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異邦世界の黄昏  作者: ユモア
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第5話 異邦のパーティー2

 冒険者ギルドへ、修行の報告を終えた俺は同時にパーティーを探している事を受付の女性に相談した。

 駆け出し冒険者の魔術師は、必ず前衛と神官と共に冒険に行かなければいけない、と師匠バッカスから学んだ。冒険者ギルドの決まり事ではないが、師匠からは「小僧。儂はな、若者を殺す為に弟子をとっている訳ではない!」と厳しく言いつけられている。その為、受付の女性には、前衛職と神官が必ずいるパーティーをお願いした。


「承りました。しかし、現在、ご希望のパーティーがないので数日待って頂く事になるかもしれません」


 苦しい所だが、無闇に森に飛び込んで死ぬよりはマシだ。暫く、野宿をするか、ギルド内で寝泊まり出来ないか、相談してみるか。


 ひとまず、冒険者ギルド内の空いている椅子に座って、本棚に並べられている本を手にとって開く。

 最初に目に飛び込んで来るのは、読む事の出来ない謎の文字列。


 だが、少しの間眺めていると文字は自動的に翻訳されて読める様になる。これは、異邦人だけが持つ特性らしい。


「あ、あの……」


 先程聞いたばかりの声に、顔を上げる。


 そこに立つのは、膨よかで全体的に丸みのある体型の青年だった。神官服を纏い、手には槍に似た形の杖を持っている。


 確か、名前は……覚えてない。


「僕は、ミト・ハルユキと言います。先程は失礼しました」


 急に頭を下げて謝られても、別に俺は何も被害を受けていないので返答に困ってしまった。


「いえ、お気になさらず……」

「それと、不躾だと思うんですが、僕とパーティーを組んでくれませんか?」

「良いですよ」

「そこを何とか……え、え?良いんですか!?」

「丁度、俺も神官を探していたので」


 感極まったのか、ハルユキの目には涙が溜まってボロボロと泣き出してしまった。


「すいません。昨日から、誰にもパーティーを組んで貰えなくて」

「大変でしたね」


 まぁ、原因は先程の光景を見て概ね理解出来たと思う。


「それにしても、僕は運が良いです。貴方とパーティーを組めるんですから」

「俺も同じ駆け出し冒険者ですよ」

「でも、きっと貴方は、僕とは違う」


 目の前に座るハルユキは、自分の足下を見つめ、その表情は見えない。


 だが、軽々しく見て良い表情をしていない事は分かる。だから、会えて俺は何も言葉をかけなかった。


「あ、すみません!変な空気にしちゃって……」

「大丈夫ですよ。そういえば、俺の自己紹介がまだでしたね。俺は、ツクモ・ユーリです」

「ユーリ君、か。そうだ、せっかくパーティーを組むんだし、互いに敬語はやめよう」

「でも、年齢とか……」

「年齢なんて、関係ないよ」


 不思議と有無を言わせない圧のあるハルユキの言葉に、俺は頷く事しか出来なかった。


 そこへ、先程パーティーの相談をした女性が小走りでやって来る。


「お話中すみません。丁度今、パーティーを探す剣士と狩人の方が来ました」


 笑顔で話す受付の女性の少し後ろに立つ大きな2人の内の1人には、俺は見覚えがあった。遺跡で出会った内の1人だ。


 だが、当然名前も知らなければ、話した事もない。




 ■■■■



 【狩人】のアラト・ムツ。

 恵まれた大きな身体と怒っているのかと思う程の威圧的な強面の男性だ。茶黒の髪と黒に僅かに混ざった蒼色の瞳をしている。

 彼もハルユキと同じ様に、昨日からパーティーが組めずに困っていた所で、受付に相談したとの事だ。


 【魔法剣士】のリューザス・キバ・ガラム。

 ムツよりも大きな身体に、白と黒の柔毛を持つ虎の獣人だった。目の前にいるだけで、逃走本能を刺激される、猛獣の顔と人型の胴体を持っている。

 リューザスの場合は、この都市に来たばかりだとの事だ。


 魔法剣士は、剣士から派生する職業である為、実力はあると予測出来る。


 だが、今まで冒険者活動をした事がなかったとの事で、駆け出し冒険者から始める事になった様だ。


「自己紹介はこの様な所だな。君達の事も概ね理解した。どうだろう?試しに依頼を受けて見ないか?」


 リューザスの言葉に、ハルユキとムツは返事を躊躇っている。


「そうですね。最初の依頼は受付の人に選んで貰いましょう。最初は、出来るだけ安全な物の方が良いですよね」

「……そうだな」


 僅かに細められたリューザスの瞳が、一瞬ギラリと光る。

 姿を隠す為か、厚手の黒ローブを着ている姿と被っているフードから覗く瞳の所為で余計に迫力がある。


 だが、彼は獣ではない。

 この世界の人々が認めた獣人という人種であり、正真正銘の人なのだ。

 彼を恐れて認めなければ、俺がこの世界を拒絶した事になる。


 師匠バッカスから常々言われた言葉の一つに、「魔術師ならば、姿形に囚われず本質に目を向けよ」というものがあった。

 結局その意味を教えてくれる事はなかったし、今も分かっていない。


 だが、分からない事が、忘れて良い理由にはならない。


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