Ep.411 Side.R ボリージャに吹く風
――俺は駆ける。
振るうハルバードが唸りを上げ、渾身の横薙ぎで魔物を塵に変えた。
背にある花の都を枯れさせない為、俺は他の冒険者やアルラウネの衛士と共に門の外に立っている。
魔力を使い果たしたウィニ猫はミト嬢と一緒に退がらせた。戻るまでは俺が守りきってやる!
「こっから先はぜってぇ通さねえ!」
俺は咆哮を上げ、ハルバードを握り直す。
先程ウィニ猫が放ったフルミネカタストロフィで木々ごと魔物どもを吹っ飛ばしたが、それでもまだまだ沸いてきやがる!
「……そこへ、またアイツかよ……!」
また酸を飛ばす植物系の食人植物の魔物『マンイーター』が近付いて来るのが見えた。
アイツらに酸を吐かせる訳には行かねぇ!
だが他にも魔物は迫ってきやがる。
俺はすぐ近くにいた、球根のような頭のアルラウネの衛士に声を掛ける。
「アンタ! ミゼラッタって言ったよな!? こっちは任せたぜ!」
「……え? ……えええっ!?」
俺は叫びながらハルバードを構え、マンイーターに向けて走り出す!
「オラァ!」
ハルバードを振りかぶって飛び掛かり、上段から振り下ろした。
マンイーターはそれを蔦の鞭で受け止める。
思ったよりも硬くて丈夫な蔦してやがるぜ……!
そして蔦の鞭が伸びて来て俺を引き裂こうと襲い掛かってきたのをハルバードで弾くと、すかさず踏み込んでマンイーターの下段から切り上げた。
マンイーターは胴体を二つに分けて吹き飛んでいた。次だ!
「うぉぉぉ! 必殺! 灼熱・ザ・エックス!」
俺の熱く滾る魔力を込めて、ハルバードを叩きつける!
紅蓮の炎が爆発を起こし、マンイーターの群れを吹き飛ばすと、俺は追撃にバツ字を描くようにハルバードを振って二連撃を放つ!
マンイーターは黒い塵へと消え、俺は着地してハルバードを構えた。
「うおおー! さすがラシードさんだ! 技名ダセェー! 痺れるゥーッ!」
「おう! 俺についてこい――って今なんつったァ!?」
俺は後ろから聞こえた黎明軍の同僚の声に反応した。何でだよカッコイイだろうがよ!
――っとと! 今はそんな場合じゃねぇ。
「うわ! ひゃぁッ!? ……ひぃぃ!」
後ろを振り向いた時、ミゼラッタがハイゴブリンの一体と対峙しており、悲鳴を上げつつも攻撃を掻い潜っていた。
身のこなしは見事だが、ハイゴブリンの攻撃を凌ぐのに精一杯のようだ。
近くの味方も各々精一杯に対応中だ。
「わっ! ――ああっ!」
その時、ミゼラッタがハイゴブリンの剣を槍で受けてしまい、その力の差に大きく体制を乱す。
その瞬間を狙ってハイゴブリンが槍を弾き飛ばしていた!
「――ヤベェ! 間に合えッ!」
俺は叫びながらハルバードを肩に担ぐと、全速力でミゼラッタへと飛び出す。
しかし、マンイーター排除の為に前に突っ込み過ぎていた俺は、周りの魔物に阻まれミゼラッタの前にたどり着けない……!
「ちっ……! ――どけぇーッ!」
俺は強引に阻む魔物の壁を押し通り、ミゼラッタに剣を振り上げたハイゴブリンに向けて、強化魔術を足に込め、強く大地を蹴って飛び込んだ!
……その時の腹に受けた違和感を無視して。
「――ッ! ……ら……ァアッ!」
ハルバードの先端をハイゴブリン頭部に向けたまま飛び込んだ俺は、そのままハルバードを突き刺した!
ハルバードはハイゴブリンの頭を防具ごと貫き、地面に縫い付けた!
そしてカッコよく着地! ……と行きたかったが、直後俺は腹部に激痛を覚えて膝を突いてしまった。
「……ぐっ……!」
見ると、右の横腹から血がドクドクと流れているのが見えた……。
鋭く深い切口……。さっき無理に通ろうとした時、ブレードマンティスの鎌にやられたのか……ッ!
「あぁ……あわわっ……! ラシードさん! お腹がぁ!」
ミゼラッタが俺に駆け寄って来る。
致命傷ではないが止血しないとマズイか。
だが回復出来る奴が近くに居ない。ポーションも使い果たしちまってる。
魔物はまだうじゃうじゃ来るってのに……! 何やってんだよ俺はッ!
退く訳にもいかねぇ……!
……その時だ。ボリージャの中心――大樹の精霊――から温かく優しい風が吹いたのは。
「……なんだ? これ……?」
まるで暖かい何かに守られているかのような不思議な感覚だ……。
ふと横腹の痛みが消えていることに気が付いて、確かめると傷口が塞がってきているのが見て取れた。
周りで戦っている奴も同じようで、膝を着いていた衛士が活力を取り戻したかのように立ち上がり始めていた……。
その温かい風のせいかは分からないが、不思議と魔物の動きが鈍り、襲いかかってくる勢いが弱まっていた。
「大樹の……精霊様……。あ、あたし達を守ろうとしてくれてるんだ……っ」
ミゼラッタが感極まった様子で泣きそうになりながらそう漏らす。
長年ボリージャを守ってきた大樹の精霊が、この危機に手を差し伸べてくれている。
護りたい――。そんな物を言わぬ意思が確かに感じられて、俺はいつのまにか強く拳を握り締めていて、心は熱く燃え滾るようだった。
「……ああ。任せろよ。ここは俺らがぜってぇ守るからよ……!」
街の方に聳える大樹を見やり、俺は再びハルバードを構えて敵に振り向いた。
「ラシード」
するとまた背後から声が投げ掛けられて振り向く。
「ウィニ猫! それにミト嬢も! まだ回復しきってないだろ無理すんな!」
ボリージャの防壁の上に立つウィニ猫とミト嬢、そして数名のアルラウネ達が姿を現したのだ。
俺の言葉を受けたウィニ猫が、何故かドヤ顔でピースしている。
「かいふく、した!」
「はぁ?」
「あ、えっと。休んでいたらね、優しい風が吹いて……不思議と力が湧いてきたの」
ウィニ猫の少なすぎる言動をミト嬢が補足する。
「お前らも、さっきの風に当たって……?」
「ん。かんぜんふっかつ」
体力だけじゃなく、魔力も回復させたってのかよ……すげぇな、大樹の精霊様はよ……!
俺は改めてボリージャの守護者に感謝した。
そして、ウィニ猫達の横に立っていた、桜色の肌のアルラウネが口を開いた。
「ギルドマスターのセルファよ。大樹の精霊様の加護で好機を得たわ。ここから一気に攻勢に転じましょう!」
その声を合図としたかのように、アルラウネの衛士達が一斉に壁上から飛び降り、戦闘に参加した。
ウィニ猫とミト嬢も俺の元へやってきて戦闘態勢を取る。
「ラシード。援護は任せた」
「おう! ……って逆だろォ!? ……ここから一気に巻き返すぜ。行くぞウィニ猫! ミト嬢!」
「ん。ぜったいに守る」
「いきましょうっ」
恐れも不安もなんもねぇ。ただひたすらに目の前の敵をぶっ潰すだけだぜ!
「燃えるぜぇーッ! ファイティングラシードダンス!」
流麗かつ華麗な8連撃で、バッタバッタと斬り伏せていく俺。
「ラシードそれ、ダサい」
ウィニ猫に冷静にツッコまれたが無視した。
「う〜ん、締まらないなぁ……あはは……」
ミト嬢も笑ってないで援護頼むぜ!
俺はハルバードを構えると、勇猛果敢に魔物を蹴散らしていくのだった。




