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第五三話 田植えとスカウト

いつもたくさんの感想ありがとうございます!

▽一五七〇年六月、澄隆(十五歳)南伊勢の水田



 今年も田植えの時期になった。



 青く澄んだ空にはいくつかの雲が浮かんでいる。

 水田に張られた水が朝日に照らされ、キラキラと輝いている。

 戦の影響で、植える時期は少し遅くなったが、この暖かさが続けば、発育は問題ないだろう。



 その水田に、領民たちが苗を均等に植えている。

 植え方を見ると、俺の指示通り、しっかり正条植えをしてくれているようだ。

 これで、ムラなく光が当たり、風通しも良くなる。



 水田には、宗政が堺で買い付けた鯉が既に放され、田植えに驚いたのか、隅の方に固まって泳いでいるのが見える。



 領民は、田植え唄を歌いながら、一斉に植えているため、なんだか盆踊りみたいな雰囲気だ。

 皆、汗をかきながらも、笑顔が溢れている。



「皆に笑顔が戻ったな」

「そうですな……」

 俺の呟きに、近郷が頷く。



 織田信雄が無慈悲な圧政を敷いたせいで、南伊勢の領民たちは、生活基盤を破壊され、完全に疲弊していた。

 そこで、領内の状況に詳しく、政巧者の数値が高い専正と秀時を抜擢して、南伊勢の復興をお願いした訳だが、二人は任されたことを意気に感じたのか、寝る間を惜しんで領民のために働いてくれた。



 専正と秀時は、領内の足りない物資を分かりやすくリストに纏めてくれたので、俺は宗政に、そのリストを踏まえて、九鬼家の備蓄をすぐに放出するように指示した。



 そのおかげもあって、領民は、九鬼家が支配するようになってから、餓死者も出さずに平穏な生活が送れている。



 それに、俺が南伊勢を治めてから、風魔一族や世鬼一族の巡回のおかげで領内の治安は良くなっているし、戦に駆り出されることもなくなった。

 領民たちの様子を見ると、田植えに集中できているようだ。



 これから何事もなく秋になり、稲穂が実り、収穫できるようにしてあげたい。 

 だが、まだまだ、周辺は敵だらけだ。

 領民たちのためにも、力をつけていこう。



 俺は、本日、南伊勢の田植え祭に呼ばれている。

 久し振りに、領民と触れ合う機会だ。



 領民の人数が増え、小太郎曰く、敵の間者等もたくさん領内に入っているとのことで、安全面から領民全員の握手会は難しくなってきたが、目ぼしい人材がいたら、ステータス能力を確認してスカウトしたい。

 さあ、良い人材はいるかな~。


 

 俺の右手が疼く!

 楽しみだな!





 私、長谷川重吉は、十歳と四歳の弟を連れて、地元名士の屋敷の前まで来た。

 なんと、南伊勢の新当主である澄隆様が、屋敷前で行われる田植え祭にいらっしゃるという。

 その知らせに、領民たちも喜んでいる。



 圧政を敷いた織田信雄を追い出し、食料を無償で配給してくれた澄隆様は、領内では大変な人気だ。

 澄隆様が食料を配ってくれたおかげで、体力がない老人や子供が随分助かった。



 屋敷に着くと、澄隆様を今か今かと待ち構えている領民たちが集まっている。 

 そして、澄隆様が現れると、ざわめきに満ちていた屋敷の前が急に静かになった。



 澄隆様がいるだけで、明らかに空気が変わった。



 澄隆様は、噂以上の美男子だった。

 遠くから見ても、その美貌が目立つ。

 思わず息が止まりそうになった。



 皆、澄隆様の動向を目で追い続け、見惚れている。

 澄隆様の浮き世離れした雰囲気に、自然と道を開けている。

 


 志摩国では、鬼神様と呼ばれ、神様の生まれ変わりと言われているそうだが、そう言われるのも分かる。

 隣には、筋肉隆々の厳つい目をした男がついていて怖い。



 田植え祭りが始まると、澄隆様から労いの挨拶があった。

 澄隆様のお年は私と同じぐらいだろうが、堂々としていて、そうは見えない。



 これまで、何度も数倍の敵と戦って、勝ってきたそうだ。

 澄隆様自ら、志摩国で有名な剣豪を討ち取ったとも聞いた。

 凄すぎて、想像ができない。



 祭りが進むと、澄隆様から驚きの提案があった。

 なんと、労いを兼ねて、私たちの手を触れたいと仰っている。


 

 私も弟たちを引き連れて、澄隆様の前にできた列に並ぶ。 

 列に並んでいる最中、小刀等の危険物を持っていないか、お侍様たちに徹底的に調べられた。



 澄隆様を仰ぎ見ると、澄隆様の隣には、厳つい目の男が、すぐに刀が抜けるように構えているのが分かる。

 それに、澄隆様の侍女なのか、目が青い、日本人離れした美少女が澄隆様の後ろに控えながら、私たちの一挙手一投足を注意深く見ている。



 澄隆様のことが、皆、心配なのだろう。

 領民の手を触れたいという当主など、聞いたことがない。



 私は、雲の上の存在である澄隆様の側まで行けることに緊張して、言葉が出ない。

 フワフワとした気持ちのまま、私の順番になった。



「次の者、はい、握手」

 なぜか、私の手を触れると、澄隆様は驚いた顔をしている。

 何か、粗相をしたのだろうか。

 心配になる。



 私が不安な顔をしていると、驚いたことに、澄隆様から私と弟たちにお声がかかった。

「三人とも、登用するから、城に来てくれ」

 私の家柄など、何も聞かれず、なぜだか、私と弟たちは澄隆様に仕えることになった。



 私の父は、織田家との戦いで既に亡くなっている。

 澄隆様に仕えることができるなんて、なんて幸運なのだろう。



 もしかして、ここで澄隆様に出会ったのは運命なのでは?



 私のうしろに並んでいる者の中には、北畠家で重臣だった名士の血縁者などと、澄隆様に流暢な言葉で、上手く自慢する者もいたが、澄隆様は登用されなかった。

 家柄を重視しないなんて、信じられない。



 私の胸は感動と歓喜で、大きく、早く、苦しいほどに高鳴る……。



 ……私の何を気に入ったのか分からないが、誠心誠意、身も心も捧げて、死ぬ気で澄隆様に仕えていこう。



 

 お~し!

 長谷川重吉、藤継、藤広という三兄弟をスカウトできた。

 俺は口元を緩めながら三兄弟を見る。

 三人とも、タラコのような太い唇で、愛嬌がある。



 重吉に握手すると、政巧者の数値が高くて興奮した。

 能力が高い人材を増やすのは、やはり心が浮き立つ。

 前世の記憶で、うろ覚えだが、長谷川なんとかが堺や長崎の港の代官をしていた。

 この三兄弟のうちの誰かなんだろうか。 

 内政で、宗政の助けになることを期待している。

 三人とも小姓に取り立てて、鍛えよう。

 


 今日のところは、目ぼしい人材は、この三人くらいだった。



 北畠家の重臣だった人物の血縁者だと鼻高々に自慢していた者もいたが、ステータスが低過ぎて登用しなかった。 

 本当に家柄と能力は、リンクしない。

 これからも、能力重視でスカウトしていこう。



 それで、小姓に登用した三兄弟のステータスはこうだ。


 

【ステータス機能】

[名前:長谷川重吉]

[年齢:16]

[状態:良好]

[職種:無し]

[称号:無し]

[戦巧者:10(16迄)] 

[政巧者:16(68迄)]

[稀代者:肆]

[風雲氣:伍] 

[天運氣:伍]


~武適正~

 歩士術:弐

 騎士術:壱

 弓士術:壱

 銃士術:壱

 船士術:壱

 築士術:伍

 策士術:漆

 忍士術:壱


〜装備〜

 主武器:無し

 副武器:無し

 頭:無し

 顔:無し

 胴:麻の小袖(壱等級)

 腕:無し

 腰:麻の袴(壱等級)

 脚:草鞋(壱等級)

 騎乗:無し

 其他:無し



【ステータス機能】

[名前:長谷川藤継]

[年齢:10]

[状態:良好]

[職種:無し]

[称号:無し]

[戦巧者:7(28迄)] 

[政巧者:6(61迄)]

[稀代者:肆]

[風雲氣:弐] 

[天運氣:肆]


~武適正~

 歩士術:参

 騎士術:壱

 弓士術:壱

 銃士術:壱

 船士術:壱

 築士術:肆

 策士術:漆

 忍士術:壱


〜装備〜

 主武器:無し

 副武器:無し

 頭:無し

 顔:無し

 胴:麻の小袖(壱等級)

 腕:無し

 腰:麻の袴(壱等級)

 脚:草鞋(壱等級)

 騎乗:無し

 其他:無し



【ステータス機能】

[名前:長谷川藤広]

[年齢:4]

[状態:良好]

[職種:無し]

[称号:無し]

[戦巧者:3(23迄)] 

[政巧者:2(70迄)]

[稀代者:伍]

[風雲氣:参] 

[天運氣:陸]


~武適正~

 歩士術:弐

 騎士術:弐

 弓士術:壱

 銃士術:壱

 船士術:壱

 築士術:陸

 策士術:漆

 忍士術:壱


〜装備〜

 主武器:無し

 副武器:無し

 頭:無し

 顔:無し

 胴:麻の小袖(壱等級)

 腕:無し

 腰:麻の袴(壱等級)

 脚:草鞋(壱等級)

 騎乗:無し

 其他:無し



 さあ、ブラックに頑張ってね!



―――――――status―――――――


[名前:長谷川重吉(はせがわ しげよし)]

[年齢:16]

[状態:良好]

[職種:無し]

[称号:無し]

[戦巧者:10(16迄)] 

[政巧者:16(68迄)]

[稀代者:肆]

[風雲氣:伍] 

[天運氣:伍]


~武適正~

 歩士術:弐

 騎士術:壱

 弓士術:壱

 銃士術:壱

 船士術:壱

 築士術:伍

 策士術:漆

 忍士術:壱


〜装備〜

 主武器:無し

 副武器:無し

 頭:無し

 顔:無し

 胴:麻の小袖(壱等級)

 腕:無し

 腰:麻の袴(壱等級)

 脚:草鞋(壱等級)

 騎乗:無し

 其他:無し


 情熱的なロマンチスト。

 タラコ唇が特徴的。

 『澄隆様に出会うために私は生まれてきたのでは?』と、本気で思っている。

 妄想癖はあるが、頭は良い。


―――――――――――――――――


[名前:長谷川藤継(はせがわ ふじつぐ)]

[年齢:10]

[状態:良好]

[職種:無し]

[称号:無し]

[戦巧者:7(28迄)] 

[政巧者:6(61迄)]

[稀代者:肆]

[風雲氣:弐] 

[天運氣:肆]


~武適正~

 歩士術:参

 騎士術:壱

 弓士術:壱

 銃士術:壱

 船士術:壱

 築士術:肆

 策士術:漆

 忍士術:壱


〜装備〜

 主武器:無し

 副武器:無し

 頭:無し

 顔:無し

 胴:麻の小袖(壱等級)

 腕:無し

 腰:麻の袴(壱等級)

 脚:草鞋(壱等級)

 騎乗:無し

 其他:無し


 空気を読んで器用に立ち回る、要領の良い弟タイプ。

 兄と違ってリアリスト。

 同じくタラコ唇。


―――――――――――――――――


[名前:長谷川藤広(はせがわ ふじひろ)]

[年齢:4]

[状態:良好]

[職種:無し]

[称号:無し]

[戦巧者:3(23迄)] 

[政巧者:2(70迄)]

[稀代者:伍]

[風雲氣:参] 

[天運氣:陸]


~武適正~

 歩士術:弐

 騎士術:弐

 弓士術:壱

 銃士術:壱

 船士術:壱

 築士術:陸

 策士術:漆

 忍士術:壱


〜装備〜

 主武器:無し

 副武器:無し

 頭:無し

 顔:無し

 胴:麻の小袖(壱等級)

 腕:無し

 腰:麻の袴(壱等級)

 脚:草鞋(壱等級)

 騎乗:無し

 其他:無し


 お腹いっぱいになれば、嫌なこともすべて忘れてハッピーになれる明るい性格。

 二人の兄を見て、日々、参考にしているからか、要領がよく、何でも飲み込みが早い。 

 この子もタラコ唇。

 

―――――――――――――――――

拙作をお読み頂き、ありがとうございます。

次回は、『奈々逃げる』です。

お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[良い点] たらこ唇の子供たち、想像すると、何だか可愛いですー
[良い点] 更新お疲れ様です。 内政の人材が増えれば、宗政の負担が減りますね! ただ、まだ、若いから数年は無理か・・・
[一言] >私の父は、織田家との戦いで既に亡くなっている。 つまり、長谷川藤直の死亡時期が前倒しになった&長谷川三兄弟の妹(家康の側室・清雲院、1581年生)は生まれてこないのが確定か。
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