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第二五話 吃驚大作戦 その四

▽一五六七年九月、澄隆(十二歳)取手山城



 今は、取手山城を落とした日の夕刻。



 俺たちは、城を落としてから、今まで仮眠を取った。

 お腹が空いたので、近郷達と一緒に、城で接収した食糧を食べている。



 古い城のため、城内のカビ臭さが鼻を突く。

 俺は、顔を顰めながらも黙々と用意された雑穀お握りなどを口に入れる。

 


 俺が食事をしながら周りを眺めると、俺を含めて皆、目に真っ黒い隈ができている。



 どよんとした空気が漂う。

 憑依してから初めて、田城城以外で寝てみて分かったが、寝ても疲れが残った。

 もちろん、夜襲のダブルヘッダーもキツかったが、戦の緊張感がある中で寝ても、疲れが取れない。



 身体はクタクタなのに、少しウトウトするくらいの浅い眠りが続き、何度も目が覚めてしまう。

 背中が強張り、凄く痛い。

 


 野戦などで何日も対陣することもあると思うが、こんなにキツいとは経験してみないと分からなかった。



 疲労がたまった中で、戦をする。

 また、疲労がたまる。 

 疲労がたまると判断力もなくなるし、寝首をかかれることもあるだろう。



 二四時間戦えるか?

 今は無理だ。

 栄養ドリンクもない時代だし、もっと体力をつけないとな。



 あと、俺が留守の中、田城城のことが心配で、心が休まらないのも疲れがたまる原因だろう。

 田城城に主力の俺達がいないことが、他の地頭たちにバレたら大変だ。

 田城城には、怪我人以外に兵力はほとんど残っていない。



 影武者の奈々が、俺に変わって、城内や領内を廻り、俺達がいないことを誤魔化してくれているはずだ。

 補佐に宗政も付けたから、上手くやってくれていると思うが……。

 


 さて、俺がここでやることは、早く田城城に戻れるように、悪巧みをすることだ。

 光俊に、声をかける。

「光俊、残った地頭達に宛てて、偽の書状を書く。字を真似るのが得意な者はいるか?」



 首を傾げる光俊。

「はっ。……我が一族にはおりませんが、確か、小太郎殿の配下にはいると聞いております。呼んで参りますので少しお待ち下さい」

 光俊が席を外して、小半刻ほどすると、楽の面を付けた忍者を連れて、戻ってきた。



「澄隆様、楽の隊、紺と申します~。偽の書状が必要だとか」

 おお、若い女の声だな。

 くノ一か!

 何だか、間延びしたしゃべり方で緊張感がないな。

 美麗だが、甘ったるい声。

 右腕には、特徴的な銀色の手鎖が巻かれている。



 ピッタリとした茶渋色の服を着ていて、スッと背筋を伸ばしている姿勢は美しい。

 相当鍛えているのだろう。

 男性の理想を具現化したかのような、まるでトップモデルのような体型。

 引き締まった身体で、胸が大きいのにウエストがやたらと細くて煽情的で、正直、目のやり場に困るぐらいグラマーなくノ一だった。



 俺は、一度、咳払いをしてから話しかける。

「ゴホン……。鳥羽宗忠の筆跡を真似て、偽の書状を作りたい。できるか?」

「はい~。宗忠の書状を貸していただければ」



 俺は、取手山城にあった宗忠の書状を紺に渡し、偽の書状を書くよう指示する。

 内容は、こうだ。 

「我、急病のため、九鬼家討伐は一時中止。追って沙汰するまで、各城で待機。九鬼家に悟られないように農民兵は解散。そう書いてくれ」

 紺は、筆跡を真似て、スラスラと書いている。

 所作が綺麗だ。

 日本舞踊でもやっていたのかな。

「はい~。このように」

 紺が書いた偽の書状は、鳥羽宗忠が自ら書いたような文言にしてあって、さらに、九鬼家家臣に寝返りをかけている最中で、もうすぐ成功するから、静かに待つようにとも書いてあった。



 うん、良いね。 

「紺とやら、素晴らしい! これと同じ書状を、全地頭分、書いてくれ!」

 俺は、紺を誉めながら、紺の手をぎゅっと握った。

 紺は、手を握られながら暫し固まっていたが、また、はい~と間延びした返事をして、書いてくれた。



 手を握った時の紺の数値はこうだった。

 能力が凄く高い。

 驚愕した。



【ステータス機能】

[名前:横江紺]

[年齢:21]

[状態:良好]

[職種:忍之者]

[称号:無し]

[戦巧者:44(78迄)] 

[政巧者:28(46迄)]

[稀代者:捌]

[風雲氣:弐] 

[天運氣:陸]


~武適正~

 歩士術:陸

 騎士術:壱

 弓士術:漆

 銃士術:壱

 船士術:壱

 築士術:壱

 策士術:参

 忍士術:捌


〜装備〜

 主武器:銀の操り糸・無銘(陸等級)

 副武器:円旋刃・無銘(肆等級)

 頭:風魔の頭巾(参等級)

 顔:風魔の能面(肆等級)

 胴:風魔の上衣(参等級)

 腕:風魔の小手(参等級)

 腰:風魔の袴(参等級)

 脚:風魔の足袋(参等級)

 騎乗:無し

 其他:無し



 偽の書状には、押収した鳥羽宗忠の印章を押して……うん、良い感じにできた。

「光俊、この書状を安楽島家と浦家以外の各地頭に今夜中に配ってくれ。密書だから、矢にくくり付けて城に入れる方法で良い。くれぐれも九鬼家と悟られないようにな」

 光俊は、畏まりましたと言って下がっていった。



 これで、時間が稼げれば良いけど。

 さあ、やることは終わった。

 また、戦の時間だ。

「近郷、まずは、安楽島城に夜襲をかけるぞ」

 


………………



 ザッザッザッ。

 昨日に比べ、月に厚い雲がかかっていて、光がなく、地の底を歩いているような暗さだ。

 草を踏む音が、やけに響く気がする。

 俺自身が闇に溶け込んでいくような錯覚を覚える。



「前方、進路そのまま」

 先導している忍者のヒソヒソ声が聞こえてきた。

 忍者がいないと、今、どこにいるかも分からない。

 月光がない中で、よく先導できるよな。



 忍者たちに感謝だ。

 無事に迷いなく安楽島城に着くと、松明も焚いておらず真っ暗で、無防備の状態だった。

「よし、気付かれていないな。さあ、行くぞ」

 俺の号令で、昨日と同じく、小太郎達に門を開けさせ、夜襲をかけた。



………………

 


 ここも、志摩の地頭の中でも最弱の戦力の城だったことから、時間をかけずに落とせた。

 安楽島左門も討ち取って完勝だ。



 これから浦城を攻める。

「こんな、二日続けて、計四つの城に夜襲なんて、聞いたことありませんぞ……」

 近郷が、疲れた声で愚痴を言う。


 

 俺だって疲れたよ。

 右肩の傷もズキズキと脈打つように凄く痛いし。

 ただ、仕方ないだろ。

 こうでもしないと勝てないんだから。



 勇猛というより無謀無茶なのは自覚している。

 浦城を落とせば、田城城の回りの城は全部、片付く。



 静寂に支配された森。

 同じような道を歩いていると、だんだんと感覚が麻痺してきて、まるで夢の中を歩いている気がしてくる。

 月が雲に隠れ、森の中の暗い夜道を俺たちは、一歩一歩進んでいった。



……………



「はぁ~。上手くいきましたな」

 近郷が疲れた顔で溜め息をつきながら、俺に話しかけてきた。



 浦城も、油断しているところを問題なく落とし、浦豊後も討ち取った。



 地頭達は、海賊働きで有名な九鬼嘉隆がいなくなって、九鬼家は戦力が大幅に減ったようにみえている。

 攻められるなんて思わず、油断もするのだろう。

 夜襲も効果的だった。


 

 それに、忍者がいるのも大きい。 

 夜間の道案内や、城への奇襲の準備など、忍者がいないと絶対に上手くいかなかった。 



 ただ、城を四つも落とせば、どんなに情報統制をしても、情報は漏れる。

 落とした城の門を固く閉めておいても、夜襲をしたのが漏れるのは時間の問題だろう。



 ここからは、戦略を変えよう。


 

 取手山城に朝方に戻ると、牢に入れていた鳥羽宗忠を呼び出した。

「宗忠! 鳥羽家以外に、小浜家、安楽島家、浦家、三つの家の城を落とした。これが証拠だ」



 宗忠の前には、小浜景隆、安楽島左門、浦豊後の生首を置いた。

 死者に鞭打つようで、申し訳ないが、これからの死者を減らすためにも仕方がない。

「宗忠、この三人のお仲間に入りたいか?」

「な、な、な……。こんな短期間に有り得ん……」

 宗忠は、これまでは憎々しげに俺を睨んでいたが、頼りにしていた地頭達の生首を見て、顔が青白くなり、唇が震えている。



「宗忠、協力するなら、命は助けてやろう。残った地頭達に書状を書いてくれ」 

 宗忠はその場にへたり込むように崩れ落ちた。

「ぜ、絶対に殺さないか? き、協力したら、解放してくれるのか?」



 すがるように俺を見る宗忠。

 生首の効果は凄いな。

 俺だって、生首を見るのはキツい。

「ああ、良いだろう。協力したら解放を約束しよう」



 俺は、そんな台詞を言いながら、後ろに控えていた、楽の面をした紺に目配せした。

 紺は、紙と墨を、宗忠の前に、スススっと音も立てずに持っていく。



 不気味な面を付けた紺が宗忠の側に行くと、顔色がもっと青白くなった。

「残った地頭達への書状には、鳥羽家は九鬼家に急襲され降伏したこと。小浜家、安楽島家、浦家の三家は九鬼家に滅ぼされたこと。滅ぼされたくなかったら、今なら鳥羽家が口利きをするから降伏の使者を出すこと。使者は、そうだな……一週間以内に出すようにと書いてもらうか」



「そ、そんな、一週間とは、いくらなんでも無理では……」

「戦うか降伏するか、決めるだけだ。そんなに時間はかからないだろ? 筆頭地頭の鳥羽家として、しっかり降伏勧告の書状を書いてくれ。それと、各地頭に書状を届けるのは鳥羽家の家臣にやってもらおうかな……。今日中に届けられるよう手配してくれ。変なことを考えるなよ。面を付けた忍者が見張っているぞ」

「あ、ああ」

 宗忠は、紺を見ながら頷く。



 よし、鳥羽家の家臣に書状を配達させることができそうだ。

 降伏勧告に俺の配下を出すと、殺される可能性もあるし、ひと安心。

 これで、すべての地頭が降伏すれば良いが、そうは上手くいかないだろうな。

 光俊や小太郎達に地頭達を監視させよう。



―――――――status―――――――


[名前:横江紺(よこえ こん)]

[年齢:21]

[状態:良好]

[職種:忍之者]

[称号:無し]

[戦巧者:44(78迄)] 

[政巧者:28(46迄)]

[稀代者:捌]

[風雲氣:弐]

[天運氣:陸]


~武適正~

 歩士術:陸

 騎士術:壱

 弓士術:漆

 銃士術:壱

 船士術:壱

 築士術:壱

 策士術:参

 忍士術:捌


〜装備〜

 主武器:銀の操り糸・無銘(陸等級)

 副武器:円旋刃・無銘(肆等級)

 頭:風魔の頭巾(参等級)

 顔:風魔の能面(肆等級)

 胴:風魔の上衣(参等級)

 腕:風魔の小手(参等級)

 腰:風魔の袴(参等級)

 脚:風魔の足袋(参等級)

 騎乗:無し

 其他:無し



 もとは相模国の豪族の姫だったが、十年ほど前に滅ぼされ、身内は散り散りになっている。

 弟と一緒に逃げたが、逃避行中に弟は流行り病にかかり、死に別れた。

 今でも弟を助けられなかったことを後悔している。

 風魔一族に拾われ、現在に至る。

 右腕に巻かれた銀色の手鎖が主力武器。

 楽の隊の隊長。


―――――――――――――――――



お読みいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 忍者なら、疲労がポンと抜ける薬っぽいのを調合できそうだな
[気になる点] 銀色の手鎖、どういう武器なのか気になります!
[良い点] 戦闘が早くて、人間の気力や体調など説得力がある [気になる点] 忍者強い 内政と防備に期待 [一言] 主人公がかしこい
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