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第五七話 信長の撰銭令

▽一五七〇年七月、澄隆(十五歳)鳥羽城



 奈々は、正式に俺の婚約者となり影武者の任を解かれた。



 奈々は女物の服を着て、今まで通り鳥羽城で暮らすことになった。



 久しぶりに奈々の女服の姿を見た。

 動きやすそうな質素な服だったが、凛とした美しい佇まいに思わず見とれてしまった。

 奈々も久しぶりに女服を着て、恥ずかしそうだ。

 


 花嫁修業として、奈々は妙と一緒に、近郷の奥さんから、料理や礼儀作法などを習うようだ。

 そして、ずっと、放心していた光俊だが、最近は、やっと普通に戻った。 



 奈々の父親として、俺の義理の父になるが、光俊からは今までと変わらずに接して欲しいと、強く強くお願いされている。



 それで、光俊に俺の影武者探しの進捗を聞いたら、俺の顔が綺麗過ぎて、男では俺の顔とよく似ている影武者が見つからないそうだ。



 仕方なく、光俊の息子の多羅尾光太、奈々の兄に当たるが、俺より三歳上で俺と背丈が同じぐらいだったため、奈々に代わって影武者になってもらった。  



 だが、光太は、俺と身長は同じぐらいだったが、俺よりも体格が良かったはずだ。



 ……しかし、光俊と一緒に来た光太に久しぶりに会うと驚いた。

 体つきが、やせ形になっていて、俺に似ている。



 どうも、影武者になるために、頑張ってすごく痩せたようだ。

 さすが、忍者だな……。

 痩せて、髪型を同じにすることで、なんとなく俺に似ている感じがする。

 


 俺は、これから長く影武者をお願いすることになる光太に声をかけた。

「光太、影武者を引き受けてくれたこと礼を言う。これから、俺の側でよろしく頼むぞ」

「ははっ! 命をかけて、澄隆様の影武者を努めさせて頂きます!」

「……光太。命をかけてと言うが、俺は、光太に身代わりを頼むつもりはない。あくまで、銃撃など、暗殺に対する備えだ。戦では一緒に生き残ろう」 

 


「は、はぁ……」

 光太は、少し驚いた顔をして頷く。

 光俊が、息子の光太に微笑みながら言い聞かせている。

「光太、澄隆様はこういうお方なのだ。しっかり影武者を勤めるのだぞ」

 平伏する光太に、俺は、恒例の握手を求めた。

 光太は恐縮しているが、手をぎゅっと握った。



 それで、光太のステータスはこうだった。



【ステータス機能】

[名前:多羅尾光太]

[年齢:17]

[状態:良好]

[職種:忍之者]

[称号:無し]

[戦巧者:45(70迄)] 

[政巧者:18(46迄)]

[稀代者:陸]

[風雲氣:弐] 

[天運氣:参]


~武適正~

 歩士術:陸

 騎士術:壱

 弓士術:肆

 銃士術:壱

 船士術:壱

 築士術:壱

 策士術:肆

 忍士術:漆


〜装備〜

 主武器:無し

 副武器:無し

 頭:無し

 顔:無し

 胴:木綿の小袖(弐等級)

 腕:無し

 腰:木綿の袴(弐等級)

 脚:木綿の足袋(弐等級)

 騎乗:無し

 其他:無し



 なんと、戦巧者70か! 

 俺が五歳の頃、近江からの一族総出の引っ越しの時の握手会で、握手していなかったっけ?



 光俊に聞くと、あの握手会の時は、光太はまだ近江にいたらしく、俺に握手してもらうのは初めてだそう。

 光太、影武者として、よろしく頼むぞ。





 俺は、禁秘ノ部屋にこもり、一人、考えごとをしている。

 今日は、撰銭令についてだ。



 本当に信長って、天才だ……。



 一五六九年に信長は、撰銭令を京周辺で発布し、経済の革命を起こしている。

 通貨改革だ。

 この時代の経済は、米が通貨として使われていた米本位制だった。

 


 それを信長は『お前らぁ! 今後、米を通貨として使ってはならんぞぉぉぉ!』と命令した。

 

 米は、この時代、最もポピュラーな年貢であり通貨だったが、本来は食料だ。

 仮に飢饉が起きると、米が減り、米=通貨の価値が跳ね上がってしまう。



 価値が上がれば、米は食料に使われなくなり、余計に品薄になり、餓死者が溢れることになる。

 逆に、米の豊作が続けば、米の価値が暴落し、インフレを起こす。

 こんな乱高下する米を通貨にするリスクは計り知れない。



 信長は、米は食料に限定することでそのリスクを減らし、かつ、戦で食料として使う米を確保した。

 ただ、そうすると、米の代わりの通貨を増やす必要がある。



 そして、この改革も凄いよな……。

 そこで信長は、二つの通貨改革をして、米本位制から銭本位制の移行を強制した。



 通貨改革の一つめは、永楽銭や宋銭などの銅銭を基準通貨として、悪銭と呼ばれる破銭や南京銭(私鋳銭の一種だね)などとの交換比率も決め、基準通貨だけでなく悪銭も含めて、通貨を増やす改革をしたことだ。

 これにより、織田領以外で敬遠される悪銭も、織田領では流通が増え、銭の量自体が増えることになった。 



 二つめの通貨改革は、金銀銅の三貨制を日本で初めて導入したことだ。

 銅銭と、金と銀の交換比率を決め、大量に物を購入する際には金や銀の使用を強制し、金と銀の通貨としての普及を促した。

 これにより、銅銭以外に金と銀も通貨になったため、米の代わりの通貨が増えることになった。



 信長の撰銭令は、日本のためになった改革だ。

 俺も踏襲する。

 そのためには、堺の商人の力がいる。

 小西隆佐を呼ぶことにしよう。



…………………



 俺は、隆佐に評定部屋に来てもらった。

 少し太って、悪徳代官らしさがレベルアップしていた。



「隆佐、いつも、すまない。早速だがお願いがある。俺も信長の始めた撰銭令を領内で始めたい。力を貸してほしい」

「澄隆様……。あの撰銭令は、評判が悪いです。特に、米を通貨として使ってはならない取り決めにしたことが、これまでの慣例を無視していて、酷いですな」



 隆佐は、顰めっ面だ。

 うん、予想通りの反応だ。

 俺は、隆佐を説得することにした。

「隆佐、それは分かるが、京、そして堺の発展は目覚ましい……。これから人が爆発的に増えると思う。米が、通貨と食料の両方に使われると必ず、京とその周辺が米不足になる。そうなると、米を扱う商人たちも困ることになる」



 隆佐は、ハッとした顔で、俺を見た。

「澄隆様は、京の人口増加を見越して、米の通貨利用を禁止にするということですか?」

「それもある……。ただ、一番は九鬼家の領民のためだ。領民が米不足で泣くのは見たくない」



 隆佐は、俯いて考え込むと、頷いて話し出す。

「分かりました。堺のためにもなるなら、力になりましょう。まず、澄隆様の領内での取引は、すべて米以外とさせて頂きますが、よろしいですか? また、堺の商人たちにも米禁止の利点を伝えてまいります」

 俺は、満面の笑みで頷く。

「隆佐、ありがとう。そうそう、俺は、悪銭が過剰に領内に流入するのを防ぐため、取引額の半分は基準通貨で支払うよう決めるつもりだ。それと、もう一つ、お願いがある」



 俺は、ニヤリと笑う。

「信長の撰銭令では、金十両に対して銅銭は十五貫で交換、銀十両に対して銅銭は二貫で交換となっているよな? 俺は、金と銀の価値をもう少し高めに……具体的には五分(五パーセント)ほど高めにしたい。いけるかな?」

「金と銀の価値は、まだ、しっかり決まっておりません。問題はないかと……。差し支えなければ、なぜ、金と銀の価値を高めたいのか、聞かせて頂いても?」

「これが、これからの日本の基準の価値となる。俺は、金と銀の価値が少し低いと思ってな。よろしく頼むぞ」



 俺は、本音は言わずに悪代官みたいに笑った。



―――――――status―――――――


[名前:多羅尾光太(たらお みつもと)]

[年齢:17]

[状態:良好]

[職種:忍之者]

[称号:無し]

[戦巧者:45(70迄)] 

[政巧者:18(46迄)]

[稀代者:陸]

[風雲氣:弐] 

[天運氣:参]


~武適正~

 歩士術:陸

 騎士術:壱

 弓士術:肆

 銃士術:壱

 船士術:壱

 築士術:壱

 策士術:肆

 忍士術:漆


〜装備〜

 主武器:無し

 副武器:無し

 頭:無し

 顔:無し

 胴:木綿の小袖(弐等級)

 腕:無し

 腰:木綿の袴(弐等級)

 脚:木綿の足袋(弐等級)

 騎乗:無し

 其他:無し



 光太の兄二人は既に討死しているため、多羅尾光俊の嫡男となっている。

 性格は、妹の奈々に似て、自己犠牲の意識が強く、たいへん真面目。

 人の動きをコピーするのが得意。


―――――――――――――――――

次回は、お金儲けの回。

『灰吹法』に取り組みます。

お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 米って、通貨にもなっていたんですね。 知らなかったですー 勉強になりました。
[一言] 信長死んだから京は荒れまくって人口減りそうだけどな 主人公みたいに勝手に比率弄るやついると金山銀山持ってる奴等が自国有利な比率にして信用なくなりそう
[気になる点] 織田 金10=銅15 金と銀の価値を高くすると考えた時 九鬼 金10で銅15以上と交換できるって感じですよね? たとえばですが16で交換できると設定した場合 九鬼に金10をもってくると…
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