第二四話 吃驚大作戦 その三
▽一五六七年九月、澄隆(十二歳)小浜城
夜襲で、幸先良く、小浜景隆を討ち取った。
先ほどまでの激戦が嘘のように、城内は静まり返っている。
降伏した兵は、城内にある牢に全員、押し込んだ。
こちらの被害は、忍者を含めて死者が十数人。
死者が出たのは、とても悲しい。
覚悟を決めて戦いに赴いたが、心が痛むのは変わらない。
死んだ者達に、手を合わせ、心から冥福を祈る。
今回、志摩の地頭の中で最も兵力が多かった小浜家を滅ぼした。
吃驚大作戦、第一段は成功だと言えるだろう。
ただ、ここで終わりじゃない!
「皆、良くやった! ただ、これで終わりじゃない。このまま、取手山城を攻めるぞ!」
「「「「「えええ!!」」」」」
皆、唖然としているが、俺は最初からそのつもりだぞ。
「す、澄隆様!? 夜襲を一日二つの城になんて、普通、しないと思いますぞ!?」
思わず驚きの声を出す近郷。
責めるような目を向けてくる。
当主に向ける顔じゃないぞ、近郷。
まあ、近郷の気持ちは分かる。
だが、ここは攻め時だ。
「近郷、俺たちは弱者なのだよ。弱者は弱者なりの戦い方をしないと! さあ、吃驚だ!」
小浜城を夜襲で落としたことは、すぐに志摩国内に広まる。
弱者である俺たち。
とにかく、敵が態勢を整える前に、各個撃破する以外に道がないのだ。
俺は、小浜城の門を固くしめるよう指示した。
そして、牢の見張りと伝令用の忍者を残し、それ以外は取手山城に向かう。
忍者に先導してもらいながら、取手山城に向かう最中、森の中で鳥の鳴き声が聞こえてくる。
……あと、数刻で夜明けだな。
俺たちは、取手山城の近くまで行軍すると、息を整えるために、四半刻ほど休息した。
休息中、小太郎に指示を出す。
「小太郎いるか? いるよな? よし、ここも同じ手でいくぞ。小太郎、よろしく頼む!」
「ホホホ、こちらにおります。畏まりました……」
木の陰から現れた小太郎が月明りに白く照らされる。
うお、吃驚した。
おいおい……。
気配がなかったぞ。
無表情の面を着けている小太郎は、物の怪のようで、不安感を掻き立てる。
その小太郎は、笑いながら闇へと静かに溶けるように消えていった。
「よ、よし、休息終わり。俺達も動こう」
俺達も、こんな所で、ずっと休んでいると、夜が明けてしまう。
音を出さないように、気を付けながら、城の側まで進んでいく。
城には誰にも気付かれずに着くことができた。
取手山城は、標高が半町ほどの低い山の頂部に築かれた城で、城周辺には約一丈ぐらいの高さの立派な石垣があった。
石垣を見ると、自然のままの石を加工しないで積み上げた『野面積み』になっている。
この積み方だと、石と石の間に大きな隙間ができるため、足場が確保できる。
小太郎達なら簡単に登れるだろう。
しばらく隠れて待っていると、小太郎達が上手くやってくれたみたいで、城の門が開いた。
うん。良くやった!
またまた、戦の時間だ。
「光俊! 多羅尾一族は、城の周辺を封鎖してくれ。決して、敵を外に逃がさないように。あとの者は、全員、城に攻め込むぞ!」
「「ははっ!!」」
俺たちは、城の中に攻め込んだ。
▽
まだ、取手山城内は俺達に攻められたのに気付いていないのか、俺たちが城に侵入しても、すぐには騒ぎが起きなかった。
「小浜家に比べて、この城はぬるいですな……」
近郷が俺の隣で独り言のように呟いた。
鳥羽家は、志摩国の地頭筆頭だが、それは力があるからではない。
由緒正しき家柄で、志摩の中で名士だから、地頭筆頭になっているに過ぎない。
兵力も小浜家に比べて三分の一以下だろう。
伴三兄弟が三隊に別れて、城の中に入ると、すぐに城内を制圧した。
どうも、名士である鳥羽家が攻められるなんて、鳥羽宗忠は考えてもいなかったようで、見張りさえ配置されていなかった。
また、城兵たちも、皆、弱かった。
城外に逃げた者もいない。
「ひぃぃぃ! これはどういうことだ!? 澄隆! 筆頭地頭に対して無礼だぞ!」
鳥羽宗忠は捕まり、俺の前に、引き立てられた。
大きく腹の出た宗忠は、高級そうな寝間着に身を包み、羞恥に顔が歪んでいた。
「どうなされますか? 首を刎ねますか?」
近郷が俺に聞いてきた。
顔を真っ赤にしていた宗忠の顔が、歪んで、どす黒くなる。
「うーん、宗忠には利用価値があるから、捕まえておこう。あと、印章も押収しておいてね」
宗忠は、殺意を込めて睨みつけてくるが、縄に縛られて何もできない。
『はなせぇぇ』と言いながら、引き立てられていった……。
お読みいただき、ありがとうございます。
地頭達との戦いは、始まったばかり。
まだまだ続きます。




