過去なんて関係ないー2
「いくよ!アリシア!」
明日香は開始の合図と同時に一気に距離を詰める。そのまま二刀での連続攻撃を仕掛けるが。
「そんな攻撃じゃあ当たらないですよ?」
アリシアは涼しい顔で受け流す。
更にカウンターで放ってくるで突きを明日香も、素早く躱す。
「痛っ...!」
だが、戦闘経験の差が開きすぎているせいかアリシアの槍は、直撃はせずとも明日香の動きを読み、身体に少しずつダメージを蓄積させていった。
(身体へのダメージがないって言っても、やっぱり痛いのは痛いんだよね...)
明日香がアリシアの攻撃を躱し続けるのは無理だと考えると。
(こういうときは......やられる前にやる!!)
明日香の姿がアリシアの目の前から消える。アリシアは一瞬驚くが、直ぐにこの技に見覚えがあることに気づいた。
(翠さんの『幻狼』ですか...初めて翠さんと戦ったときもこの技を使われましたね...)
アリシアは、槍を地面に突き刺し地面に罅を入れ、そして目を閉じる。
明日香は、アリシアが目を閉じたことをチャンスだと思い攻撃を仕掛ける。だが、それは大きな間違いだった。
「みつけた♪」
アリシアの槍が明日香に直撃し、地面に倒れる。梓は明日香が倒れるのを見て。
「明日香!大丈夫!?」
「戦いの途中で余所見なんて、死にたいのかしら?」
マルモの言葉と共に、梓に向かって氷塊が飛んでくる。
「そんなこと、無いわよ!」
梓も負けじと炎球を放つ。二つの魔法は、ぶつかり互いに消滅した。
梓の魔法は炎球はマルモの魔法を消滅させたが。
(今のが私の全力の魔法...あんな威力じゃあマルモさんには届かない...!)
実は、梓には魔力の総量はあるのだが実力が伴っていないため、中級程度の魔法しか現在使うことができないのだ。
どうすればいいの...?と考えている梓の視界に、明日香を見下しているアリシアの姿があった。
「残念です...まさか明日香さんがこれ程とは思ってもいませんでした。翠さんの血を継いでいるのにこの程度なんて―――これでは『劣化コピー』ですね」
もしくは、失敗作と言った所でしょうか。アリシアのそんな言葉を明日香は真面目に受け取ってしまったようで。
(私はお母さんの劣化コピー?失敗作?どうして、そんなこと言われなくちゃいけないの...?私が失敗作だから......?だったら私なんて......)
明日香の心が折れそうになった時、梓がアリシアの言葉を掻き消すように。
「明日香!言葉に惑わされちゃダメ!自分を信じて!」
我ながら青春もので言われそうな在り来たりな言葉だな、とは思ったが明日香は。
「そう...だね...自分を信じられなくちゃ、お母さんにだってきっと会えないもんね...!」
再び、目に光が宿った明日香をアリシアはもう一度言葉で折ろうとするが。
「ねぇ、さっきの技一度見たことがあったから見切ることができたんでしょう?」
「そうですよ。でも、それがどうかしたんですか?」
アリシアは余裕そうに答える。それを聞いて明日香は笑いだす。
「...何が可笑しいんです?」
明日香は笑いを止め、アリシアに向かって。
「一度見たことが会ったから技を見切れた。なら―――今、思い付いた技なら見切れるかしら?」
アリシアはそれをハッタリと取ったのか。
「そんな技ほんとにあるんですか?」
「そんなに見たいなら見せてあげる!」
明日香の姿がもう一度姿を消す。これが先程の翠の技『幻狼』ならば、確実に勝負を決めることができる。
あの技は、生物の死角を常に動き回って攻撃を仕掛ける技だ。だから、アリシアは目に頼らず空気の流れや、地面に突き刺した槍の僅かな振動等を便りにしてカウンターを行う。
だが、今明日香の使っている技は、複数の空気の流れや振動でアリシアの探知を撹乱している。
(本当にオリジナルの技を使っているっていうの...!?)
翠の技は真似をする事さえ相当難度が高いが、それをベースにして戦闘中に改良するなど、普通の人間に出来るような事ではないことを明日香はやってしまう。
アリシアは自分の明日香の評価を改めて考え直すべきだと思った。本心では先程言った劣化コピー程ではないが、多少明日香を見くびっていたのだ。
「この状況でオリジナル技を使おうとする勇気は素晴らしいです...流石は翠さんの娘さんですね。だから、敬意を持って一撃で勝負を決めて差し上げます」
アリシアの言葉を気にせず明日香は攻撃を放とうとすると、今までとは違う感覚を感じて反射的に防御する。
(何...今の感じ...?)
「一撃限りですけど久しぶりにもとの力が使えますね...!」
アリシアの周りに目に見える程のオーラが集まり、アリシアを包み込む。
次の瞬間、強烈な衝撃波が周りを襲う。そして、姿を現したアリシアの髪は茶髪から美しい金色へと変わっていた。
「それが、アリシアの真の姿?」
「真の姿、というか本来の姿と言った方が正しいな」
姿を現したアリシアは、髪だけでなく性格も変わっているようだ。
アリシアは手にしている槍で周りに円を描き。
「この円の中にお前は入れない、絶対にな。黒羽流奥義『征龍域』」
(どういう意味...?でも、多分アリシアの言っていることは本当の事...なら―――一撃で倒す!)
明日香は再び姿を消し、アリシアを狙う。
上で明日香とアリシアの戦いを見ていた凜は。
「あれって...アリシアの『絶対領域』!?いくら何でも明日香さんにそこまで...」
と、言いつつも医務室へ運ぶ用意をきっちりと済ませていた。
(次は本気...だから、お願い!私の体、もう少しだけ耐えて!)
明日香の体は幻狼とオリジナル技の二つの反動で、既に常人なら立っていられないほどにまで体が壊れかけていた。
アリシアの円に触れる直前に明日香は真上に飛び。
(これで......終わりよ!)
明日香が放った全力の一撃をアリシアは、まるで目の前で仕掛けられた攻撃のように、いとも簡単に受け止め。
「これで終わりだ」
アリシアは明日香の攻撃にあわせ完璧なカウンターを決めた。
(そ...んな......)
明日香は消え行く意識の中、アリシアが「お前はまだまだ強くなれる」と言っていた気がしたがそこで意識が途切れた。
「私達もそろそろ終わりにしましょうか梓」
マルモが床を杖で突くと、半径10メートルはある巨大な魔方陣が足元に描かれ。
「発動、極式氷結魔法『天上氷華』!」
マルモの魔法により、巨大な氷柱が降り注ぐ。
「そんな隙だらけの魔法当たらない――――」
梓が氷柱を避け続けていると、何もなかったはずの目の前に氷の壁が作り出されていた。
「この魔法は、地面に当たると拡散して氷の壁を作り出すのよ」
振り向くといつの間にかマルモが後ろにいて。
「チェックメイトよ梓。『アーダー・バースト』」
梓は火炎魔法をゼロ距離で打ち込まれ、二人の異世界での始めての戦いが終わりを告げた。




