生徒会、始めます!
「さ、先ほどは、悪かった…ですわ」
縦ロールが上品に昼食を食べながら、謝罪の言葉を述べる。明日香はもういいよー、と軽い感じで受け流しているが、縦ロールの表情はいたって真剣で、
「いえ!私はきちんと謝罪をさせて貰いたいのです!」
明日香は若干面倒くさそうに縦ロールのほうを見る。
「謝罪って…一体、何するの?」
「少なくとも、責任を取ってこの学園を辞めるつもりです」
それに明日香は驚く。いくらなんでもいき過ぎと思った。たった一回の勝負で、ここまでする事も無いだろう。確かに、校則には違反しているだろうが、それでもいき過ぎだと明日香は思っていると、
「そこまでする必要は無いわ」
明日香と縦ロールが話をしていると、そこに華陽が割り込んでくる。
「ふ、副会長!?」
「確かに、貴女は校則を破って授業時間帯に勝手に私闘をしたし、上位クラスの生徒に戦いを仕掛けるなど、普段なら退学ものだけど……今回は、他の生徒も明日香たちの実力を見せ付けることができたから、今回は不問とするわ」
そう言うと華陽は一瞬だけ明日香たちを見て去っていった。縦ロールはというと、華陽に頭を下げてひたすら感謝を告げていた。
「副会長?」
明日香が首を傾げながら縦ロールに聞く。縦ロールは知らなかったのか、と言わんばかりの表情で、
「あら、貴女方知らなかったんですの?華陽さんはこの学校の副会長ですのよ?」
明日香は梓に知っていたかアイコンタクトを送るが、小さく否定の態度をとる。
「あ、そうだったんだ。全然知らなかった…って言うか、貴女、私達より下のクラスなの!?」
明日香の素の反応に、縦ロールはくすり、と笑う。
「そうですよ。私は貴女達がいきなりSクラス入り、と聞いて校則違反を承知で戦ってみましたが、正解のようでしたわ」
縦ロールは食事を終わらせ、優雅に微笑み一礼すると、席を立って自分のクラスに戻っていった。
梓はいつの間にか昼食を食べ終えていて、明日香も急いで食べようとしたその時、後ろから少女の声が聞こえて。
「あなたが新入生ちゃん?中々、可愛いじゃない。それに、相当やり手みたいね」
いきなり背中を叩かれ、盛大にむせ返る。明日香はそうさせた本人を見るため振り返ると、むにゅっと頬を突かれた。
「な、何するんですか……っ!」
明日香は人見知りと驚きを半分ずつ混ぜたような表情で後ずさる。明日香の前には守るように緋焔と闢零が現れる。
すると、少女は大きく口を開けて笑う。何がおかしいのかよく分からない明日香達は困惑していると、笑い涙を指でふき取り、
「あはは……ああ…ごめんね、私は瑠璃宮 楓一応、この学校の生徒会長やってるわ」
楓が明日香に手を伸ばす。今度は悪意、というか何かしようという感じは無かった。
「よ、よろしく…お願い、します…」
「うん、よろしくね♪」
楓がその後、何かを話そうとした瞬間。楓の頭の上に教科書が振り下ろされる。瞬間の出来事に反応できなかった明日香たちは何事かと思うと、横から、華陽が姿を見せる。
「何やってるの?………会長」
「何で『会長』なの?別に、いつも通り『ふぅ姉』でいいのに……ねえ、華陽ちゃん?」
その言葉に、花陽は少し頬を赤らめると少し恨めしそうに楓を睨みつけて、
「学校では呼ばないし、その言い方止めてよ…楓、先輩」
花陽は恥ずかしそうにそう言うと、楓はなぜか妥協したような感じでうん、と頷くと。
「まあ、それなら会長よりは堅苦しくないからいいよ。あ、それと明日香ちゃんを叩いたときに出てきたその武器、名前なんていうの?」
楓はやはり二人が武器だと気付いていたらしく、会長は名ばかりのものではない、と実感すると。
「赤い髪のほうが緋焔で、青い髪のほうが闢零だよ」
明日香がそう教えると、二人のほうをじっと見つめてから、
「うん!えーちゃんとれいちゃんだ!」
そう言った。もちろん二人はいきなりそんなことを言われて、困惑している。初対面の人間に愛称をつけられて焦らない人間の方が、少ないだろう。
因みに持ち主の明日香はというと、その名前が気に入ったらしく二人にそう呼ぶから!と、びしっと指差して言っていた。
「で、私達に何のよう?ただイタズラしに来たわけじゃないんでしょ?」
明日香は改めて昼食を食べ終わり、楓と花陽、梓と明日香。四人で話をしている。緋焔達には一回剣に戻ってもらって、話をしている。
「ああ、うん。そうだよ、確かにイタズラしに来ただけではないよ、あなた達を生徒会に誘いに来たの。最近呪獣の動きが活発だから、猫の手…もとい、新入生の手も借りたいの。幸い、あなたたちは相当できるみたいだから、ね?」
楓がそう話を切り出す。生徒会活動、それは学校に通っていたときの明日香達が憧れていた言葉だ。
正直、二つ返事で了承したいところだが、そうもいかない。
「活動内容って、何?物によっちゃ話は無かったことにするからね?」
梓が少し語調を強めてそう言う。それに楓は、
「ん、内容は基本は普通の生徒会のような活動。だけど、学校全体での呪獣との戦闘時には最前線で戦う、って決まりになってるの。その代わりかは知らないけど、授業は基本免除になってるわ」
免除、ということは授業に出なくてもいいようだ。それって…と考えているとでも、と楓が続ける。
「もちろん、そんなことしたら皆が生徒会に入ろうとするから条件があるの。それは、Sクラスに所属していて、なおかつ実技で高成績を取ってないと、生徒会には入れないわ」
それなりに理に適ってる条件で、確かにそれならほとんど生徒会に入れる人間は少ないだろう。
だが、それだけでは通常業務に支障が出るのでは、と明日香が考えると、花陽は心を読むように答える。
「もちろん、それなりに普通の仕事もやれる人じゃないとダメよ?」
花陽の的確な言葉に明日香は少し苦笑いしながら答える。
楓は明日香達の反応はまんざらでもない様子だったので、少し押してみることにした。
「別に、そこまで難しいものでもないと思うわよ?あなた達なら呪獣の掃討も苦労すること無いだろうし、通常業務もできるでしょ?」
楓がくすっと笑って聞いてみる。明日香は少し考えて、
「あ、う~……まあ、計算、位ならお姉ちゃんができるし…私も、全くできないわけじゃないし……でも、私達異世界人だよ?」
「それくらいなら、構わないわよ?この学校結構異世界人いるし、明日香達が生徒会に入っても、別に誰も文句は無いと思うわ。この学校って意外と実力主義な所あるしね」
楓が自信満々にそう言ってのける。明日香もそれを聞いて、少し乗り気になったのか梓に小声で聞いてきた。
「お姉ちゃん…そこまで言ってるんだから、良いんじゃない?入っても」
「でも、明日香が…もしかしたら、危険なことに巻き込まれるかもしれないし……」
梓の弱気な発言に、明日香は小さな胸を張って答える。
「そんなの結果論だよ。そうなったらそうなった。それに、私達ならちょっと位のトラブルに巻き込まれた位じゃどうって事ないでしょ?」
明日香の強気な押しに、梓としてはしぶしぶ七割、本音のやってみたい三割の割合で受け入れた。それに楓は準備良く、生徒会への申請書を差し出してきた。
明日香達は無事に(?)生徒会に入り、慌ただしい一日を終えた。結局あの後いろいろと生徒会の手続き続きで、結局授業にはあまり出ることはできなかった。
とは言っても、Sクラスの生徒は呪獣討伐の仕事が入るようなので、全ての授業に出席しているという生徒は少ないのだ。
「ふふ……えーちゃん、れいちゃん明日もがんばろーねっ♪」
明日香は笑顔で緋焔たちに言う。既に明日香の中ではその名前で決まってしまったのか、元の普通の名前で呼ぶような気配は無い。
「あ、あの…お嬢様、その名前で私達呼ばれるのですか?」
「え……も、もしかして…いや、だった…?」
明日香の必殺ともいえる上目遣い。二人はそれを見て、言葉を失う。いくらできるだけ立場を対等に保とうとしても、やはり主人と所有物、という立場なのだ。断ることができるわけなど無い。
というのは、建前で本音としては二人とも明日香の悲しい顔を見たくなかっただけなのだ。
「い、いえ…別に構いませんが…その、少し恥ずかしいです…」
緋焔は顔を赤らめながら、そう言うと明日香は少し考えて。
「ん~じゃあ、できるだけ注意するね!」
あくまでも呼ばない、と言わないあたり少し残念だと思ったが、まあいいだろうと妥協する。実際闢零自身はそこまで嫌でもないような態度を取っている。
「れい、ちゃん…ふふ…」
「闢零はそれで、良いみたいですね……」
その後は、他愛の無い話を交わし、眠りについた。
「大丈夫ですか?三月、五水……六花は今日は別作業なのでいないですけど」
消灯後の教室。闇に向かって一人話しかける。
「特に問題ないですわ、一音姉様」
小さな、静かな声で帰ってくる返答。それから一拍置いて、
「一姉、心配しすぎ……」
そんな、少し非難するような声。
「心配ではありません、警戒は怠らないよう……それに、厄介な方々が紛れ込みましたし……」
「別に、心配するほどではないのでは?掃討時の『不幸な事故』として二姉様に処理してもらえばいいのでは?」
と、丁寧な語調での質問が返ってくる。
「確かに、そうした方が良いのかもしれませんが、あの方達の力量がはっきりしない以上、下手に二葉を動かすこともできません。何より、あの娘はあんな性格ですし」
一音の冷静な返答に、その声は肯定の意の沈黙を返す。
そこからしばらくは無音の空間が続き、一音が呟く。
「あなた達は、引き続きあの方達の監視を、できることならその力量まで把握してきて下さい。私は呪獣を操って色々と仕掛けてみるつもりなので」
そう言うと、一息置いて全員が声を合わせるように、
『我等、十都香の名において』




