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黒薔薇の騎士団  作者: すずしろ
E-6 思いの果てに
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約束の為に

 雪那が必死の戦いを終えた頃、明日香たちの上空は青ではなく銀色に染まっていた。

 それのすべてが敵だと、直感的に気付いた二人はあまりの敵の多さに怯んでしまう。

 「お、お姉ちゃん…あれ、全部………敵、なの?」

 いつもは強気な明日香でさえ、今回ばかりは少しばかり戸惑っていた。目視では数え切れないほどの敵を見てしまい、どう対処すればいいのか分からなくなっていた。

 楓達も同じ空を見ているのだろうが、どういう風に感じているのだろう。

 「なに…あれ……」

 「知らない、よ…あんなの」

 七海と八重は味方であるはずの相手の動きが分からず困惑していた。いつの間にか壱月の姿は消え、二人は置き去りと同じような状況になっていた。

 梓は小さく舌打ちすると、

 「二人はさっさと逃げなさい。狙いは私たちなんだから」

 梓がいきなりそんなことを言うので、七海たちだけではなく明日香まで面食らっていた。

 「…なんで、いきなりそんな事言うの?さっきまで殺しあってたのに」

 七海が正論を返すと、梓は恥ずかしそうに吐き捨てる。

 「別に、あなた達はこの戦いに巻き込まれているだけだって……何となくだけど、そう思ったから。それだけよ」

 二人が梓を見ると、ぷいと目を背ける。それが照れ隠しだということは誰にだって分かるだろう。

 八重はありがと、と一言だけ言って七海とどこかへ去っていった。

 改めて、空を見上げるとその形が変わっていることに気付く。あんな数の相手をどうやって処理するのかと梓は頭をフル回転させて考えていると。

 「たくさん出て来たのね…相手も随分無茶しているっぽいけど」

 「エルザ…?」

 横にはエルザの姿があった。楓や花陽は既に何かの行動を始めているようで、せわしなく動く姿が見えた。その表情は前の何か引っかかっているような表情とは違い、随分とすっきりとした表情だった。

 隣のエルザは誰に言う訳でもなく、一人口を開く。

 「私達の力って別の世界で『一騎当億』って言われるくらい凄いから、少しくらい大丈夫だと思ってたけど……ダメだねー私だけじゃ」

 その言葉は、まるで他の誰かを待っているような、そんな風に聞こえた。自分達の仲間が集まればどんなことでもできる。そう、言っているようにも思えた。

 「ヒーローと秘密兵器は最後の最後まで取っておかないとね♪」

 それは、まるで合言葉のように二人の耳に届いてきた。


 ────目を開けると、私は列車の中にいた。何が起こったのか分からないけど、とにかくいた。窓の外は真っ白で時々花畑のようなものを通り過ぎていた。前後の記憶が曖昧で、何をしていたか、何でこうなったか全く分からなかった。

 それに、何処に向かっているのかとか、何で乗っているのか、色々と考えるべき事はあったが、とにかく今はこの列車内を歩いてみることにした。

 人の気配は閑散としていて横を通り過ぎても何の反応も示さなかった。いくら他人でも、何かしらの反応はあるはずなのだが、それが全くない。

 まるで、死んでいるみたいに。

 「あ、そっか……私、死んじゃってたんだ」

 私は────黒音白亜は一番大切なその事実を思い出した。


 列車は何処へ向かっているのだろう。随分と静かなそれは、真っ直ぐ路線を進んでいる。時折聞こえるかたんかたん、という音が私には心地良く聞こえた。

 列車の後部へと歩いていくと、椅子の置かれ方が変わり、食堂車のようなつくりの部屋に出た。ここも同じように静かなのかと思って歩いていると、賑やかな声が耳に届いてくる。

 「だーかーらー!何でそうなる訳!?美香ねえずるい!!イカサマしてるんじゃないの!?」

 「してないわよ?陽菜はしなくても大丈夫だしー」

 覗いてみると随分と仲のいい姉妹だった。悪口を言い合っている割には、表情は嬉しそうで、それがじゃれあっているかのように、私には見えた。

 「ん?誰かいるのー?」

 妹の方の少女に見つかり、反射的に私は隠れてしまう。とことこと歩いてきた少女にはもちろんすぐに見つかってしまう。

 「おねーちゃん誰?」

 「私?」

 私がそう言うと、少女はおねーちゃん以外いるの?と正論を返された。それもそうかと私は自己紹介をする。

 「黒音白亜、白亜でいいわよ」

 「じゃあはくあ、なんでここにいるの?」

 そう言われても、私自身も何故ここにいるのか分からなかった。どうやって説明しようかと困っていると、前の扉が開いて車掌服姿の少女がとことこと歩いてきて、

 「みんなー!乗車券持ってるー?」

 随分と高いテンションで聞いてくる。そう言われても、持っているかどうかなんて分からない。

 どうしたものかと呆けていると。

 「右のポケットに入ってないの?」

 そう言ってきた。私は、言われるがまま右ポケットを探ると、確かに硬い感触が返ってきた。それを取り出すと、

 「ほんとに、あった…」

 手のひらにあるのは白いチケット、行き先は簡素な文字で『終点行き』とだけ書いてあった。

 姉妹も、同じように乗車券を取り出すと、車掌服の少女はぱちぱち、と切符を切っていく。

 「それで、何をもめてたの?」

 少女が姉妹に聞くと、妹の方が食い気味に。

 「おねーちゃんがイカサマするんだよ!投げたコインの裏表を絶対当てるんだもん!!」

 聞いている姉の方は苦笑していて、申し訳なさそうな表情をしていた。

 少女は話を聞いた後に、

 「それじゃあ、おねーさん。一回やってもらっていいかな?」

 姉の方は仕方ない、といった感じで妹のほうを向くと。

 コインをもう一つのポケットから取り出す。少女が調べていたがどうやら普通のコインのようで、

 「イカサマじゃないんだけどな…陽菜、裏か表かどっち?」

 陽菜と呼ばれた少女は表!と元気良く告げる。姉はコインをピン、と跳ね上げるとくるくると空中で躍り、姉の手の甲に着地し、もう一つの手で蓋をする。もちろん、細工をするような仕草は私からも見えなかった。

 開かれた手の甲に乗っていたのは裏のコイン。つまりは、姉の方があっていたという事になるが、これだけではイカサマと判別できる訳ではない。

 二回目も陽菜は表と答えた。先ほどと全く同じように投げたコインは同じように手の甲に落ちる。そして、開かれる中身は裏。

 三度目は逆に裏と答えた。それも陽菜の期待を裏切るように正反対の表を向いていた。

 三回連続で外れてくると、流石に運かどうか私でも怪しいとは思ってくる。だが、少女はそれだけ見ると、姉と同じような表情で苦笑すると、

 「確かに…イカサマは、してないね」

 「でしょう?」

 分かってくれた?と言わんばかりの姉の表情と納得がいったような少女の表情に陽菜はぷりぷりと怒り出す。というか、私も分からないので教えて欲しい。

 少女は姉と同じようにコインを持つ。そして、私に。

 「裏か表か、十回連続で当ててあげる」

 挑戦的な笑みで言ってくれる。流石の私も、そんなこと表情で言われては我慢ならない。

 「なら、裏、表、表、表、裏、裏、表、裏、表、裏」

 私がそう言うと、少女はコインを宙に躍らせ、手の甲へと落とす。

 ────その結果は、全て、私の言ったとおりのものになった。

 仮に偶然だったとしたら約千分の一、普通ならほぼありえない確立だ。

 「な、なんでそんなに当てられるの?」

 ここまでぴったり当てられてはそのタネを聞きたくなってしまうのが人の性だ。私が人だとかそうでないとかではなく、言葉のあやだ。

 「理屈だけならすっごく簡単だよ?だって、コインの落ちる方向を見て取ればいいんだから」

 「はい?」

 私の口から素っ頓狂な声が出てしまう。それもそうだ。コインの落ちる方法を見て取るなんて方法普通なら不可能だ。

 「そ、そんなことほんとにできてるの…?」

 「いや…できてるの?って、いまやったじゃん……」

 少女は呆れぎみに言っていたが、イカサマでもなければ見抜けるトリックでもない辺り証明しようがない。

 私も陽菜と同じようにもやもやとした気分になりながら、姉の方に勧められるままテーブルを囲うように座る。ただ気になるのは……

 「なんであんたまで座ってるのよ…あんた車掌なんでしょ?」

 少女は気だるそうに、椅子をかたかたさせながら。

 「車掌っていってもやることないんだもん…私はただ送り届けるか、それともやり直すかを聞くだけなんだから」

 「やり直す…?」

 その言葉が私の耳に引っかかる。それが、何を意味するのか私は聞かずにはいられなかった。

 「そうだよ、やり直す。世界も、環境ももう一度全く別のところからね。もちろん、そのまま送られることとの選択。でも、記憶だけはそのままって言うこともできるけどね」

 「────っ!それ、どうすればいいの!?」

 私は、陽菜達が驚くほど早く食いついた。

 私には、約束がある…だから、やり直すなんて選択肢を見過ごす訳にはいかない。

 「べつに、簡単だよ?私とこの列車から降りて、企業秘密だから言えないけどちょこちょこっとやれば、白亜ちゃんはもう一度初めからやり直すことができるよ」

 そんな簡単な方法で、本当にやり直すことができるのか、なんて考えも頭をよぎったが、死者を運ぶこの列車の車掌だ。それくらい何とかなるのだろう、と私は思った。

 「一応、皆にも聞いているんだよ?やり直すか、そうでないかを。でも、案外やり直すって人はいないんだよ?」

 「どういうこと?」

 記憶をそのままにやり直せるなら、別に困ることでもないだろう。と、私は思っていたのだが、どうやら違うようで。

 「結局、ここにくる人ってあんまり未練を残してない人なんだよね。本当にやり直したい人はまた別の場所でそういうやり取りが行われているから……あくまでも、ここは最終確認の場所。やり直さなくていいのか、って送られることを望んだ人にもう一度だけ選択を与える列車なんだから」

 見た目からは想像もつかないような達観した表情でそんなことを言う。見た目と中身が一致していない事なんていくらでもあった私としては驚く心境でもない。

 少女はまた先ほどの無邪気な表情に戻ると、私に問いかける。

 「貴女は、やり直すの?」

 愚問だ、答えなんて聞いた瞬間決まっていたのだから。

 「もちろん。私には、約束があるのよ。もう一度会って今度こそ────心の底から、本当の友達になるために」

 私がそう言うと、少女はそう、とだけ言うと陽菜達に向き合って。

 「あなた達はいいの?」

 そう聞いた。二人は満足そうな表情で首を振って答えた。

 分かった、そう短く告げた後、指をぱちんと鳴らす。すると、周りの景色が一変する。

 列車の中から、真っ白な空間に放り出された。先ほどの窓から見えていた景色とは違い、花畑など何処にも見えないただただ真っ白な空間だった。

 「貴女は約束のために、もう一度やり直すのね?」

 私は頷く。言葉を交わさずとも伝わるとなぜか思った。

 少女は、唄のようなものを歌う。歌っているはずなのだが、

 「私の名前、言ってなかったね」

 「え?あ、うんそうだね……それが、どうかしたの?」

 「いや、私は白亜ちゃんの名前知ってるのに白亜ちゃんは私の名前知らないなって思ったから」

 確かに、私はその娘の名前をしらないけれど、だからと言って聞いても変わらないような気もした。

 だけど、名乗ってくれるのなら、聞いておいた方がいい。

 「じゃあ、改めて貴女の名前を教えてもらえる?」

 私がそう言うと、少女は笑って、

 「私は、翠、風城翠だよ♪─────それじゃあ、本物の命でやり直してきてね。悔いの残らないように」

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