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10.乙女


『不器用な初恋』

 つい先週発売されたばかりのライトノベル。

 260~300程度が多いライトノベルではやや多い方に部類される作品で、少年の視点で始まる一巻読みきりの作品で、あとがきの編集やイラストレーターへの感謝の言葉の後に『見たか、親友』と書かれたものである。

 幼馴染や先輩と魅力的なヒロインが表現されている中で、少年が思いを寄せたのは、心が不安定な同い年の少女。

 少女が初めて笑ったのを見てこの人を笑顔で居させたいと願う、何一つとりえのない主人公がもう一度少女を笑顔にさせようとする話。

 その過程でことごとく辛辣なコメントを少女に浴びせられ、時には落ち込んで悩みまくった時もあった。それを励まそうとする幼馴染と先輩はとても魅力的なのだが、それでも主人公はその少女を選ぶ。

 ただ、もう一度笑顔が見たかったから。




 自分の感情をここまで赤裸々に書く馬鹿がどこにいるだろうか。

 友達かどうかも怪しいそんな関係の相手をここまで紳士に思えるだろうか。

 一方通行な思いをここまで拗らせることができるのだろうか。

  


 いいや、あのバカはそうなのだ。


 顔に熱が昇ってくるのが判る。

 多分、水平線から朝日が昇ったせいではない。



 

 

「凛、変わった?」

「へ?」

 部活動が終わり、その2日後。

 彩希に遊びに誘われ、駅前の喫茶店に来ていた。

「日焼けは、してませんし。伊達メガネをかけている位しか思いつきませんが…」「外見もいつも以上に可愛くなってるけど、何かこう雰囲気が柔らかくなったのよ」

「そうでしょうか?」

 マスター自慢のコーヒーにミルクと砂糖を入れながらそう答える。

 うん、美味い。

「去年まではまったくもって休日にスカートの類穿かなかったじゃない」

「あ」

 確かにジーパンとかホットパンツとかで、スカートの類を着た記憶がない。

 それに対して今日は制服よりも丈の短いスカートを着ている。

 …いや、なんとなく上を選んでいたらこれだと直感で考えてしまい、スカートになったのだ。

 長いとこの暑い夏の日差しの中熱がこもって辛いとか考えたわけではない。なんとなくそう思っただけなのだ。

「ま、私は凛が乙女な感じの初々しさを見て眼福だからいいんだけど」  

「訳が分かりません」

 若干不貞腐れ、睨むものの彩希は全く気にしてないようにニヤニヤするのであった。

 …このコーヒーいつもより甘い気がする。

 砂糖とミルクいつもと同じなのに。




 その後も先に振り回されて、気が付けば夕日が傾き始めていた。

 公園でクレープが売っていたので思わず購入。

 お互い、食べさせあいをすると言う数年前の絵面であったらホモォな人たちが現れるものだと思った私は正常筈である。

 いつもとは違って雑貨を見るとちょっとテンションが上がったり、カラオケ行ってもいつもより調子が良かったりしたくらいである。

 今日は気分が何時もより良いみたいだ。

「いつもより、ホント笑顔ね」

「そうでしょうか。気分が良いことは確かです」

「…仲良くなり始めたころとはまるで別人ね」

「元から私はこのような感じです」

「いいや、作り笑いを浮かべる人形みたいだったわよ。やることなす事完璧で男子が思い描く女子高生その物って感じの」

 …

「最初は不気味だと思ったわよ。けど中身は完全にお人よしのどこにでも居そうな子だった」

「おひとよし…」

「だってそうでしょ?私が猫剥そうとおふざけ半分でテストの点数勝負しかけても私が負けたら、勉強見てくれたじゃない」

「それは、努力する気がある人がくじけるのを見たくなかっただけで」

「そこら辺よ。まぁ、目的はあっさりとあんたのおかげで達成できたし」

 自分に真正面から挑んでくる相手があのバカ以来、初めてだったから。

「そんな猫被ってた子がここまで乙女になるとは一体どんな相手なのやら」

「乙女にはなってませんよ」

 乙女になっている?

 それは無いだろう。まだ女らしい人間にもなっていないのに。

「きっと凛を遙かに上回るハイスペック超人ね」

「…あのバカは、そんな奴じゃない」

「ほー、ダメ人間に惚れちゃうタイプだったか凛は」

「バカだけどダメ人間じゃない!むしろ---」

 反論を仕掛けると、彩希がやたらとニヤニヤしていたので反論は途中で止めた。

「気になるわね、その人……ってそんなに睨まなくても取らないわよ。私ちゃんと愛する彼氏いるから」

「睨んでない」

「嫉妬?」

「嫉妬でもない!」

「あー、もー可愛いな凛は!」

 …解せぬ。

 何で私があのアホにそんな感情を向けないといけないのか。

「な、なでるな!」

「凛の完全素の状態、ホント可愛いわねギャップ萌ってやつ?」

「…違います」

「否定しなくても良いのに」

「 ち が い ま す ! 」

 敬語、抜けてるのに気が付かなかった。

 その後しばらく先に撫でまわされ、暗くなったと言うことで帰ることにした。


「あ、そうそう凛」

「なんですか?」


「別に乙女って奴は細かい規定はないわよ」

 

 --ただ一途に男の事を思う、甘い恋をしている人の事を言うの。


 --どうせ、まだ自分の心は女にすらなってないとか思ってるんでしょうけど、完全に恋する少女のそれよ。



 そう言って彩希はスタスタと帰っていった。

 …私に何が言いたかったんだ。

 私の心は、言葉遣いと同じでまだ捨て切れていないのに。

先輩の影が消滅しかけている?


次回こそ出ます、多分。


恋を知らない人が恋を知って、辛さを知って、最後はハッピーエンドが私の好みです。

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