63話 マナは並行世界を調べる
並行世界。無限に枝分かれした世界。最初の一つがどんな世界かは分からないが、木が枝葉を伸ばすように、いくつもの世界が作られたものを並行世界と呼ぶ。
魔法のない世界や、科学技術が進まない中世ファンタジー世界や、ウサギや狐、マーモットが人類の代わりに世界を支配する世界など、様々な多様な世界が存在すると言われている。その中でも、環境や科学技術などが近似している世界が一般に言われる並行世界というところだろうか。
マナの世界は滅んだが、以前は鍵音の世界のような世界であった。この世界はマナの世界と同じように魔物に滅ぼされた世界にも見える。
(ですが、建物の構造が残っています。化石化しているところもありますが、魔法付与された頑強な建物が丸々残っているところを見ると、私の世界の滅びる前の時代よりも魔導技術が進んでいたのでしょう。私の世界の建造物はこの世界ほど残っていないですからね)
ほとんど更地になってしまったマナの世界とは違い、見渡す限り廃墟が広がっている。激しい戦争があったことを示すように、隕石が落ちたようなクレーターは幾つもあるし、放置された戦車などもある。
地面に指をつけて、砂を擦るとサラサラと崩れていく。既に微生物も存在しない枯れた土地だ。空気も薄いし、ここらへんはマナの世界と変わらない。人間が生き残るのは不可能に近い環境だ。
「……とりあえずマスターたちが休めるところを探したいと思いますがよろしいでしょうか? 元の世界に戻るにしても、数時間でとはいかないようですし」
『次元転移』の解析は時間がかかる。その間、私はともかくとして、鍵音たちを守らないといけない。
「うん、お願いします。でも、マナは大丈夫? 魔力が尽きたら、死んじゃうでしよ?」
「ご安心ください、私は真空でも、絶対零度でも、太陽のなかでももり蕎麦を食べられる余裕があります。ですが、マスターたちが足手纏いと感じて申し訳ないと落ち込むのでしたらプランB髪の毛補完計画を」
「本屋鍵音の名において命じます! 私たちが生存可能な施設を探しなさい!」
私の頬をプニッとつついて、鍵音が言葉を被せてきた。どうやらプランBは好みではないらしい。面倒くさいけど仕方ない。三人の髪の毛を保管しておいたのにがっかりです。
「了解しました、マスター。では探索を行います」
カクカクと身体を動かして、口をパクパクさせての探知魔法だ。
「なにかブリキロボットのように見えるよ!?」
ルカさんのツッコミ通り、少しお茶目な召喚獣なのです。
今の私は100%の能力を発揮できる。そのため、魔法的なジャミングがなければ、惑星1つを探索することも、朝飯前なので、モーニングバイキングを予約しておいてください。
探査の魔力は光の波紋となり、周囲に広がる。一分も経たずに惑星一つを全てカバーした。
「この惑星の地形を全て探査しました、マスター。どうやら一つだけ、マスターたちが生命維持可能と思われる施設を発見。……そこだけは未だに稼働している施設であるようです」
「惑星一つをカバー……さすがはマナ。さすまなだね! チートすぎて驚くこともできないです」
「私たちと次元が違うよねぇ。ありえないレベルで、もう追いつこうとも思えないや」
「まきゅ」
褒めてくれるのに、なぜか2人は顔を引きつらせて、チシャはまたマーモットに変身して、大きく欠伸をしながら地面に寝そべっている。チシャの魂が段々とマモに侵食されているような気がしますが、とても幸せそうな顔なので助ける必要はありませんね?
ピコンと探知した施設。かなり離れた場所にあります。
「この場所から7856キロ離れた山脈の合間に隠れて作られていますね。防衛施設の存在は不明。どうやらシェルターのようです。魔力反応あり」
遠く離れた場所にある施設。地下深くまで掘られて建造されているかなり巨大な施設だ。
(滅亡に備えたシェルターですか……。未だに稼働しているのが驚きです)
「ええっ、そんなに遠いの? それだと24時間以内に到達するのは無理じゃない?」
「大丈夫ですよ、マスター。念のために安全運転でマッハ7くらいに抑えますので、1時間ちょいで到達できます」
人差し指をタクトのように振るい、三人を浮かせると、高度を上げていく。
「あばばば。マナ、安全運転の速度間違ってない!? 交通規則をしっかりと読んで?」
「マナ法第8条596項目魔法で飛ぶ場合は事故に気をつけること。速度はマッハ8以内に抑えること、と書いてあります」
「それ適当に作ったでしょ? 法律はもう少し一般人を気にして!」
「一般人にも優しい法律です。マッハ8以上で飛ぶ人は罰金十万円以下の罰金か、懲役3か月以内ですので」
「マッハ8を超える人間ってどんなにんげんんんんんん」
暴れる鍵音を気にせずに、一気に加速して、鍵音のドップラー効果の入った悲鳴が世界に響き渡るのでした。
◇
「ほへぇ〜。この世界ってビルしかないねぇ。自然の跡がないよぉ? 海もどこだって感じ。空気は薄くても存在するし、水は少しは残るはずだよねぇ?」
風圧も気圧も全て管理されて影響を受けないことを知ったルカが地上の様子を見て、少し戸惑った感想を口にする。
「たしかにそのとおりですね。ルカさんは鋭い視点をお持ちです。外気温の上昇はほとんどありませんので、この世界では水は残っていても良いですし、植物も少しは存在してもおかしくないのに、まったく存在しない」
「はいはーい。頼りになるマスター鍵音も意見を口にします。マナの愛すべきマスターの視点だと、この世界は進歩しすぎて自然を破壊した、もしくは意図的に排除したんじゃないかな? さっき通り過ぎた地域に、ズラッと工場らしき施設も見えたし。マナが褒めてくれるのを待っているマスターの意見だよ?」
ルカさんに対抗する心の狭いマスターが手をぶんぶんと振って、意見を口にする。へいへいと両手を広げてハグしてよとアピールしてくるのでマーモットチシャをそっと抱かせてから考える。
「その可能性は高いですね。とすると宇宙にまで進出した可能性もあります。それだと滅びるまで時間はかなりあったかもしれません」
広大な宇宙。ですが次元転移を行える魔物たちは魂のある所の近距離に転移するため、距離的な問題は関係ないが、魂の数が膨大なら時間はかかっただろう。
「シェルターに生き残りがいるかも! ううん、きっといるよ! だから稼働してるんだよね?」
「まきゅ」
「チシャさんの言う可能性の方が高いですが……。マスターの予想も一考の余地はあります」
「チシャが人間を止めて言葉を話していないように思えるよ!?」
通り過ぎる光景は全てビル群。動くものは一人としていない世界。その光景を見て、私たちは予想を口にしながら敵に出会うこともなく目的地まで飛ぶ。
「目的地に到着しました」
そうして、広がる山脈の麓に着地する。やはりビル群で埋め尽くされており、自然は欠片もない。
トンと地面に足をつけて、もう一度探知を行う。今度は狭い範囲での詳細を調査だ。
「見つけました。麓の瓦礫群に入口は埋まっており━━」
探査結果を伝えようとした時だった。
「う、動くな! 少しでも動けば発砲する!」
廃墟ビルの影から飛び出してきた人間らしき者が銃を突きつけてくるのでした。
◇
「わたわたわたん」
「生存者たちだよ、マナちゃん。どうしようか?」
「この人たちは……」
頼りになるマスターがガタブルと震え始めて、ルカさんが杖を構える。チシャは地面に寝そべって欠伸をする。
「動くなっ! この銃は高火力の魔導銃だ。お前らの玩具なんか通じない強化服を着込んでもいる。抵抗は無駄だと思え!」
最後まで話すことを許さずに、人のセリフに被せてくるマナーの悪い敵。たしかに重機関銃を持ち、着込んでいるのは防護服に似た強化服。スキャンすると、こちらの装備よりも技術レベルが高い装備だ。鍵音たちがSSSランクだとするとSSSSSSランクぐらい? この世界はやはり技術力が高かった模様。
「戦闘力は平均1000程度か。こちらの戦闘力は平均5000だ。戦っても無駄だぞ?」
「なんかスカウターみたいな機械持ってるよ!? 私も欲しい! それにしても私たち、たったの1000? え、マナの戦闘力も?」
「ええっ、それなら敵のボスは16000ぐらい?」
「まきゅ」
防護服のヘルメット越しに、自身が優位だと笑う敵。鍵音はよだれを垂らしそうに強化服を見つめて、ルカは古いネタを口にする。すぐにインフレしそうなので、この話題はしない方がいいですよ? それとそろそろチシャはマーモットから人間に戻ってください。
「とりあえず、抵抗せずに捕縛されましょう。せっかくの出会いですし」
両手を上げて降伏する。こちらは無抵抗ですよ。
「うん、マナがそう言うなら」
「よし、素直でよろしい。こちらについてきてくれ」
意外なことに素直に銃を下ろすと、敵は手招きしてついてくるようにとジェスチャーをする。探査した通りの方向よりも少し離れた場所に向かう模様。しかもRPGによくある牢屋イベントのように、武装を外すこともしない。
「脅かして悪かったな。俺たちのコロニー以外で生存者に出会うなんて、この二百年で初めてなんだ」
なんか急にフレンドリーに話しかけてくる。どうやら本当に敵だとは考えていないらしい。危機感ゼロの模様。多分敵も味方もいなくなって久しいからだ。
「ここだ。このビルの影にシェルターに入れるエレベーターがあるんだ」
他のビルとは違い、崩れていない綺麗なビルに入り込むと、男は壁に隠された魔法陣を起動させる。と、シュッと軽い音と共に壁が開きエレベーターが姿を現す。
全員で入ると、地下へと移動していき、エアフィルターのある殺菌室に入る。二重構造になっているようで、ここで殺菌してから中に入る仕組みのようだ。
「俺の名前は天野武。銃を向けて悪かったな」
ヘルメットを取ると、壮年のおっさんだった。目つきが少し鋭い戦闘訓練を受けた者の貫禄を持っている。
「驚いたのは、その……。最初は幻覚かと思ったんだよ。俺たちの妄想かなぁと」
そして気まずげに言う武たちの視線は━━。
「わたわたわた。私は痴女じゃないですからぁぁ!」
なぜかビキニアーマーを見られないように体を隠して悲鳴をあげる鍵音の姿があった。
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