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異邦世界の黄昏  作者: ユモア
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第3話 異邦の道のり

 俺達が今までいた建物は、古代に建造された遺跡の中だった。遺跡と言っても、定期的な点検や掃除が行われ、現代では復元できない技術も使われている神聖な場所との事だ。そして、この遺跡には時折異邦人達が現れる。


 その頻度は一年に一度の時もあれば、年内に数回現れる事もある。

 前回異邦人が現れたのは、約90日ーー3ヶ月前だったとの事だ。そして、現れた全員の人数は6人。皆、揃って冒険者へと進んだ。


 今回の様に数名だけ単独行動を取る事も珍しくない為、兵士達は驚かなかった様だ。


「それにしても、兵士から情報を買うなんて考えましたね」


 先程、兵士から集めた情報を纏めていると、突然隣を歩くトーカに褒められてしまった。


「相手は領主の兵士だからね。外で闇雲に情報を集めるよりも、信用が出来ると思っただけだよ」 

「でも、質問の仕方には驚いたわ。『この銀の硬貨に吊り合うだけの情報を教えて下さい』なんて……一歩間違えれば、詐欺られていた可能性もあるのよ」

「その時はしょうがないよ」


 俺達は余所者だ。


 だが、無知でいて良い訳じゃない。嘘や曖昧な情報だとしても、何も知らないよりはマシだと信じている。


 それにしても、空はいつの間にか陽が傾いて来ていた。


「それに、トーカさんまで、他の兵士に『あの人が言った事以外で、私達に必要な情報を買いたい』なんて言うと思わなかったよ」

「だって、あれだと、私だけ得した気分だったので……」


 トーカは、照れ隠しなのか下を向いて、歩く速度を早める。最初に見た、兄を殴り飛ばす姿からは考えられない、真っ直ぐな少女だ。


 街の高台にある遺跡から続く街中への道は、魔物避けの結界が張ってある事から、昼間の間に抜ければ安全だと言われている。

 だが、夜になると魔物の力が強まり、結界の隙間から忍び混んでしまう個体もいる、との事だ。



 暫く歩き、漸く街が見えて来た。

 ぼんやりとした灯りが灯っており、教えられた建物に向けて道を歩く。


 そんな道の端には、露店が並び、人間や人間ではない姿の人まで歩いている。

 獣人、エルフ、ドワーフ、リザードマン、全身鎧、全身ローブ、仮面など姿は多種多様だ。


「凄い、本当に異世界なんだ……」


 既に覚悟はしていたとは言え、実物の光景を目にすると思わず様々な感情が湧き出す。


「私、ちょっとだけ……楽しくなってるかも」

「そうか。俺は寧ろ、怖いけどな」


 本当にこの世界では、自分は天涯孤独の1人なんだな。


「ユーリさんて、意外と怖がり?」

「慎重だと言ってくれ」


 少し馬鹿にされた事が分かり、強めの口調で話すも、トーカは気にせず教えて貰った冒険者ギルドの道を歩き続けている。


 俺もトーカに並び、冒険者ギルドへの道を歩く。




 ■■■■



 酒場と併設している冒険者ギルドの建物内は、酒場から響く大きな声と酒臭が漂っていた。

 想像通りではあるが、トーカの表情は曇っている。そして、早速受付に座っていた女性に冒険者登録の申請と自分達の職業に合った指導者を探してもらう事になった。


 冒険者登録には、銀貨が3枚。指導者を探して、依頼を受けて貰う為には、最低でもギルド側の手数料込みで銀貨10枚必要となる。


 最初に渡された皮袋ーー財布の中には銀貨が15枚入っていた。そして、登録料や指導者を探して貰う料金に付いては事前に兵士から情報を仕入れていた。


 残りは銀貨1枚か。


「なるほど、トーカさんの神官ですと教会の方に行って頂く事になりますね。紹介状は此方になります」


 受付の女性が俺達の話を聞きつつ書いていた書類を封筒に入れて、トーカに手渡す。そして、丁寧な説明で教会への道筋を説明する。更に、教会への道は安全ではあるが、路地裏などには決して入らない様に説明していた。


「ユーリさん。短い間でしたが、ありがとうございました」

「こちらこそ、助かった」


 トーカとは、互いに礼を述べ合い、互いの安全を願って受付で別れた。


「では、ユーリさんについてなのですが……。闇系統魔法は兎も角、空間系統魔法は使い手が少なくて、紹介出来るのがあの方だけなんですよ」


 受付の女性が指を刺すのは、酒場のカウンターだ。


 冒険者ギルドと酒場は繋がっており、直接行く事が出来る。そして、受付の位置から見えるカウンター席に座るのは、酒を飲んでバカ笑いを浮かべる老人だった。


「……」

「まだ同意は得ておりませんが、一応4等級の冒険者なので、腕は間違いありません。それに、適正も闇と空間でユーリさんと全く同じです」


 休まず酒を飲み続ける老人に、ほぼ全財産とも言える銀貨10枚を預けるのに不安を覚えずにはいられなかった。


 だが、魔法の知識の全くない俺にとって縋らずにはいられない事は分かっていたので、諦めて「お願いします」と受付の女性に頭を下げた。



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