61話 マナは追いかける
敵の時間稼ぎに付き合ってしまった。失敗です。さっさと敵を追いかけることとしましょう。
「まずは玉座の後ろですね。スイッチとかあったら良いのですが。きっと隠し階段が現れるはずです」
本来は探知魔法を使えばわかるはずなのに、隠蔽魔法が上手いようで、なにも感じ取れません。これはここに幹部クラスがいたことを示している。早く探せば追いつけるかも。
「そして、探知魔法が効かないだけで、他の方法なら見つけることはできるんですよ」
『情報復元:ダンジョン生成』
探知できなければ、ダンジョンを丸ごと作り直そうとすれば良い。対抗する部分が敵の隠し通路があるところだ。
マナの手のひらから膨れ上がる魔力が吹き出てくる。幾何学模様の美しく精緻であり何層にも形成された魔法陣が魔力から生み出されると、周囲へとアクセスを始める。
「わぁ、なにこれ? これがマナの魔法なの? 綺麗……」
「幻想的だよねぇ、これだけでもマナちゃんについてきた甲斐があったかな」
ダンジョンに青く光る複雑な回路を侵食していく。その光に照らされて、鍵音たちは感嘆の吐息を吐く。
「ねぇねぇ、この魔法を教えてくれないかな? わたわた私も使ってみたい!」
「マスターの頭を千個くらい増やせば宝くじで1等を当てるくらいの確率で使えるかもしれません。やってみますか?」
「急に興味なくなったから、増やさなくていいからね? サイレンの裏世界の化け物みたいになりそうだから、禁止だよ?」
肉体に制限されている鍵音では不可能なレベル。情報魔法を使えるのは、ソウルアバターの中でも私だけなのです。
目を凝らして立体型魔法陣を解析しようとしている鍵音とルカさんだけど、隠蔽やら暗号化やらしているので見れませんよ。無駄な労力です。
まぁ、教えるつもりもないですけど。今はそれよりも隠し通路を探さねば。
━━見つけた。
玉座の後ろに階段がある……マジですか。魔法を使わなくても普通に調べれば良かったな。狡猾にしてイタズラ好きなリリスらしいといえばらしいですけど。
「ひらけ」
隠し階段を開くべく蓋を破壊する。なかなか開かない瓶の蓋のような抵抗でしたが、所詮その程度。本来は仕掛けがあったようですが、私の前には無いも同然。
蓋がゴゴゴと重い音を立てて開いていき、階段が姿を現す。明かりはなく、深淵が広がっており、踏み入れば最後、帰ってこられないと本能が警告してくる。
(いや、簡単な精神魔法ですけど。撤退するにも、阻害魔法に凝っているとは……)
50の王のうちの1人、悪魔王リリス。悪魔型であり、王のうち、もっとも人間に近い容姿の魔物だ。人間に近いのはそれだけでなく、戦略的行動をとり、常に自分が有利なように行動する。その行動は堅実なため臆病でもあり、何回かマナの軍と戦闘をした時も、牽制レベルですぐに退却してしまう面倒な王だ。しかも退却するリリスを追うと、なぜか他の王にぶつかって戦闘となる。
漁夫の利を得るのはリリスだ。王の戦力を削り、その間に自分の領土を広げる。まぁ、王のほとんどが、お互いに争い足の引っ張り合いをしていたので人類は生き残れた面もある。連合して攻めてくれば、人類は全滅していただろう。
その点でいえば人類は幸運で、王たちは取り返しのつかない状況になるまで気づかなかった。そして、今や人類は王たちを上回る戦力を持つ。敵を倒せば倒すほど強くなるソウルアバター。さっさと全滅させなければいけなかったのに、人類は雑魚だと考えて、自分たちの取り分を増やそうと王たちはお互いに争っているツケを払おうとしていた。
(次なる世界に移動して、狩りをしようとしているのならば、リリスはもう倒せないかも知れないですね。だからこそ急がないといけません)
利益にさといリリスだ。ソウルアバターの存在を知れば、すぐに逃げ出すはず。だが、まだリリスまではソウルアバターの存在は伝わっていないと信じたい。
「では、階段を降りますね」
「え、でも、こここここ、危険な感じがする」
「そこは気にするところではありません。先行します」
精神魔法により、恐怖する3人を無視して、階段を降りる。石造りの階段は予想よりも足音が響き、進んでいくが━━。
(む? 階段が終わることがない? 空間を歪めている? 小癪な魔法を使いますね)
降りても降りても階段が終わることがない理由に舌打ちしてしまう。予想よりも搦め手からの罠が多い。
「ですが、すぐに解決するのがマナ・フラロウス。この程度では足止めになりません」
ダンジョンにはアクセスしたままだ。終わりのない階段を降りるつもりは毛頭ない。
ツンと軽く目の前の何もない空間をつつくと、水に石を落とした際に生まれる波紋のように空間を波紋が広がっていき、ピシリピシリとガラスが割れる音がする。そうしてヒビから光が漏れ出ると、石室に光景が移り変わった。
そして杖を持つ半裸の悪魔サキュバスの姿も。グラマラスな肢体を紐ビキニで覆い、頭にヤギの角、背中に蝙蝠の羽、足は羊の足を持つ精神と空間を操る悪魔である。
「えぇっ!? 妾の全力の空間魔法をここまで簡単に壊すというの!」
「これはサキュバスとはラッキーです。量産型ではなく、本来のサキュバスと見受けます」
サキュバスはリリスの幹部の一人だ。ゲームなどでは、エッチィ敵でしかも弱いが、実際のサキュバスは強い。夢を媒介にすると言われているが、即ちそれは夢という仮想空間を作り出すと言う事であり、精神を操り敵を殺す。
「精神攻撃が効かなくても、空間を操る貴方は脅威にして、倒せば美味しい敵です」
「チェッ! どっちが悪魔なんだか! ソウルイーター、妾が相手をしてあげるっ!」
杖を振りかざし、サキュバスが魔法を解き放つ。既に高位魔法をストックしていたのだろう、溜めの時間はなく、発動する。
『空間破斬』
よりにもよって、空間を丸ごと切り裂く攻撃魔法だ。いかなる防御も空間を切り裂かれたら意味がない。サキュバスの得意とする必殺の魔法。しかも、どうやったのか、かなり魂力を解放している。
「空間を破壊する魔法を防ぐのは苦手なのですが、そうも言ってられないですか」
目に見えない刃が私へと飛来してくることを、勘が教えてくれる。この攻撃をどう防ぐかというと━━。
サクッと攻撃を受けます。サクサクっと切られます。
『情報復元』
そして、切られた瞬間に回復しておきます。空間破斬はその攻撃力の高さはピカイチですが、その性質上、他の属性を上乗せすることが極めて困難。切られるだけなら、このマナ・フラロウスには効果は薄いんです。
「こ、こいつ、妾たちよりも化け物じみた回復を!」
私の体に線が入りますが、入った途端に消えてなくなるのを見て、サキュバスは顔を歪める。
「だけど、その程度の力なら妾の力が通用することがわかった! それならやりようもあるってもんさ!」
メビウスの輪のような軌道で杖を振り、サキュバスはさらなる魔法を積み重ねる。一瞬のうちに数十の魔法を積層させて、魔力を注いでいく。
「そうはいきません。こちらも攻撃させてもらいます」
『情報改変:分解風』
発動が速く、そして空間破斬と同じく敵の防御ごと破壊する魔法。そよ風が優しく吹くと、敵の肉体を分解する必殺の魔法だ。
サキュバスに触れると、その存在を分解しようとするが━━。
『空間位相』
そよ風に吹かれれば良いのに、サキュバスの身体が一瞬ブレると、分解風は通り過ぎてしまう。空間の位相を変えて、あらゆる攻撃を透過させる防御魔法だ。
「はっ! そんな魔法にやられる妾ではないよっ! 空間魔法は無敵にして完全。攻防一体の魔法なのだから」
「随分自信があるのですね。でも、そのようなセリフはNGワードではないでしょうか。死ぬ前の辞世の句なら納得ですけど」
「減らず口をっ! だけど、ここは妾の領域。何十にも仕掛けた魔法がある。一体いくつまで耐えられるかな?」
「いつまでも耐えられます」
せせら笑いを見せて、サキュバスが指を鳴らす。自身の領域というのは偽りはないようで、天井や壁面、床から魔法陣が浮かびあがると、様々な魔法を発動させる。
『太陽龍』
『絶対零度』
『極激風』
全てが高位魔法だ。さすがはリリスの幹部。侵略よりも自身の安全を考慮していたらしい。そうでなくては、ここまでの魔法陣を仕掛けることなどできない。
数億度の炎の龍がアギトを開き、足元から極寒の冷気が迫り、暴風が私の周囲から包み込むように襲いかかる。きっちりと相殺しないように、それぞれ的確な攻撃をしてくるうえに、魔法の数は二十個はある。
「ここまで数があると、少し厄介ですね」
一つ一つ対応していったら日が暮れてしまう。それに時間をかけたくない、
『情報接触:クラッキング』
敵の魔法へとアクセスして主導権を取ろうとする。マナの身体からコンピューター回路のように複雑な線が周囲へと展開されていく。
しかし、この世界の魔法と違いセキュリティがしっかりとしており、なかなかアクセスができない。魔法障壁で魔法を防ぎつつ、少しでも早くクラッキングするしかない。
マナと魔法の間に放電が発生し、押し合いへし合い、お互いを消そうと力の比べ合いとなる。
ここで、鍵音たちが『マナッ、私たちも手伝うよ!』とか、叫んで手伝ってくれると少しは楽になるのですが、実はこの間の時間はまだ2秒しか経っていないので、三人とも立っているだけだ。
「かかったわね、ソウルイーター。これでおしまいよ━━けぶっ」
サキュバスが勝利を確信するが、そのセリフは最後まで言うことはできなかった。胸から手が突き出して、その魂を掴まれていたからだ。
口から鮮血を吐き、後ろに振り向くサキュバスはマナが立っていることに驚愕の表情となる。
「な、なぜ? あれはダミーなの? いや、ダミーなら気づく。二人とも同じ存在!?」
「そのとおりです。実は私はヨトゥンの権能の一つ、魂を一粒一粒分離させても行動できる『ダイヤモンドダスト』を覚えたのです。なので魂を分ければ、この通り本物と同じ存在を作り出せるのです」
こっそりと、魂を分けて部屋内に展開させておいたのだ。この距離なら力の減衰も少ないし、不意打ちにはもってこいだから。
「終わりです、サキュバス。貴女の魂は美味しくいただきますので、安心してください」
「くっ……リリス様の言う通りになったか。もはやソウルイーターを止めることは不可能と」
「ん? 予想していたのですか? ならなぜここで守りを固めていたのですか?」
コテンと小首を傾げてサキュバスのセリフに不思議に思いますが━━。
「こういうことさ! もう戻ってこれない世界へと飛べ!」
『次元転移』
「!? しまった! その魔法を使うとは予想外で━━」
部屋全体が光り、純白の光がマナたちを覆う。空間が歪み、世界が反転する。
そうして、光が収まると、誰もいなくなったのであった。
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