65話 マナの歓迎会
歓迎会。あらゆる料理が振る舞われて、ご馳走が食べられるイベントです。たしかに、和洋中と多くの料理が並んでます。和はお寿司からウナギまで。洋はフォワグラとかキャビアがあり、中はキムチや甘辛チキンが並んでます。ご馳走と言っても良いでしょう。
広いホールに、テーブルが並び、多くの料理が並んでます。多くの人々がスーツやドレス姿で集まっており、とても賑やかな様子です。
「たくさん料理あるねぇ。これだけあると目移りしちゃうよね? 何を食べる、マナちゃん?」
やけにルカさんが絡んできます。どうも私の様子がおかしいことに気づいている模様。なかなか目敏い人です。
「ここここここ」
「鍵音お嬢様、そろそろマナ様に怒られるので、鶏の真似はおやめになったほうが良いかと。それと一発屋は消えてしまいますよ」
人間に戻ったチシャがマスターらしき人をなだめていますが、これだけ大勢に囲まれていれば、鶏の真似をやめることはできないと思います。
「ルカさん、お気持ちは嬉しいのですが、この料理はですね、見かけだけで━━」
「うわあっ、綺麗なおねーちゃんたちだ! なぁなぁ、外の世界ってどうなってるんだ? 俺もいつかは外の探索隊になりたいんだよっ」
悪餓鬼っぽい子供が突撃してきました。丸刈りの小学生くらいの子供です。外の世界からやってきた人が珍しいのだろう。他の子供たちが駆け寄ってきて、しがみついてくる。
「えっとねぇ、私たちは遠い遠い世界からやってきたんだぁ。どれだけ遠いかっていうと、私にもよく分からないんだけどね」
「えー! 遠くってどれだけ遠く〜? 教えてよ〜」
「この人はなんでメイド服なの?」
「メイドは常にメイド服を制服としているのでございます」
「ここここここ」
「この人はなんで鶏の真似をしてるの? 鶏が人間に変身してるの?」
三人共に楽しそうです。大人たちも子供たちと話す三人に警戒を薄れさせて会話をするべく集まってくる。あっという間に、賑やかな集団が形成されていく。
「ハッハッハ。楽しんでもらえてなによりだよ。このシェルターの良さを知ってもらえると良いんだが」
「そうですね。マスターたちは楽しそうでなによりです」
ワイングラス片手に武が話しかけてくる。
「君だけはあまり楽しんでいないように見えるけど、なにかあるのかな? これから付き合いをさせてもらうシェルターの代表同士、仲良くしたいから、なにか問題があったらあらかじめ教えてほしいんだ」
どうやら三人と違い人の輪に加わらない私を気遣って声をかけてくれたらしい。
「そうですね……」
天井を見ると、シャンデリアが煌めき、テーブルにはたくさんの料理。そして気の良い人たち。その笑顔は裏はなく、本当に歓迎してくれていることがわかる。
「そうだよ、マナちゃん。このお寿司美味しいよ! いつもならたくさん食べるのにどうしたの?」
イクラの軍艦巻きを突き出してくるルカさんですが……。私は食べたくありません。
「そのお寿司。本当に美味しいですか? なにか変な味ではありませんか?」
「うん? 普通に美味しいけど……毒とか入ってるとか!?」
「いえ、そういうわけではなく」
お寿司を頬張り、青褪めるルカさんですけど、毒ではないんです。そういう問題では無い。
「楽しんでいただけて良かった。そろそろ皆へと紹介したいんだけど良いかな?」
絶妙なタイミングで口を挟まれる。後ろを振り向くとマイクを持った武がいて、ノリノリです。周りの人々もニコニコと笑顔を絶やさない。その様子に自然にため息が漏れてしまう。
「わかりました。それでは、私の自慢のマスターが挨拶をするのでどうぞ」
「ここここここ、えぇぇぇぇ! わたわたわたわた?」
「ようやく正気に戻ったようですね。では、『目を見開いて』しっかりと挨拶をお願い致します」
背中を押しながら伝える。彼女ならこの言葉の意味が分かるはずだ。魔眼『観察』を持っている彼女なら。
「それは助かるよ。では、皆へと自己紹介をお願いします!」
武がマイクを渡すと、周囲が囃し立てる。老若男女変わらずに楽しげに。
その光景がやけに癇に障る。平和そうな人々の姿が。
滅びた世界で生き残ってきた人々の姿が。もしかしたら私の世界でもあり得たかもしれない光景が。
「えぇととと、わたわたわたわたは、どぇぇぇぇっ!?」
ブリキ人形のようにカクカクと動き、壇上に上がった鍵音が私に言われた通りに挨拶をしようと無駄に魔眼を使い━━。緊張が解けたように後ろに下がり、身体を震わす。
「え!? どうしたの鍵音ちゃん? なにがあったの? 緊張で漏らしちゃった?」
さりげなく失礼なことを言うルカさんですが、ぷるぷると首を振ると、鍵音は武たちに指を向ける。
「この人たち、人間じゃない! よくできたゴーレムだよ! ううん、ロボットっていうのかな? 魔法でできたゴーレムだよ。多分科学技術も入ってる!」
「ええっ! この人たちが? 人間に見えるよ?」
「お嬢様、お下がりを」
当たりです。彼らは人間ではありません。
よくできたロボットです。
「ん? 私たちがロボットだとおかしいのかね? 私たちは有機的なロボットだ。食事もできるし、老化して死ぬこともある。バイオメカニクスの粋。それが私たちなんだ」
正体をバラされても、キョトンとした顔で平気な顔でいる武たち。自分たちの存在に違和感を持っていないらしい。
「永遠に同じことを繰り返す存在。魂すらなく、決められた行動を取るだけの存在を私は認めません。その子供たちは何百年子供なんですか? 劣化したら新しいボディにするだけなんでしょう? それまでは永遠に畦道で遊び、大人たちは田植えをする。魔法で作られた幻の作物を」
目を細めて、武たちを睨む。作られた平和を享受する偽りの生存者たち。こんな形で生きているフリをしてどうするんだろうか?
「決められた? だって私たちを見たら、話しかけてきたよ?」
「このロボットたちを管理している者は不規則なパターンも用意しているんです。私たちのような者を見つけたら、このように行動するように。武たちは歓迎を。管理官は意地悪な態度を。全て決められたプログラムです」
損じられないのかルカさんが尋ねてくるが、私の目は誤魔化せません。
「情報を操る私は、空間を飛ぶプログラムをクラッキングできます。このロボットたちに出会ってすぐにわかりました」
食べ物も見掛けだけだ。私の世界と同じく味のしない偽りの食べ物なのだ。
「君はあれかね? 自我は魂が無くてはいけないとの思想を持つ者なのか? AIだって長い間で自我を持つんだよ。人と同じくね」
「それは魂の存在を見れない人と話してください。私にその理論は通じません」
「……なんて心の狭い奴なんだ。なら本物の君たちの魂を宿せば良い。そうすれば私たちは晴れて本物の生命体だ」
武たちの空気が変わり、危険なる空間へと変わる。口からマシンガンを取り出す奴や左手からビームソードを生み出す者、上半身が割れて、手術に使うような細かい器具がついたアームを何本も生やすやつ。
一瞬のうちに歓迎会は異形の展覧会へと変わった。
「こういうホラー的な展開は苦手なんだけど!?」
「マスターって、得意なものがあるんですか?」
「くるよっ! 皆気をつけて!」
「少し面倒くさそうですよ、お嬢様」
戦闘となると、さすがに訓練が効いている鍵音たちは、すぐに武器を構えて、敵を迎え撃つ。対するは自称魔法学の粋を極めたバイオドロイド。たしかに一体一体が鍵音たちにとっては強そうです。
私なら一瞬ですが……。
「では、皆さん頑張ってください。私は少しこの奥に用がありますので、少し留守にしますね」
トンと床を蹴ると、ロボットの合間を瞬時に通過して、奥の通路に移動する。
「ええええぇっ! ちょ、ちょっと待ってマナ〜!」
「大丈夫です。マスターたちならなんとか倒せるレベルです。私が攻撃するのは止めたほうがいいと、私の勘が囁いているのです。私の攻撃を受けたら自爆するように設定されてる気がします」
悲鳴らしき声で止めようとする鍵音を無視して、先に進む。多分自爆する。リリスのよくやる手である。味方と思わせておいて攻撃し、反撃すると自爆する。ソウルアバターの魔力波長に合わせた嫌がらせだ。かつての人類はその嫌がらせに頭を悩ましたものだが、私の目には人間に見えないのでまったく問題はない。
「それよりも探知ができなかった場所があるんですよね。恐らくはそこにリリスが隠れているか、この世界にやってきた痕跡があるはず。痕跡さえ見つければ、この世界を脱出できるでしょう」
音速で走る私を前に、家屋内では距離はほとんど意味をなさない。
『侵入者を撃退します』
機械音声が聞こえてくると、壁からレーザーが糸のように張り巡らされて展開されてくる。身体をそらし1本目を躱すと2本、4本と増えてくる。躱す毎に増えていき、遂には回避不能の網となって迫りくる。
「すいません。バイオな展開をされても意味がないのでやめてください」
もう面倒くさいので網の中に突撃。人体なら小さく格子状に切り刻まれるのだろうが、私の防御障壁を打ち破れるほどの威力はない。ちょっとしたシャワーのように浴びると、さっさと進む。
「待て! やはり外からの侵入者は碌でもないな。ここから先は長い年月侵入禁止となっておる! 止まれ!」
エレベーターの前に、管理官が立って、銃を構えていた。その憤怒の表情から、リリスに操られているとはまったく思っていない模様。
「すいませんが通らせてもらいます」
「行かせるか! フルパワーの一撃を受けて━━」
「贅肉は削った方が良いですよ。せっかくなのでシャワーで削ってください」
なにやら銃が輝きますが、最後まで言わせずに間合いに入ると、その首を掴んで後ろから迫るビームシャワーへと投げる。
断末魔の声も上げることもできずに、管理官とやらはバラバラとなって地面に落ちる。
「……自由意志も持たずにプログラム通りに動く者が自我を持つとは思えないんです」
肉片を一瞥すると、エレベーターの扉を蹴り壊す。
さて、最下層にはなにが眠っているのか楽しみです。
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