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黒薔薇の騎士団  作者: すずしろ
E-4 常闇の世界と吸血姫
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明るい未来へ

 「……おかしい…」

 リュカが森の中でひとりごちる。霧に包まれた森の中で異変を感じる事があったのか、ブランが少し不安げに尋ねる。

 「どうかしたの?」

 「いや…何というか、いつもみたいな魔力の流れと違うって言った方がいいのか?ちょっと私の中に流れる魔力が不自然なんだ」

 その答えに、ブランは内心で今頃気づいたのか、とため息を吐く。


 リスティが飛び去る前にリュカの額にキスをした直後に、リュカの魔力の性質が変わっていた。今までは、リュカ本来の魔力とあの吸血鬼との魔力が反発しあって、うまく扱えていないように見えたが、今のリュカの魔力はあの事が原因なのか、あの吸血鬼の魔力が綺麗に消えてなくなり、代わりにリュカの魔力に合わせる様なやさしい魔力があった。

 「ん?そんなにおかしいか、ブラン?」

 「いや…別におかしくはないけど…ね」

 つい顔に出てしまっていたのか、苦笑していたブランに気付いたリュカが不思議そうに声をかけてきたため、うまい事誤魔化して、話を進める。

 「別に良いんじゃない?だって、魔力も前より扱いやすくなってるんでしょ?」

 「そうだけど…何で分かるんだ?」

 「リュカの魔力を見れば簡単に分かるわよ」

 ブランは少しあきれ顔で話すと、やっぱりブランは凄いな~、といつもの反応を返していた。

 本人は全くといっていいほど分かっていないようだが、結構事の大きさは重大だ。魔力の質が変わった、ということは前はできていたものができなくなる、という可能性があるのだ。無論、その逆もあり得るのだが、

 「ま、別に特にできないことが増えたとかじゃないし、私は構わないぞ?それに、なんていうか……細かい制御もできるようになったしな」

 リュカ自身はそこまで重く受け止めておらず、ただ制御がしやすくなっただけ、と考えているが正直ブランとしてはとにかく心配だ。

 (今は大丈夫かもしれないけど……もしも何かあったら……)

 「大丈夫だ、私は絶対ブランのそばにいるから」

 と、まるで心を読まれたかのような、言葉にブランは戸惑いを隠せなくなる。

 「ちょっ、いきなり何言うのよ!」

 「いや、ブランが私のこと心配そうに見てるから…」

 リュカが違ったか?と不思議そうに言ってきたので、思わずブランは大声で否定してしまう。本当はただ図星を疲れて恥ずかしいだけだったが、リュカにはそれがそうとは思えなかったようで、

 「そ、そう…か、悪かったな、変な事言って…す、少し向こうのほう見てくるからっ!!」

 「っ!ちょ、ま───」

 そう言おうとした時にはすでに遅く、もうどこかへと走り去ってしまった。


 「バカ、バカ、バカ!心配してたのに………」

 リュカがはとにかく森の中を走って、森の奥のほうまで来ていた。この辺りには特に強力な魔物はいないとブランが言っていたのもあって、とにかく全力で走った。ブランのあの一言は、態度にはあまり出ていなかったが、かなり心配していたリュカにとってはかなりきつめの一言だった。

 「はあっ……はあっ…随分、遠くまで来てしまったな…」

 森の辺りを見回すが、似たような景色ばかりでここがどこか、というのは分からない。だが、かなりの速さで走ったため、結構な距離は奥のほうへ進んだはずだ。


 「しかし、この森は本当に大きいな…本当に……」

 走り疲れて歩きながらリュカが周りを散策していると、巨大な樹を見つける。

 見上げるほどの大きさの大樹に、リュカが一つため息をこぼして見つめていると、魔物の気配がして即座に振り返る。

 そこにいたのは魔物化した野犬数匹とそれを束ねるリーダーのような狼の魔物だった。

 「っ…全く、ついていないな今日は!」

 リュカが攻撃魔法を使おうとすると、何かがおかしかった。

 「っ!?攻撃魔法が使えない!?」

 何度使おうとしても、まったくと言っていいほど攻撃魔法が構築される気配がない。その間にも、魔物達は悠長に待つわけもなく、淡々と獲物であるリュカをどう料理するか考えているようだった。

 「不味い、とにかく逃げるっ!!」

 そう決め、踵を返して全速力で逃げ出そうとした瞬間、狼の魔物が信じられない速さでリュカの足を狙い、その牙で喰らいつく。

 リュカはうめき声を上げながら、地面を転がる。だが、その反動を生かして何とか魔物は引き剥がしたす。

 (不味いって…魔法が使えないとか、どうしたらいいのよ…っ!)

 歯噛みしたところで、何か状況が変わるわけでもない。逃げようにも、先ほど魔物にかまれた傷では走ることもできないし、飛ぼうと思えば予備動作の時につかまるのが関の山だ。

 ───絶体絶命。まさにこういい表わすのにふさわしい状況で、リュカは必死に生き残る道を考える。

 (どうするの…?どうすれば、ここから…っ!)

 刹那、狼の魔物がうなり声をあげると同時に、野犬が一斉に襲いかかってきた。

 死を覚悟した瞬間。


 「リュカに手をだすなぁぁぁっっっっ!!!」

 聞き覚えのあるそんな声。そして、魔物達に降り注ぐ白雷。それが収まった時には、すべての魔物は焼け焦げ、消し炭と化していた。

 最後に、ふわりと空から降りてきたブランに、リュカはびくっと身体をこわばらせる。

 怒られる。そう覚悟したが、リュカを責めたりする言葉は一つも出てこない。緊張しながらも、きつく閉じた瞼を少しずつ開けると。

 「……バカ、バカ、バカぁ!!私がどんだけ心配したと思ってんのよ!!」

 そこにあったのは瞳をうるわせたブランの姿。それに驚いたリュカはどう接すればいいか、戸惑うがそんなことも気にせずに、ブランは続ける。

 「それと、ごめんなさい!あんなこと言ったけど、ただ…照れてただけなの!だから、お願い!!」

 いきなり謝られて、状況が全く理解できていないリュカに、ブランはこんな一言を言った。

 「ずっと……一緒にいて…!」

 そんな言葉を最後に言われて、断れるほどリュカは強い意志を持ち合わせていない。それに何より、

 「私でいいなら、いつまでも…一緒に、いてあげるから……」

 リュカが優しくそう告げると、ブランはぽろぽろと涙をこぼしながら泣きじゃくる。そして、リュカはブランを優しく抱きとめて、泣き止むまでそっと頭を撫でてやっていた。


 「あの二人は大丈夫ね、となるとやっぱ問題はあの二人よね……あーちゃんとるーちゃん、頑張ってね…」

 霧の森の上空で二人の様子を眺めていたリゼリアはぼそりと呟く。あの状況でどうしてもブランがたどり着けないような状況だったら助けるつもりだったが、その心配は杞憂だったようで無事にリュカはブランと仲直り(?)したし、問題ないと思っていたが、ふっと思い出してしまったのだ。

 確か、梓たちは自分とアリシア達が隠してはいたが、もしもそれがばれていたら最悪、自分の立場が割れてしまうかもしれない。

 リゼリアはそんな不安を胸に抱きながら、ばれないことを切に願って翠を見つけに異世界へと跳ぶのだった。


 「おねーちゃん」

 「何かしら?明日香」

 「離れて、重くなったし」

 明日香はばっさりとそんなことを言って、梓が怯んだ隙に背中に引っ付いていた梓を背負い投げで投げ飛ばす。もちろん手加減抜きだ。

 「うわっとぉ!?危ないでしょ!」

 投げられた梓はそんなことを言ってはいるが、待ってく危なげない着地を決めている。そして、明日香の言ったことを気にしているのか「ふ、太ってなんかないよね…」としきりに自分のお腹周りを確認していた。

 因みにアリシアが後から聞いた話によると、梓は本当に太っていたらしい。その真実を知った梓は4日ほど部屋から出てこなかったとか。

 「で、それより大事なことがあるでしょお姉ちゃん」

 「大事なこと?」

 梓が首をかしげると、明日香はため息を一つついて、

 「アイリスの事。結局何もわかんなかったじゃない」

 明日香がそう言うと、今度は梓がため息を一つついた。特に意味もなく仕返しかと思ったら、梓が口を開く。

 「………やっぱ明日香って肝心なところでちょっと頭のひねりが足りないわね…」

 「む、それバカにしてる?」

 明日香が頬を膨らませながら、梓につっかかる。その絵はかなり可愛かったが、それに心を打ち抜かれている場合ではない。

 「してないわよ、ただリスティ───いや、アイリスがマルモ達と一緒に行動してたときの態度ちょっと不自然だったでしょ?」

 明日香にはでしょ?といわれても違いがよく分からなかったため、更に詳しい説明をお願いした。

 「んっとね、なんていうか…アリシア達は自分達が『まるで初めて会った』見たいな態度をとってた、って気がしたな私には」

 そう言われて、明日香も少し考えた後に口を開く。

 「う~ん…確かに、そうかもしれない、かな…?」

明日香には分かりづらかったのかもしれないが、梓にはそうだとほぼ確信していた。

 実は、梓は班で別れる際に、アリシアのスカートの裏にごく小さい盗聴器をつけていたのだ。ちなみに凜が作った特注品なので、少なくとも探知魔法に引っかかるなんて事はない、と凜が豪語していた。

 その甲斐あってか、梓は重要な事を聞くことができたのだ。本来の目的は明日香の行動を観察することだったのだが。

 「つまるところは不自然だったってことよ」

 「う~それは分かったけど、でどうするの?分かったところでアイリスの居場所なんて分かんないよ?」

 それには心配いらないとばかりに、梓が自慢げに話す。

 「別にアイリス本人に会わなくてもいいでしょ?アイリスを知ってる人身近にいるじゃない♪」


 「さて、話してもらいましょうか?アイリスの事」

 有言実行。明日香たち二人は早速アリシア達の所へ向かい、3人を捕獲する。そして、アイリスの事を聞き出そうとするが、

 「残念ですけど、その事は話せません」

 「話せませんって事は知ってるって事で良いよね?」

 明日香の鋭い一言にアリシアはこくんと頷く。知っているが話せない、という事はおそらくだが明日香たちの母親絡みだろう。

 「じゃあ、どうしたら話してくれるの?」

 「……時期が来たら、必ず話します…」

 アリシアが小さく呟く。少し苦し紛れだったが、明日香はそれで納得したのかそれ以上は言及しなかった。

 そして、梓が問いただす。

 「じゃあ、もう一つ。その『話せない』は本当に私達のため?少しでもあなた達の『話したくない』って気持ちはないの?」

 梓のその言葉に、アリシアが押し黙る。マルモはそれをカバーするように口を開く。

 「あなた達は知らないだろうけど、アイリスの事を話すとなると必然的にあなた達の母親、翠さんの話をしないといけないから」

 マルモがそう言うが、もちろん二人はそれで納得がいくほど人はできていない。いくら強くなるために長い時間を時間をかけたとはいえ、中身は成長できていない二人の少女なのだ。

 「なら……お母さんの事に触れない範囲で話す事って出来ないの…?」

 明日香が、譲歩のつもりでそう言ったのだろうが、それにもアリシアは首を横に振る。明日香はそれを見て「そう……」と残念そうに小さく言うと、そのまま押し黙ってしまった。

 「結局のところ、今のところはアイリスにかかわることは知ってるけど話せない、でいいのよね?」

 「はい。ですが、話す時期が来れば必ず話させていただきます」

 梓の言葉に、アリシアがその瞳をしっかりと捉えて話す。梓は捕まえていた3人を解放する。

 最後に、梓は小さく呟いた。

 「……また、明日香の力になれなかった……」


 アリシア達3人と明日香達は別行動をとり、明日香達はリュカ達の元へと向かう。アリシア達はというと、この世界での情報も得たので、屋敷に戻る準備をするらしい。

 「やっほ~リュカ、ブラン元気?」

 霧の森を進んで、小さな家を見つけるとノックしてそんな気の抜けた挨拶をして、扉が開くのを待っていると、

 「『元気~?』じゃないわよ…こっちはこっちで色々あったんだから…」

 そう言って出てきた、疲れ切った表情のブランと、

 「私は元気だぞ?ブランががんばりすぎなだけだと思うが…」

 ちょっとあきれ気味のリュカが中から出てきたが、

 「がんばりすぎなんじゃないわよ!リュカが手抜きしすぎなの!こっちは手直ししなきゃいけないお陰でもう4徹よ!」

 その言葉が地雷になったのか、堰を切ったように口を開いてリュカを責める。とはいっても、悪意のあるものではなく、表現するならじゃれている、という方が近いだろう。

 「悪かった、悪かったからな…ん、」

 そう言うと、リュカはそっとブランに唇を重ねる。ブランも初めは少しびっくりしていたようだが、リュカのキスにあわせる。

 「ん……ばか、こんなのされたら、怒れないでしょ…」

 と、二人のおあつい様子に明日香が顔を赤らめる。

 「ふぇぇ……女の子同士でキスしちゃってるよぉ…」

 「ね、ねえ明日香…?私達も女の子同士なんだけど…?」

 明日香のよく分からない発言に、梓が恐る恐る聞いて見ると、明日香が「何言ってるの?」とでも言わんばかりの表情で、

 「いや、お姉ちゃんは『お姉ちゃん』でしょ?」

 「私って『女の子』ってくくりには入ってないんだ……」

 その答えに、がっかりしていいのか、それとも『お姉ちゃん』という唯一のくくりに喜んでいいのか、とても微妙な心境に梓が置かれている横では、明日香が勝手に話を進めている。

 「リュカ、ブラン、もしよかったらなんだけど、私たちのギルドに入ってくれない?」

 最後に「強制じゃないからね」と付け加えて、明日香はそう言い残して梓を引きずりながら去って行った。


 「どうするの?リュカ、私は良いけど」

 ブランが聞く。リュカは少し考えると、

 「いや、明日香たちには悪いけど、断らせて貰うよ。だって………ずっとブランと一緒にいたいからな」

 顔を赤らめながら、そんな事を言うリュカにブランはくすっと笑うと、

 「そうね…ありがと、リュカ♪」

 一番の笑顔で、ブランはリュカに抱きついた。これ以上ない感謝をこめて。

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