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異邦世界の黄昏  作者: ユモア
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第2話 異邦人

「異邦人へ私が与える選択肢は一つ。この地の冒険者として働く道だけ。其方達には、既に職業が与えられている。その力を使い冒険者として生活をすると良い」


 言っている事が無茶苦茶だ。

 冒険者がどんな仕事かも分からず、どれ程の危険があるのかも分からない。


「冒険者は命懸けの仕事だ。特に、魔神王の復活が近付く今は、混沌と闇の勢力の力も強まり、魔物も増えている。だが、それだけ人手もいる。其方達の様に何処の誰かも分からない、世間知らずの異邦人であっても仕事が貰える程にな」


 カーミラの言っている事自体は間違っていないと思う。

 

 異邦人を俺達のいた世界で例えるなら、孤独なホームレスだろうか。言葉は通じるが、身分を証明する物や住む家もない。信頼出来る知人もいない。

 もしも、そのような人が仕事に就こうと思ったら、選択肢は極めて少ないだろう。


 寧ろ、俺達は道筋を示されているだけマシなのかもしれない。


「まぁ、私も悪魔ではない。冒険者を選ぶ者達には、最低限の装備と路銀を渡そう。もし、嘘を吐きたければ、好きにすると良い。だが、まずは己の力を確認するべきだな。ステータスと念じてみよ」


 冒険者を選ぶだけで、服や装備を貰えるなら悩む必要はない。


 おそらく、皆、迷っていても、最終的には冒険者を選ぶ事になる。

 いや、選ばざるおえない。


 だが、先ずは自分の力を確認する必要がある。


 俺は、カーミラの言った通りに「ステータス」と念じる。



==================


名前:ユーリ・ツクモ

職業:魔術師

適正:闇・空間

称号:【異邦人】

技能:

闇系統魔術LV:1

空間系統魔術LV:1

空間把握LV:1


==================



 魔術師という事は、魔術を使えるという事なのだろう。


 だが、俺は魔術など知らない。それともイメージだけで、魔術は何とかなる物なのだろうか?


 周りにいる人達も空中に視線を向けて、唸り声を上げている少女もいる。


 「それぞれ職業の確認を終えたら、兵士に着いて行って装備と路銀を貰いなさい。そして、戦う術や知識が欲しければ冒険者ギルドの受付に頼めば対応はしてくれると思うわよ。もし、冒険者として活動をするつもりがあるならパーティーを組みなさい。まずは、5か6人程度だと良いんじゃない」


 必要な事は全て告げたとばかりに、カーミラは椅子から立ち上がり部屋を出て行く。それに続いて、カーミラの背後に控えていた兵士も部屋から出て行く。


 その瞬間、部屋を包んでいた息苦しさが消えて、座り込む女性まで見られた。


「大丈夫ですか?」

「ええ、ありがとう」


 赤みのある茶髪の女性に近付き、心配する男性は先程の金髪の青年だ。


 それを皮切りに、人々が次々に声を発し始める。


「ここは一体何処なんだ?」

「う、うそ、トーカ?」

「俺達は、どうするべきかな……」

「もう、一体どうなってるの?」


 その殆どが、現状への混乱と嘆きに聞こえる。


 俺も気持ちは分かる。


 だが、賽は投げられているんだ。 

 今更覆せるとは思えない。

 現状を嘆き、自分の感情と向き合う事は大切な事だ。きっと、その後には、どんな形であれ、覚悟を決めて歩き出せる筈だからだ。

 

 だけど、俺にとって、嘆くのは今じゃない。


 ああ、そうだ。

 俺はこういう人間だった。


 俺は話し合う人達から離れて、近くにいた兵士達の元に向かう。


「どうした?」

「俺は冒険者になります」


 躊躇う素振りを見せない俺の姿に、「分かった」と兵士が頷き、着いて来る様に話す。


 だが、金髪の青年が俺を止める。


「ちょっと、待って!」

「?」

「今、皆でこれからの事を話し合っていたんだ。だから、君の意見も聞かせて欲しい」


 女性受けが良さそうな整った顔の青年の言葉は、一部正しい事は認める。今の内に、この場と人々と関係を作っておけば、後々何かの役に立つかもしれない。


 でも、この場で作った関係がどれ程の効力を持つのかや外の世界を知らない間に作る関係がどれだけ強固な物になるか、俺には予測できない。

 寧ろ、俺から言わせれば、外から情報を集めて、慎重に関係を作る人を探す方が良いと思う。


「特に意見はありません」


 再び、青年に背を向ける。


「1人で動くのは危ない!」

「この場に大勢集まっていた方が安全とは限らないじゃないですか?」


 取り付く島のない俺に、同意する少女が現れた。


「そうですね。私も、この部屋にいるのにうんざりしてた所です」


艶のある綺麗な黒髪の少女が、俺に並ぶ様に立つ。


「私も冒険者になります」

「トーカっ、僕だよ!ハルユキ!きっと、冒険者なんて危ない仕事なんだ。だから、勝手な…!」


 トーカと呼ばれた少女は、突然現れたハルユキと名のる膨よかな青年を殴り飛ばした。

 

 突然の行動に、俺を始め、見ていた人々は呆然とする。


「私が本当に助けて欲しい時に逃げだ癖に、今更、お兄ちゃん面しないで!」

「ト、トーカ……」


 どうやら2人は兄妹のようだ。


 言われてみれば、何処となく雰囲気が似ている、気がするが、出会って直ぐに修羅場とはどうしたものか。



 いや、俺にはどうしようも出来ないか。

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