生徒会の日常?
明日香達が生徒会に入って、次の日。本格的に活動を始めるとの事で、明日香達は学校3階の生徒会室にやって来ていた。
「うぅ……なんか緊張するぅ…」
明日香は生徒会室の目の前で、戸惑っていた。確かに、普段は入らないような場所に行くと、緊張するのかもしれない。
梓がそんな明日香をフォローするように扉を開く。
「お~いらっしゃい~」
重苦しいようなイメージをしていたのか、明日香は呆気に取られる。中では特に会議のようなことをしている訳でもなく、何やら楽しそうに会話していたからだ。
「あれ……?」
「ん?どしたの、明日香ちゃん?もしかして、もっと堅苦しい場所かと思った?」
楓の言葉にこくりと頷く。
「だ、だって……生徒会って…真面目な人がいっぱいいる、ような気がするから……」
明日香がもじもじしながらそう言うと、楓は確かにね~、と同意して返す。入り口で立っていると、後ろの扉が開き、詩緒が部屋に入ってくる。
「あ、生徒会……入ったんだ…これから、よろしくね…」
明日香はあ、うんと生返事を返して、どうすればいいのか困っていると、花陽が明日香達に気付いて。
「あ、二人とも、こっち来て。やってもらうことが早速あるから」
紙を渡され、そこに書いてあった文面には。
「ん…っと、なになに…っていきなり『呪獣の討伐』!?」
二人への討伐依頼が既に届いていたのだ。花陽曰く、実力のある生徒は入学直後から依頼が来る、とは聞いていたが、ここまで早いとは想像していなかった。
明日香は、その紙面を改めて見直す。内容は旧居住区に住み着いた呪獣の討伐、となっていて、編成も明日香と梓、と決められておりその情報力の高さに驚きと少しの恐怖が入り混じった。
「しかも…今日やれって……」
中々に無茶な依頼だが、明日香達ならできない依頼ではない。
「大丈夫?今回の依頼、確かに呪獣は旧居住区に住み着いているって、報告があったけど…依頼主が明らかじゃないの。前にも、依頼主不明の依頼が来て、それが原因で生徒が大怪我を負った事件があったし……」
楓が心配そうに言ってくる。
明日香は、心配いらない、と言わんばかりの笑顔で。
「大丈夫!私達、そこまで柔じゃないの、知ってるでしょ?」
「まぁ…それは、知ってるけど…」
楓は、それでも心配、と言った表情で二人を見つめる。
いくら、実力があると言ってもそれで不安が無くなるわけではない。戦闘で絶対はあり得ない、それを楓は知っているからここまで執拗と言っていいほどに心配しているのだ。
「……じゃあ、約束。帰ってきたら美味しいラーメン屋行くから、絶っっっっっっ対帰ってくること!!会長命令!!」
楓の言葉に、明日香達二人は了解、と返す。
「それじゃ、いってらっしゃい」
明日香達は学校を出て、地図の場所へと向かう。まだ地理に強くない二人は楓に描いて貰った地図で向かおうとしたが、
「……ねえ、お姉ちゃん…分かる?」
「……いや、控えめに言って…全く」
描かれている地図はオブラートに包むならば、画伯が描いたような地図で、読み解くのにかなりのスキルを要する地図だった。
端的に言うとド下手だった。
明日香は行く直前に花陽にそれを聞いていて、代わりの花陽が描いた地図を貰っていたので、道に迷うことはなく何とか回避した。
「…うん、花陽の方がいい……」
明日香は、ぼそっと呟く。しばらく地図通りに歩くと、どんどん建物が寂れ、人気は加速度的に減っていき数分も歩けば本格的にゴーストタウンとなる。
「この辺…だよね…」
明日香が身体を強ばらせながら、辺りの様子を探る。微かに聞こえる唸り声、ここで間違いないようだ。
「さてどう片付けようかしら?」
梓はレイラを杖の状態で呼び出し、臨戦状態に移行する。明日香も同じく、緋焔と闢零を腰に帯刀し準備を整えると、
「むこう方もやる気充分みたいよ…」
梓のその言葉に反応するかのように、呪獣達が建物の中から、影から、そして自分達の背後から文字通り沸くように現れる。
「さて、と……お掃除開始よ!」
梓は杖を握りしめ、敵の中心に突っ込む。そして、次の瞬間、梓の魔法が炸裂する。
「『紅蓮の煌撃』!!」
梓の声を容易く消し去る轟音、そして、あらゆる物質を等しく、無情に焼き尽くす紅蓮の炎が辺りを蹂躙する。
呪獣の断末魔、動物がそのまま焼ける嫌な臭い。炎がばちばちと爆ぜ、周りの酸素を奪い取る。
明日香はその中でも、冷静に生き残りはいないか、伏兵は潜んでいないか、と心を落ち着かせて感じていた。
だが、今すぐに奴等の仲間がやってこれるような距離に仲間はいないことを明日香は確認した。
「上手いこと明日香を避けてあいつらまとめて焼けるような感じで使ったけど、どうだった?」
「こういう所はほんとお姉ちゃん凄いのに……」
明日香は称賛に少し付け加えて返すと、梓は不機嫌そうに頬を膨らませる。
「い~じゃん!ちょっと位妹とのスキンシップがオーバーでも!」
「お姉ちゃんの場合はちょっとの度合いが違うの!」
梓の言葉への明日香の的確なカウンター。梓は奇声をあげて地面に倒れこむと、その上で明日香は梓には見えないような角度で微笑んで、
「ほんと、お姉ちゃんは凄いよ……だから、私はお姉ちゃんを守るよ。どんなものからでも……大好き、だから」
その言葉は未だ地面にうずくまり、最早同化するのではないか、と思われるくらいの梓の耳には届いていなかった。
意気揚々と戻る道中、明日香はごく僅かだが、誰かから見られているようなそんな気配を感じとった。
そうは言っても、距離も分からなければ、方角も分からない。本当に見られているという気配だけを感じとっていたのだ。
微かにしか気配がないということは、その相手は自分達に気づかれたくないため、警戒して見てきている。
それならば、明日香は問題ないと気にせず歩き出そうとした。遠距離の飛び道具などレーザーでもない限り、油断しなければ充分かわせる。それに、レーザーであってもその気になれば恐らくなんとかなるだろう。
瞬間、二人の真上から呪獣が襲い掛かる。常人ならば反応できないような距離だったが、桁外れの反応力で、明日香は梓を突き飛ばし、念のためと呼び出していた緋焔の柄で殴りつけ吹き飛ばす。
少女の一撃とは思えないほどの重みを持った一撃が相手の顔に当たり、鈍い音を立て呪獣を地面に叩きつける。
「大丈夫!?」
明日香の咄嗟の反応に助けられた梓は幸い、明日香に突き飛ばされた時の怪我以外はないようだった。
「ええ…なんとか、ね…ありがと明日香、私気付いてなかった……」
梓は悔しげに呟く。どうやって近づいたのかは知らないが、あそこまで接近されるのは気付いていなければ、確実に致命傷を負っていただろう。
それが、視線の行った事なのかはわからないが、警戒するに越したことはないと改めて緋焔を腰に戻し、歩みを進める。
「ま、無事だったし早く帰ろ?」
明日香の言葉に梓は頷く。会長の命令なら聞かないわけにもいかないだろう。
「お~か~え~り~!!!」
生徒会室に入って早々、会長の楓が明日香たちにフライングボディプレス、もとい抱きつきに飛び掛ってくる。
それに、明日香は冷静に対処、梓は慣れていないのかそのまま抱きつかれて廊下に倒れこんでいた。
「…楓先輩、さっさと退いてあげてください。迷惑ですよ」
花陽の声に、楓は冷静になって梓の体の上から退く。梓は強打した背中をさすりながら、
「花陽さん、ただいま帰還しましたっ」
明日香はとりあえず楓は梓に抱きついているので、副会長の花陽に伝えておいた。
「ん…おかえり、無事終わらせられたみたいね…」
「うん、意外とちょろかった、です…よ?」
改めて生徒会に入って、明日香は花陽への言葉遣いを考える。時期を考えれば、先輩なのだし敬語のほうがいいのかなどと考えて話した結果、疑問文のような報告になってしまった。花陽はいつもどおり心を読んだように、
「…別に、ため口でいい。敬語で話してもらっても、気持ち悪いから」
明日香はそう聞いて、安心する。その後、小さく気持ち悪い……?としょんぼりしながら呟いた言葉は誰にも聞こえなかった。
「それじゃ、行きましょうよ!花陽も一緒に」
楓は梓の帰るときに書いていた報告書を受け取って、判子を押すと楓はいきなりそう言ってくる。あの約束のことだろうが、
「まだ、お昼だよ?」
明日香は首を傾げながら、楓に聞く。楓は今、気付いたのか一瞬考えて、
「……学校、終わってしばらくしたら行こっか」
楓が申し訳なさそうに言ってくるが、明日香たちとしても問題なかったので、素直に頷いておいた。
「そう言えば、生徒会って顧問の先生とかいないの?」
明日香が気になった質問を楓に言ってみると、
「ん?いるよ、壱月せんせー」
楓の回答に明日香は、何処にでも優の名前聞くなぁ…と他人事のように思っていた。もはや、何かの嫌がらせを受けて、あらゆる事をやらされているのかと思う位だ。
「優って、色々やってるよね…?」
「え、うんだって、生徒会の顧問とSクラスの担任、それと実技試験監督、それに……」
まだまだ出てきそうな優の役職に少し同情を示しつつ、心の中でお疲れ様です……、と慰労をささげておいた。
学校が終わり、日が暮れる頃に楓はそのラーメン屋に行こうと言い出して、結局明日香達、楓、花陽の4人で行くことになった。
行くときは制服ではなくラフな格好だっため、明日香と梓は知らず知らずのうちに精神的なダメージ、ある意味では肉体的なダメージを受けていた。つまるところ胸の話だ。
楓は制服の上からでもなんとなく分かったため、私服では立派なそれが強調され、明日香たちは二人でなんともいえない様な境遇に陥っていた。花陽はそこまででも無いと考えていたのだが、以外にも大きくて二人で悲しみをひそかに分かち合うおかしな状況がラーメン屋でできていて、それに気付いた店員がボソッと慰めの言葉をかけてくれたとか。
因みにラーメンは美味しかったらしい。
その夜、二人の枕は濡れていた。もちろんあれの事は二人が久しぶり共同して、あの事は無かった、とセフル記憶改竄を行っていた。
「う~……かったるい…どうして、私が呼ばれないといけないのよ…」
暗い教室に気だるげな声が響く。うあ~と声を上げながら、机でごろごろしていると、
「なにやってるんですか二葉……全く、いっつもそうですけど…」
扉が開き月明かりに照らされて、優が入ってきた。
「何って、ごろごろしてるのよ一姉」
気だるげに体を起こすと、大きな欠伸を一つ。優───否、一音はため息をついて、
「まあ、いいです…働いてくれれば…」
ため息交じりの言葉に二葉は笑う。
「ちゃんと、働くよぉ~まあ、気力が続く限りだけどね~」
一音は頭を抑えながら、二葉に次の行動を指示する。
「それでは、説明しますよ、聞いてくださいね二葉…」
「はいよ~でも、手短にね~ずっとこんな所いると寝ちゃうから~」
「はいはい…まずは優先暗殺対象に御影明日香と藤堂梓を加えます。聖樹花陽と瑠璃宮楓はその後です。それと、今回は二葉だけじゃなく三月、六花にも応援を頼みます」
それを聞いて、二葉は口を挟む。
「え~私だけじゃないのぉ~?」
「はい、あの二人は相当なやり手です。異世界人ですので未知の魔法も使ってくるかもしれませんが用心してください」
「うん、りょーかい。それじゃ、帰るね~」
二葉は最後まで軽い返事を返して、闇に消える。
「それでは…私も準備を始めましょう…お姉さまといい二葉といい…どうして、働く気が無い人が私の姉と妹なのでしょう……」
と、一人の教室で一音は自分の姉妹事情に悲しみを抱いていた。




