とある世界線の物語
私は藤堂梓、突然だけど私の最愛の妹、明日香の様子が最近おかしいの。
「お姉ちゃん、これから私異世界に行ってくるからついてこないでね♪」
この頃いつもこんな感じで、明日香は異世界にちょくちょく行ってはすぐに帰ってきている。
おそらく向こうと時間の流れが違うんだろうけど…それにしても、2日に一回のペースで異世界に行ってるのは、姉としてはちょっと理由を問いただしたいが、いつもあの天使の笑顔に負けてしまう…
「いいけど…その世界無事なの?」
「大丈夫だよ~あの世界とりあえず私より強い人はいないみたいだし」
明日香がそう言うけど、やっぱり心配なのは姉の性分ってやつなのかしら…
「分かったわよ、気をつけてね」
私は若干しぶしぶな感じはあったけど、やっぱり明日香のやる事には口を出したくないから、何も言えなかった。
異世界に行った後、私は周りに誰もいないことを確認して、明日香の部屋に入る。
実は、明日香がご飯を食べに行っているときとかにこっそりとつけて置いたピッキング用の魔法、まさかこんなところで役に立つなんてね。
「さて、今日は明日香への強襲じゃなくて、異世界の手がかりだから真面目に探さなきゃね…♪」
私は探査魔法を使って、私の知らない世界の魔力の波動を持っているものが無いか探す。そうすると、一つ見つけた。しかも丁寧に厳重に隠してあった。
「明日香らしいわね、注意するのはいいけど私じゃ多分この程度じゃダメよ~」
明日香が多分凛に作らせたであろう対魔法用超合金庫を容易くあける。確かにピッキングも苦労するけど、この程度ならまだ大丈夫。
私は、金庫から中身を取り出してみる。すると中からでてきたのは、
「……リボン?」
何の変哲も無い普通のリボン。だけど、そこからは私の知らない世界の魔力を感じる。
だから、私はそれを媒介にして、異世界に飛ぶ。さあ、明日香がどんなことをしているのか観察よ。
大きな家の門の前のベルを鳴らすと、10秒もしないうちに小さな少女が私に向かって飛びついてきた。
「あ、おねーちゃん!!今日もきてくれた!」
嬉しそうに瞳を輝かせている少女に、私──明日香はぽんぽんと頭を撫でて、
「ゆーちゃん今日も来たよ~♪今日は遊んだ後に練習する?それとも逆?」
ゆーちゃんは元気に「練習してから!」と言ってきたので、私は家に上がらせてもらって着てきた薄手の白のコートを脱いで、動きやすい服に着替える。
ゆーちゃんは、私が偶然この世界に来たときに会った女の子。私がゲーセンで音ゲーを楽しんでいたら、
「あの…私にも、そのゲーム…教えてくれませんか?」
なんて言ってきた子だった。もちろん私は教えてあげたんだけど、案外才能あって驚いたわ。それに後で歳を聞いたら8歳って言ってたし。
遊び終わった後に「また会えますか?」なんて、潤んだ瞳で聞かれたらはい、って言うしかないし…その約束を守るために、私はこの世界に来ているの。
お姉ちゃんは私が何かおかしな事してないか嗅ぎまわってるっぽいけど、あの金庫を破るのはさすがに無理だと思うから、大丈夫……だと思う。
そんな事を思っていたら、ゆーちゃんがジャージに着替えて私のところへやってきた。
「きょ、今日もよろしくお願いします!」
「よろしくね♪」
私はいつも緊張しているゆーちゃんに軽く返すと、アリシアとやってるような近接戦で使う構えをとる。
「はい──紫月 夕妃参りますっ!」
ゆーちゃんがとても8歳児とは思えないような動きで私に肉薄する。見かけ詐欺は私も一緒だから何とも言えないけどね。
「はぁっ!」
ゆーちゃんの鋭い突き、だけどまだまだ遅い。それでも普通の男くらいなら倒せるし、発展途上だから期待できそう。
「ちょっと、脇のところが甘いんじゃない?」
そう言って、突きを受け流しながら足払い。ゆーちゃんは体制を崩しながらもうまくバランスをとって距離をとりながら立ち上がる。
しかし、ゆーちゃんが最初お嬢様って聞いた時は結構驚いたなぁ、雰囲気が完全に普通の人だったし。
しかも代々要人警護の仕事についてるからってかなり厳しい訓練抜けてたし、でもあまり楽しそうじゃなかったかな。だから、私は約束を守るついでにゆーちゃんに格闘術を教えてあげることにした。最初はゆーちゃんのお家の人がいろいろ言ってたけど、さくっと教えてた人を倒したら私を先生にしてくれたから万事オッケーだよね。
そんなことを考えながら、私はゆーちゃんの激しい攻撃をいなしていく。
「もうちょっと動きをコンパクトにねっ!」
私のカウンターの巴投げにゆーちゃんは間一髪で対応。うまく着地したけど、これで今回の組み手は終わりかな。
「ほいっ、今日の組み手しゅーりょー♪」
私が着地を完全に読んだ形で攻撃を寸止めで仕掛け、今日の組み手を終わらせる。
ゆーちゃん、この頃上達早くない?なんか昨日の今日ってノリで組み手やるとちょっと焦るから困るなぁ……
「明日香さん、手加減してくださいよ~」
ゆーちゃんが涙目で訴えてくるけど、流石にこれとゲームは譲れないかな。
「だ~め、しかもこれでも手加減してるんだからね?これ以上手を抜いたら組み手にならないでしょ?」
「やっぱり明日香さん意地悪です…」
ゆーちゃんがむ~、とふくれっ面で言ってくるけど、とりあえず今日の組み手は終了なんだよ?
「明日香~どこ~?」
私は異世界に早速飛んで明日香を探すのだけど……全く手がかりがないわ。この世界に魔力がほとんどないから探査魔法も使えないし…
「ん?あんなところにゲーセンが…久しぶりだしよってこ♪」
最近は凜が自分でAC筐体を作ってるからゲーセンに行かなくても良くなってずいぶんご無沙汰になってたのよね、久々によってみますか。
「ん、結構音ゲー充実してるのね♪」
見たところ大体の音ゲーは揃ってるし、格ゲーもあるのね…中々バカにできないじゃない…っと感動してる場合じゃない、気分転換に何クレかやって明日香を探しましょう。
「Rでもリフでもマイでも何でもいいけど……ん!?」
私は驚く。なんでかって?だって───今探しているはずの明日香がそこにいたんだから。
「あ、明日香…!?な、何でこんなところに…あ、いや明日香はゲーム好きだし…って、そうじゃなくて!!」
ゲーセンのど真ん中で何やらぶつぶつと呟いている、危ない人になり始めているので、手ごろな台に並ぶ。幸い明日香は私に気付いていないみたいだし。
(それにしても…明日香がこんなところにいるなんて…それと、横の子誰かしら?なかなか上手いけど)
そんなことを思いながら、列に並んでいると私の番が来たみたいだった。とりあえず最近やっていないお寺に並んだけど、正直何するかなんて決まってないのよね……いつも通りといえばいつも通りだけど。
「とりあえず、この頃やってなかったハデスでも更新しますか」
私は7つの鍵盤とお皿に向かうと、真面目にゲームを始める。人が多い中でやるのって久しぶりだから少し緊張するわね…
もちろん私たちはお姉ちゃんがそんなことを考えながらゲームをしているなど知る由もなかったですが、何やら私達を見ているようなそんな不穏な視線を感じたのでさっさとお店を出ることにしました。幸い、その変な視線はお店を出てから感じはしなかったんですけど……
「もっと厄介なことになったっぽい…?」
お店の外に出たら、何やら不良っぽい見た目の人4人に絡まれてしまいました。ゆーちゃんはそういう経験がないからかなり怯えているし、どうしましょう?
「なぁなぁ、俺達といいことしない?妹も一緒でいいからさ~」
どうしよう、かなり鬱陶しい。さくっとぶっ飛ばしちゃってもいいけど、ここ人が多いから少ない場所に誘導しなきゃなんだよね…
「う~ん、いいけどじゃあ、ちょっとこっちに来てくれない?おにーさん」
案の定、少し頭の螺子がゆるいお兄さん方は私の見立てどおり人通りの少ない裏路地にやってきてくれた。
「おう、来たけどどうす、がっ!?」
私は男の人たちが痛い思いをしないよう、さくっと一撃で意識を狩ってあげたんだけど、どうやらそれが気に入らなかったのかかんかんになってしまいました。
「ッてめぇ!ただで済むと思うなよ!!」
向かってきた男の人がナイフを持って突っ込んできましたけど…絶対ゆーちゃんの方が動きがいいです。
どうやら、男の人たちがそこまで強くないと分かったのか、ゆーちゃんポケットからスマホを取り出して、いじっていた。
「テメェも何勝手にケータイいじってんだよ!?チョーシにのんなぁ!!」
ゆーちゃんの方に一人向かったけど、まあ大丈夫でしょう。だって、私が鍛えているんだし。
「来ないでぇ!!」
ゆーちゃんの強烈なハイキック。私が鍛えただけあって中々の一撃ね。ホットパンツだから下着も見えないし!
ゆーちゃんにやられて焦ってる男の人たち、それもそうよね何せまだ8歳だし。
それに、逃げ出そうとした人は私が一発当てといたし、もういいでしょ。私達が裏路地から、入ってきていないほうへ、出ようとしたら────
「痛っ」
「あっと、ごめ……ん?」
私がぶつかってしまったのは……
「お、お姉ちゃん……?」




