第七五話 義昭と愉快な仲間たち その一
今回は、掲示板回をお送りします!
(あくまで掲示板風の回でございます)
▽一五七〇年六月、足利義昭 二条城
(高貴な言葉は難しいため、平易な言葉に翻訳して、実況しております)
〜時系列は織田信長が朽木谷で討たれた時に戻ります〜
【家臣1】
だから危ない!
三好三人衆が淡路国から攻めてきたら、どうするんだ?
【家臣2】
やはり、織田信長が死んだのが痛い
新しい当主の信忠は、器用者と評判だが、武才は未知……
その信忠が、我々のことを守ってくれるか分からないですし……
【家臣3】
今すぐ信忠に、我らを守るための兵を送るよう、強要すれば良い!
【家臣4】
それは、いくら何でも乱暴では?
信忠殿に、まずは、三好三人衆への対処を依頼する書状を出しては?
【家臣5】
どどど、どうする?
【家臣6】
儂が戦ってやる!
【家臣1】
お主だけではどうにもなるまい
【将軍】
お主ら、何をこそこそと喋っているぅぅぅ!
早く、何とかしろぉぉぉ!!
【家臣3】
随分と荒れているな……
【家臣1】
いつものことだ
【家臣4】
仕方ないね
【将軍】
そこでは、聞こえないぞぉぉぉ!!
お主ら、もっと、近うよれぇぇ!
【家臣3】
はあ……行くか?
【家臣4】
仕方ないね
【家臣2】
行きましょう
公方様が待っている
【家臣1】
フゥゥゥ~~
お前は、公方様大好きだな
【家臣2】
公方様のおかげで、ここまで出世できましたし……
【家臣5】
は、は、早く行こう
【将軍】
な、何をしてる!
早く、近う!
▽
【家臣1】
公方様、失礼いたします
まずは落ち着いてくだされ
【家臣2】
我らがついておりますぞ
【家臣5】
ど、どうなさいましたか
【将軍】
信長を頼れば、安泰だと思ったんだ!
それが……討たれるとは、なぜだぁぁぁ!
【家臣1】
確かに、驚きましたな
【家臣3】
ああ、驚いた
【家臣4】
あれ程の逸物が亡くなるとは、本当に悲しいですな
【家臣5】
ど、ど、どうしましょう
【家臣6】
そういえば、その信長の後を継いだ信忠が、早速動いて、近江国の浅井家を攻めるようだぞ
【家臣4】
おお、耳が早い
忍者を従えているだけある
確か『奪口』という忍びでしたかな?
【家臣6】
えっへん
そうだ、『奪口』だ
その『奪口』が調べた所によると、織田家と同盟している三河国の徳川家康も一緒に、浅井家を攻めるようだな
【将軍】
信忠は、予を守らず、何をやってるぅぅ!!
【家臣1】
織田家にとって、信長を裏切った浅井家は不倶戴天の敵ですしね
【家臣3】
信忠にとっては、京への道の安全確保は最優先
近江国の浅井家を攻めるのは至極真っ当だろう
【家臣2】
ここは、様子見しかないですかな……
【家臣1】
では、様子見で
はい、では解散
【将軍】
お、おい、待てぇぇぇ
まだ、話があるぞぉぉぉ
【家臣1】
…………
はい、なんでしょうか?
【将軍】
朝倉家の動向はどうなっているん?
【家臣2】
おお、確かに朝倉家の動きは気になりますな
【家臣6】
朝倉家は浅井家の援軍に向かうようだ
これで、数は互角だろう
勝敗は長引きそうだな
【家臣2】
ほうほう
【将軍】
そうだぁぁ!
膠着状態になったら、予が仲介の御内書を出すぞ
予に感謝するだろ?
だろ?
【家臣1】
はぁ、分かりました
おい、戦の動向、しっかり見張っていてくれ
【家臣6】
おお、承知
【家臣1】
では、政ごともたて込んでいるため、これで、失礼します
【将軍】
お、おい、まだ、話があるぞぉぉぉ
心配事、たくさんあるんだぁぁぁ!
【家臣2】
あ、それなら、私が話を聞きます
【家臣5】
わ、わ、私も
【家臣1】
よし、お願い
織田家と浅井家の戦の動向が分かったら、また、集合な
【家臣3】
はい、了解
【家臣4】
では、失礼します
【家臣6】
ああ、承知
▽▽▽▽▽
〜姉川の戦い後〜
【家臣1】
……そう言えば、つい先日、織田家と浅井家の戦が、終わったらしいな
【家臣6】
ああ、痛み分けだ
姉川で戦ったが、勝敗はつかなかった
お互いに兵を引いたらしい
【家臣3】
思ったより、早く、けりがついたな
【将軍】
ぬぅぅぅ!
予の仲介の御内書、書いたのに無駄になったぁ!!
はぁぁぁぁぁぁ〜
【家臣2】
公方様、お気を落とさずに……
【家臣5】
そ、そうですぞ
【家臣6】
話を戻すぞ
織田信忠は兵数が約一万、徳川家康は約三千、対する浅井長政が約五千、あと越前から朝倉景健の援軍が約八千、姉川を挟んで布陣した
【家臣1】
戦力は同数だな
【家臣6】
どちらの勢力も戦の中で、何名か重臣を失ったようだ
それと、織田家は、京への道を確保するため、戦の途中で近江国の南にいくつか砦を作ったらしい
【家臣5】
こ、こ、これからどうなる?
【家臣6】
今回の戦で、尾張国から京への道の安全確保は、一応達成された
信忠にとっては浅井家を滅ぼしたいだろうが、戦の傷が癒えるまで戦わないのではないかな
【家臣4】
これで信忠殿は、京にいつでも安全に来られますな
【将軍】
でも信忠がいる尾張国は遠い
もし、三好三人衆がここに攻めてきたらどうするん?
ねえ、どうするん?
兄の義輝のように死にたくないぃぃぃぃ!
【家臣1】
信忠だけでは不安ですな
この二条城の近隣で忠臣を増やしたいところだな
【家臣3】
そんなのどこにいる?
【家臣6】
そういえば、志摩国の九鬼澄隆を知っているか?
【家臣3】
ん? 志摩国とな?
田舎ではないか
【家臣1】
志摩国の九鬼澄隆か……
最近、鳥羽の籠城戦が有名になったよな?
確か、半年に渡って籠城を続けて、最後は織田と北畠の連合軍を打ち破ったらしいな
【家臣4】
その戦は私も聞きましたぞ
二万ほどの敵を前に、堂々たる籠城戦をしたとのこと……
【家臣5】
す、凄まじい戦だったと、有名になっておりますな
【家臣6】
そう、その志摩国の九鬼澄隆が、つい先日、大和国の大部分を奪ったようだ
【家臣3】
な、なんと
本当か?
【家臣1】
私のところにも、部下から同じ情報が入った
確かな情報だろうな
【家臣6】
興福寺の筒井順慶と組んだようだな
【家臣3】
それで大和国はどうなったんだ?
【家臣6】
松永家は滅亡
今は、興福寺の近隣の城は筒井順慶が、それ以外の城は九鬼澄隆が支配しているらしい
【家臣4】
確か、松永久秀が亡くなって、松永家は混乱していた
そこを上手くついたのでしょうな
【家臣6】
そういうことだ
それで、これからが驚きだ
九鬼澄隆は、支配した大和国で、身寄りのない子供たちを数千人、引き取って、育てることにしたそうだ
【家臣4】
よく、知っていますな
【家臣6】
えっへん
我が配下の情報網はすごいだろ?
【家臣3】
そんなことより浮浪児を引き取るだと?
頭おかしくないか?
ないわー
バカなの?
【家臣5】
な、な、なんて、酔狂な
【家臣2】
いやいや、この時代、珍しい崇高な人物やも
【家臣6】
そういえば、九鬼家では、我々が飲んでいる澄み酒を作っているらしい
【家臣3】
へえ、九鬼家で作っているとは知らなかった
商いの真似事もしているのか
【家臣6】
澄み薬もな
【家臣3】
澄み薬って何だ?
【家臣1】
知らないのか?
虫下しの薬として評判だぞ?
【将軍】
それは、儲かっていそうだなぁぁぁ
お金欲しい
【家臣3】
それで、身寄りのない子供たちを引き取る余裕があるのか
【家臣1】
そんなお人好しなら、上手くおだてれば、我々の忠犬になるのではないか
【家臣2】
ち、忠犬ですか……
【家臣4】
使える駒を増やすのは良いかと
【家臣3】
信忠、信用できないし
【家臣4】
おい、信忠殿は信用できますぞ!
【家臣3】
だって、信忠、織田家当主になってから、ここに一度しか挨拶に来てないだろ
【家臣5】
た、確かに、挨拶の数は少ないかも
【家臣4】
信忠殿も忙しいのでしょう
【家臣1】
話を戻すぞ
では、九鬼澄隆を忠犬にするのはどう思う?
【将軍】
うん、うん!
忠犬欲しい
でも、どうやって?
【家臣3】
官位を渡せば、田舎侍なんて、いちころでしょう
【将軍】
なるほど!!
いいね!!!!
【家臣4】
ただ、その九鬼澄隆とやら
大人しく忠犬になる人物か分からないのが心配ですな
【家臣3】
官位を餌に、二条城まで呼びつければいい
その時、利用できるか、見極められる
【家臣1】
お、冴えてるね
【将軍】
よぉぉぉし!
すぐに呼ぼう!
誰か、志摩国まで行ってくれ
誰行く?
【家臣1】
私は政ごとで忙しくて無理ですよ
【家臣3】
儂はお腹痛い
【家臣4】
この一ヶ月は予定がいっぱい
【家臣2】
……それなら、私が行きましょう
【将軍】
おお、頼んだ!
味方になる?
なるよな?
【家臣2】
公方様のために、力を尽くしましょう
【家臣5】
く、く、公方様のために、頼みましたぞ
【家臣1】
はいはい、決まり
では、解散
掲示板回、お楽しみ頂けましたでしょうか?
(家臣たちは公方様に失礼なことを言っておりますが、高貴な言葉で濁して言っているため、公方様には気付かれていません)
次回の題名は『正七位上の官位』です。
舞台は、鳥羽城に戻ります。




