第一二話 耐火レンガと鉄つくり その一 ~内政結果~
▽一五六五年四月、澄隆(十歳)田城城
さあ、続いての五年間の成果の一つは、耐火レンガと鉄つくりだ。
これも、まだまだ改良の余地はあるが、なんとか成功したと思う。
始めた頃の苦労を思い出すなぁ。
◇思い出澄隆(五歳の頃……)
「ちかさとー、ヒビが入っている鎧や、所々欠けている刀が多いな……」
この時代、鉄の品質が悪く、鎧や刀に強い衝撃を与えると、簡単にヒビが入ってしまう。
城にある鎧や刀を見ると、どれもヒビが入っていたり、欠けていたりする。
「戦で使用したら、ヒビが入るのは仕方がないことですぞ!」
……近郷はそう言うが、脆すぎるな。
これは、強度がある鉄を作るしかないだろう。
これは、将来、あることをするためにも絶対必要なこと。
そのために、まずは製鉄の火力に耐えられる耐火レンガの高炉を作ることにした。
「ちかさとー! 宗政を呼んできて」
近郷は、またかという顔で、宗政を呼んだ。
近郷、顔に出過ぎだぞ。
…………………
日本にレンガが普及したのは明治時代になってから。
製鉄に必要な高炉を作るには高熱に耐えられる耐火レンガが必要だった。
そのため、明治時代には、レンガ工場が各地に作られた。
耐火レンガの原料になる木節粘土は、日本の中で何箇所か取れる場所があった。
前世の記憶では、確か三重県で取れたはず。
うろ覚えではあるが、三重県だと、ちょうど、この場所だ!
「宗政! この辺りで灰色の粘土が取れるところを探してくれ。特に、炭化した木片が混ざっている粘土が欲しい。忍者達を貸すから」
三重県以外でも、木節粘土は取れるが、場所が限られている。
ここ三重県で、取れて良かった。
ただ、宗政にお願いしてから、待てど暮らせど、木節粘土が見つからない。
一週間ほど、志摩半島を探し回ってもらったが、成果なしだった。
う~ん、こんなに探すのに苦労すると思わなかったな……。
「澄隆様、どうなさいましたか?」
俺が困った顔をしていると、奈々が小首を傾けながら聞いてきた。
「あ~、灰色の粘土が欲しくてね。宗政に探させているが、見つからないんだ」
「!? ……あ、それでしたら、確か、子供達が近所の池の底が白っぽい粘土で汚れると、言っていた気が」
奈々が首をかしげながら、耳寄りな情報を言ってきた。
奈々は、男の格好をしているのに、領内の子供達から好かれ、子供達に囲まれているのをよく見る。
俺は同じ格好をしているのに、全然なつかれていないけどな!
「奈々、ありがとう! 宗政を呼んできてくれ」
…………………
早速、宗政に池の底を浚ってもらったら、念願の木節粘土だった。
宗政が苦労して探していたが、こんなに近くにあったんだな。
よっし! 木節粘土ゲットだ。
耐火レンガ作りのレシピは、既に光俊に書いて渡していたので、早速、多羅尾一族に取り掛かってもらった。
まずは、採取した粘土と大量の水とを混ぜて、余計な不純物を取り除く。
不純物がなくなったら、布の上に粘土を移し、そのまま何日かかけて水気を切る。
そして、粘土を型にはめて直方体のレンガの形にする。
これを、粘土で作った炉の中に入れて高温で焼成すれば、簡易的な耐火レンガの出来上がりだ。
現代で作られる耐火レンガに比べ、焼成する温度を超高温にできないため、耐久性が低く脆いレンガになると思う。
ただ、製鉄用の高炉を一回一回、作り直すことにすれば、この耐火レンガでも問題なく使えるだろう。
この耐火レンガを作るのは、多羅尾一族だが、監督はもちろん宗政を抜擢した。
頑張ってね。
……………………
二週間後。
宗政が報告にきた。
「澄隆様、いくら作っても、直方体にできません……」
宗政が、辛そうな顔で、お手上げだと言う。
俺が伝えた耐火レンガのレシピ通り、作ってもらったが、粘土を焼く際、乾燥して縮んで形が崩れ、歪なものしかできないようだ。
これでは、高炉用のレンガに使えない。
粘土って、すんごい縮むのね……。
レンガを焼く前は直方体に成型できるが、焼いて乾燥すると、すごい縮んで歪な形になるようだ。
俺には対策は思いつかない。
困った時の宗政頼みだ。
宗政に対策を丸投げしたら、渋面を作ることで応えた。
お腹をさすりながら、戻っていった。
頼りにしてるよ。
……………………
二週間後。
「澄隆様、出来ましたぞ!」
宗政が、明るい顔で、報告に来た。
早速、見せてもらうと、しっかり直方体になっている。
「宗政、すごいな! 素晴らしい! どうやって作った?」
宗政が思い付いたのは、焼いた歪な耐火レンガを砕いて骨材にして、新しい粘土と混ぜ合わせ、再び焼くことだった。
骨材があることで、乾燥による縮みが抑えられ、綺麗な直方体になっている。
よーし!
さすが宗政。
高レベ政巧者は伊達じゃないな。
有能有能。
次は鉄つくりだ。
宗政には悪いけど、また、新たなお願い。
俺が宗政に笑顔を向けると、宗政のこけし顔がひきつる。
うん、ごめん。
「宗政、これで鉄つくりに進めるぞ! 光俊を呼んできて!」
宗政は、ひきつった顔のまま、頷いた。
うん、ごめん!
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