第七九話 義昭と愉快な仲間たち その二
今回は、掲示板回をお送りします!
▽一五七〇年十一月、二条御所
(高貴な言葉は難しいため、平易な言葉に翻訳して、実況しております)
〜時系列は澄隆が義昭に謁見するちょっと前に戻ります〜
【家臣3】
三好三人衆、攻めてきたな……
【家臣1】
ああ、淡路国から摂津へ上陸して、野田と福島の砦を占拠したな
【将軍】
あぁぁぁ、怖いぃぃぃ!
【家臣5】
た、確かに、怖いですな
【家臣1】
信忠に早馬で知らせたところ、すぐに領内に動員の号令を出したとのこと
信忠が駆け付けるまでは、守りを固めるぞ
【家臣6】
我が配下を使って、信忠が来ると広めたら、三好三人衆も動きが鈍くなった
儂も戦ってやるが、今のところ、何とかなりそうだな
【家臣3】
信忠がすぐに動いて助かったな
【家臣4】
だから、信忠殿は信用できると言ったでしょう!
【将軍】
ねえ、本当に大丈夫?
ねえ、ねえ、ねえ
【家臣1】
三好三人衆の軍勢は数千
信忠なら、数万は連れてくるでしょう
三好三人衆は籠城するしかないでしょうな
【家臣2】
これで、まずは一安心ですな
……そういえば、九鬼澄隆が来るのは今日でしたな
私が出迎えましょう
【家臣1】
そうか、今日か
忙しいのに迷惑だな
【家臣3】
ははは、こちらから呼びつけたのに迷惑か
【家臣1】
少し意地悪をするか
澄隆は若造なんだろ?
公方様への謁見は澄隆一人に限定してみよう
どうなるかな?
【家臣3】
なんと、意地悪な
でも、緊張して慌てるのを見るのも、面白そうだな
【将軍】
ん?
こそこそと何か言ったか?
【家臣1】
いえ、早く九鬼澄隆に会いたいですな
【将軍】
おぉ!
そうだな、待ち遠しいぃぃ!
【家臣1】
では、九鬼澄隆が来るまで、解散
【将軍】
お、おい、本当に三好三人衆は大丈夫なん?
【家臣6】
我が配下に探らせているので、動きがあれば、すぐに分かる
【家臣5】
な、ならば大丈夫ですな
【家臣4】
我が城にも動員をかけています
大丈夫です
【家臣1】
はいはい、では解散
▽▽▽▽▽
〜澄隆謁見後〜
【家臣1】
信忠が二万の軍勢を連れてきたな
三好三人衆の動きはどうだ?
【家臣6】
ああ、野田と福島の砦に籠城して震え上がっているようだ
今、信忠は天王寺に着陣している
【家臣2】
ほうほう
【家臣3】
それは、何より
【家臣4】
さすが、信忠殿
【家臣5】
よ、よかった
【家臣4】
私が信忠殿のところに伺って、御礼を伝えてまいります
【家臣1】
これで、三好三人衆は大丈夫だな
ふう
そうだ、余裕が出来たら思い出した
数日前の九鬼澄隆の懐柔、うまくいったな
【家臣3】
ああ、あの澄隆な
感動していたな
これで、我らの忠犬になる
間違いない
【家臣4】
それにしても、あれほどの器量だとは思わなかった
非の打ち所がないほど、完璧な美男子だった
【将軍】
近習に欲しいぃぃぃ!
【家臣5】
はいっ!?
び、び、びっくりさせないでください
【将軍】
予の近くにずっと侍らすことできないか?
どうん?
【家臣2】
それは無理かと
九鬼家の当主ですし、志摩国は遠いですし
【家臣4】
仕方ないね
【将軍】
あれほどの器量
そして、あの若さで、予の前でも一人で平然と話していた胆力
気に入ったぞぉぉぉ!
【家臣1】
確かに、公方様の前でも、全く緊張していませんでしたな
もっと面白い見世物になるかと思っていたのに
【家臣3】
田舎侍だから、公方様のお力がよく分かっていないのではないかな
【家臣5】
な、なるほど……
【家臣2】
いやいや、分かった上での対応だと思いますぞ
【家臣1】
何歳だっけ?
【家臣2】
確か、十五歳と言っておりました
【家臣1】
その年で、我らと平然と対峙していたのか
【家臣4】
なかなかの人物と思ったぞ
それに、異様に美しい
細身の長身、しかも手足がすらっと長い。
この城の女中たちも澄隆に見惚れて、美しさを称える声が止まず、仕事にならなかったらしいですな
【家臣6】
ふん……
だが、美しさには刺があるぞ
澄隆たちが大和国に入ってから、我が配下『奪口』の忍者たちに、見張らせていたのだが
なんと…………
みんな簀巻きにされた
【家臣5】
は?
【家臣1】
へ?
【家臣4】
ほ?
【家臣3】
簀巻きとは、どういうことだ?
【家臣6】
九鬼家にも忍者がいるってことだ
それも、我が配下の忍者を殺さずに簀巻きにできる、とんでもない強さの忍者たちだ
【家臣1】
何処の忍者か分かるか?
【家臣6】
いや、分からん
ただ、簀巻きにされた配下に聞いたら、澄隆の忍者は皆、能で使うような面を被った異形な忍者たちだったそうだ
【家臣5】
な、な、なんと面妖な
【家臣4】
そんな忍者、聞いたこともない
甲賀でも伊賀でもないな
もしかして、遠方の忍者か?
【家臣3】
どこで見つけてきたのか……
【家臣1】
それなら、澄隆を忠犬にすれは、その忍者も利用できるな
【家臣6】
ああ、それは、力になるだろう
それと、澄隆だが、見た目は優男だが、どうも相当の手練れらしい
あれから気になって調べたら、志摩国内の小競り合いで、澄隆は志摩国で有名な剣豪を直接、討っていたぞ
【家臣4】
おお、凄い
よく調べましたな
【家臣6】
えっへん
【家臣3】
田舎の剣豪が強いかどうか、分からないがな
【家臣2】
あの若さで、斬り合える胆力があるだけでも、凄いのではないですかな
【将軍】
ほう! ほうほうほう!
あの美貌で、強いのかぁぁぁ
これは、掘り出し物だな!
【家臣6】
九鬼家は、急激に大きくなった
澄隆の力もあるのだろう
【家臣3】
忠犬には、ちょうど良いか
【家臣2】
そういえば、私が二条御所の正門で出迎えた時、澄隆は完全武装で現れましたな
【家臣4】
は?
【家臣1】
へ?
【家臣5】
い?
戦でもないのに、なぜ?
【家臣1】
みんな、落ち着け
志摩からここまで、完全武装で歩いてきたということか?
【家臣2】
そうでしょうな
【家臣3】
戦でもないのに、ずっと重い鎧を着て、意味分からん
馬鹿なのか、慎重な性格なのか
【家臣2】
このご時世、慎重な者でないと生き残れないかと
これからも飛躍が期待できる若者かもしれませんな……
それで、その着ている鎧がまた凄かった
【家臣1】
ほう、どういう鎧だ?
【家臣2】
体のすべてを覆っている鎧で、なんというか昆虫のような形の鎧だった
【家臣3】
それでは分からんぞ
【家臣2】
ああ、うん
百足っぽいというのか、鎧の各部位が薄い光沢のある鉄板で作られ、のっぺりとしていて隙間がない
あの鎧を作るには、相当の金子がかかるでしょうな
【家臣3】
そんな鎧、見たことも聞いたこともないな
【家臣5】
た、確かに作るのに相当に値がはりそうですな
【家臣6】
澄み酒で儲かっているんだろうな
【家臣5】
な、なるほど
【家臣1】
そういえば、今回の謁見で、澄隆は五百貫、献上したな
【家臣3】
信忠が、死んだ信長に代わって当主になった時の挨拶で、いくら持ってきたっけ?
【家臣1】
同じく、五百貫
【将軍】
信忠って、ケチ?
ねえ、ケチ?
もしかして、ドケチ?
【家臣2】
いやいや、澄隆が気前が良すぎるのかと
【家臣1】
献上金だけみても、澄隆は、これからも役立ちそうだ
【家臣3】
忠犬として、こき使おう
そうすると、餌も与えないとな
【家臣1】
それなら、機会を見て、また、官位を授与しよう
よろしいか
【家臣2】
異議ない
【家臣4】
異議なし
【家臣3】
ああ、異議なし
【家臣5】
は、はい、異議なし
【将軍】
はあ、また、会いたい
美男子好き
【家臣1】
はいはい、解散で良いか
【家臣6】
ちょっと、待ってくれ
我が配下から至急な報告が入った
【家臣1】
ん? なんだ? どうした?
【家臣6】
本願寺顕如が一向宗徒へ、織田家を非難した檄文を送ったそうだ
その檄文が入手できたから読むぞ
なになに……
『本願寺は織田家から一昨年以来、無理難題を言われ続けた。ずっと応じてきたが、約半年前に石山の本願寺を破却して退去すべきと言われた。これは許せん。一向宗徒よ、本願寺を守るために立ち上がれ、打倒織田家!』
【将軍】
なにぃぃぃ!
本願寺、織田家の敵になっちゃうの?
ほんと?
これ、いたずら書きじゃないの?
【家臣6】
本願寺顕如は、各地に檄文を出したそうだ
これは、本気で織田家と戦うつもりだ
【家臣1】
なんと、困ったことになった
大規模な一向一揆が起きるぞ
織田家はどうなるか……
【家臣2】
本願寺顕如、それほどの怒りですか……
【家臣3】
本願寺を怒らした信忠が悪い
【家臣4】
いや、檄文には一昨年以来と書いてある
それだと織田家の当主は信長殿だ
本願寺を怒らしたのは信長殿だな
【家臣3】
今は、信忠が当主なのだから、信長の命令を撤回しておけば良かったじゃないか
【家臣1】
確かに、信忠が当主になって数ヶ月経つ
前言撤回できる時間はあったな
【家臣4】
故信長殿の命令だったものを簡単に前言撤回は、できないでしょう……
【家臣5】
こ、これは、世が荒れますな
【家臣1】
まずは、情報収集だ
頼む
【家臣6】
ああ、我が配下『奪口』に探らせる
【家臣1】
よし、分かったら、また集まろう
では、解散
【将軍】
おぃぃぃ!
いつも、解散が早いぞぉぉぉ!
これ、どうなるん?
【家臣2】
分かりませんが、一向宗徒は数が多い
一揆となると、織田家の力は相当落ちるでしょうな
【家臣4】
信忠殿に、注意喚起の書状を出してはいかが?
あとは、本願寺顕如殿とも、今まで以上に連絡を取り合った方が良いでしょう
和睦も模索しては?
【将軍】
よし!
御内書、書くぞ!!
【家臣3】
これは、場合によっては、信忠との縁を切って、他の有力大名を頼ることも考えるべきでは?
【家臣4】
なんと、不義理な……
信忠殿との縁を切るなんて、とんでもない!
【家臣1】
そうだな……
信忠を頼るにしても、いつか切るにしても、他の有力大名とも連絡を取り合うことは大事かもな
【将軍】
よし、よぉぉぉし!
顕如には和睦を促す御内書を出すぞ
他にも、有力大名への御内書、いっぱい書くぞぉぉ!
【家臣1】
はぁ
では、解散しよう
▽▽▽▽▽
〜本願寺決起後〜
【家臣1】
よし、私もある程度、部下から話は聞いているが、改めて情勢を教えてくれ
【家臣6】
ああ、本願寺は本気だった
石山の本願寺から僧兵が出陣し、三好三人衆と連携して、信忠を攻撃した
それに、合わせるように、朝倉家と浅井家が南下し、織田家の宇佐山城を攻撃した
【将軍】
おぉぉぉい!
大変じゃぁぁん!
顕如に出した御内書の返信も『ごめん、和睦和睦、無理無理』だったし!
【家臣3】
それで、戦の続きは?
【家臣6】
信忠は、三好三人衆への攻撃を中止
そのまま、宇佐山城に向けて進軍
朝倉家と浅井家は兵を引き、比叡山に陣を置いた
【家臣3】
なんと、比叡山延暦寺も織田家の敵になったか
【家臣6】
ああ、信忠は、延暦寺に中立になるよう朱印状を送ったが、返答はなかったようだ
【家臣5】
こ、これは、一大事になりましたな
【家臣6】
信忠は、比叡山の麓を包囲したまま、宇佐山城に本陣を置き、対陣が続いている
【将軍】
ねえ、三好三人衆は、大丈夫?
攻めてこない?
【家臣1】
三好三人衆の動きはどうだ?
【家臣6】
野田と福島の砦に、そのまま、籠ってますな
三好三人衆が動員を促しても、兵の集まりが悪いようだ
【家臣4】
三好三人衆の影響力、随分と下がっているのかもしれませんな
【家臣1】
三好三人衆は、このままでも大丈夫かもしれないが、問題は石山の本願寺だ
【家臣3】
これは、織田家、終わったか
【家臣4】
織田家の底力は、相当のものがあるかと
まだまだ、これからですぞ
【家臣2】
そうはいっても、織田家は四面楚歌
大変な状況ではありますな
【家臣5】
そ、そうですな
【家臣2】
公方様のためにも、今、織田家に倒れられると困りますな
【将軍】
よぉぉぉし!
予が、織田家と朝倉家、浅井家の仲介をするぞぉぉぉぉ!
良いよね?
ね?
【家臣4】
あ、はい、是非
ここは、織田家を助けるため、我らも尽力しましょう
【家臣3】
一方で、他の有力大名にも、唾をつけておいた方がいいな
【家臣4】
あまりやり過ぎるのはどうかと
【将軍】
うん?
バレないようにすればいいんじゃね?
また、いっぱい御内書、書くぞぉぉぉ!
【家臣6】
本願寺の力は、半端ない
本願寺が、朝倉家と浅井家を動かした可能性が高い
これからも、本願寺と織田家の戦いを注視すべきだな
【家臣1】
把握は大事だ
引き続き、探ってくれ
【家臣6】
ああ、承知
【家臣1】
よし、では解散
【将軍】
顕如、怒りすぎだよねぇぇ
久しぶりに直接会って、話を聞いてみるかぁぁ!
掲示板回、お楽しみ頂けましたでしょうか?
いつも拙作を読んで頂き、ありがとうございます。




