第三一話 第三次スカウト その三
前回のクイズ、さすが皆様、大正解!
▽一五六八年十一月、澄隆(十三歳)鳥羽城
山々は紅葉で赤く染まり、雲一つない晴天の昼下がり。
待ちに待った人物が鳥羽城に来てくれた。
俺は、喜び勇んで、その人物が待っている部屋に向かった。
部屋に入ると、男が二人、平伏して待っている。
前に座っている方の人物が、スカウトしたお目当ての人物だろう。
筋骨隆々な大男かと予想していたが、平均的な身長のやせ形の男だった。
見た目は、浅黒い端正な顔、きつく結んだ口元、眉毛もキリッと濃く、まるで歌舞伎俳優みたいだ。
この男が、前世の記憶だと、これから鬼左近と呼ばれ、恐れられる人物になる。
そう、その男の名前は…………。
島左近だ。
俺が、上座に座ると、前に座っている人物が話し出した。
「某、島左近と申します。こちらに控えるは従弟の島勘左衛門。畠山家では粉骨砕身、仕えてまいりましたが、武運拙く、家が破れ、浪人となり苦労しておりました……。この度、一族郎党、全員家臣にして頂けるとのこと有り難く。誠心誠意、仕えさせて頂きます」
おお、歌舞伎口上みたいだ。
優しげな野太いイケメンボイスで、声も良く通る。
左近だけでなく一族郎党を高額で召し抱えるという、大盤振る舞いをしたおかげで、仕官する気になったようだ。
「島左近、勘左衛門、よく来てくれた。これからよろしく頼む」
左近は、人好きのするような笑みを浮かべて頷く。
生粋の武人らしい裏表のない顔つきをしている。
信用できそうだ。
さあ、待ちきれない。
握手だ。
左近達の所まで、歩いていくと、あれ?驚かない。
「フフっ。澄隆様が家臣にする時、手を握られること、噂で聞いております。噂通りですな」
快活に笑った笑顔が、男の色気満載だ。
ビシッと背筋が通った精悍な雰囲気が格好いい。
さぞやモテるだろうな。
さあ、ステータスはどんなだろ?
【ステータス機能】
[名前:島左近]
[年齢:25]
[状態:良好]
[職種:歩侍]
[称号:無し]
[戦巧者:81(94迄)]
[政巧者:21(61迄)]
[稀代者:拾]
[風雲氣:漆]
[天運氣:漆]
~武適正~
歩士術:拾
騎士術:捌
弓士術:漆
銃士術:壱
船士術:伍
築士術:伍
策士術:捌
忍士術:壱
〜装備〜
主武器:無し
副武器:無し
頭:無し
顔:無し
胴:木綿の小袖(弐等級)
腕:無し
腰:木綿の袴(弐等級)
脚:木綿の足袋(弐等級)
騎乗:無し
其他:無し
俺はそのステータスを見て息を呑んだ。
ふおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
戦巧者94か!
90オーバーという圧倒的なステータス。
すんごい人材だ。
鬼左近と呼ばれるようになるのが分かるな。
現在の数値も高く、稀代者も拾か。
武適正の歩士術の数値が拾なのも、初だ!
驚き過ぎて、数秒固まった。
いかんいかん。
こんな頼りになる家臣をスカウトできたのは僥倖だな。
左近が戦っている所を早く見たい。
まあ、九鬼家の戦力が整うまでは、他家と戦いたくはないけれど。
手を握って分かったが、左近の手は、刀ダコが潰れ続けて固くなっていて、今まで握手した中で、一番ごつごつしている。
隣に控えている島勘左衛門にも、握手した。
勘左衛門も、左近より丸顔だが、眉毛が太く、こっちも歌舞伎俳優と言っていい顔立ちだね。
【ステータス機能】
[名前:島勘左衛門]
[年齢:22]
[状態:良好]
[職種:歩侍]
[称号:無し]
[戦巧者:51(68迄)]
[政巧者:15(38迄)]
[稀代者:伍]
[風雲氣:伍]
[天運氣:陸]
~武適正~
歩士術:漆
騎士術:伍
弓士術:壱
銃士術:伍
船士術:陸
築士術:肆
策士術:陸
忍士術:参
〜装備〜
主武器:無し
副武器:無し
頭:無し
顔:無し
胴:木綿の小袖(弐等級)
腕:無し
腰:木綿の袴(弐等級)
脚:木綿の足袋(弐等級)
騎乗:無し
其他:無し
おお、戦巧者が60後半。
使える人材だ。
現在の数値も高いな!
島左近は、一族郎党、五十人ほどで、志摩国に来てくれた。
早速、宗政に言って、小島の中に建てた家に入居してもらう。
左近が落ち着いて、常備兵が揃ってきたら、左近には、家臣や兵達を鍛えてもらう教官をお願いしよう。
ただ、このお願いが地獄の始まりだとは、この時は分からなかった……
…………………
島左近や勘左衛門達をスカウトして、三日後。
宗政にスカウトされた二人目が来てくれた。
その人物が待つ部屋に入ると、顔中が傷痕だらけの男が座っていた。
見た目は、若い。
年齢は……二十くらいかな。
浅黒い肌に、青黒い髪。
顔立ちは、多数の刀傷が気になるが、彫像のように整った美貌の持ち主だった。
冷めたような切れ長の目をしており、鼻は高く、顔の輪郭は細い。
髪が一束、額にかかっている。
なんとなく、腹に一物あるような顔立ちだな。
俺は、上座に座って、その人物に話しかける。
「俺が澄隆だ。渡辺勘兵衛か?」
「ああ、そうだよ。拙者を雇いたいそうだな?」
……ずいぶんと馴れ馴れしいな。
自分に相当な自信があるのか。
「勘兵衛。何が一番得意だ?」
「見た目の通り、幾度も合戦で斬り合ってきた。対人戦闘は得意だ。ただ、無学で、それ以外は何もできねぇ」
良く見ると、右耳も切れて無い。
「それに……敬語は苦手だ。これで、上には煙たがれる。それでも良ければ雇ってくれ」
勘兵衛は、少しうつ向きながら、話している。
これまで、苦労もしてきたようだな。
生意気かと思ったが、根は素直な性格っぽいな。
苦労してきた人材は、俺も前世で同じ待遇だったからか、積極的に雇いたくなる。
まあ、渡辺勘兵衛は、前世の知識で知っていたし、ある程度の能力はあるだろ。
ここは、雇おう。
「よし! いいだろう。俺は、敬語は気にしない。まずは、勘兵衛の力を当家で発揮してほしい」
さあ、握手だ。
俺は、勘兵衛の所まで、いつもの調子で歩いていく。
勘兵衛は、驚愕したのか、ビクリと身体を震わせて背筋がしゃんとした。
その顔には、驚きの表情が浮かんでいる。
そのまま勘兵衛の手をぎゅっと握る。
勘兵衛の手は、指先まで傷だらけだ。
どういう斬り合いをしてきたんだ。
本当に。
【ステータス機能】
[名前:渡辺勘兵衛]
[年齢:25]
[状態:良好]
[職種:歩侍]
[称号:無し]
[戦巧者:48(89迄)]
[政巧者:4(15迄)]
[稀代者:玖]
[風雲氣:陸]
[天運氣:捌]
~武適正~
歩士術:玖
騎士術:捌
弓士術:漆
銃士術:壱
船士術:壱
築士術:壱
策士術:参
忍士術:漆
〜装備〜
主武器:無し
副武器:無し
頭:無し
顔:無し
胴:麻の小袖(壱等級)
腕:無し
腰:麻の袴(壱等級)
脚:麻の足袋(壱等級)
騎乗:無し
其他:無し
むほっ!
戦巧者の数値が高い。
それに比べて政巧者は現在4。
これまた、尖った能力だ。
前線向きだな。
「勘兵衛、まずは、左近という男と一緒に、雇ったばかりの足軽達を鍛えてくれ」
魂が抜け落ちたような、呆然とした顔で佇む勘兵衛。
「ああ、分かった……。よろしく頼む」
勘兵衛は、頬を染めながら、頷く。
よーし、よし! 人材が増えてきた。嬉しい。
ちょっと勘兵衛の俺を見る目がウルっとしていて、気になるが、頑張ってね!
…………………
俺は、やることがあり過ぎて、毎日が、慌ただしい。
あっという間に時間が過ぎる。
ある日、隆佐から嬉しい知らせが入った。
隆佐が、芝辻理右衛門と会って、勧誘したそうだ。
理右衛門に玉鋼を見せると、たたら製鉄をしている場所が見たいとのこと。
機密事項だが、ここは、仕方がない。
光俊に聞くと、鳥羽城の一角に製鉄場所を内々に作ったと言うので、光俊に言って、理右衛門を鳥羽城まで連れて来てもらった。
俺が定期的な評定を終えて、たたら製鉄をしている場所に案内してもらうと、一人の男が、鉄作りを眺めていた。
「待たせたな。俺が澄隆だ」
俺は、来てくれた嬉しさを隠さず、話しかけた。
男は、俺に顔を向けると、頭を下げる。
男は、二十歳ぐらいか。
寡黙なのか、喋らない。
「芝辻理右衛門殿、堺から、良く来てくれた。俺と話がしたいそうだが?」
「…………玉鋼」
うん?
俺が隆佐に渡した玉鋼のことかな?
「ああ、この設備で作った」
「…………あのレンガ」
「耐火レンガだ。高炉にしても簡単には壊れないぞ」
「………………」
これって、渡した玉鋼がどう作られたか、知りたかったってことかな?
「理右衛門殿、俺は、この玉鋼を使って、作りたいものが沢山ある。力を貸してほしい」
「…………………な、わ……」
理右衛門、言葉少な過ぎ!
読み解くのが大変だぞ。
えーと、なぜ、有名じゃなくて若輩の理右衛門に声をかけたってことかな?
「この玉鋼は、日の本で作られた初となる高強度の鉄だと思う。俺は、新しい力と共に、時代を切り開いていきたい。理右衛門殿、俺と一緒に行こう」
俺は、手を理右衛門に伸ばす。
「……………………」
理右衛門は、迷っていたようだったが、たたら製鉄から流れる鉄をもう一度見ると、俺の方に顔を向けて、握手をした。
「理右衛門殿、俺の家臣として迎える。よろしく頼む」
理右衛門は、コクっとほんの少し、頷いた。
よし! 早速頼もう。
「理右衛門と呼ぶぞ。理右衛門、俺に付いてきてくれ。禁秘ノ部屋で見せたいものがある。俺が描いた設計図だ。この玉鋼なら出来るはずだ。多羅尾一族を部下に付けるが、堺から呼びたい鍛冶職人がいればいくら呼んでも構わない。これから、よろしく頼む」
下手な絵だけど、描いて、無駄にならなかったな。
色々、作ってほしいが、まずは、この設計図のものを作ってね!
あと、芝辻理右衛門と手を握った時、ステータスを見た。
【ステータス機能】
[名前:芝辻理右衛門]
[年齢:22]
[状態:良好]
[職種:鉄匠]
[称号:無し]
[戦巧者:33(58迄)]
[政巧者:2(6迄)]
[稀代者:参]
[風雲氣:弐]
[天運氣:伍]
~武適正~
歩士術:参
騎士術:壱
弓士術:弐
銃士術:壱
船士術:参
築士術:漆
策士術:壱
忍士術:壱
〜装備〜
主武器:無し
副武器:無し
頭:無し
顔:無し
胴:麻の小袖(壱等級)
腕:無し
腰:麻の袴(壱等級)
脚:麻の足袋(壱等級)
騎乗:無し
其他:無し
戦巧者に特化している。
鍛治職人としては、とても強いな。
鉄を叩く作業に、戦巧者の能力が役立つのかもね。
これから、九鬼家の専属鍛治職人として、力を発揮してほしい。
―――――――status―――――――
[名前:島左近]
[年齢:25]
[状態:良好]
[職種:歩侍]
[称号:無し]
[戦巧者:81(94迄)]
[政巧者:21(61迄)]
[稀代者:拾]
[風雲氣:漆]
[天運氣:漆]
~武適正~
歩士術:拾
騎士術:捌
弓士術:漆
銃士術:壱
船士術:伍
築士術:伍
策士術:捌
忍士術:壱
〜装備〜
主武器:無し
副武器:無し
頭:無し
顔:無し
胴:木綿の小袖(弐等級)
腕:無し
腰:木綿の袴(弐等級)
脚:木綿の足袋(弐等級)
騎乗:無し
其他:無し
見た目は、人気歌舞伎役者。
服の下は、シックスパックになっている筋肉マン。
圧倒的な槍術の腕を持っている。
自分を鍛えるのも、味方を鍛えるのも大大大好き。
訓練中だけでなく戦闘でも、テンションが上がると笑いが止まらなくなる変態。
敵には容赦しないが、家族思いの優しい一面も持っている。
鬼神様と呼ばれる澄隆の評判を聞きつけ、一族郎党の生活のために九鬼家に仕官することにした。
―――――――――――――――――
[名前:島勘左衛門]
[年齢:22]
[状態:良好]
[職種:歩侍]
[称号:無し]
[戦巧者:51(68迄)]
[政巧者:15(38迄)]
[稀代者:伍]
[風雲氣:伍]
[天運氣:陸]
~武適正~
歩士術:漆
騎士術:伍
弓士術:壱
銃士術:伍
船士術:陸
築士術:肆
策士術:陸
忍士術:参
〜装備〜
主武器:無し
副武器:無し
頭:無し
顔:無し
胴:木綿の小袖(弐等級)
腕:無し
腰:木綿の袴(弐等級)
脚:木綿の足袋(弐等級)
騎乗:無し
其他:無し
島左近の従弟に当たる。
左近と同じく槍が得意。
四六時中訓練している左近のことを変態だな〜と思いながらも、心から慕っている。
―――――――――――――――――
[名前:渡辺勘兵衛]
[年齢:25]
[状態:良好]
[職種:歩侍]
[称号:無し]
[戦巧者:48(89迄)]
[政巧者:4(15迄)]
[稀代者:玖]
[風雲氣:陸]
[天運氣:捌]
~武適正~
歩士術:玖
騎士術:捌
弓士術:漆
銃士術:壱
船士術:壱
築士術:壱
策士術:参
忍士術:漆
〜装備〜
主武器:無し
副武器:無し
頭:無し
顔:無し
胴:麻の小袖(壱等級)
腕:無し
腰:麻の袴(壱等級)
脚:麻の足袋(壱等級)
騎乗:無し
其他:無し
世渡り下手の苦労人。
切れ長の目をした色男だが、顔も体も傷だらけ。
右耳も斬れており、片耳しかない。
髪が一束、いつも額にかかっている。
なんと、勘兵衛は自覚していないが、澄隆に一目惚れしたらしい。
―――――――――――――――――
[名前:芝辻理右衛門]
[年齢:22]
[状態:良好]
[職種:鉄匠]
[称号:無し]
[戦巧者:33(58迄)]
[政巧者:2(6迄)]
[稀代者:参]
[風雲氣:弐]
[天運氣:伍]
~武適正~
歩士術:参
騎士術:壱
弓士術:弐
銃士術:壱
船士術:参
築士術:漆
策士術:壱
忍士術:壱
〜装備〜
主武器:無し
副武器:無し
頭:無し
顔:無し
胴:麻の小袖(壱等級)
腕:無し
腰:麻の袴(壱等級)
脚:麻の足袋(壱等級)
騎乗:無し
其他:無し
火縄銃を作っていた父親と反りが合わず、家を飛び出し、堺で鍛冶屋を営んでいた。
喋るのが大嫌いで、話す単語を出来るだけ減らそうと、日々努力している。
―――――――――――――――――
お読みいただき、ありがとうございます。
次回は、兵器開発を進めていきます。




