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第八一話 蝦夷地交易

皆様、温かい応援ありがとうございます。

▽一五七〇年十二月、澄隆(十五歳)鳥羽城



 大湊港の代官を任せている木戸末郷から嬉しい知らせが届いた。



 焙烙火箭大作戦の時に織田家から接収した安宅船三艘の修繕が、やっと完了したらしい。



 安宅船は、千石積の大型のものが一艘、五百石積の中型のものが二艘だ。

 三艘とも、矢倉を簡易にした荷船に改造している。



 この三艘は、九鬼問屋に預けて、運用しよう。

 中型の安宅船は堺との定期船にしたいが、大型は遠距離の交易用に使いたい。



 今、遠距離の交易先として考えられるのが、蝦夷地(今の北海道だね)だ。

 たしか、この時代、安東家に従属していた蠣崎慶広が、蝦夷地の西南部を支配していたはずだよね……。


 

 前世の知識だと、今日から数えて約三十年後、江戸幕府を開いた徳川家康が、安東家から独立して蠣崎から松前に改名した慶広に対して『黒印状』を出し、アイヌの人々との交易についての管理権を与えていた。

 その後、松前藩は、アイヌの人々と本州商人が直接交易することを禁じ、蝦夷地の産物をすべて、松前藩が独占した。



 ……ということはだ。

 今なら、蝦夷地との交易は、やり放題ってことだ。

 蠣崎慶広と交易しても良いが、儲けるなら直接、地元の方々と交易した方が良いだろうな。

 蝦夷地までの航路は、幸い、前世で廻船航路に興味があって、日本全国を廻る航路を図書館で調べたことがあったので知っている。



 鳥羽港からだと、東廻り航路だ。

 鳥羽港から伊豆半島の下田で風待ちを行い、銚子を経て北上し、津軽の下北半島に寄ってから蝦夷地に入る。

 蝦夷地の南だと、トカチ場所(今の十勝地方だね)のビロウやオホツナイなどに港があるはず。

 俺は、思い出せる限り詳細な日本地図を描き出し、東廻り航路で寄港できるはずの港の位置や航路上の難所などを追記してみた。



 例えば、江尻。

 東海道の宿場として栄えた港町だ。

 あとは、六浦、松川浦、塩竈津など、北上する時に停泊できそうな港を記載した。



 出来た地図を眺める俺。

 我ながら、びっくりするほど下手だな……。

 海岸縁がモニャモニャ波打っていて、この地図で、船が路頭に迷わないか心配になるが、地図がないよりはマシだろ。



 地図はできた。

 次は、東廻り航路の船の責任者を決めないとな。

 誰にしよう。



 やはり、初めての交易になるから、商売に詳しい小西如清が適任だろうな。



 半年ぐらいの航海になると思うが、如清にお願いしよう。 

 あとは、一緒に連れていく人員だ。 

 船長は、志摩国の元地頭の越賀隼人。

 交易を担う人材として、大宮吉守と長谷川重吉。

 あとは、将来性を考慮して、小姓の岸嘉明、福島正則、加藤清正、柳生久斎と徳斎の兄弟を船員として選ぼう。



 それと、航路の安全確保も重要だ。

 海賊などに襲われた際に備えて、鉄砲名人の杉谷善住坊とその配下十名も火縄銃を持たせて同行させよう。

 




 久しぶりに、大湊港に来た。

 大湊港は、いつも見慣れている鳥羽港より、船が停泊する港の規模が一回り大きい。

 港にも、船が大小、形も様々だが多くの船が停まっている。

 鳥羽港も大きくなってきたといっても、港の大きさはまだまだだな。



 大湊港に着くとすぐ、準備を進めている小西如清たちと合流した。

 俺は、早速、修繕が完了した大型の安宅船と、交易用の荷を見せてもらった。

 安宅船は、大きな帆が取り付けられ、積載量や耐航性を増すために、全面的に改造、補強がされていた。

 安宅船の船内には、俺の指示で仕入れた商品が山と積まれている。

 その商品は、米、生糸、布、古着などだ。

 それ以外にも、澄み酒や干しシイタケ、堺で仕入れた刀などがところ狭しと積まれていた。



「如清、すごいな。しっかり仕入れが済んでいる」

「はっ、小西屋の力を借りました。特に、米については、畿内の米が豊作だったこともあり、安く仕入れることができました」

 俺は、九鬼家の兵糧を備蓄するため、定期的に領内の余剰の米や雑穀を買い集めているが、今回の蝦夷地への交易用には使用せず、新たに仕入れさせた。

「ああ、これだけ仕入れられれば十分だ。蝦夷地では、米が取れない。米は高く売れるだろう」



 今回は、初めての航海だ。

 如清には、経由地でも、高く売れそうな物を売り、その地の特産品を仕入れる商いをしてもらう予定だ。

 俺が安宅船の積み荷を眺めていると、見るからに高級そうな服を着た大湊の商人たちが現れた。



「澄隆様、ご機嫌麗しゅう」

 大湊の商人たちは、卑屈に笑いながら、揉み手で俺と話そうとする。

 九鬼家が大型の安宅船を用意し、大規模な交易を始めることを掴んだようで、俺におべっかをつかい、その交易に少しでも参加したいのだろう。



 いつもは自治を認めろ、口は出すなと言いながら、儲け話は加わりたいという、虫の良い考えにイライラするが、顔には出さず、要望は九鬼家の大湊港代官の木戸末郷に言ってくれと追い返した。



 大湊の商人たちに何も与えないで、変に妨害されても面倒だし、蝦夷地から商品が手に入ったら、商品のほんの一部を大湊に回すか。

 後で末郷に伝えておこう。

 航海に必要な水樽なども積み終え、俺が見ている前で、如清率いる安宅船が蝦夷地に向けて出航した。

 


 無事に帰ってきてくれよ……。

 俺は、手を合わせて、如清たちの安全を祈願した。





 蝦夷地行きの船の出航を見守ってから、一週間後。

 今日は、朝から風魔小太郎が内々の報告があるとのことで、禁秘ノ部屋に来てもらった。

「ホホホ、澄隆様、朝から申し訳ありません」



 小太郎は相変わらず、表情のない能面をつけ、見る者を不安にさせる不気味な雰囲気を醸し出している。

「いや、いつでも良いぞ。どうした?」

「澄隆様のご指示で見張っていた楊本範尭が裏切りました……。大和国で降伏した豪族のうち、井戸良弘なる者と一緒に興福寺に通じ、謀反を起こそうとしております」

 裏切りという緊急事態を知らせにきた。



 小太郎は、懐から書状を出した。

「興福寺の筒井順慶への書状を押さえました。謀反を起こす日時等が書かれております。確認のため、井戸良弘の周辺も探りましたが、何人か我が家に不満のある豪族を味方に引き入れ、戦の準備を進めておりました。当家への謀反で間違いございません」



 なんと、謀反か。

 楊本範尭の突出して高い風雲氣が気になったが、興福寺に通じていたか。

 順慶も、色々策動すると思っていたが、動きが早いな。

 


 知らないと怖い情報だ。

 ここまで調べ上げてくれる意味でも、小太郎たちは、貴重な存在だな。



 どうするかな……。

「小太郎、よく知らせてくれた。この書状を順慶に見せても、知らぬ存ぜぬで惚けるだろうな」

「ホホホ、仰る通りかと」

「……よし、まずは、楊本範尭と井戸良弘たちを討つだけで良い。高取城の光隆と吉継に、その者たちが謀反を起こそうとしていること、証拠もあることを伝え、急ぎ兵を集めるように伝えてくれ」



 俺は低い声で呟く。

「その後、謀反の証拠があることを領内に広め、迅速に鎮圧しよう。それと、謀反の主導者は順慶だという噂も広く流してくれ……。順慶は、興福寺の味方をした九鬼家を簡単に裏切る冷酷な男だという評判が領内に広がれば、順慶も次は動きづらくなるだろう」

「……はい、畏まりました。それでは、光隆様に伝えます」

「ああ、鳥羽城からも内々に応援を送る。すぐに動いてくれ」



 俺自身は、お人好しだと認識しているが、大和国の光隆たちが死ぬような事態にはしたくない。

 ここは、厳しく対処することにした。



………………



 それから数日後。

 光隆たちが迅速に動いて、楊本範尭や井戸良弘、敵対しようとした豪族たちを討ったという報告が、小太郎より入った。



 大谷吉継の策謀で、楊本範尭の家臣の一部が裏切って九鬼家に内通したという情報操作をしたところ、敵同士で疑心暗鬼に陥り、簡単に楊本範尭たちを討ち取れたらしい。

 討ち取った人数は、楊本範尭や井戸良弘に味方した豪族を含め、約五百人。

 敵同士で殺し合ったため、こちらの被害は少なかった。



 さすが、クール吉継。

 本当に腹黒くなったな……。

 ダーク吉継だ。

 早く、結婚させよう。



 大和国の名士を複数討ったことで、領内が混乱するかと心配していたが、俺が優しいだけの大名でないことが広まり、逆に評判が上がったようだ。

 厳しくしても評判が上がるのだな……。

 戦国時代の感覚を把握するのは難しい。



 あと、順慶の悪い評判が領内に広がると、これまで興福寺寄りだった一部の豪族達が九鬼家の味方についた。

 味方になった豪族達に話を聞くと、どうも以前から順慶のきな臭さに不安を感じていたらしい。

 

 

 それで、今回、謀反を迅速に鎮圧できたことは良かったが、楊本範尭を討ち取ったことで、公家との窓口役がいなくなってしまった。



 誰に任せようか……。



 こうなったらダーク吉継に任せよう。

 吉継は、短期間ではあるが、範尭の公家対応の補佐につけていたし、政巧者も高いから何とかなるだろう。



 今回の謀反は、俺に面従腹背の興福寺シンパの者が多数いることから起きたものだ。

 九鬼家に敵対する者たちを多数討ち取ることができたし、領内の味方も増えたが、まだまだ安心できない。

 俺は、小太郎に、引き続き、領内の監視を徹底するよう、指示を出した。

引き続き頑張りますので、よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今度は、蝦夷地交易ですか!? 目の付け所が面白いです! 次回も楽しみにしています(無理しないでね)
[一言] この時代の東廻り航路、難所の犬吠埼は越えられないっぽいんですよね…
[良い点] モニャモニャ日本地図、見てみたいです
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