マルモの魔法教室ー2
このパートには微量のグロ表現があります。苦手な人は注意してくださいm(__)m
「じゃあ、次は梓の言っていた対となる属性を使う魔法『対極魔法』の説明をするわね」
名前はそのままだが、マルモ表情は今までで一番真剣だ。これまでが真剣でないかというと、そういう訳でもないのだが真剣度合いが一番大きいのが、今話しているこの『対極魔法』だ。
「とりあえず、一番威力の低い対極魔法を見せるわ」
そう言って、マルモは火と水の属性を掛け合わせる。
すると、炎でも水や氷でもない不思議なもやもやしたものがマルモの手のひらに収まるくらいの小ささで現れた。
「『水焔』」
その魔法を1mはある大きな岩にぶつける。
瞬間、爆音と共にその岩が砕け散っていた。
「こ……これが対極魔法なの……?」
想像以上の攻撃力に戸惑う。一番威力の低い対極魔法でさえ、この威力なのだ。これ以上の高威力の魔法となればマルモの言った通り、一人で国軍を倒すことも可能なのかもしれない。
「『対極魔法』は属性間で起こる反発エネルギーをそのまま攻撃に変える魔法だから、使いこなせれば強いけど……失敗した時の代償は普通の魔法とは比べ物にならないわ。――――最悪、死んでしまう事だってある……」
「死―――!?」
梓が動揺しているので、マルモは梓を落ち着かせるよう、ゆっくり話しかける。
暫くして、梓も落ち着いてきたようで頭を下げて。
「ごめんなさい…取り乱しちゃって」
「気にしなくていいわ。こんなこと話して動揺しないほうが、おかしいんだから。さっき言った通り私達が貴女達を強くなるまで守る、だから今は強くなるためにどんな事でも覚えなさい」
その言葉の後にマルモが小さく、ごめんなさい…と言っていたのを聞いて。
「心配しないでください。精一杯頑張ります!」
そう言って、梓は火と水の属性を掛け合わせる。対極魔法で許される誤差はほんの少しだ。もし、少しでも比率を間違えると、反発するエネルギーが自分に牙を向くことになるので、梓も必死になって属性比率を合わせる。
少しすると、梓の手のひらにマルモが作り出したものと同じものが作り出された。
「やった……出来たよ!」
梓が気を緩めた一瞬、魔力の制御が乱れ魔法が崩れる。
(しまっ――――)
気づいた時にはすでに遅く、魔法が暴発する。
先ほど「油断が死を招く」と言われた側から、この失態である。
(私、死ぬの……?)
死を覚悟し、目を閉じる。
だが、何時までたっても傷みどころか、今聞いた爆音さえ聞こえない。代わりに聞こえたのは、
「……っ!だい…じょうぶ……?」
マルモの苦しげな声だった。
「え……?マルモ……?」
「『空間断壁』で爆発を別次元にずらしたわ…」
ゲホッゲホッと咳き込むマルモを見ると、右手首から先が吹き飛んでいた。今は、手で無理矢理押さえているが、勿論その程度では大量の出血が止まるわけもない。
「いや……血……血は……イヤ……イヤァァァッッッッ!!」
マルモを自分が傷つけてしまった事と、血にまみれた明日香の姿を思いだし、半狂乱に陥る。
「おち…つき…なさい!『光の加護を受けし精霊よ我の声に応え我の傷を癒せ『エクスキュア』』」
マルモが魔法を詠唱し、右手に残った手を当てる。すると、傷が塞がりまるで逆再生のように右手が再生される。
右手を再生し終えると、梓に向けて魔法を使う。
「少し眠っていて……『フレイスリーブ』」
梓はその声と共に深い眠りに落ちた。
「あれ……私…一体何を……?」
目が覚めたときには、既に陽は沈み、月が太陽の代わりをしていると言わんばかりに輝いている頃だった。
木に寄りかかったまま眠ってしまったようで、眠る前の事を懸命に思い出そうとしていると。
「ようやくお目覚め?ちょっと心配したわ」
月の光で、更に幻想的になった銀髪をなびかせたマルモがこちらへやって来る。
その右手首にはまだ薄く魔力の反応が残っていた。それを見て、何をしたのか。してしまったのかをすべて思い出す。
「こ、来ないで!」
拒絶ではなく、自分のせいで他人を傷つけてしまったという怯えからその言葉を無意識に発していた。
だが、マルモはそんなことはお構い無しに近づいてきて。
「落ち着いて。私は貴女を責めたりなんかしない。失敗や間違いは誰だって起こすものだから」
「で、でも私のせいでマルモの……」
また、自分のせいでマルモを傷つけてしまわないかと怯えている梓に。
「梓…貴女には見せておくね。『顕現・虚空双星』」
呼び出したのは、古めかしい二丁銃だ。それを自分の胸にあて。
「なに、しようとしてるの……?」
梓の声も聞かず、引き金を引く。
パン、という軽い音と共にマルモの胸に小さな風穴が開く。そこから、紅色の血がどんどん噴き出してくる。
糸が切れたように、倒れるマルモを受け止めると、手のひらに赤い液体がベットリとつく。
「マ……ルモ……?」
何が起こっているのか理解できていない梓が、震える声で名前を呼ぶ。
「…ッゲホッゲホッ!あ…ずさ…これで…わかった…?」
マルモが本来ならあり得ない状況で話しかける。何故ならマルモは胸を―――自分の心臓を撃ち抜いていたからだ。
「なんで……心臓を撃って生きてるの………」
怯えている梓を嘲笑うように、マルモの傷が何もしていないのに治っていく。
傷が塞がり、自分の穴の空いた服を見て「やっぱりもうちょっと加減したほうがよかったかな…」等と、呑気に考えているマルモに。
「ねぇ、聞いてるの!?」
叫ぶ梓に、マルモは溜め息をついて。
「……私は禁忌の魔法を使って不老不死になってたの」
「それって…死ぬことがないってこと…?」
「そうよ、でもね『死ぬことがない』と言うわけではなくて『死ぬことができない』のよ」
梓にはその意味が分かっていなかった。普通の人間は不老不死と聞いたら、飛び付いてきそうな話だが、マルモはそれを『死ぬことができない』とまるで呪いのような言い方をする。
「考えてみて、自分の友達がどんどん年老いていくなかで、自分だけが全く年老いていないの。そして友達や仲間が死んでいくなかで自どんどん独りぼっちになっていくの……貴女に想像できる?」
そう言われると確かに呪いのような物なのかもしれない。と梓は思う。
「でも、今不老不死に『なってた』って言ったよ…?」
「ふふ、よく聞いてるわね。そうよ、私は不老不死だった。でも翠さんは私を助けてくれた…『関係ないから友達になって』ってね」
こんな化け物みたいな私をね。と自虐的に笑う。
「それがなにか関係あるの?」
「翠は私の呪いを解くことは出来なくても、呪いを軽くすることはできた。私が死ぬ時は翠さんが死んだとき、『死ぬ時は一緒』って言ってくれたの」
そう話しているが、でもさっきみたいなことは不死身じゃないと出来ないからね~なんて軽いのりで話しているので。
「何で、マルモはそんなに強いの…?私、そんなに強くなれないよ……」
その言葉は、異世界に来ても気丈に振る舞っていた少女の心の声だった。
「無理に強くならなくてもいいの。その代わり、明日香は貴女が守るのでしょう?だから、そのくらいは最低でも強くなりなさい。私達は自分達でどうにかできるわ」
だって翠さんの仲間だから。と自慢気に言ってみせる。
「ごめんなさい…心配かけて…私強くなります。明日香もマルモさん達も皆守れるくらいに!」
楽しみにしてるわ。と月光に照らされたマルモの笑顔は梓の傷ついた心を優しく包み込むような笑顔だった。
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