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異邦世界の黄昏  作者: ユモア
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第8話 異邦人の未熟

 最も賑やかだった冒険者の一団がいなくなった事で、酒場の賑やかな雰囲気は一旦落ち着いた物に変わる。

 その時、カウンターの端に魔術師の老人が座るが見えた。


 俺は3人に断って、師匠バッカスの元に向かう。


 師匠バッカスは、ジョッキでエールを飲みつつ、次の酒を注文していた。

 

「そこに立っていては邪魔だ。ここに座れ」


 俺の方には視線を一切向ける事はなく、隣の席に座る様に促す。


「失礼します」


 隣に座ったが、何故か横を向いて、師匠バッカスの顔を見る事は出来なかった。


「で、何があった?」


 何気ない雰囲気で、尋ねられる。


 俺は、今日受けた依頼について話した。そして、感じた事も包み隠さず、打ち明けた。


 初めての依頼は、成功だった。怪我人は出たが、奇跡の力で直ぐに治癒する事が出来た。それに、教わった魔術も試せた上に、実戦でも通じる事が証明できた。自信にも繋がった……筈だ。


 それなのに、不安でしょうがなかった。


 もし、次も同じ失敗をして仲間が大怪我をしたら?もしかしたら、死んでしまうかもしれない。


 「……今日の冒険で分かったんです」


 俺は、今日、命を奪う側だった。

 

 でも、明日もそうだとは限らない。明日は、仲間の誰かや俺が奪われる側になるかもしれない。


「そうだ」


 俺の不安を師匠バッカスは、肯定した。


「今日生きている奴が、次の日に死ぬなんて別に特別な事じゃない」

「でも、俺は、それが怖いんです」

「当たり前だ。仲間や弟子達が死んで、嬉しい奴なんていない」


 俺は初めて、師匠バッカスの顔を見る。


 その顔は、修行中には見せた事のない微笑みが浮かんでいた。


「師匠……」

「ユーリ、良く無事に帰って来たな。……だが、余計な事まで背負い込んで来やがって!」

「す、すいませんっ」

「良いか!お前のミスが仲間を殺すんじゃない。仲間達のミスでお前が死ぬんだ」


 自分が考えていた事とは、全く反対の事を言われて混乱する。


「魔術師ってのは、例外を除いて1人では戦えない。だから、仲間に護って貰うんだ。そして、その中でも、駆け出しのお前が仲間を護るとか、仲間が死んだら自分の所為だ、とか自惚れるな」


 師匠バッカスは、真っ直ぐに俺を見ている。


「まずは、自分自身を護れ。そして、必ず儂の所に生きて戻って来い!良いな?」

「はいっ」

 

師匠バッカスは、満足気に頷いた。


「それと、お前、酒が飲めたんだな?」

「え?」

「店主。儂が頼んでおいた酒を頼む。グラスは2つだ」


 師匠バッカスーーいや、酒豪王バッカスの酒への執着を知る俺は、路上で醜態を晒す事を遂に覚悟しなければいけないかもしれない。




■■■■



 翌日。

 師匠バッカスに無理やり飲まされた酒が抜けず、朝から気持ち悪くなっていた。宿は、酔い潰れた俺を師匠が自分の宿まで運んでくれたお陰で路上に寝ずに済んだ。

 

 師匠バッカスの隣の部屋に放り込まれた俺は、目が回って気持ち悪い体で一階の食堂まで行く。

 そこでは、朝食の準備をしていた女将がおり、俺の顔を見て微笑みを浮かべると水を持って来てくれた。感謝を述べてからコップの水を受け取り、一口水を飲む。


 「朝食は?」と聞かれたが、所持金があまりないのと、気持ち悪くて食欲がない事を伝えて断った。


 だが、少しだけして、女将が豆が多めに入った野菜のスープを持って来てくれた。


 「一泊と食事の代金は、全部あの爺さんに付けておくから、安心して食べなさい」


 全ての代金を師匠バッカスに押し付けるのは申し訳ないと思ったが、断り切れず、感謝を述べた。


「美味しいです」


 一口飲めば、適度に熱いスープが体を温めてくれる。そして、人参やトマトなどの野菜の甘味が溶け出したスープの味が口全体に広がって、食欲がなくても食べ易い味になっていた。

 

 スープを食べ終えた俺は、女将に再びお礼を言って冒険者ギルドへと向かった。


 ギルドの依頼が張り出されている掲示板には、色々な依頼が張り出されていた。


 だが、冒険者の依頼の受注には、自分と同じ等級かそれ以下の物しか受けられないという規定がある。これは、駆け出し冒険者が急に、危険な依頼を受けて無駄死にする様な事故を最大限減らす為に設けられた規定との事だ。


 冒険者ギルドにとっても、冒険者は財産だ。そして、冒険者の等級が高い者は、冒険者ギルドから優遇される。


 


・黒(1等級)

歴史に名を残す英雄やそれに類する者に与えられる。現役冒険者での黒等級は公には確認されていません。


・白銀(2等級)

英雄級の実力だけではなく、人格も共に兼ね備えた者に与えられる。


・黄金(3等級)

在野の冒険者の到達点。

国や地域によって冒険者の待遇には違いがあるが、超熟練者として畏敬の念を抱かれる。


・赤銅(4等級)

熟練冒険者。

依頼には困らず、指名依頼も来る様になる。


・紅(5等級)

上級冒険者。

冒険者が目標とするのがこの紅であり、ここまでくれば依頼に困ることはなくなる。


・紫(6等級)

中級冒険者。

ある程度危険な依頼を任せられるようになり、周囲から頼りにされる実力者として見られる。


・蒼(7等級)

中級冒険者。

多少危険度の高い依頼もこなせるようになる。


・緑(8等級)

初級冒険者。

初心者向けの魔物退治程度であれば、一部を除きほとんどこなせるものと見られている。


・橙(9等級)

初級冒険者。

依頼を数回達成し、正式に冒険者として認められる。


・白(10等級)

登録したばかりの駆け出し冒険者。

この時点ではまだ「仮冒険者」に過ぎない。

どんなに強くとも基本的に冒険者としてはここからスタートとなるが、何らかの偉業を達成していれば考慮され、それに応じた等級から始まることがもある。




 大まかな冒険者の等級について纏めるとこんな感じだ。


 今の俺達の等級は当然白い冒険者プレートの10等級になっており、受注出来る依頼もゴブリン討伐以外となると都市内の掃除などといった雑用が主な依頼だ。


 

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