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12 ギルドの長と『コメ』

店主と私の会話に、割り込む謎の美声。


「バタル。他国の観光客をカモにするのはやめろとあれほど言っただろう。ギルドの権利を取り上げられてもいいのか?」

「あ…だんな。へへっ…これはどうも」


急に態度を変え、ペコペコと頭を下げるおじさん。


「お嬢さん。ここで買い物するならある程度の相場を押さえておかないとだめだよ。さっきから大分ぼったくられていたから」

「え?!うそっ!いつから…」

「パイナの実をおいしそうに頬張ってた辺りから」

「……」


つまり私の感覚は間違ってなかったわけで。相場が高いわけでも観光地価格でもなく、はなからカモられてただけの事だったってわけだ。


「はぁ…確かにちょっと高いなぁとは思ってたんだけど…。そっかぁ、まんまと騙されたかぁ…次からは気をつけないとね。あ、教えてくれてありがとうございました。とっても勉強になりました」

「いや……」


美声の主が不思議そうな顔で私を見る。


(え…、他にもまだなんかあるのかな)


「あの…まだなにか?」

「普通こういう場合、大抵の女の子は泣いたりヒステリックになったりするもんだけど…あんたは随分落ち着いてるなと思って」

「まあ…悔しくないわけじゃないですけど勉強不足は自分の責任ですから。泣いてもお金は帰ってきませんし、この程度で済んだならまだましかと」

「随分前向きだな」

「よく言われます」


美声の持ち主がふわっと表情をやわらげた。


(それにしても、随分大きな男の人だなぁ…)


見上げなくてはいけないほど高い位置にある目鼻立ちのくっきりとした端正な顔。鮮やかなえんじ色の瞳とキメの細かい白い肌はこの国の人間というより大陸の人種に近いような気がする。ウェーブのかかった長い金髪を鮮やかな蒼色のシュマッグ(スカーフ)で緩めに束ね、特別な装飾が施されたイガール(頭留め具)で片目を覆っている。


「なんだ?そんなに見つめて。俺の顔に興味があるのか?」


男が顔を近づけ、私をのぞき込む。


「はあ。随分きれいなお顔だちだなぁとつい見惚れてしまいました」

「正直だな。惚れてもだめだぞ」

「いえそれは大丈夫です。私婚約者にべた惚れですので」

「そうなのか。それは残念だ」


ちっとも残念そうには見えない顔でクスッと笑う。


「あんた、面白いな」

「………?そうですか?ありがとうございます」


何をもって面白がられてるのかはわからないけど、反射的に礼を言う。


「コメに興味があるのか?」


男が突然、そう切りだした。あ、そうだった…。


「あ、あります!この世界にはないとあきらめてたので、種もみを譲っていただけるならぜひ持って帰りたいです!」

「この世界?」

「あ、いえ…っ。私の国には…です」

「……あんた、今日到着したロクシエーヌ船の使用人か?」

「はい。メイドのサナと申します」

「……」


男はじっと私を見つめる。その緋色の目がガーネットのように暗く光る。


「コメの種なら俺が持っている」

「ホントですか?!」

「ああ。だけどあんなもん何に使うんだ。栽培したって大した用途もないだろう?」

「用途……?」


改めて聞かれ言葉に詰まる。

はて、食べる以外に重要な用途って一体なんだろう?


「あの、食べないんですか?」

「食べる?まあ食べないこともないが、あれを食すのは乳幼児と病人くらいだろう。うまくもないしな」

「うまくない……?!」


うまくない米なんてこの世に存在するの?


「おいしいですよ。お米…」


お米のポテンシャルを否定されるのは恩人とはいえ黙ってはいられない。


「この粉、パンを作るために挽いてるんでしょうが、私は粒の状態で食べるのが一番おいしいと思います。噛めば噛むほど甘みが増しますし、お塩を振るだけでも十分おいしく頂けます。のりを巻いて握れば更においしいですし、もちろんどんなおかずにも合います!それに…っ」


男はまくしたてる私を呆気に取られたように見つめている。


「お茶をかけたり出汁をかけたりすれば食欲がない時でもサラサラ食べられます。つぶして丸めてスープの具にしてもいいですし、あんこで包んだらお菓子にも…」

「待て待て…。お前、何を言ってるんだ。……コメを粒で食べる?…正気か?あんな固いものどうやって食べるんだ。うまいわけないだろう。粉以外にどうやって食べるんだ」

「炊けばいいじゃないですか?」

「タク…?」


男は言葉の意味を探るように黙り込んだ。


鐘の音が響く。気が付けば日も西に傾きつつある。


(あ…そろそろ帰らなきゃ。晩餐会の支度を手伝わないと)


「なぁ、あんた。この後時間あるか?もしよかったら粒のまま食べるコメのタキ方とやらを教えてもらいたいんだが」

「それは構いませんが、今日はこの後仕事があるので帰らないと」

「そうか…。じゃ時間のある時に訪ねてもらえたらありがたい。町のはずれで小さな商人ギルドを運営してる。入り口でこれを見せれば分かるようにしておく」


渡されたのは赤いタッセルの付いた小さな根付。


「もちろん礼は弾む」

「わかりました。時間を見つけてお伺いします」

「ああ、そうしてくれ」



男はそう言い残し、その場を後にした。




本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

次回更新は11/19(土)19時〜21時を予定しています。

よろしくお願いします。

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