表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/125

第二三話 吃驚大作戦 その二

▽一五六七年九月、澄隆(十二歳)行軍中



 夜までしっかりと寝ると、吃驚大作戦を開始した。

 田城城の手勢およそ七十名のほか、近郷、伴三兄弟、多羅尾と風魔の一族の忍者達と行軍中だ。



 今は、戌の刻。

 戦国時代には、現代のような電灯は存在しない。

 そのため、この時代だと、戌の刻でも、暗黒の世界と化している。

 月明かりだけが頼りだ。 



 どんよりとした重い空気の漂う夜の山道を歩いていると、木々が擦れる音が聞こえる。

 不気味なその音に、不安感が増す。



 俺は足を止め、周囲を窺った。

「近郷、夜襲なんだから、誰にも声を出させるなよ」

「はっ、分かっております」

 近郷、声が大きいって。



 ちなみに、近郷の今の装備は、波切城にあった武具を装備して、こうなっている。

〜装備(戦闘時)〜

 主武器:数打・無銘(参等級)

 副武器:短刀・無銘(参等級)

 頭:煉革木字紋陣笠(参等級)

 顔:無し

 胴:黒韋威肩色糸腹巻(伍等級)

 腕:籠手(肆等級)

 腰:草摺(肆等級)

 脚:厚手の草鞋(弐等級)

 騎乗:無し

 其他:無し



 味方の兵たちも、近郷と同じような装備だ。



 カチャカチャカチャ。 

 俺たちは、かがり火も持たず、鎧の擦れる音を微かに響かせながら進んでいる。

 道がよく分からないが、そこは夜目が利く多羅尾一族の忍者達に先導させた。

 忍者たちは暗がりでも特に迷うこともなく、自信を持って先導している。

 今回の作戦で不安視していた、夜道で迷子になってしまう可能性は低そうだ。

 俺たちは同士討ちを避けるため、兜には白い笠印を吊り下げ、両腕にも同じく白い袖印をつけている。 



 俺は、敵である十一の地頭のうち、田城城から近く、地頭の中で最も兵力が多い小浜家を夜襲することにした。



 小浜家は海賊働きをしていて、志摩国内で最大の船団を持っているそうだが、農民兵がいなければ、小浜家の城にいる戦力は三百ぐらいだろう。

 戦力が整わないうちに叩く。



 皆が、俺の指示に従ってくれたが、緊張感からか、ピリピリとした雰囲気を出している。

 俺たちは、精神をすり減らしながら、懸命に行軍した。



………………



 幸いにも、敵の地頭たちに気付かれることもなく、無事に小浜城の近くまで着くことができた。

 海鳴りが静かに聞こえてくる。

 海がだいぶ近いな……。

 


 空の低い位置に、月が見えた。

 月は煌々と輝き、青白い冷たい光を大地に放っている。



 気をずっと張っているからか、精神的に疲れを覚える。

 湿った空気が重くのしかかるように感じる。

 小浜城の目と鼻の先の距離になると、光俊の配下からの報告を受けた。

「城の備えはどうだ?」

「確認したところ、見張りは数人のみ。我々から攻めてくるとは考えていないようです」



 よーし!

 俺の狙い通りに、城の守りは手薄のようだ。

「澄隆様のご指示通り、既に小太郎殿の手勢が城に忍び込み、フクロウの鳴く合図に合わせて、門を開ける手はずになっております」

 おお、さすがだ。

 フクロウの鳴き声を真似るなんて、ロマンを感じるな。



 俺は、頷くと、刀を抜いた。

 さあ、戦の時間だ。





 ホーホーと、フクロウの鳴く声が響く中。

「何だ? あれは?」

 小浜城の見張りが、門を開けようとしている人影に気づいた。



 見張りが声を出そうとすると、暗闇からヌッと異常に長い腕が現れ、口を塞がれる。  

 必死の形相で逃れようと暴れるが、口を塞いだ手は力強く、まったく動かない。

 そのまま首を真横に斬られ、見張りは息絶えた。



「ホホホ、静かにしていてくださいね」

 影の中からヌゥと現れた小太郎が、指を一本立てながら、シーっと言う。

 そのつぶやきに続いて、小浜城の門が軋む音をしながら開いていく。

 そして、小太郎の後ろから、怒の面をした忍者達が音もなく現れる。

 


「ホホホ、怒の隊は、城内の掃除を手伝ってきなさい」

 小太郎の後ろにいた怒の面をした忍者達は頷くと、猫手をきらめかせながら、滑るように城内に散っていった。





 俺たちが物陰に隠れて待つと、ギギギと重い音を立てながら、門が開いた。

 門が開くと、物音に気付いたのか、城の中が騒然となる。



「よしっ! でかした!」

 ここまで来たら、攻めるのみだ。

 さあ、やるぞ……。

 俺は刀を抜くと、己を鼓舞するように、その柄を強く握り締めた。



「伴三兄弟、かかれーっ!」

 伴三兄弟が、俺の指示で、それぞれ兵を率いて、月明かりの下で、三方向にさっと動く。

 武適正の歩士術が陸の伴三兄弟が率いることで、歩兵達の動きが上がっているのが分かる。



「光俊! 誰も城から外に逃がすな!」

「ははっ!」

 多羅尾一族には、城から逃げた敵を捕捉するよう指示し、俺は、近郷と一緒に門の前で、敵を待ち構える。





 小浜景隆の寝室に血だらけの家臣が転がり込んできた。 

「な、何があった!」

「景隆様っ! 九鬼家が攻めてまいりましたーっ!」

 血だらけの家臣は、そのまま血を吐いて、崩れ落ちる。

「なにぃぃぃ! 九鬼家か! 者共、出合え! 出合えぇぇ!」

 城内では、怒号や喚声が響き渡り、予想外の夜襲に混乱のるつぼになっていた。



「者ども、集まれーっ!」

 小浜景隆に指示されると、家臣や近習達が集まってくる。

 夜襲は、まさしく寝耳に水の状況だったため、鎧を着る時間の余裕もなく、平服や寝間着に刀を持った姿の者が多い。



「お前は、鳥羽城に援軍要請の伝令を出せっ!」

 小浜景隆から近習の一人に指示が飛ぶ。

 近習は、すぐさま数人の兵に伝令を命令すると、駆け出した。

「九鬼など、返り討ちにしてやれ! 者ども、続けー!」





「澄隆様、敵は大混乱ですぞ!」

 伴三兄弟が、上手く城内を荒らし回っているようだ。

 そこに、伴三兄弟のうちの三男、伴友安の声が響く。

「小浜景隆がいたぞーっ!」

「こっちにまわれ!」

「小浜景隆、必ず討ち取れーっ!」



 門の封鎖は光俊達に任せて、俺達も、声がする方に向かった。

 城内に入ると、九鬼家と小浜家が入り乱れて、戦っている。

 倒れているのは、圧倒的に鎧を着ていない小浜家の兵が多い。



 うわっ。

 猫手をした怒の面をした忍者が、俊敏な動きで、敵の胸を貫いている。

「ぐぎゃわぁぁぁ!」

 悲鳴をあげる小浜家の兵。 

 風魔一族が味方で良かった。



………………


 

「小浜景隆っ! 覚悟ーっ!」

 さらに奥に進むと、伴友安が景隆と斬り合っていた。

 景隆は、右目に刀傷があって、赤い眼帯をつけた男だった。


 

 まるで海賊船にいる船長みたいだ。

 全体的に白っぽい寝間着姿で、鎧は着ていない。

 


 その景隆は、天井板が付いていない梁がむき出しの大広間で、長槍を縦横無尽に振り回している。

 槍さばきに相当の自信があるのだろう。

 友安は刀、景隆は槍のため、懐に入れず、友安は次第に傷が増えていった。



 俺は、友安を助けようと前に進んだところ、そこに、伴三兄弟の長男正林と二男長信が応援に駆けつけた。



 正林が俺を守るように前に立ち、友安に向かって叫ぶ。

「友安! よく耐えた! 三連撃を仕掛けるぞ!」

「!? おう、分かった!」



 正林の掛け声に応えるように、三兄弟が縦一列に重なって並ぶ。

 そのまま、対峙した景隆に真正面から突撃する。



「やぁぁぁあ!」

 一番前にいる正林が、刀を振り上げたまま、景隆の槍の間合いぎりぎりに体をさらして、攻撃を誘う。



「しゃらくさいぃぃ!」

 景隆が叫びながら、くり出した槍を、正林が刀身を使って、間一髪、横に受け流した。

 ジャキィィィン!

 火花が飛び散る。

 


「長信! やれぇっ!」

「うぉぉぉおぉぉ!」

 正林の後ろにいた次男の長信が、タイミング良く滑るように飛び出すと、景隆の持つ槍の柄の部分を、刀で両断した。



 すると、正林が、三男の友安に向かって叫んだ。

「友安、今だっ!」

「よぉぉぉしっ!」

 正林の背後にいた友安が、正林の背中に足をかけて一気に肩まで上がると、正林の右肩を踏み台にして、景隆に向かって跳び上がった。



「くらえっ!」

「な、何だと!?」

 友安は、そのまま景隆に肉薄すると、持っている刀を垂直に振り抜く。

「ぐぎゃ!」

 景隆の額が斬り裂かれ、赤い血が周囲に飛び散った。



 さすが、三兄弟。

 息がぴったりだ!



 景隆は斬られた額を押さえて、ヨロヨロと二三歩後退した。



 額から血が吹き出し、みるみるうちに白い寝間着が赤く染まる。

 これは致命傷だろう。

「ぐ、ぐふっ……」

 景隆は、くぐもったうめき声を上げると、そのままぐったりと力なく倒れた。

 


「小浜景隆、伴三兄弟が討ち取ったりー!」



 よーし、良くやった!

「勝鬨を上げろ! 後は、残敵を掃討しろ!」

 俺が号令をくだすと、皆、歓声を上げながら、遮二無二攻め立てる。  



 それから、半刻後、残った城兵達は降伏した。

 光俊からの報告で、城から逃げようとした伝令達も、多羅尾一族が一人残らず捕捉したようだ。

「やった! やりましたな!」

  近郷が片手を上げて力こぶを作り、明るい声をあげている中、俺は『ふぅ~』と息を吐いて、頷いた。



 俺たちの完勝だ。

お読みいただき、ありがとうございます。

これからも、地頭達との戦いが続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ジェットストリーム・・・いやなんでもない
[気になる点] これはジェット・・・いや何でもないです(私は何も見なかった) 3兄弟にはお揃いの黒い甲冑が似合いそうですね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ