66話 マナはその光景を見たことがある
エレベーターを破壊して、下へと落下していく。予想通りかなり深い。深淵が口を開けているような感覚で、どこまでも落ちていく。
「……気に入らないな」
思わず舌打ちをしてしまう。なぜならば、この建物の配置の仕方には見覚えがある。
マナの基地とほとんど同じだった。
「並行世界だから、同じ作りなのでしょうか? それとも理由があるのか……そして、その理由とは?」
妨害を受けることもなく、落下すること10分程度。ようやく地面が見えてきて、着地するとエレベーターの扉を破壊して中へと入る。
外に出ると、非常灯が仄かに光る通路であった。目の前には隔壁があり、もちろん無駄な障害物なので、あっさりと開いて進む。
見た目は普通。受付カウンターがあり、その奥には部屋が並んでいる。上とは違い静寂が支配し人の気配がまったくない。
「研究室……。あのロボットたちを作っていた研究室のようですね」
部屋を覗くと、幾つもの筒型カプセルが並び、その中には人を模した脳や、手足、上半身だけのバイオドロイドが入っている。
人間を部品として保管しているように見えるので、見た目だけならホラー的な光景だが、ロボットだと知っていれば怖くも何ともない。これが鍵音なら、「あばばば」と震えながら裾を掴んでくるだろうと、想像をしてクスリと笑ってしまう。
意外なことに私はあのマスターを結構気に入っているらしい。小動物っぽいところが可愛いのだ。性格はノーコメントにしておくが。
「さて、この区域は私の探知を阻害する結界を張っている。きっと重要施設があると思ってたのですが……」
食堂や研究室、個人に割り当てられた部屋もあったが、調べる事なくスルー。これがゲームなら研究員の日記とかが机にあって、「なんだか身体が痒くなってきた……防護服が破れてカラダ、オカシイユウジンガウマソウニ」とか書いてあるかもしれない。
けれども研究内容はデーターベースサーバーを見つければいい。合理的に考えられる美少女。それがマナ・フラロウスなのです。いちいち調べるのが面倒くさいとかではないですよ。本当だよ。
一番奥。最奥の行き止まり。
『シェルター』と簡素に書かれた標識のある部屋。
「はぁ……嫌な予感は当たるものですか」
ロックはもちろん破壊して、少し強引に扉を開ける。ギギギと金属が歪む音がして、できた隙間に体を滑り込めせて部屋に入ると━━。
格子状に展開している結界が張られていた。私でも解除に数分はかかる代物だ。もしかしたら、ここまで通り過ぎた部屋に解除のヒントがあるかもですが、無理矢理開けられるので問題なし。
だが、この結界を張った者が奥にいると思われるので、少し警戒しておきますか。
◇
部屋に入ると━━。
非常灯が寂しく照らす中で、モノリスのように立ち並ぶデーターベースサーバー群。疾うの昔に停止したのだろう、ランプも点いておらずもはや稼働はしていない。何百、いや、何千台あるのか、途方もない数だ。
「やあやあ。よくやってきたね。ソウルイーターさん。待ち侘びたよ。もしかしたら、来ないかもと恐れていたんだ」
「なるほど。貴女が待っていたのですね。来ないかもとは私を過小評価しています。新しい世界で、秘密があったら暴くものでしょう?」
倒れたサーバーの上に一人の少女が座っていた。小柄な体躯に半裸に近い黒いビキニを着て、背中には小さなコウモリのような羽を生やし、頭には羊のような巻き角がついている。見かけは12歳くらいだろうか。ちっこい八重歯を覗かせて、足をぷらぷらと振って悪戯そうに笑っている。
「まさか魔物の中でも悪魔王と呼ばれるリリスがいるとは予想外でした。私を倒すべく罠に掛けたのですか?」
魔物の王たる50柱の1人。悪魔とも呼ばれる少女型の悪魔だ。100%の力を取り戻した私でも勝てるかと言われると、その確率はかなり低い。逃げるだけならなんとかなるだろうが━━。
「にひひ。いや〜、他の世界でソウルイーターがいるとの噂を聞いたけど、まさかまさかのマナ・フラロウスだとは思わなかったよ。え、なんで君が最前線にいるの? 後方で守られなくちゃいけない存在でしょ?」
「わざわざ説明する必要はないかと。それよりも私の質問に答える方が有意義ですよ? なぜこの世界に私を転移させたのですか?」
『情報改変:剣』
戦闘にいつでも入れるように、支援魔法を使いつつ、リリスを睨む。対してリリスはというと完全に無防備で、警戒をする様子がない。
自身の方が確実に強いと考えているのだろう。真実なだけにムカつく。
「まぁまぁ、話を聞いてよ。僕はさ〜。これでも王の中では古参なのさ。このかわゆい見た目と違ってね。そして、僕はこれはと思う人間に、ある秘密を教えることにしているんだ。なんだと思う?」
こちらを試すような笑み。周囲の様子を見る限りに、大体予想はつく。
「この世界の人類は滅んでいる、ということですか? 魂の欠片も痕跡がありませんし」
「それは見れば分かるよねぇ?」
ニヤニヤ嗤いを深めるリリス。
「……貴女が滅ぼした世界。デク人形による偽りの生存者を作り趣味が悪いことです」
「ピンポーン! ピンポンピンポン、さすがはソウルイーターの中でも情報を操ることに長けるマナだね。その通り、この世界は僕が滅ぼしたんだ。でも侵略したのではなく━━」
「貴女の世界だったのでしょう? それくらい分かります」
ジリジリと近づきながら、予想を口にすると、リリスは意外だったのか目を丸くすると、仰け反って大笑いし始める。なにが楽しいのか、その顔は機嫌が良さそうだ。
「そうなのさ! 僕は自分の世界を滅ぼしたんだ。よくわかったねぇ〜。でも、そのほとんどは、侵略してきた魔物に滅ぼされたんだよ。僕らは綺麗に終わらせてあげただけ。可哀想な世界に永遠に生きて、そのことに疑問を持たない人形を残してあげてね」
「……なぜそうなったのかを伝える気ですね?」
「うん! 君ならこれを見れば察せるだろう? ジャッジャーン!」
リリスがいつの間にか手に持っていたネームプレートを私に放り投げる。
受け止めた私はネームプレートを見て━━嘆息した。
『人類救済軍司令官ソロモン』
と、細長いネームプレートには表記されていたのだった。
「分かるだろう? 僕はねぇ、優しいから『次元転移』を使えるようになった後輩にはこのことを教えてあげることにしてるんだ。びっくりした? ねぇ、びっくりした?」
「ソロモン。あの人はこの世界でも司令官だったと。そして、貴女は人類救済軍の一人だったのですね」
「そのとおり! でも、今は魔物と呼ばれるかなしーい生物に落ちちゃったんだ。ねぇ、なんでこんなことになったのか聞きたい? 闇堕ちリリスちゃんがなぜエデンを滅ぼしたいのか知りたいでしょ?」
どうやらその姿と同様に小悪魔で話したがりの模様。こんなに近くで話すのは初めてですけど、たしかに人間風味を残している。
「ウズウズとしておるところ申し訳ありませんが、大体理解しました。ソロモンは世界を渡って、こんなことをしてるんですね。何千年、いえ、何万年かけているかは知りませんが、人類を滅ぼした後で、貴女や私たちのような者を作っている。そう考えると納得がいくことが多いんです」
魂を餌にする魔物たち。魂を吸収して進化し続けるソウルアバターたち。基本設計が笑えるほど同じなんですよね。
それに疑問はずっとあった。人類に不利すぎる環境。50柱の王たちに囲まれても生き残れるとか、おかしいと思ってたんです。今なら対抗できますが昔は不可能なほどに弱かったんですから。
ソロモンが全てを調整していたとすれば納得できる。敵の黒幕は実は身内だった。分かりやすい設定です。
「ソロモンは恐らくは無意識下で敵を操れる。魔物たちも本気でソウルアバターを攻めているつもりで、実は手加減していんたんですね。なんでこんなことをするのか……もしかして究極生命体でも作ろうとしてました?」
「おぉ、そのとおり! 作られた私たちは、さっき出会ったバイオドロイドと同じさ。自由意志で動いているかのように見えて、実はソロモンの言うとおりに行動している。これがいつも命令をされていたら気づいた王もいたのだろうけど、命令はたった2つ。魂に刻まれた命令しかないのさ。その命令は『ソロモンのことを忘れる』、『人類が滅びそうになったら滅ぼさないようにギリギリで手加減する』だけだったのさ」
王たちは強い。ソウルアバターたちが束になっても敵わないレベルなのだ。それだけの力を持つ王たちも、生まれる最初に命令を刻まれては気づけない。
これはソロモンも戦争の中で死ぬ可能性がある危険な命令だ。これならば普通は気づけない。
「なら、私にそのことを教えた貴女はその縛りから逃れたと? どうやって命令から逃れたんですか?」
「ん〜、僕は人間型だろう? だからかな。数千年経過して、フト思い出したのさ。で、こうやって伝えている。まぁ、教えても記憶を消されてしまうから意味ないんだけどさ。ソロモンもそのことに気づいているのに放置されてたし。でもそろそろお払い箱にされるかも?」
「このままソロモンに会いに行っても記憶を消される?」
「うん。タイムリミットさ。記憶を消されて新たなる王として、他の世界を攻める軍となるだろうよ?」
「そう上手くはいかないと思いますけど。それで━━それなら、私の世界の人類は滅んでいるのですか?」
嫌な予感。聞きたくないが聞かなければいけない。最奥に眠っているはずの人類は?
私の問いを待っていたのだろう。ニヤニヤと笑みを深めるとリリスは答えた。恐らくは今まで同じような問いをしてきた者と同様に。
「もちろん、君たちを作るために消費したに決まってるだろ! ソウルイーターは人類数百万人の魂をより合わせて作られたのさ。これまでの魔物たちのように! そもそも守るべき人類を君たちが消費していたのさ! ねぇ、笑えない? 人類の守護者たちが実は人類を滅ぼしてたなんてさ!」
「予想通りの答えをありがとうございます」
手を振り、超高速での一閃。さりげなく近づいての不意打ち。空間が切れて、驚きのリリスの肌に切り傷が刻まれる。
「聞きたいことは聞けました。後は私が裏付けをとりますので、安らかに食べられてください」
微笑むとマナはリリスとの戦闘を開始するのであった。
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