過去なんて関係ないー3
「私達の勝ちですね、明日香さん梓さん」
ドームの外の医務室で目を覚ました明日香は、まだ痛む体とアリシアの言葉を聞いて。
「うぅ...私達負けちゃったの?お姉ちゃん...?」
「そうね...私達は負けた......」
梓と明日香が項垂れていると、凜が部屋に入ってきて。
「でも、全く敵わなかった訳じゃないですよ?アリシアさん達のあの技は、普段の戦闘でもあまり見ることが出来ませんから」
丁度いいタイミングでアリシアとマルモが部屋に入ってきた。
「あ!アリシアさん、異世界に来たばっかりの明日香さんにいきなり『絶対領域』何て少しやりすぎじゃないですか?」
凜がアリシアを責めるような口調で言うが、アリシアはいつもの柔らかい口調で。
「だ、だって明日香ちゃんあのままだと危なかったから...」
「私にはそうは―――」
凜が最後まで言い終わる前に。
「アリシアの判断は間違って無いわ。あの後私が回復魔法をかけたら、明日香の体は全身ボロボロだったのよ?」
「明日香、それほんとなの...?」
梓が明日香に顔を近づけて聞いていたが、明日香が「は~な~れ~て~」と梓を引き離していたのでマルモが憶測を含めた説明をする。
「ええ、明日香自身もあのオリジナル技は、自分の身体に大きな負担がかかってまだ実戦で使う気はなかったんだろうけど――――アリシアが、明日香の実力を試すために言った言葉が悔しくてあの技を使ったんでしょう?だから、あなたが一撃で明日香を倒したんでしょうアリシア?」
アリシアはマルモの言葉に頷く。
マルモの説明が終わると、梓は明日香に向き合う。梓の目は真剣だったので明日香も本当の事を話した。
「マルモの言ったことで大体あってる...アリシアにあんな事言われて悔しかったから、一回驚かせてやろうと思ったの......」
明日香が沈んだ声で梓に話すと、梓は仕方ないわね。と頭を撫でた。
「まあ、今回は明日香が無事だから許してあげる」
アリシアが明日香の前に出て「ごめんなさい!」と頭を下げる。
「え!?いきなりどうしたのアリシア?」
「明日香さんに戦いの時に『劣化コピー』と言ったことです。あれは本心からではなくて、明日香さんの力を見るために言ったことなので決して本気にしないでください!」
明日香はアリシアがずっと頭を下げているので。
「その事ならもう気にしてないよ。―――でも、ちょっと本当の事を言ってるのかもって戦ってる時は思っちゃったな。だってアリシアは私のお母さんを知ってるでしょ?」
アリシアは明日香の言いたいことが分かった気がした。
「翠さんを知っている私達だから、本当の事を言っているかもしれないって思っちゃったんですね...」
アリシア達が暗い空気になり始めているとマルモが後ろから。
「そろそろ、私の本題に入りたいのだけど良いかしら?」
空気になりかけて少し不機嫌なマルモに、明日香達はビクッと身体を強ばらせ頷いた。
「じゃあ、二人とも着いてきてくれるかしら?」
マルモに連れてこられた場所には床一面に複雑な魔方陣が描かれている。見た感じや床から滲み出る魔力でかなり強力な魔法を使うのだろうということが感じ取れた。
「ここは、何の魔法を使うの?」
「一般に特殊魔法と呼ばれるものを使ったりするときに使うわ」
特殊魔法と言う聞きなれない言葉に明日香が。
「その、特殊魔法ってどんなのがあるの?」
「そうね...使用者の代償やダメージを代わりに受けてくれる『霊晶』を作ったり、人の成長を止める『時間凍結』とかね」
聞くとどちらも一般的には禁術・封印魔法となっているようだが、翠達のギルドは特例らしい。
「へぇ~じゃあ、アリシア達もその『時間凍結』をかけてあるの?」
「はい、見た目はこんなのでももう何百回か冬を越してますからね」
アリシアの言葉に思わず明日香が。
「え!?ということはアリシア達っておb――――」
「それ以上は―――」
「言わないほうが身のためよ?」
明日香も今の一言は地雷だと気づいたのか、口を閉じる。
「明日香達にもこの術かけるけど良いわね?」
二人が頷くとマルモは呪文を詠唱する。
『我、呼び出したるは時を駆ける白き神馬、我の声に応え此処に現れよ!!』
魔方陣が輝き出し、目の前に明日香達の倍はありそうな巨大な白馬が現れた。
「久しぶりね、カトレア。呼び出して早速だけど良いかしら?」
すると、カトレアと呼ばれた白馬は。
「中々呼ばれず退屈だったが、私の能力上やむを得んからな構わないぞ」
「え!?あの馬喋ったよ!?」
梓も驚いているが、顔に出さず冷静にカトレアに質問する。
「あなたが私達の時間を止めるの?」
「少し違うな。時間を『止める』のではなく『奪う』といったところか」
白馬は、明日香達二人に。
「覚悟は良いか?術をかけたら、もう元の人生には戻れなくなるぞ?」
明日香は、今更といった表情でカトレアに応える。
「私達の人生なんて今まで偽物だったもの。あえて言うならここからが本当の私達の人生ってやつかな?」
カトレアがフッと笑い。
「そこまでの覚悟があるのなら問題ないな。少し力を抜いていろ」
瞬間、二人の身体を絢爛な装飾がされた剣が貫いた。
だが、二人に痛みはなく不思議に思っていると。
「二人とも終わったわよ」
マルモの言葉を聞くまで、二人は先程のが下準備だと思っていたのか。
「も、もう終わったの...?」
「あまり実感が湧かないわね......」
二人が首をかしげていると、マルモが二人に青色の結晶を渡した。
「これ、何?」
「この結晶は二人の『時間』を圧縮して物質化させたものよ」
明日香がへぇ~と青い結晶の覗き込んでいると、明日香は自分の過去の記憶がこの結晶の中に見えた。
「お姉ちゃん!この結晶中に私達の昔のことが写ってるよ!」
梓も結晶を除くと、確かに過去のことがこの結晶に写りこんでいた。
「本当に時間を圧縮したんだ...」
「納得していただけたようで良かったわ」
明日香は過去の時間が、この結晶に移されたということは理解したがひとつ気になることがあった。
「じゃあ、これからの私達の時間はどこにいくの?」
「この結晶に蓄積されるのよ」
というマルモの言葉を聞いて明日香は一番気になっていたことを聞く。
「それで、どうして私達の時間を止めたの?」
明日香からすれば大体予想はついたのだが、答えも予想通りの。
「「特訓よ」」




