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黒薔薇の騎士団  作者: すずしろ
E-4 常闇の世界と吸血姫
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黄昏の古城

 「よっ、よろしくお願いします!」

 リスティが他の5人にも同じように頭を下げる。鏡華と柚姫は既に慣れたのか、リスティにも特にさほど反応せず自然に反応を返していた。なのに、今回は珍しくアリシア達三人が少し困惑していた。なぜなのか理由はいまいち分からないが、なぜか今回に限って反応が少しおかしい。

 「どうしたの?リスティ何かへんなこと言ったの?」

 三人は慌てて取り繕うが、やはりどこかに違和感を感じる。だが、必要以上に詮索していても何も始まらないのでここは素直に退くことにした。

 今回の情報収集は、真面目に…なると信じて同じ班にリスティをアリシア達の班に加えた3班でもう一度情報を集めることにした。今回はあの吸血鬼の少女も出てこないはずなので大丈夫なはずだが、やっぱり過信と慢心はできないので、真ん中にリュカを置く形で明日香と梓が歩いている。

 「明日香~今回は何処で情報を集めるのだ?ここではおおかた聞き終わったぞ?」

 明日香もその言葉に同調する。確かにこの辺の場所での聞き込みは大体終わった。これ以上は何の情報も得られない、とは言わないがほぼ得られないだろう。次に行くべきだと思う場所をリュカに聞いてみると、

 「むぅ…恐らく妾の知っている中では一番情報を持っている奴がいるにはいるが───」

 リュカが渋らせて話しているが、明日香はじゃあ、そこ行こう!と楽しそうにリュカにその場所を聞く。気が向いていない様子のリュカも明日香の表情に根負けして、居場所を教えてしまう。

 「それじゃあしゅっぱ~つ♪」

 明日香と梓は楽しそうに、リュカだけは頭を抱えながらその人物の待つ先へと向かっていった。


 班が分かれた後、二つの班が行った後アリシアが静かにリスティに向かって問いかける。

 「リスティ…さん、いや───リゼリアさんどうしてこんなところにいるんですか?」

 リスティは何のことか分からない、といった様子で反応を返すが、凜がたたみかけるように、

 「リゼさんもう誤魔化さなくてもいいんですけど…」

 「だ、だから…っ!リゼじゃないですっ!リスティですっ!」

 リスティが必死に否定してるとマルモが何かを唱えるように、

 「我らの道の先を───」

 「極光の光が照らさんことを───っ!?」

 マルモはしめしめ、といった顔でリスティを見つめる。リスティは観念した風に何かを唱えると、今までとオーラが様変わりし、おどおどとした中には禍々しいと言えるまでに膨大な魔力が感じられた。

 「むぅ…やっぱり、いつもの癖は抜けないって事ですか…」

 リスティ───否、リゼリアは悔しそうに頬を膨らませてむくれている。

 アリシア達は長い間会えなかった人の一人、リゼリアに会えて嬉しさを一杯にしていた。

 「それで、リゼさんは一体何のようでこの世界に来たんです?迷子って訳じゃないでしょう?」

 マルモが真面目な口調で聞いているが、対してリゼリアは気まずそうに、

 「そ、それが…残念ながら迷子なのよね…あはは……翠さんがいきなり転移するからはぐれちゃって…」

 それを聞いてはぁ…とため息をつけるのはやっぱり明日香達の母親、翠に振り回され続けてきた賜物(?)なのだろう。リゼリアは続けて、

 「それと、探している途中に明日香さん達にあっても素性はばらさない様にって翠さんから言われていたので…あと、アイリが迷惑かけませんでした?」

 リゼリアが心配そうに聞いてくる。アリシア達はう~ん…と少し考え込んで、

 「私達は大丈夫だったけど…他の吸血鬼たちがアイリの悪ふざけに付き合わされて相当やられてたけどね……」

 苦笑しながらそう答えた。リゼリアは頭を抱えてぅぁ~~、と唸っていた。アイリはリゼリアのいわばもう一つの人格なのだ。

 性格もリゼリアとは正反対と言っていいほどにアグレッシブでかつ色々と面倒ごとを引き起こす。それでも、翠と行動を共にし始めてから、ずいぶんと大人しくなった。とリゼリアが言っていたのだが、アリシア達にとっては正直、あれでも十分すぎるほどアグレッシブだと感じていた。

 「アイリは『反省もしてないし後悔もしていない』とか言ってますから…これだから、もぅ!」

 ぷく~と頬を膨らませて怒るリゼリアは最強のギルド、それも翠の右腕とまで呼ばれた少女とは到底思えない。

 見かけからは判断できない、という点ではマルモ達も同じといえば同じかもしれないが。

 「でも今はアイリお休み中でしょ?」

 「ええ。あの娘薬で出てきた後はしばらく寝てますから、今のところは出てこないと思いますよ」

 リゼリアとアイリの身体は二人で一つ。だから、翠と行動を共にしてからはローテーションで体の支配権を交換していたが、アイリがいつしか面倒くさいといって引きこもり始めてからは、エルザの作った薬を使って、体の支配権を交換するようになった。

 「えっと…薬一回で大体8時間でしたっけ?」

 アリシアが首をかしげながらそう聞くと、リゼリアは首肯する。以前、というか明日香たちとアイリスが鉢合わせたのが約7時間前。ということはもう一度アイリスが外に出るのは早くても1時間後、それに今はアリシア達がいるためそこまで迷惑かけるようなことはしないはずだ。

 「なら私達と一緒にいればアイリ出てきても問題ないんじゃないかしら?情報収集は悪いけど明日香たちにお任せして」

 マルモがさらっと自分達の責任を放棄して、明日香たちに丸投げしたがそれも明日香たちの為だ致し方ないことだろう。

 リゼリアは少し苦笑していたが、これもいつもの光景の一つなのか何か突っ込むわけでもなくそうですね…、と肯定していた。


 その頃明日香達はといえば。

 「ふ~んここがリュカの言ってる何でも知ってる人の家?」

 「何でもじゃない。知ってることだけだ」

 リュカはタイトルの後ろに物語がつく話の優等生さんのような口ぶりだが、それにしてもはっきり言うと家はかなりボロッちい。あばら家とか言うレベルではなくもはや廃墟に近いほどの酷さだった。

 「……って言うか、家……?」

 明日香が疑問符を出すレベルの廃墟に近い家のようなものにリュカは構わず入って行き、埃っぽい内部を咳き込みながら奥へと進んでいくと、わずかにだが光が漏れでている部屋がある。そこに、入るぞ。と相手の返事も聞かず勝手に中に入ると、

 「何よ…何の用?こっちは自分の世界とあんたの世界の魔法の事研究してんのよ。つまらない用事なら帰って」

 中にいたのは、銀髪のセミロングをポニーテールで結った少女だ。年は梓と同じくらいだろうか、だぼだぼの白衣を着て凜と同じような雰囲気を漂わせている。

 ただ、今の少女の機嫌はとにかく悪いことが見て分かる。激オコだ。

 「あ…いえ、私が聞きたいことがあって…リュカは私をここまで連れてきてくれたんです」

 明日香が少し申し訳なさそうに少女に話す。少女もそれを聞いて頭をかいて、

 「ああ…そうなの?悪かったわね、私はレイルカ・ノーブルス。で、聞きたいことって何かしら?」

 レイルカは結ったポニーテールを解いて銀髪を流す。その姿に似たような姿を昔どこかで見たような気がしたが、その時の記憶がはっきりしていないためいまいち思い出せない。


 「えっと…私はリュカの事と魔法の事について聞きたくて…」

 「ん?そんなことか、ならいいよ教えてあげる。そもそも魔法がどんなものか分かってる?」

 レイルカがいきなり明日香に質問する。明日香はしばらく考え込んで、

 「えっと…大気中の魔力を集めてそれをいじって属性を変更したりする……?」

 明日香の必死の回答にレイルカは少し苦笑しながら、答える。

 「あ~それは攻撃魔法とかのみだ。回復魔法だけは唯一違うんだ」

 レイルカはそのまま続けて、

 「明日香は『運命軸線ディザリア』って言葉聞いたことある?」

 「……?何それ?」

 明日香は聞きなれない言葉を聞いて、頭の中に?マークを増殖させる。レイルカはその様子を見て、聞いたことないのだと瞬時に理解した。

 「運命軸線ってのはその人の運命を簡略化して視認できるようにしたもの…かな」

 レイルカもずいぶんと曖昧な言い方だった。明日香はふんふんと頭を縦に振ってレイルカの次の言葉を待っている。

 「って言っても、私も実際にそれを見たことないからなんとも言えないんだよね……しかも教えてくれたのがバカおねえだからあるのかどうかも微妙だし……」

 レイルカは頭を抱えながらくっそ……ばかおねえ…と唸っていた。もしかしたら、自分と同じ境遇の人間なのかも…と、密かに心の中で微笑んだ。

 「それで…その運命軸線ってのが魔法にどう関係あるの?」

 「ああ…攻撃魔法とは違って回復魔法はその運命軸線に関係するんだ。うむ…例えば、明日香がどこかで転んでケガをするとする。それでも軸線は多少は歪むのよ」

 「え…それってそんなに柔いの?」

 明日香が困り顔でレイルカに聞く。レイルカもその『バカおねえ』に聞いたうろ覚えの知識で明日香に続きを話す。

 「いや、柔いわけではないぞ?運命軸線はその人間が健康であることを直線としているらしいんだ。で、ケガとかでその軸線が歪んだりするわけ。それを直すのが回復魔法なの。だから、回復魔法は正確には傷を治す魔法じゃなくて軸線を修復する魔法なのよね」

 明日香はレイルカの説明を聞いてオーバーヒートしている。レイルカはそれを見てやっちゃった……、と頭を抱えていた。

 「ご、ごめん…私…魔法のことになると熱くなっちゃって…」

 レイルカがぺこぺこと頭を下げているのを見て、明日香も悪気はないのが分かっているので気にはしていなかった。何より謝ってくれているので責めることはしない。

 「別にいいよ私も好きなことになると興奮しちゃうから……」

 「そ、そう…?ならいいけど……」

 レイルカがちょっと涙目で見てきたので明日香だって許す以外できるわけがない。

 「────リュカ、気づいてるでしょうね?」

 レイルカが小さな声でリュカに警告する。リュカもそれにこくんと頷く。明日香もそれに気づいていた。

 敵、しかも前回ほど少なくない。敵総数は明日香が気づけるだけでも約80、リュカを守りながら戦えるか、と言われると相当厳しいだろう。

 「明日香たちだけが戦うだけじゃないのよ?私だってやれるんだから」

 レイルカが得意そうな微笑を浮かべている。明日香も微笑み返して、楽しそうに、

 「そう?じゃあ、よろしくねレイルカ♪」

 明日香たち4人は扉を開けると、リュカを狙いに来た吸血鬼たちに向かって走り出した。

 「さぁ!はじめましょう!」

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