64話 マナはシェルターを調べる
ビキニアーマーの人気者。男の妄想を具現化した存在。それが私の誇るマスター、本屋鍵音です。
なにしろ、胸とか大事な部分を手のひらサイズの最小の装甲で守るだけで、身体全体を保護。あらゆる耐性を付与されており、インナースーツの網スーツを着ることにより、魔力も上昇し、かつマスターの綺麗なお肌も皆へと妖しくアピールできる渾身の逸品です。
強化服を脱いだ男たちの目線が釘付けになるのも当然の結果と言えましょう。えっへん。
「きゃゃやあぉぁあ」
なのになぜか奇声を発してダンゴムシよろしく蹲るマスター。
「はっ! もしや私には検知できないこの世界のウィルスにマスターが感染した!? マスター、両手を腰に揃えて、背筋を伸ばして立ってください。マスターの肉体をスキャンしますので」
「鬼畜な召喚獣ですっ! いやぁ〜、マナしか見ちゃらめ〜。男は見たら殺すしか……」
「そのセリフの方が鬼畜だよぅ、鍵音ちゃん。というか幻影魔法で体を隠す洋服を作ったらどうかな?」
「まきゅ」
「はっ! それがありまひた! ナイスアイディアです、ルカさん。そそそれじゃ、体を隠すジャージを幻影創造!」
ルカさんの冷静なる忠告に、ようやく幻影魔法でジャージを創り体を隠す鍵音。体を隠すための服がジャージという残念な選択をする鍵音に、ルカさんが可哀想な娘を見る目つきになる。しかもジャージはヨレヨレなので、ますます残念だ。そして、チシャはマーモットの変身を解くつもりはないらしい。幸せそうに私の頭の上で寝そべってるので、もはや人間としてのプライドとかは喪った模様。
エロい目で見ていた武たちも、その姿を見て一気に冷めた目となる。
「さすがはマスター。日頃の生活を薄らと垣間見える選択の服。皆さんの興味を一瞬で消滅させるとは、その見事な行動に感嘆を禁じ得ません」
「拍手をしないでください。うぅ、私もジャージは少しだけおかしいかなと思ったけど、学校ではジャージはおかしくないから良いかなって。あと、これ以外の服を想像できないんだけど……」
パチパチと拍手をして、もっと残念なセリフを口にする鍵音を称える。ますます部屋全体に冷えた空気が漂うので、もはや鍵音の女性戦闘力は5だ。
「あ〜、そろそろ中に入ってもらって良いかな? そこの女の子も残念な装いになったし、いや、大丈夫な服装になったことだしね」
「は~い」
全然話が進まないので、武が先導し、シェルター内に入るのであった。
◇
ゴゴゴと重々しい音を立てて分厚い装甲の隔壁が開く。厚さにして1メートルはある隔壁が開いていく。その後ろにも数枚の隔壁があり、かなり厳重な守りであることがわかる。
「殺菌室の後にも隔壁があるとは、本当に厳重なシェルターなのですね。普通は殺菌室の後に隔壁はありません」
「しつこいほどに厳重だろ? でも、昔はこれだけの厳重な守りでも魔物に突破されていたんだ。と、昔の記憶にはあるんだよ。君たちのシェルターはどうなんだい?」
笑いながら私たちを見てくる武。そして周りの人々の探るような視線。ふむふむ……。
「ここは私に任せてよぉ。しっかりと話すからさ」
パチリとウインクをすると、ニヨニヨと笑みを浮かべるルカさん。このような交渉に慣れてる様子。私の交渉は大体は力押しなので頼りになります。
「ここここここ」
ルカさんに対抗するべく鳴き真似をする鶏マスターは放置しておきましょう。
「まきゅ」
マーモットは完全放置です。
「えっとぉ、私たちのシェルターは秘密で良いですか? まだお互いのことを話すのは早いと思うんです。趣味から話し合わないとねぇ」
「はははっ、まぁ、そうだよな。それじゃ、信用してもらうためにも、私たちのシェルターに歓迎するよ」
隔壁が開ききった先には━━。緑溢れる街並みがあった。
「ようこそ、我らのシェルター『エデン』へ」
木々が生い茂り、田畑が広がり、家屋が点々と存在する長閑な世界を見せて武はにやりと笑うのであった。
ピヨピヨと雀が空を飛んでいる。地下であるのに、鳥が飛べるほどにかなり天井が高いシェルターだ。
田畑ではトラクターに乗った農夫やその奥さんらしき人、畦道を楽しそうに走り回る子供たちもいる。
「今日は雨だったかなぁ? 天気予報を見るのを忘れちまった。田植えを開始して大丈夫か?」
「たしか2時から雨だったわ。だから田植えは明日にしましょうって言ったでしょ」
ほのぼのとした会話をする夫妻。
「おーい、ここに蛙いたぞー、すっげーでっかい!」
「捕まえろ! あ、こら逃げるな!」
「蛙は嫌ぁ。そんなの捨てておこうよ〜」
子供たちが水田の中に指差して、キャッキャッと遊んでいる。そこには明日への不安もなく、ただただ無邪気だ。
そこには平和があった。一歩外に出れば世界が滅んでいるなど信じられない光景だ。
「マスター、この空間内は空気や気温に問題なし。人間が生存できる環境です」
サラサラと吹いてくるそよ風に髪を押さえながら、周囲の様子を確認する。どうやら、このシェルターは空気も濁っておらず、まだまだ稼働に問題はなさそう。
「ここここここ」
「まきゅ」
とりあえず安心した2人を放置して、先導する武についていく。
「あ、武おじさんたちが帰ってきた〜!」
「ほんとだ! 外でなにか見つけてきた?」
「この人たちだぁれ? 初めて見る人たちだ〜」
子供たちが目ざとく気づいて駆けてくる。目をキラキラとさせて、興味津々だ。それだけ外に興味があるのだろう。しがみついてくる子供たちに武たちは嬉しそうにニヤリと笑う。
「今日もなにもなかった……わけじゃないぞ。外からお客様を連れてきたんだ! この方たちが外から来た人たちだぞ〜!」
「おおっ、すげ~! 俺、外の人なんか初めて見た! ねーちゃんねーちゃん、どこから来たんだ?」
「わぁい! おねーさんびじーん! この獣はなぁに? もふもふして良い?」
「この人、鶏が化けてるのか? チキンレディ? 」
人間扱いされたのは私とルカさんだけですが、気にせずにしておきます。
「ほらほら、お姉さんたちが困ってるだろ? ちゃんとニュースでわかるから後でな」
手慣れた様子で子供たちを追い返すと、武は苦笑いをする。
「すまないな。外の世界の人間を見たのは初めてなんだ。このニュースは大騒ぎになるぞ。なにせ、生き残りの人間たちは俺たちだけだと思ってたからな」
「いえいえ、私たちも生き残りに出会えて良かったです。しかもこんな素敵なシェルターで。まさか地下にこんな平和な世界が広がっているとは思いませんでした。とっても癒されます」
「そう言ってもらえると嬉しいな。そっちのシェルターはどうなんだい? こっちのような環境じゃないのかい?」
「広さは同じくらいですけど、田畑とかはなくて、合成食料ですよぉ」
「合成食料なのか。それはいけないな、このシェルターは地下とはいえ自然に育てた作物とかがあるから、後ほどたっぷり食べてくれ」
「わぁ、それはとっても嬉しいです。楽しみで足が早まっちゃいます」
如才無く会話をするルカさん。まるで本当に他のシェルターから訪れた旅人のように見えるので感心しちゃいます。
「ねぇねぇ、マナ。私たちって、どこのシェルターから来たんだっけ? 平和な世界は夢で現実は滅びた世界を恋人のマナと旅を続けるストレンジャー?」
そして、混乱した表情で戯言を口にするマスターだ。私の裾を引っ張り、不安そうなのだが、自身の欲望もさりげなく加えるので感心しかない。
「まきゅ」
そうして、田園地帯を過ぎて、再び隔壁のある入り口を通過すると、ビル群が聳え立つ地区へと移り変わる。さらに歩くと一段と立派なビルに案内されるのであった。
「いらっしゃいませ、天野様。本日はどのようなご要件でしょうか?」
「あぁ、外の世界を探索していたら、人間に出会えた。このシェルターが作られてから初めてだ!」
.
「外の世界の人間!? あの女性たちが?」
「あぁ、だから管理官に早く会いたいんだ。これはビッグニュースだからな」
受付の女性は武の話を聞くと、顔色を変えて、私たちを見てくると、慌ただしい様子で電話をする。すぐにスーツの男がエレベーターからやってくる。エリートっぽいスーツの男だが、やはり慌てていた。
「すぐに管理官の所までご案内します。こちらへどうぞ」
お役所仕事ってやつなのか、たらい回しにされているような気がするのは気の所為でしょうか。
だが、エレベーターに乗り換えて、最上階で出会った男で最後らしい。
いかにもお偉いさんの部屋という雰囲気の内装。重厚さを感じさせる机や、ふかふかのソファ、
「そして、性格の悪そうな太ったおっさん。完璧です」
「初対面でふざけとるのか、このアマッ!」
ソファに座る偉そうな太ったおっさんがなぜか怒ってきました。
「ですが、私は勉強したのです。このようなときに出てくる太ったおっさんは性格が悪く陰謀を企てていると」
主にアニメや小説で。常に勉強をする召喚獣。それがマナ・フラロウスなのです。
「ちっ、天野君、この失礼なアマが外の世界の人間なのかね? いや、シェルターに登録されていないのだから当然か」
「はい、そのとおりです、管理官。この方たちの歓迎会を行いたいのですが、よろしいでしょうか?」
空気がとても悪い中でも、己の意見を変えない武に、管理官とやらはジロリと私たちを見てから嘆息する。
「良いだろう。その歓迎会でどこから来たのかを教えてもらおうじゃないか。許可をする」
結構素直に許可を出すのでした。
「やったね、マナちゃん! ご馳走が食べられるよ?」
「……どうでしょうか。食べられるものがあればよいのですけど」
こっそりと囁くルカさんですが、ご馳走には期待できないかもしれませんね。
ところで、いい加減鶏とマーモットを元に戻すとしますか。
「ここここここ」
「まきゅ」
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