22話 マナは学園に入る
まぁ、特定外来植物のことはどうでもいいや。今は手出しする時ではないし、ヘーホーと感心しているふりをしておこう。
それよりも学生が増えてきたことにより、挙動不審さがアップしている鍵音の方が心配だ。マナの背中に隠れるようにして、猫背となってよちよち歩きになって、青褪めた顔で周囲をキョロキョロと見ている。
「あわあわあわ、なぜか注目されてます。歩いてるだけなのになんでぇ。うぅ、理由は分かってます。マナの昨日の活躍がニュースになったからですよね………あれだけ騒ぎになったんですから、ネットにもそれはもうバズってお祭り騒ぎに、あ、あれぇ?」
器用にスマホをポチポチすると、鍵音は素っ頓狂な声で叫ぶ。あれれとスワイプして色々なニュースを見て、ハテナマークを目に宿す。
「ねね、みみてててください、このニュース! 昨日のハンターギルドのニュースなんですけど変なんです。ほら、この画像!」
なにか信じられないものでも見たのだろうか? 興奮気味にスマホを見せてくる。
『ハンターギルドで、美少女が恐るべき魔物を退治のハズが?』
『ギュイーン』
『ギュイーン』
サムネが表示されているが、そこにはハンターギルドの建物内で、2匹のマーモットが相撲よろしくがっぷり四つで組み合って、ギュイーンと押し合いへし合いしている画面だった。ちなみにマーモットとは齧歯目リス科の50センチくらいのリスのことだ。
「おかしいと思いませんか?」
「思いませんね」
「えぇぇ! こここれ、これはマナが雷の槍でヘカトンケイルを倒した場面のはずです。なんでマーモット!?」
ケロリとした顔で答えると、なぜか不満いっぱいの表情となる鍵音。でも、それは当たり前なんだ。
「私は撮影されないように、デフォルトでシールドを展開させております、マスター。私を撮影しようとすると、マーモットか、ウサギか、キツネが写るんです」
敵にこちらの姿格好を認識させづらくしているのだ。少なくとも、この世界の魔法とかカメラでは撮影不可だろうね。
「えぇぇぇ……だからハンターギルドの騒ぎがおかしな騒ぎになってるんだ。デマとか偽造動画とか言われてる。というか、マーモットばっかり出てるから愉快犯のデマニュース扱いになってるや。とっても平和なマーモット動画がバズってるね」
「それは良かったですね、マスター」
「ある意味、騒ぎにならなくて良かったのかも。きっと昨日の騒ぎが広まってたら、人だかりが凄いことになってただろうし。……それでもマナは目立つけど」
安堵する間もなく、ジト目となる鍵音。周囲の学生たちがこちらを見て、ヒソヒソと話してるのだ。
「見ろよ、あの美少女。どっかの芸能人か? あんな美少女初めて見たぜ」
「制服を着てないから、1日アカデミーの学生とかじゃないかな?」
「あのスラリとした生脚見ろよ。うへぇ、あの脚で踏まれてぇ」
「隣の子も可愛いな。誰か知ってるか?」
「いや、どこかで見たことはあるけど……誰か思い出せないな」
誰も彼も興味津々だ。それもそうだろう、もう学園も目の前なのに、私服の美少女が学生たちの中にいるのだ。あの子は誰だという話になる。
「うっ、気持ち悪くなってきました。マナを召喚獣として見せつけるのは中止にします。顔を知られてないなら、アパートに戻ってくだ」
もはやコミュ障をこじらせ過ぎており、視線に耐えられない鍵音が吐きそうな顔で、方針を変更すると言おうとするが━━。
「もしかして、編入生? 魔力凄いねぇ、私が案内してあげよっか」
パシッとお手々を握りしめられました。見ると、金髪碧眼の少女が人の良さそうな笑みで、マナの手を握ってきていた。
「まだ制服ないんでしょ? だから私服で来たんだよね? 職員室まで案内してあげるよ」
ニコニコと人懐っこそうな微笑みの少女。肩上で切り揃えた髪はふわりとした、いわゆるふわふわヘアーというやつ。背丈は150センチくらい、ぱっちりした瞳は優しそうで、小顔の美少女だ。小柄なので、小動物的な庇護欲を感じさせる空気を醸し出していた。
握られた手は温かくて、子犬に懐かれたような感じがするよ。まぁ、魔法構造体でしか子犬を作ったことはないんだけどね。
「はぶぶぷ、あのはぶぶぷ」
そして、突然赤ん坊化する鍵音がマナの後ろに隠れる。なんだろう、なんで突然赤ん坊化するの? もはや母親にしがみついて初めて立とうとする赤ん坊なんだけど?
「どうかしましたか、マスター?」
さすがに心配で声を掛けると、はぶぶぷと可愛い声をあげながら、マナの背中に隠れて、こっそりと盗み見るようにして震える人差し指で指さすと小声で言う。
「かかか、彼女は蘇我ルカさんでしゅ。大貴族の蘇我公爵家の長女で、Aクラスのゆーめーじん。アカデミーの三大美少女の中の一人でふふふ」
もはや顔面蒼白にして、今にも倒れそうな鍵音語を理解すると、なにやら有名人らしい。古代文献は調べてきている。公爵家は一番高い爵位なんだっけ。公爵と侯爵、日本語だと同じ響きになるのに、なんでそんな翻訳にしたんだろうとも仲間と話していた。
「あはっ、私のこと知ってるんだ。ん〜、たしかにちょっぴりだけ噂にのぼっているって聞くけど、三大美少女なんて恥ずかしいよぉ。そんなことないって。それに家のことは親が少しお金持ちなだけで私は全然偉くもなんともないから」
顔を赤らめて、パタパタと手を振りはにかむルカ。指さされるという失礼なことをされても笑って気にしない模様。
「そうですね、これからは一大美少女マナ・フラウロスとだけ噂は作られるので、気にしないで良いと思います」
たしかに可愛らしいけど、マナ・フラウロスには敵わない。うん、絶対に敵わない。マナは世界一可愛らしい美少女なのだ。
俺の言葉に、ルカはポカンと口を開けて、ルカはまじまじと顔を見てきて、プッと笑って吹き出す。
「あはは、うん、そうだと私も思うよ。えーっとマナさんだっけ? 凄い可愛らしい顔だもん、そのセリフ、全然嫌味に聞こえないよぉ。お肌もすべすべだねぇ」
マナの頬に手を添えると、優しく撫でて感心する。そうだろう、そうだろう、マナ・フラウロスのお肌は幼女並みにぷよぷよなのだ。いつまでも触ってられる優しいお肌のマナ・フラウロスです。
「ああぁぁ、あ、と、あまりお触りしないでくだしゃい。マナはわたわたわた」
「ん?」
「わたわたわた」
「綿あめ? なんかそんな空気を醸し出しているよねぇ。えーっと、マナちゃんで良いのかな?」
わたわたわたから、セリフを進めることのできない鍵音に苦笑して、ルカはマナを見てくる。
「はい。構いませんよ」
「やたっ、それじゃ、私のことはルカで良いよ。ふふふ、朝からこんな美少女と友だちになれるなんて、まじ幸運。貴方は本屋鍵音さんだよね? 鍵音ちゃんと呼んで良いかな? 鍵音ちゃんも私のことをルカって呼んでね」
「はひっ、はひっはひっ」
過呼吸で倒れそうな残念美少女鍵音である。ぶんぶんと首を縦に振り、今度は振りすぎて貧血になっていた。
「ほら、遅刻しちゃうからついてきて。職員室に案内するから。編入手続きするの大変だよぉ」
「………わかりました」
ひっひっふーと呼吸を整えている鍵音を連れて、職員室とやらに案内されるのだった。
ふむ、少し気になることがあるけど………ま、いっか。
◇
「ええええええええええええええええ!」
職員室に案内されて、教師を前に鍵音が絶叫する。多くの教師や生徒たちが鍵音を見るが、すぐに興味をなくして、また自分の仕事に移る。
鍵音が絶叫した理由はというと━━━。
「なななんで、マナを召喚獣として申請できないんですか? どーして? これまで申請が通らなかったことはないですよね?」
教師へと召喚獣の許可を出してもらおうと鍵音が申請を出して不許可になったのが原因である。コミュ障で人との会話が大の苦手の鍵音であるが、今はそんなことを忘れたかのように大声を張り上げている。
「そんなことを言われてもなぁ………。たしかに召喚獣の許可は普通なら承認される。だが、本屋の召喚獣は別だ。本当に彼女は召喚獣なのか?」
ポリポリと頬をかいて、神経質そうな痩身の教師がマナを見てくる。その瞳には行動的なショートパンツの似合う美少女が映っている。
「う………人間に見えるかもしれませんが、マナは召喚獣なんです。しかも大悪魔! えーっと、本屋鍵音がマナ・フラウロスに命じる! ん~と、私をハグしなさい!」
「ぎゅ~」
召喚獣へと命令を下す鍵音。その欲望全開の命令に従い抱きしめてあげる。
「えへへ、マナは良い匂い……。ではなくて、ほらほら、命令に従いましたです。召喚獣ですよね?」
「本屋、今の命令で召喚獣なら誰でも召喚獣扱いになるぞ? 君はカップル全てを召喚獣扱いにする気かね?」
蕩けた顔の鍵音に冷たいジト目で見る教師である。
「うぐっ、たしかに。それなら、マナ・フラウロスよ、召喚石に戻りなさい! そして、すぐに出てきなさい! すぐにだよ? すぐだからね?」
鍵音が懐から『魂石』を取り出して命じてくる。たしかにそれが一番早い証明方法かな。
「畏まりました、マスター」
やれやれ困ったマスターだこと。素直に『魂石』に入る。命令通りに体を封印化して、光の粒子になると召喚獣は帰還しました。
「しょーかん! すぐに出てきて! はーやーくー!」
マナが召喚されないかもと不安なのだろう。ぶんぶん魂石を振り回すので、すぐに出てきてあげると、心底安心した様子だ。
「せせせ、先生。これで召喚獣ってわかわかわか」
「あぁ、よくわかった。たしかに人間では不可能だな。だが、召喚獣扱いは無理だ。マナ・フラウロスは編入生とする」
「へ? 編入生?」
意外なセリフに目を丸くする鍵音。それに対して、教師は面倒くさそうにため息を吐く。
「本屋、いくらマナ・フラウロスが召喚獣と言い張っても、他人から見たらどう見ても人間だ。これまでも人型はいたが、言葉を扱っても片言だし、その体は炎の塊とか、顔が蜘蛛だったりとか、一目で人間ではないと分かったんだ」
「はぁ……それが?」
「お前ねぇ……ここまで人間と同じだと、人権団体が騒ぎ出すんだよ。昨今はAIの乗ったロボットに人間そっくりの外見にするだけで、ロボットにも人権をと騒ぎ出す輩もいるんだぞ? ただの道具なのにだ。その中で美少女を学校が召喚獣扱いにしてみろ。人を奴隷にしていると騒ぎになるに決まってる。そうなるとマナ・フラウロスを保護せよとか言われて、誘拐されるかもしれんぞ?」
「えぇぇぇ……ううっ、た、たしかに………」
なんともはや、面倒くさい団体がいる模様です。この世界ってよくわからないな。
「だが放置するわけにはいかん。社会性を持たない強力なハンターを放置できないように、彼女も捨て置くわけにいかん。なので、マナ・フラウロスには編入試験を受けてもらう。学科はなし。実戦での試験だな」
どうやら、編入試験を受ける展開になった模様。
にしても、マナのことを知っていたような対応を既に用意されていた感じがするのは気の所為なのかね。
それと周囲の人間モドキたちよ。無関心を装うなら、召喚石を取り出した際に注視するのはやめておいたほうがいいぜ。
マガポケにてルックスYが始まりました!よろしくお願いします〜!
あ、今日はルックスY開始記念の特別更新です。明後日からは4日おき更新となります。




