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異邦世界の黄昏  作者: ユモア
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第6話 異邦の依頼

 初めての依頼は、予想通り[ゴブリン討伐]だった。討伐部位として、ゴブリンの魔石などの討伐部位を3つ集める事が依頼達成の条件になっている。魔石以外にも、右耳や指などでも良いと言われている。


 明確な討伐部位を決めていないのは、魔法で焼いたり、剣で切ったり、何らかの方法で潰れてしまったりすると判別出来ないからだ。だからといって、討伐数の偽装報告は重罪となる為、当然禁止されている。


 受付の女性から聞いた話では、かつて偽装報告を行ったパーティーは、一年間の等級昇格を禁止と都市内の冒険者活動を禁止されたとの事だ。


 本当かどうかは分からないが、厳しい処罰だ。


 

 

 討伐後の動きについて考えていると、ムツが遠くにゴブリンを発見した事を手信号で伝えて来た。


 事前にムツから手信号に付いて説明はされた。


 ゴブリンを見つけた時にサムズアップ。そして、次にゴブリンの数を手で示す、という簡単な物だ。


 だが、ややこしくされるよりマシだ。


「凄いね。ムツ君は、こんな遠くからゴブリンが見えるんだ」


 確かにそうだな。

 草木の障害物だけでなく、光の角度とかもある筈なのに。


「狩人達は、必ず『鷹目』という基本的な技能を教わる。『鷹目』は、遠くを見るだけでなく、熟練すれば動植物の僅かな動きすら捉えられるらしい」

「詳しいですね」

「まぁ、年の功という奴だ」


 一瞬、視線が俺を見てから直ぐにゴブリンのいる茂みの先に移る。


 俺達は、出来る限り音を立てない様に静かに前に進んでいく。そして、目視でゴブリンを捉えられる位置まで近づく事が出来た。


 ゴブリンは、小さな小川を超えた先で昼寝をしていた。数は、3体だ。

 1体は、欠伸をしながらも粗末な槍を持っている。


「見張りが1人。俺が狩る」


 ムツの言葉に「頼みます」と頷く。そして、俺を含めた3人は、ムツの矢が放たれるのを合図にして、小川を超えてゴブリンを襲う。


 ムツが、短く息を吐く。そして、矢を番えた。


 この世界に来て10日程しか経っていないとは思えない、様になった構えに思わず目を奪われる。

 僅かな静寂と緊張の中で、矢が見張りをしていたゴブリンに向かって飛んでいく。


「ギガっ!」


 一発で喉を射抜いて絶命したゴブリンの断末魔に、他のゴブリンも目を覚ました。


「今だ!」


 パーティー全体を鼓舞する様なリューザスの声と共に、リューザスとハルユキはゴブリンに向かって駆け出す。


 だが、俺は駆け出さない。


 訝しげな視線をムツから受けたが、魔術師の戦いは正面から敵を屠る事だけではない。特に、闇系統魔術を使う魔術師の戦い方は、華々しさとはかけ離れた戦法だ。


「夜更けだ、闇だ、目を覚ませ、暗き、幼き、その感情〝恐怖スケア〟」


 同格か格下の相手にしか通じない状態異常を与える魔術によって、ゴブリン達は恐怖に似た声を上げる。腰から剣が上手く抜けず、背を向けて逃げ出した。


 だが、一瞬で追いついたリューザスの剣の一閃で首が跳び、もう1体は丸腰でハルユキに襲いかかった。

 本来、神官が使える戦闘術は護身術程度だが、ハルユキは無理に組み合う事はせずに槍の様な杖を使い一定の距離を維持する。そして、ゴブリンが動きを止めた瞬間をムツが射抜いた。


「ふぅ、ありがとう……」

「油断するな!」


 突然のリューザスの叫び声と視線の先に、ゴブリンが弓矢でハルユキを狙っていた。


 発見が遅れた為、ムツが矢を番えるまでの時間では間に合わない。


「ちっ!」


 間に合わないと判断したリューザスは、ハルユキの前に立ち、抱え込む様な姿勢を取る。

 

「我が手の理、我が意思の元に、集い、狂え〝歪曲ディストード〟」


 真っ直ぐに飛んでいた矢が、急に方向を変えてリューザスの足を掠めて地面に突き刺さった。


「ぐっ」


 しまった。俺の魔法の発動が遅かったか。


「ギギャ!?」


 不意打ちが失敗した事を悟ったゴブリンが逃げようとする。


 逃すか!


「黒き精霊、目を覚ませ、沈めよ、影に〝影沼モーア〟」


 目視する事は出来ないが、俺の創った〝影沼〟にはまって動けない事が『空間把握』の技能で把握する。

 この技能のおかげで、リューザスとほぼ同じタイミングでゴブリンの奇襲を察知する事が出来た。


 だが、遅かった。

 もっと早く気付いていれば、師匠バッカスの様に油断せず、戦闘を行えていれば充分に対応出来た筈だ。


 苦い感覚が広がる。


「すまん。俺の責任だ」

「いえ。俺も油断していましたから」


 並んでムツと歩き、ゴブリンを捉えている〝影沼〟の所までやって来る。

 〝影沼〟は、単に沼を創る魔術ではなく沼に嵌めた敵を沼から現れる触手のような物で縛り上げる拘束魔術だ。

 格上の相手や魔術が使える相手には、抜け出されたり、抗魔される可能性もある。


「ムツさん。ナイフを借りても良いですか?」

「……ああ」


 俺の様な魔術師は、原則金属類を持たない。

 体力や腕力で劣る魔術師を身軽にする目的や魔力と金属にも相性があり魔術の効果や威力が下がってしまう事もある。その為、魔術師は金属類の装備は身に付けず、持つとしても小型の物に限定するのが常識だ。中には、魔法道具などの例外はある。


 俺も金属の武器は持っていなかった為、ムツからナイフを借りてトドメを刺した。


 怒りではない。復讐でもない。

 自分にとって、覚悟を決める決意の為に俺はナイフを振るった。


 この残酷で、過酷な世界を自分の力で生き抜くと誓う為にだ。


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