正確に捉え、弾き落とす。伊達に毎日魔術相手に鍛えてるわけじゃねえ!


 いける! 落ち着いて見ればスライムの氷柱と同じくらいの速度! 


 覆面魔術師は呆然としている。だが戦闘中なのを思い出したのか、焦ったようにもう一度ショートワンドを構える。


「くそっ! 何だそれはッ! <火弾ファイアーショット>!!」


 こりゃ、いけるか!? 

 俺はひのきのぼうを右脇に挟み込むと、突き出した左手で火の塊を弾く。小爆発でちょっと左手が弾かれたが、それだけだ。ラーニングしないな、これはすでに持ってる『魔術「火」初級』ってことか?


「来い来い来い来い。次の魔術は? もう無いのか!?」


 俺の形相に、覆面魔術師が怯んだ様子を見せた。


 次は、こっちから行くぞ?


「<力よ! 比類なき剛力……風のごとき俊敏さを与えよ! 身体能力上昇(フィジカライズ)>ッ!!」


 掌で魔法陣が砕け散る。効果は劇的。みなぎる! 力がみなぎる!!

 俺は姿勢低く突撃する。おお! 速い! 速いぞ! 

 覆面魔術師もさるもの、突撃する俺を殴りつけるためにショートワンドを振り上げる。


「ふん……ッ!」


 俺の力任せの一撃。覆面魔術師の腕がへしおれる音。

 やべ! 結構威力でるな! 

 もう一撃を加減しながら脳天に叩き込むと、覆面魔術師はぐるんと白目を()いて倒れた。


「ふゥ――!」


 俺は詰めていた息を吐く。

 ひりひりする……! 何だこのやり取り。いい! 

 にやつく口元を抑えられない。自分の能力をぶつけ合う、この灼ける感じ!


 あ? 何だ?


 戦場が止まっていた。何故みんな俺を見る。

 ハッとしたように、レジェルたちと覆面たちが動き始める。だが、覆面たちの動きには動揺が見える。目に見えて悪くなっていた。


「<いてつくかけら>っ!」


 俺は氷柱を生み出すと、ハーヴェと戦っている覆面の足を狙って射出する。着弾。突き刺さり、冷気が炸裂し、氷漬けの足が出来上がる。

 おし! これでまた1人!


「くそっ……! 魔術師だと!」


 覆面からくぐもった声が漏れる。ギィンと甲高い金属音と共に、レジェルとシーナさんから距離をとる覆面たち。ちょうど俺との間にレジェルとシーナさんが来るように位置取りをし始めた。

 あ、それだと魔術で撃てないじゃねえか。


 だが、戦況は大きくこっちに傾いている。捕まるか、斃されるか。どちらにせよ、お前らは終わりだよ。

 レジェルさんは逃がすつもりは無いらしく、剣を構えながら慎重に様子を観察している。シーナさんはこの隙に放置されていた自分の短弓を拾い上げた。いつでも撃てるように引き絞らないまま、矢をつがえる。




 その瞬間を、なんと表現すればいいのだろうか。


 全ての均衡が崩れ去る、その瞬間を。ここは異世界。何も争うのは人だけではないのだ。


 この戦況に飛び込んできたのは、ひとつの衝撃。ベキベキと枝をへし折り、ズドンっと大きな着地音を立ててソイツは着地した。 



「ッ……ゴォアアアアアァァァァアアアアアッッッ!!!」



 夜闇に、極大の咆哮が空に放たれる。

 盤面を狂わせる白い肌の巨躯の魔物が、そこには屹立していた。



 


ありがとうございました! 次の更新はまた2日後です!

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