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第七三話 元服と祝言

▽一五七〇年十月、澄隆(十五歳)鳥羽城 禁秘ノ部屋



 戦国鬼録作りをしながら、また、冷静になって考えてみると、自分法は良いが、俺が一人で決裁していくと、俺が過労で死んでしまう。


 

 これだけの領地での意思決定を、すべて俺がするのは無理だ。

 重要なことは俺が決めるとして、簡易なものは家臣の誰かに任せたい。

 丸投げしたい。



 そこでだ!

 新たに奉行職を作ることにした。

 まずは、奉行職で、何が必要か書き出した。



・寺社奉行 (総務)

・外務奉行 (外務)

・勘定奉行 (財務)

・段銭奉行 (税務)

・公事奉行 (裁判)

・御蔵奉行 (商い)

・細工奉行 (製造)

・御船作奉行(船作)

・町奉行  (警察)

・横目奉行 (諜報)

・普請奉行 (土木)

・農業奉行 (農業)

・荷駄奉行 (輸送)



 俺は、この十三の奉行職に、誰を当てるか、また深夜まで、悩む事になる。



………………


 

 人材が足りない……。



 奉行職を任せる人材は、九鬼家で長年働き、信頼の置ける内政担当のみとしたい。

 戦担当は、奉行職ではなく、部将や侍大将にするからだ。

 この数年の間に仕官した人材に丸投げするのは、裏切られる心配もあるし、不安すぎるよな……。



 そこでだ!

 俺は、十三の奉行職を任せる人材をこう決めた。



・寺社奉行(総務) :九木浦近郷

・外務奉行(外務) :田中宗政

・勘定奉行(財務) :田中宗政

・段銭奉行(税務) :田中宗政

・公事奉行(裁判) :九木浦近郷

・御蔵奉行(商い) :田中宗政

・細工奉行(製造) :多羅尾光俊

・御船作奉行(船作) :田中宗政

・町奉行 (警察) :風魔小太郎

・横目奉行(諜報) :多羅尾光俊

・普請奉行(土木) :田中宗政

・農業奉行(農業) :田中宗政

・荷駄奉行(輸送) :田中宗政



 ………………うん。

 八つの部門を宗政が担当することになる。

 これでは、宗政が過労で必ず倒れるな。

 今のところ、領地が増えても問題なく統治ができている状態だが、考えてみれば宗政が八面六臂の働きをしてくれているおかげで、何とかなっているのだろう。

 宗政は、良くやってくれている。

 


 改めて、人材不足を痛感する中、早急に、信頼できる人材を増やさないといけないな……。

 それで、この内容をそのまま定期評定で発表すると、九鬼家の脆弱さが簡単に分かってしまうし、ここに名前のない家臣が、重責を担っている宗政などに嫉妬するだろう。



 この奉行職の内容は、俺の心の中に止めておこう。

 今は、政巧者の高い人材と宗政とを一緒に仕事させて実績を積ませ、信頼して仕事を任せられる人材が増えたら奉行職を発表だ。

 それまでは、宗政、ブラックに頑張ってね!



………………



 鳥羽城に戻ってきて二週間が経つ。

 火縄銃で撃たれた俺の怪我も痛みが大分治まったため、吉日に元服の儀式を執り行うことにした。



 今の俺は、十五歳。

 前世では高校生でも、戦国時代だと大人の仲間入りの年齢だ。

 烏帽子親は、傅役である近郷に頼んだ。



 近郷は、『あんなに小さかった澄隆様が、こ、こんなに立派になられて~』と言いながら、儀式中ずっと泣きじゃくっていた。

 うるさくて集中できないぞ。

 ただ、俺の成長に泣いてくれる近郷を見ていると、胸の奥が温かくなる。

 前世では小さい時に両親を事故で亡くしたため、両親に俺の成長を見せてあげられなかった。

 この満たされた気持ち。

 俺は、むず痒いような、心がフワフワしたような感覚になりながら、儀式を進めていった。



 烏帽子を被る前に、冠下(かんむりした)(もとどり)という髪型に結い直した。

 冠下の髻とは、伸ばした髪の毛を一つにまとめて結い上げ、頭のてっぺんでまとめる髪型のことだ。

 きりっと髪をまとめると、なんだか、気持ちもピリッとするな。



 俺が元服の儀式を終え、正装になると、女中たちから、はぁ~という感嘆のため息が漏れた。

 似合ってるのか正直分からん。

 前世の俺では絶対に似合わない自信があるが、スラリとした体躯で美しく中性的な容貌の澄隆なら似合っているのかな?

 


 正装に負けている感満載だが、これから、家臣たちにお披露目しなくてはいけない。

 と、その前に、奈々や妙に、この姿を事前に見せることにした。



………………



 奈々は、俺の正装を見ると、頬をピンク色に色っぽく染めながら、満面の笑みで、何度も頷いている。

「澄隆様、とってもお似合いです。本当に凛々しい……」



 そして、もう一方の妙は、タレ目をさらにタレ目にしたトローンとしたちょっと危ない目で、俺を見ている。

 そのまま妙は、俺に近づくと、俺の正装に両手でペタペタと触れてくる。



 その……くすぐったいし、正装がシワだらけになりそうだぞ。

 二人の目線に、俺は、気恥ずかしくなる。

「あ、そうだ……澄隆様のために、妙と二人で御守りを作ったんです。昨日、やっと完成しました」

 そう言いながら、奈々は小さな御守りを取り出した。

 綺麗な小布を使った御守りで、二人に似て可愛らしい。

 


「これ……。二人の手作りの御守りなのか……」

 二人で一生懸命作ってくれた御守り。

 そういえば、女の子からプレゼントを貰うのは、前世を含めて初めての経験だ。

 とても嬉しい。

 俺は御守りをぎゅっと握る。

「ありがとう、奈々、妙。大事にするよ」

 二人は、はにかんだ笑みを浮かべながら、心から嬉しそうに頷いた。

 まるで太陽のように眩しい二人の笑顔。 

 


 見惚れて赤くなった俺は、御守りを懐に入れると顔を強引に逸らし、前を見る。

 引きつり気味の声で、近郷に確認する。

「近郷! では、家臣たちにお披露目に行くぞ。早く終わらせて、この堅苦しい服装を脱ぐぞ!」


 

 奈々と妙の笑顔の破壊力は抜群だ。

 俺は、心臓をバクバクさせながら、大股で評定部屋に向かって歩き出した。



……………… 



 家臣たちが集まっている評定部屋に、俺は正装で乗り込んだ。

 部屋に入ると、家臣たち全員がピンと背筋を伸ばして停止した。

 俺の方を見ながら、ざわざわと声をあげる。

「な、なんと、神々しい……」

「これは惚れ惚れしますな……」

 


 家臣たちが俺に見惚れて?、まったく動かない中、俺の後ろから付いてきた近郷がゴホンと咳払いをすると、皆、一斉に気付いたように平伏した。

 俺は、皆を見渡して声をかける。

「本日、元服の儀式を執り行い、俺は、一人前の男子になった。ただ、俺一人の力では限界がある。これからも皆が頼りだ。九鬼家のため、皆の力を期待している」

「「「は、ははぁ!!!」」」


 

 俺は、皆の顔を一人一人見ていく。

 近郷はまた涙ぐみ、光俊は控え目に微笑み、左近やおにぎり小西、とんがり三成などは顔を上気して頷いている。

 また、近習や小性、他の家臣たちも皆、笑顔だ。



 それと、渡辺勘兵衛がどうしても俺の元服姿を見たいと言って、伴三兄弟に大河内城を任せて、急遽ここにいる。

 顔を真っ赤にしながら、食い入るように俺を見ている。

 俺と目が合うと、なぜだか、身体をくねらせて何度も頷く。

 その動きが気持ち悪い。

 ちゃんと、城を守れよ。

 


 俺は、大きく息を吸うと、目を瞑った。

 俺は、五歳に憑依したことに気付いてから、まずは、元服まで、生き残ることができた。

 そして、これからも戦国の時代は続く。 

 チート大名やチート武将たちとの戦いもあるだろう。

 


 これからも厳しい戦いになる。

 生き残れるのか?

 憑依させてもらっている澄隆のためにも生き残りたい。

 ただ、俺だけでは絶対無理だ。

 ここにいる家臣たちと一緒に、そして俺の秘めたる右手の力も生かして、これからも死力を尽くそう。



 俺は、決意も新たに、息を大きく吐くと、右手をぎゅっと握りながら、力強く目を開けた。



 ……ちなみに、渡辺勘兵衛には、ここまで来たついでに、大河内城を俺の考え通りに改築するように言って、その対応を押し付けた。

 また、大河内城に敵が攻め込んできた場合の対処について、俺の考えをまとめた籠城指南書も渡す。



 勘兵衛は、俺が話しかけるだけで、この世の春が来たような嬉しそうな顔をする。

 ブルっと寒気がするが、事前に堺で買い付けたサンゴの化石を勘兵衛に手渡した。

 城に帰ったら、サンゴを使って、改築をちゃんとやれよ。

   




 元服が終わって、一週間後。

 いよいよ、俺と奈々の結婚の儀を行う。



 俺は元服の時と同じ正装、奈々は白無垢に着替えている。

 まず、固めの儀として、正面から見て俺が向かって右側、奈々が向かって左側に座った。

  これは、武士は太刀を左に差していて、婚儀の最中といえども、もし、戦いになったら刀が素早く抜けるように、この方式になっているようだ。



 そして、俺と奈々が朱塗りの杯で微量の酒を酌み交わす。

 奈々は薄く化粧もしていて、俺は奈々の美しさに感嘆の吐息を漏らしながら、そっと声をかけた。

「な、奈々、似合っているな」

 奈々は、少しはにかむと、恥ずかしそうに俯いてしまった。

 けぶるような長い睫毛の下から、少し閉じた目が宝石のようにキラキラしている。

 うはあ……。

 本当に綺麗だ。



 いよいよ宴になるが、今日は親族だけで執り行う。

 近郷、光隆叔父などが参加し、奈々の父親の光俊は、送り役として一番下座に座っている。

 近郷は、今日もぐじゃぐじゃに泣いている。

 飲んでも荒れるなよ。



 この宴会が終わると、お床入りの儀として、その夜、俺と奈々は、俺の寝室で二人きりになった。



………………



 薄暗い俺の寝室。

 灯籠の淡い光が、ぼんやりと揺れている。



「うぐっ‥………」

 俺は、緊張でどうにかなりそうだ。

 前世も入れても、初めての経験でクラクラする。

 トクントクンと高鳴る心臓を止めることができない。



 俺と奈々は、お互い白い寝間着姿で、向かい合って正座している。

 動く度に、衣擦れの音が静寂な部屋の中で生々しく響き、緊張感が増す。



 奈々を改めて見ると、透き通るような白い肌。

 艶やかな黒い髪は、清楚で近づき難い印象を抱かせる。

 骨格自体は細い。

 黒髪から覗く首筋とそこから続く華奢な鎖骨が、みょうに色気を感じる。

 売れっ子アイドルも真っ青な美しさだ。



 俺は、そんな奈々を見ながら生唾を飲む。

 ど、どうしよう……。

 記憶を総動員しても、もちろん、こんな経験は初めてで、どう対応すれば良いか分からないのだけど!



 俺が動けずにいると、奈々が三つ指を付いて、お辞儀をした。

「す、澄隆様、ふ、ふ、不束者ではございますが、な、な、何卒よろしくお願い致します!」

 透き通った鈴のような美しい声が、緊張で割れている。

 奈々も緊張しているようだ。

 

 

 俺は、五歳に初めて奈々に会った日を思い出した。

 あの時の奈々も、緊張していたな……。

 俺も小さかったが、奈々も小さかった。

 あれから十年も経ったのか……。

 奈々と一緒に歩んだ十年だった。

 色々な思い出が溢れる中、不思議と固まっていた身体が動き出す。



「奈々に初めて会ってから十年も経つのだな……。奈々のおかげで、ここまで駆け抜けてこられた。ありがとう」

 俺は奈々にお礼を言いながら、自然に奈々の手を握っていた。

「す、澄隆様……」

 奈々のステータスが空中に出るが、今日ばかりは奈々の顔しか見なかった。



「奈々、これからもよろしく」

 奈々は、濡れる様な艶を帯びた瞳を俺に向け、ゆっくり頷く。

 俺は、緊張しながらも、奈々の手から二の腕へと掌を這い上がらせると、愛らしい華奢な肩に手を置き、そのまま俺の胸に引き寄せた。 

 『わっ』と小さく呟く奈々。



 うわあ、なんて柔らかいんだ。

 抱擁することで、奈々の身体の感触が全身に伝わってくる。

 どこもかしこも柔らかく、いかにも女の子の身体って感じがする。

 なんだろ……。

 抱き締めているだけで、幸せな気持ちになる。

 それに、すごく良い匂いもする。  

 


 奈々も緊張で身を固くしていたが、ゆっくりと抱き締め続けると、身体から力が抜けた。

「す、澄隆様…………」

「奈々…………」



 真っ赤に火照った顔の奈々が、潤んだ瞳で見つめてくる。

 ……ああ、色っぽい。

 これはイカン。誠にイカン。

 俺は、死にそうなくらいクラクラとしながらも、意を決して奈々の頬に手を這わせる。

 自然と俺の意識は奈々の艶やかな唇に向かう。

 そのまま目を閉じると、奈々と口づけを交わした。



 ………………。

 …………。

 ……。



 こうして、俺たちは、夫婦の契りを結んだのであった。





 チュンチュン。

 俺は、障子から漏れてくる優しい光で、目を覚ました。



「……起きましたか?」

 俺の耳に、鈴の音の優しい声が届いた。

 いつも聞いている声だが、普段以上に柔らかい声で、くすぐったい。

「……ああ。おはよう奈々」

「おはようございます、澄隆様」

 俺が目を開けると、柔らかく微笑む奈々の顔があった。



 朝の優しい光は、奈々の顔を照らし、輝くような美しさで息を飲む。

「奈々、起きていたのか……」

「はい、澄隆様のお顔を見ていました」

「ん?」

「夫婦になったことが信じられなくて……」

「俺もだ……。今日から夫婦だな……」

「ふふふ」



 奈々と見つめ合い、俺の胸に温かい気持ちが沸き上がる。

 こんなにも安らかな気持ちになるのは初めてだ。

 奈々が笑みを浮かべているだけで心が洗われるようだ。



 奈々は、優しい笑顔のまま、俺の頬にフワッと口づけしてきた。

 奈々の艶のある黒髪が流れ、俺の頬に触れた。

 俺は呼吸を一瞬忘れる。

 び、びっくりした。

 し、心臓に悪いな。



 俺は、動揺しながらも上体を起こすと、奈々の身体に手を回して『うわっ』と言う奈々を優しく、しっかりと抱きしめた…………。

 奈々のあたたかい熱を感じた。





 結婚の儀の二日目、今度は、御披露目の儀として、評定部屋に家臣たちを集め、俺と奈々は上座に座った。



「こ、これより、澄隆様の……ひっぐ、えっぐ……」

 烏帽子親の近郷が、代表して祝辞を述べたが、また泣きじゃくって、何を言っているのか、よく分からない。

 光俊も目にうっすらと涙を浮かべて、笑っているのが印象的だった。

 家臣たちは皆、終始笑顔で、俺と奈々の結婚を心から喜んでくれているようだ。

 良かった良かった。

 


 こうして、俺の奈々との祝言は無事に終わった。

 あとは、奈々との生活が落ち着いたら、後日、妙との祝言だ。

十三の奉行職を作ってみました!

将来、誰に任せれば良いのか、皆様のご意見を頂けると大変嬉しいです。

(新たに武将をスカウトして、奉行職に当てる案でも、全然オッケーです)

感想、お待ちしております!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 歴史のIF物が好きなので面白いです。 奉行職で一番欲しい人材は、木下秀吉ですね。 それに、弟の木下秀長も欲しい。 この二人なら、どの奉行職を任せても、上手くやりそうな気がします。
[良い点] 奉行職ですか・・・ 真田一族がスカウトできたら最高ですが、さすがに無理でしょうし、現実的には、今までスカウトしてきた武将たちで何とかする形でしょうか?
[一言] スカウト不可も含めて思いつくまま ・寺社奉行(総務):九木浦近郷 ・外務奉行(外務):大谷吉継 ・勘定奉行(財務):田中宗政 ・段銭奉行(税務):蒲生氏郷 ・公事奉行(裁判):浅野長政 ・…
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