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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
過去編 第3章『封印の剣』
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Ep.409 Side.C 死線を駆け抜けて

 長い白眉の奥に鋭い眼光を垣間見せるアルマイトから、白賢の名に相応しい魔力の奔流を感じる。


 そして頭上の空を覆い尽くす程の火球が出現し、一気にその数量を増やすと、魔族の軍勢めがけ降下していった!


 灼熱球が隕石の如く黒の海に突き刺さる。アルマイト・レンデのバーンメテオが炸裂したのだ!


 火球は地面に衝突する度に轟音と大爆発を上げて炸裂し、黒き海を蒸発させていった。


「ぜぃ……ぜぃ……。……見よや魔族めがっ! これが儂のバーンメテオじゃ!! ――さあ奔放の魔術師殿よ! 追い討ち頼むぞい!」


 額に汗を浮かべ息切れするアル爺が、杖で示して我を促す。

 無論の事、我も披露させていただこうか。


 アルマイトが空からならば、我は――


「砂よ馳せよ、牙を向け――サンドフィニッシャー!」


 我は杖を振ると、前衛の兵士の前方に広がる砂の大地を、悉く鋭利な棘と化し、さらに魔族軍に向け疾走させた!

 魔物が踏みしめる砂が、鋭利な凶器と化して魔物どもを貫き、その棘は津波のように追い立て突き刺しながら地面へ飲み込んでいく。


「やるのぉ! 今のうちに前衛の体制をより強固にするチャンスじゃのう!」


 次々と魔王の眷属が黒き塵へと還る。

 我とアル爺の極大魔術によって、最前線の負担が幾らかの軽減をもたらした。そしてアル爺の言の通り、好機と見たミリィ率いる支援部隊が動き出していた。


 ――しかしその時の余裕は僅かで魔族は次々と迫り来る。葬ったのは全体のほんの僅かでしかないのだ。

 今のような魔術を連発も出来ん。使い所は見極めねば潰れるのは我らの方だ。


「……」


 我が放った砂槍群に貫かれ、砂の底へと沈みゆく魔物達を尻目に、ハーゲンティが悠然とこちらを眺めているのが目に入る。


 また何か仕掛けてくるか。


「……チギリ殿! 上じゃ! 空から狙ってくるぞい!」


 その時アル爺が声を張り上げる。見れば、グラドの街直上に何かが集まっているのが見えた。


 街へと真っ直ぐに急降下してくるそれの接近に、我の視界がハッキリとその輪郭を認識した。


「あれは……『ハルピュイア』か!」


 空を飛翔する魔物達の群れだ。

 女性の上半身に両手の部分は鳥類の翼、そして下半身は鳥、その足には鋭い爪を持つ。

 ヤツらの行動は残酷だ。主にその足で相手を引き裂くか、もしくは相手を持ち上げ上空へと攫い、高高度から放り投げるのだ。


 翼なき人間では一溜りもない。


「――ッ! ヤツらを街に向かわせるな! アル!」


 上空の異変を察知したジークがアル爺に叫ぶ。


「無論じゃッ! 皆の者対空防御じゃ!」

「アルマイト! 貴殿は前方の敵に集中してくれ。空は我が行く!」


「――! ……頼るぞい、お客人!」


 我の言に刹那の時目を見開いたアル爺だったが、即座に杖を空の方から砂の海の方へと向け直した。


 そして我は空を見上げ、風を制御して飛翔した。この場で空を飛べる者は魔物を除けば我しかいない。

 ヤツらの眼前に立ちはだかり、敵意を我に向けさせれば街への被害は抑えられるはずだ。


 直上からハルピュイアの群れが迫る。

 一直線に飛んでくるのは好都合。我はその群れに杖を向けた。


「これは弟子の魔術だが……。ブレイズ・レイ!」


 ――杖先から発射されたのは灼熱の光線。


 その一閃は空を翔ける魔物の群れの先頭を焼き貫き、その数は激減する。

 ハルピュイアは急制動をかけるも勢いは止まりきれず、後続の魔物にぶつかり、乱舞する。


 ――この隙に!

 我はさらに杖を構え、魔術を行使した。


「フリジットテンペスト!」


 杖先から放射される冷気の渦が、乱舞するハルピュイアの群れを飲み込んでいく。

 凍てつく嵐がハルピュイアを襲い、凍結させて地に落ちていく。


 しかし尚も突貫してくるハルピュイア。

 ……数は減らしたがここからは接近戦か。


「やれやれ。魔術師に接近戦をさせるな……よ!」


 我に近付いてきた一体のハルピュイアを、左手に風の刃を纏わせるタービュランスブレードを発動し、すれ違いざまに斬り捨てた。


「生憎、我は接近戦もこなせる魔術師だがな……っ」


 ――ギィィィィーッ!


 ハルピュイア達は完全に我を脅威と認めたようで、叫声を上げて迫り来る。

 だが街からの援護もある。ここは我が死守してみせよう――。







 グラドの街を背に魔物の大軍を見据えていた。頭上からは激しい戦闘音が響き渡っている。

 俺達の危機に救援に来てくれたチギリが奮戦している音だ。


 後方の杞憂は彼女を信じて捨て去る。今俺らが対処すべきは目の前だ。


 ……だが、こちらにも問題発生だ。


 ここからでもハッキリと視認できる、こちらへ向かってくる三体の巨影。


 先の戦いで倒したサイクロプスの上位の魔物、サイクロプスロードだ。


 まるで魔物の英雄のように漆黒の武具を身に纏い、深紅のマントまで羽織っている。

 王でも気取っているつもりか。


 ……しかし、こいつらは厄介だ。


 通常のサイクロプスでさえも厄介だというのに、上位のサイクロプスロードとなるとその危険度は増すばかりだろう。


 しかも三体同時だ。


 あんなものが城壁に到達すれば、壁上に配置した兵士達が直接攻撃されてしまう恐れがあるし、そもそも城壁が破られかねない……!


 ……ここは俺達の国だ! ヤツらに踏みにじられてたまるかッ!


「……ジーク隊長! あれはマズいですぜ!」


 サルカ騎槍隊を率いて戦場を掛けていたフィンドルが戻ってきてそう叫び声を上げる。


 サルカの数が減っている。騎槍隊の被害も小さくはないか……。


「分かっている……! だが……!」


 俺は頭ん中でヤツらの対処を思い浮かべながら策を見出そうとしていた。しかしどの策も被害が大きいと予想されるばかりの結果に、ガラにもなく迷いが生まれてしまっていた。


 そんな俺に……。


「……隊長。命じてくだせぇ。あのデカブツに突撃しろと。討って来いと」


 静かにそう告げたフィンドルの瞳は決死の色を宿していた。ここでやらねば国が終わることを痛感しているのだ。他の騎槍隊の面々も同じ顔してやがる……。


 迷いを……捨てろ……ッ! コイツらの為に! 何より愛するグラドの民の為に!



「……っ! ――サルカ騎槍隊ッッ!」


 俺は一声大きく言い放ち、全員に向かって呼び掛ける。

全員の視線が俺に注がれるのを感じて言葉を紡ぐ。


「お前らに命じる! 最後の一人となっても……サイクロプスロードを討てッ!」


「それでこそ俺らの隊長ってもんだァ……! 野郎ども!

サルカ騎槍隊の晴れ舞台だぜッ! 行くぞぉぉぉおおおーーーーっ!!!」

「「「おおおおーーーーッッ!!」」」


 俺の言葉に答えたフィンドルが気勢を上げ、サルカの腹を蹴る。

 他のサルカの隊士達も同様に声を張り上げて、サイクロプスロードへと突っ込んでいく。


 すまない……! どうか一人でも多く生き延びてくれ……!


 そして俺は顔を上げ、力の限り叫ぶ。


「前線の兵達よ、守りの陣を解け! 討って出るぞ! あのデカブツをここへ来させるなッ!」

「「「うおおおおおーーッ!!」」」


 大盾歩兵隊も、槍歩兵隊も、それぞれ武器を握り締めて応じる。


 ……そして、その背後で魔術の一斉砲撃が放たれた。

 アル爺率いる魔術部隊の援護だ。


「アル! 他の魔物を可能な限り排除! それとサイクロプスロードを足止めでいい! 頼めるか!」


 俺は城壁の上でアル爺に向かって大声で伝える。


「この老いぼれより先に死ぬ事は許さんぞい! 若!」


 アル爺は杖を向けると、魔術部隊を率いて攻撃魔術を魔族軍に叩き込んだ。


 了承と捉えるぞ、アル!


「前線の兵達よ! 攻陣体制! 大盾歩兵隊、抜剣!」

「「「応ッッ!!」」」


 号令と共にグラドの大盾歩兵達が剣を抜き放つ。

 そしてその傍らに槍歩兵が一人ずつ配置される。

 二人一組となる攻めの陣。グラドの戦い方のもうひとつの顔だ。


「何が来ようとぶちのめせッ! 俺に続けーッ!」


 砂を強く蹴りあげ、雄叫びと共に俺達は走り出したのだった――。

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