67話 マナとリリスの戦い
不意打ちでの攻撃は綺麗に入った。薄皮1枚とはいえ、攻撃が入ったことが重要だ。
それは私の攻撃が通用したことを示しているのだから。
リリスも肌を切られて、あからさまに動揺していた。力の差は歴然としており、傷一つつかないだろうと考えていたからだ。
「どうやら攻撃が通用したようでなによりです。いつも謀ばかりで戦闘をしていなかったから、なまりしたか?」
薄笑いで手をひらひらと振りからかう。王が一番嫌いな見下されるという態度だ。
リリスは頬の切り傷を指でなぞり、血がついていることに気づき━━怒るのではなく、唖然とした。
「はぁ? なんであんたこんなに強くなってるわけ!? それに、それに……なんで動揺しないの? 普通は人類の守護者でないと知ったら怒るか絶望するところでしょ? 絶望や哀しみ! 思考を放棄してもおかしくないのに! あんた数百年は戦争してたでしょ? 無意味な不毛な本当は未来なんか存在しない戦争を! なんで平然としてるわけ?」
自身が傷つけられたことよりも、私が平然としてる方が気になるらしい。ふむ……簡単なことなんですけど。
「だって私には仲間がいます。人類の魂を合わせて作り上げたということは、私たちソロモンの悪魔たちが人類の生き残りなわけですよね? なら、問題はありません。強い種を作り上げたソロモンには感謝の言葉を贈るつもりです」
ペンと胸を叩いて、自身の考えを告げる。これからは王たちを殲滅して、地球のテラフォーミングを自分たちでやりましょう。空気がなくても、食べ物がなくても私たちは生きていけます。これまで問題だった点もクリアしてますしね。ついでにソロモンも消滅させるつもりですが。
「フッザケルなぁぁ! なによ、その強靭なメンタル!? 今までの奴らもアタシたちも皆絶望して、魂を喰らう化け物になったってのに!」
「メンタルざーこざーこ。それだけ強いのにソロモンに操られるなんて雑魚としか言えません。しかもソロモンの思惑すら知ってるのに、未だに魔物として活動しようなんて、頭おかしいんですか?」
激昂するリリスにさらに煽りをする。もちろんリリスは憤怒で燃え盛った。
物理的に。
リリスの肉体が変わってゆく。漆黒の肌が針のように尖った毛で覆われる。爪が伸びて短剣のように鋭く変わり、その口が耳元まで裂けて、瘴気を吐き出す。
「お前は殺すっ! なにその澄まし顔? メスガキは私のような小悪魔な少女がやるもので、あんたのように冷静でクールな奴がやるもんじゃないんだよ!」
「辞世の句がメスガキは私の方が相応しいとか、斬新ですねリリス」
さて、戦闘を開始しますか!
◇
『情報改変:分解風』
先制攻撃は分解風。微風にて敵を分解し消滅させる魔法だ。手加減はなし。全力全開、周囲の全てを消滅させる!
私の周囲を微風が流れていき、林立するデータベースサーバーも床も天井すらも分解していく。微風が触れた箇所からサラサラと砂へと変わってゆく。
「そんな攻撃が効くかっ!」
『地獄炎』
だがリリスにはちっとも効かず、反対に獄炎を放ってくる。
獄炎が触れた箇所は灰に変わり、分解風も押しのけられて魔法の構成ごと焼かれてしまう。やはり王だ。傷をつけることはできたが、それが限界。力の差は圧倒的。
『情報改変:絶対零度』
目を見開き、迫る獄炎の魔法を解析。対抗魔法を即座に展開。
一瞬で空気が凍り付き、空間が凍りつく。迫る獄炎も氷に覆われて、その構成を破壊する。燃えたり凍りついたりと忙しい空間内で、リリスが牙を剥いて怒鳴る。
「魔法の王たるリリスちゃんに、雑魚キメラが叶う理由ねぇだろっ! 精緻にして複雑な構成のアタシの魔法を受けてみなっ」
リリスの周囲に球体型の魔法陣が無数に作られる。それぞれの魔法構成は複雑で、解析する間に発動されてしまう作りだ。
ニィッとリリスが笑うと手を振り下ろす。
「じわじわと削ってやんよ!」
『氷獄』
『獄炎』
『対消滅弾』
球体型の魔法陣が放電すると、他の魔法陣と連結する。リリスの前方に純白の球体が生まれると高速で放たれる。一直線で飛来する白い光線。あれはやばそうな魔法だ。
「くっ!」
自身の周囲に防御障壁を作りつつ、短距離転移で、対消滅弾を躱す。音もせずに光線は壁を貫通して、あとには綺麗に削られた穴だけが残る。
「逃すかっ! アタシの攻撃は全方向に展開できるのさ!」
純白の球体がさらに増えてゆき、薙ぎ払うように次々と光線を放ってくる。短距離転移をして回避しても、憎たらしいことに正確に探知されて追尾してくるので、非常に面倒くさいし、当たるとやばいです。
チッと肩に光線が掠ると、ごっそりと肉が抉られた。私の防御障壁はソウルアバターの中でも最高レベルなのに、なんの意味もなさない。
「あははは! ソウルイーター、哀れなる魂喰い。ここであんたは死ねぇっ!」
『空間阻害』
一瞬空間が歪み、ピリッと肌に刺激が奔る。私が転移で逃げられないようにと阻害魔法を使ったのだ。
「となると、次は回避不可能な攻撃でラストということですか」
「そのとおりよっ! 全方向から放たれる対消滅弾。その攻撃はいかなるものでも対抗不可能っ!」
私の周囲に純白の球体が生まれる。どうやらどこにでも球体は作れるようで、最初に自身の周囲に作ったのは、私が誤認するようにとのフェイクたっだ模様。
微妙に放つタイミングをずらして、私の周辺に展開された球体から光線が放たれる。空間すらも消滅させる能力の一撃。嬉しいですが今の私の及ぶところではありません。
今の私では。
光線が私の身体を切り刻まんと迫る。リリスのことです。私が魂を分裂させて逃げようとしても逃すことはしないでしょう。
「勝った!」
リリスは勝利を確信し嗤う。詰め将棋のように詰めてきて、確実に倒せる瞬間を狙っていたのだ。怒りに支配されていても、狡猾なところに変わりはない。
でも、彼女は一つミスをしました。
『情報創造:魂武器化』
『イージスの盾』
私の手に戦乙女の意匠の白銀の盾が創造されると、周囲へと障壁が展開される。対消滅の光線は障壁を前に貫通することはできずになぞるだけだ。
全ての攻撃を防ぐ盾という概念を持った存在、イージスの盾。この盾を貫ける武器は存在しない。
「!? 魂の武器化? 気でも狂った? その技を使えば、あんたの魂は消滅するのに! 私と相討ちになるつもり!?」
信じられないとばかりに目を見開いて驚愕するリリス。たしかにこの技はソウルアバターにとって切り札だ。この技を使えば魂のエネルギーを消費して消滅する。
「……」
『情報創造:魂武器化』
『神剣ラグナロク』
続けて手のひらに、最後の神殺しの剣を生み出す。漆黒の剣は莫大なエネルギーを伴い、その剣の放つエネルギーの余波だけで、リリスの展開した球体を風船のように弾けさす。
「2個も作った!? あり得ない、どこかに仲間がいるの? 上にいた奴らは雑魚だったはず。それだけの武器になるはずがない!」
私の武器の能力を悟り、後退るリリス。命をかけて作り出す魂武器は圧倒的な力を持つ。それが私の魂なら尚更だ。
恐怖の表情のリリスに、一歩踏み出すと、哀れなる者を見るまなざしで告げる。
「貴女が教えてくれたんです。私たちは数百万人の魂の集合体だと。なら、私は無数の魂を持っているのではと疑問に思いました。そして思いました。私は自身の魂を回復できる。復活こそが私の得意とするところ。なら、復活している魂の破片は一人一人の魂ではないかと」
「はっ! もしかして、破片を魂に見立てて武器化したっての? そんな乱暴な論理が成立するわけがない!」
「私は自身の魂を深く深く解析しました。さながら深淵を覗き込むように。そうしたらできちゃいました」
ペロッと舌を出して悪戯そうに笑う。この情報がもたらす意味はそれだけではない。
「武器化だけではありません。私の魂を分裂させれば、多くの生命体を復活させることができます。なにせ私は復活を司るので、いくらでも生命体を増やせるんです」
「そんな方法で生命体が復活するなら、あんたは神様になるだろうさ。でも、そんな方法を認めれば、アタシたちの存在が無意味になる! 認められるかぁっ!」
リリスが爪を伸ばして、襲い掛かってくる。瞬きをする間に間合いに詰められて、膨大な魔力を込められた爪撃での連撃。
対する私もリリスの爪へとラグナロクを繰り出して迎え撃つ。残像を残しての高速の打ち合い。衝撃波が空間のあらゆる場所から放たれて、私とリリスが時折幻のように現れては消えていく。
「くぉぉぉぉっ!」
「本当に激昂しているのですね。大丈夫、貴女の世界も復興させましょう、なので安心して食べられてください」
風を吹くようにフッと息を吐く。
『龍の真言:終極』
ティアマトから奪い取った切り札。言葉にできない言葉。終の龍言。
ラグナロクが終の龍言に反応して、深淵の刃を伸ばしていく。その刃は触れたものを消滅させて、あとにはなにも残さない。
これこそが存在を終わりにする切り札。人であれば老化させて骨とする。草木であれば枯れ果てさせて、土に還す。
即ち、『終の龍言』。
『終の一閃』
まるで重さなどないように、軽く横薙ぎに剣を振るう。キンと乾いた音がして、リリスの身体が両断される。
「こんな簡単に倒されるなんて……。ほ、本当にアタシの世界を復活させてよ?」
「約束しましょう。すぐにとは言えませんが、いつかは復活させてあげます」
「た、たのむかんね?」
苦笑を見せてリリスは息絶えた。肉体が消滅し、リリスの魂が姿を現す。パクリと一口で食べて、その記憶を回収すると、あらゆる次元の座標が私の頭に流れ込んできた。
どうやら、リリスが古参の王というのは嘘ではなかったようです。
「ありがとうございます、これで元の世界に戻れるでしょう。そうしたらソロモンにお仕置きをして━━世界の復興をするとしますか」
きっと私の力なら、数年で復興できるに違いない。無限に魂を生み出して、人々を、草木を、惑星を復活させる。
遠い未来に、私はあらゆる所に存在することとなる。生命体を守護する者。
それはきっと『マナ』と呼ばれる神秘の存在と言われることとなるだろう。
〜 おしまい 〜
すみません。一度この話は締めさせていただきます……。
新作はマーモット愛に満ちた転生物語となります。良かったらお読みください。
『日本に転生した後に、異世界に召喚されてマ王となりました』




