第七四話 二度目の祝言
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▽一五七〇年十一月、澄隆(十五歳)鳥羽城
奈々と結婚して二週間後。
前世では一度も結婚できなかったのに、今世では二度目の結婚の儀を行うことになった。
俺が、二人も妻を娶ることになるなんて、考えてもいなかったな……。
奈々の時と同じく、まずは固めの儀を行う。
俺は正装、妙は白無垢を着て、並んで座っていた。
行事を進めるなか、俺は妙と酒を酌み交わす。
妙を見ると、化粧をして、眩いばかりに輝いている。
妙は、奈々のような芸能人並の芸術的な美しさ、という訳ではないが、見た者の心を穏やかにさせる可憐さと可愛さを感じさせる顔だ。
両目の泣きホクロも、タレ目の妙に合っていて、魅力を増している。
俺は、酒を口に僅かに入れると、妙に微笑みながら話しかける。
「妙、白無垢がよく似合っているな」
俺が褒めると、緊張していた妙の目元が和らいだ。
妙は、目がなくなるほどの笑顔になる。
俺は、集まってくれた親族に感謝を伝えるため、前を向き、お辞儀をした。
ふと、近郷を見ると、また、涙ぐんで、自分の袖で拭いている。
妙も自分の子供のように育てていた近郷だ。
『妙、良かったな~』と言いながら、泣いている。
光隆叔父も大和国の統治で忙しい中、来てくれた。
この式が終わると、お床入りの儀だ。
また、緊張してきた……。
………………
俺の寝室。
今回も、俺は緊張で胸が張り裂けそうになっている。
俺と妙は、お互い白い寝間着姿だ。
向かい合って正座して、固まっている。
妙はしっかりと凹凸が強調された理想的な艶めかしい体型をしている。
思わずゴクリと喉が鳴るほどに肉付きの良い和風美人だ。
体型が分かる寝間着姿だと、顎から首筋のライン、服から僅かに見える胸の大きな谷間が何とも言えない色気を感じさせて、目のやり場に困る。
妙は、俺を何度もチラ見しては、その度に顔をほんのり桃色にして両手をニギニギとさせている。
妙も恥ずかしいのだろう。
「妙、こ、これからは夫婦だ」
俺は勇気を出して、妙の目を真っ直ぐに見て、たどたどしく夫婦宣言をすると、妙は見る見るうちに顔が赤くなり、俺を見つめ返してくる。
小顔で真っ赤になって、トロンとした顔で可愛らしい。
妙は、俺のことを本当に好きなのだろう。
俺の言葉に、いつも想像以上の反応をしてくれる。
「う、うわ」
妙は、名前を呼ばれた子猫のように嬉しそうな顔をして飛びついてきた。
好きです~と妙は全身から俺への好意を発散させながら、俺をぎゅむ~と包み込む。
く、苦しい……。
ボリューム感のある豊かな胸を持つ妙にきつく抱き締められると、息ができなくなる。
「た、妙、これからもよろしく頼む」
妙は、頬を紅潮させ、俺の胸に頬を当てながら、コクコクと可愛らしく頷く。
そのまま、顔を少し上げ、真っ直ぐに俺を見る妙。
妙の長い睫毛で彩られた黒い瞳に、俺が映っている。
瞳はいつ決壊してもおかしくないぐらいに潤んでいる。
無邪気に笑ういつもの妙の顔とはまるで違う蠱惑的な表情。
妙が、こんな顔をするなんて知らなかった。
妙の薄桃色の唇も綺麗だ。
鼻梁や眉も雛人形のように整っている。
俺はじっと見つめられるのに恥ずかしくなって、えへんと咳払いして誤魔化すと、赤くなっている頬に手を差し伸べて触れる。
プニプニしているな……。
きめ細かい肌は、手に吸い付いてくる。
妙は気持ち良さそうに上気した顔で目を瞑った。
俺はそのまま妙の首筋にするりと手を滑り込ませ、妙のその豊満な身体を包み込むように抱き寄せる。
妙の顔は真っ赤で、多分、それを見ている俺の顔も真っ赤だ。
ゆっくりと確かめあうように、お互いの指先を絡め合わせる。
人肌の温かに、幸せを感じる。
妙はニッコリと笑うと、俺に顔を近付け、口が塞がれる。
暫くハムハムと唇を押しつけていたが、そのまま抱きしめ合いながら横になった。
俺は、妙に馬乗りになるように覆い被さる。
妙の体温やら胸の柔らかさが直に当たってきて、さらに心臓が高鳴ってしまう。
………………。
…………。
……。
俺と妙は、本日、夫婦の契りを結んだのだった。
▽
チュンチュン。
屋敷の外からは小鳥の可愛らしいさえずりが聞こえてくる。
頬を暖かく照らす心地よい日差しを感じて、俺は目を覚ます。
俺の腕の中では、妙が安らかな寝息を立てている。
妙の表情は、幸せそうに眠る猫のようで、その可愛さに自然と笑みが溢れる。
真っ白い肌に、ピンク色の唇が可愛らしい。
俺は、妙の艶のある黒髪を右手で撫でてみた。
妙のステータスが空中に出る。
妙の髪は、とってもサラサラで、癒されるな……。
髪の間から見えるうなじと細い肩が光を反射するように輝いて見える。
そんな妙を眺めていると、パッと、目を開けた。
俺と目が合う。
アワアワと動揺しながら、目をそらす妙。
可愛い睫毛が、目が泳いで小さく揺れている。
その仕草も可愛い。
その後、俺の着替えを手伝ってくれた。
妙は、あたふたしながらも、ずっと笑顔で、身体中、嬉しいという気持ちで溢れている。
俺も嬉しい。
そして、今日の朝食は、俺の指示で、俺、奈々、妙の三人で取ることにした。
妙と一夜を過ごした後で、奈々と目を合わせるのは恥ずかしいが、三人で人生を歩んでいくことになる最初の一日目だ。
この日を大事にしたい。
俺は、奈々と妙を見ながら、改めて挨拶をした。
「奈々、妙、おはよう」
奈々も妙も、輝くような笑顔になり、俺に頭を下げる。
三人で食べる朝食は一人で食べる時と違って楽しい。
これから三人での夫婦生活が始まる。
▽
妙との結婚の儀の二日目、今度は、御披露目の儀だ。
一月前にもやったが、今回も評定部屋に家臣たちを集めた。
目出度いと騒ぐ家臣達。
皆、笑顔だ。
九鬼家は、急激に大きくなり、家臣も増えた。
色々、衝突もあるだろうが、楽しそうに乾杯をしている皆を見ていると、古参の者と新しく家臣になった者たちとの関係も悪くないようだ。
俺も皆に笑顔を向ける。
隣に座っている妙も、俺を見ながら、ずっと笑顔だ。
俺は、心が温かくなる。
殺伐とした時代だが、妙がずっと、笑顔でいられるように、これからも頑張ろう。
………………
妙と祝言をあげて、一週間後。
織田家が動いた。
俺が、評定部屋にいると、光俊が慌ただしく報告に来た。
「澄隆様! 織田家に新たな動きがございました!」
織田家に忍ばせている光俊の配下からの報告によると、織田家の明智光秀が横山城を落としたとのこと。
詳細は分からないが、横山城には三人の城主がいて、そのうちの一人を調略して、内側から崩したようだ。
さすが、明智光秀。
俺の前世の記憶では、光秀は『仏の噓を方便、武士の噓を武略という。土民・百姓はかわいいものだ』という名言を残していた。
計略と策謀の達人なのだろう。
いつか、光秀とも戦うことがあるのか……。
俺は、頭を振ってプレッシャーを追い出し、光俊に尋ねる。
「光俊、それで、織田信忠はどう動く?」
「はっ! 浅井家が横山城の奪還のため兵を上げたため、信忠も尾張国から出陣するようです」
史実では、この動きはなかった。
「光俊は、引き続き、織田家の動向を見張ってくれ」
そういえば、史実では、確かこの時期に、織田家の動きに脅威を感じた石山本願寺が、織田家に対して挙兵した。
信忠に当主が変わって、少しずつ前世の歴史とズレが生じているようだが、果たして、どうなるか……?
九鬼家周辺が、きな臭くなってまいりました。
次回は、足利義昭が登場します。
題名『義昭と愉快な仲間たち』、お楽しみに!




