奪われたもの
「今日こそちゃんと情報集めるんだからね!!集めないとひどい目なんだから♪」
さらっと恐ろしいことを言う明日香に若干引き気味になりつつ、情報集めを再開する。今回の班分けも前回と一緒だ。だからこそ、今日は、今日こそはきちんと情報を集めなければならない。
「ほら、きびきび動く!」
明日香が梓とリュカの首根っこを掴んで、宿屋を出ていく。それを後ろから見ていたアリシア達は気の毒そうな目線を出して、梓たちに敬礼した。
「な、なぁ…妾、ここまで必死にやる必要があるのか気になるのだが…」
「だって、私…達にとっては必要な情報だから、それにリュカだって気になることあるんでしょ?」
明日香の言葉に、リュカがどうしてそんな事が分かるのかと言った表情をしているので、明日香はにやっと笑って意地悪気に質問する。
「教えてほしい?」
「そっ、そんな事思っておらん!!いいから早く、情報を見つけに行くぞ!聞いていない場所だって、色々あるんだからな!」
若干話を濁した感じはあるが、まあ良いだろう。と、明日香とリュカが手を繋いで情報を集めに行こうとした時に梓がぼそっと、
「ロリっ娘同士の絡みは良いわね…」
「そんなこと言ってないで早く探そうね?」
明日香の本気の殺意の籠った一言に、梓は思わずサー、イエッサー!!と軍隊式の挨拶で返してしまうほどだった。
「う~全然集まらないぞ!どうするのだ…?」
リュカが悔しげに呻いていると、別の場所から悲鳴が上がる。どうしようか、何て考える間もなく明日香達はそちらに走り出す。
すると、そこには倒れた吸血鬼が道のようになっていた。ただ、その体には全くと言っていいほど傷がない。
どういう事なのかと思っていると、真上から戦闘音が聞こえる。そちらを向くと、ゴマ粒のような点が祝数あり、その周りで火花が散る。どうやらそこで戦っているようだが、その相手は吸血鬼の男が束になってかかっていた。それほどの相手なのかと、明日香が強化魔法を使って、その相手を見るとその姿は、
「女の子…?どういう、こと?」
明日香が不思議そうにそう思っていると、横のリュカが必死の形相になって、その症状の方に飛んでゆく。
「やっと、見つけた…私をこんな風にした張本人!!絶対に責任を取ってもらう!」
少女の方は、リュカがいきなりそんな事を言い出すので、少女の方は至極まっとうな反応返す。
「えっと、誰?記憶にないわよ?」
その言葉に、リュカは激昂する。どう考えても様子がおかしい。
「忘れたなんて、言わせないわよ!!貴女は、私を無理やり眷族にした挙句、どこかへ行ってしまったでしょう!」
そのせいで…と、後に何かつぶやくが少女には聞こえなかったが、何かを思い出したようで、ぽんと手をたたく。
「ん?あ、ああ…あの子か。いや~すっかり忘れてたわ♪」
「忘れてた、ですって……!!ふざけるな!!」
リュカが魔法を少女に放つ。しかも、かなり殺傷力の高い凶悪な魔法だ。それを少女はくすりと笑うと、
「その程度で私を殺すつもり?甘々ね♪」
そういうと、少女の両手に漆黒の巨大な鍵爪が現れ、リュカの放った魔法を紙を破くかのようにいとも簡単に消し去った。
その様子に、リュカは何もできずにただ呆然と見つめているだけだった。
「う、そ…妾の魔法が…」
「慢心はいけないわよ♪それじゃあ、地の果てまでの片道切符~」
刹那、少女がリュカの真下にまで肉薄し、その凶悪な爪で一撃を加えようとした瞬間。
「ちょっと、待ってもらえるかしら?」
そんな言葉と同時の斬撃と魔法。少女とリュカの間を通らせるという針の穴より難しいコントロールを軽々とやってのけ、跳ねるようにこちらへやってくるのは、明日香と梓。
明日香は少女の前に立って、びしっと指を立て問いただす。
「貴女はいったい誰なの?なんだか、他の人たちとも随分仲が悪そうだけど」
少女は、明日香のそんな言葉が面白かったのか、ふふっと笑って答える。
「ふふっ、中々面白い事いうのね、別に私が仲を悪くしているわけじゃないのだけど、向こうが勝手に誤解しているだけよ600年ほど昔の事を引きずってね」
600年、その言葉に少女は吸血鬼であるという確信を持たせた。少女は、驚いた明日香の表情にまたくすくすと楽しげに笑う。
「む…なんか、気に入らないけど、とりあえず名前くらい教えてよ。いいでしょ、それくらい」
「いいよ、………どっちがいいのかな?う~、やっぱここは私の名前だよね」
ぶつぶつと言っている少女に、明日香がは~や~く~、とふくれっ面で物申す。少女も、軽く返すと、
「やっぱり、教えな~い♪」
意地悪く、そう笑って言うと、明日香がむき~!と可愛らしく怒る。その後明日香は、梓たちの事が気になって、名前を呼びながら確かめる。その時に、アイリスが一瞬だが、表情に変化を出す。その一瞬に明日香が気づけたのかは定かではないが、
「ふぅん…明日香と梓、ね…私の運も捨てたもんじゃないってことかしら、ふふっ」
「何がおかしいのよ?皆を傷つけた分にたっっっっぷり利子つけて返してあげるからね!」
明日香が緋焔と闢零を構える。一方アイリスはというと、対照的に巨大な鉤爪を消滅させて、残念だけど、と全く残念そうでは無い顔で
「今日は時間切れ、また会いましょ♪」
そう言って、アイリスは夜の空へ溶け込んでいった。
「大丈夫?リュカ…なんか様子おかしかったけど…」
明日香はアイリスの気配が消え去るのを確認すると、明日香は地面に降り立ってリュカの様子を見る。どうやら先ほどよりは落ち着いているようだった。
なぜあそこまで動揺したのかが明日香は気になり、できるだけ刺激しないように聞いてみる。
「なんで、あそこまでアイリスの事を毛嫌いしているの?」
「毛嫌い…そんなものではない。妾はあいつに全てを奪われたのだ…!あいつは、分かったと思うがこの世界で目の敵にされておる。その眷族に妾は無理やりされたのだ…それだけではない、あいつは私の眷族化した挙句、異世界に逃げて妾の眷族化を解かんかったのだ。そのせいで、そのせいで……ああああああ!!思い出したらむしゃくしゃしてきた!!明日香、梓ついてくるのだ!うっぷんを晴らしに行くぞ!」
最後の方はただの愚痴になっていたが、まあ調子が戻ったと考えれば安いものだろう。
そう二人は考えて服を引っ張るリュカについていった。
一方、明日香達が戦っていることなど微塵も知らない、鏡華と柚姫は。
「時間よヒメ!今度こそ勝ってやるんだから!!」
「はいはい、それで、勝てる自信はあるの?」
妙に自信満々な柚姫に鏡華は一瞬尻込みする、がまけじと「勝ってやるんだから!」と意気込みを口にする。
「それじゃ、いくわよじゃんけん───」
ぽん、柚姫の手はパー、対する鏡華の手はグーだった。
「あ~また負けた…どうなってんのよ…ヒメ強すぎ…」
鏡華ががっくりと肩を落としてると、柚姫はにやっと笑ってコツがあるのよ、と言ってきた。
「何よ、コツって!あるなら教えてよ!!」
鏡華のその言葉に、柚姫は教えたら面白くないででしょ~と買って来たジュースをすする。二人のじゃんけんのルールは、一回勝てば30分間負けた相手が情報を集めるという条件だったが、現在柚姫が4連勝中だ。そのため、悠々と柚姫はジュースを飲んでいるというわけだ。
「ほ~ら~きびきび動く~」
楽しそうな柚姫とは対照的に鏡華は覚えてなさいよ~と唸っていた。
「さて、今日の情報集め、結果はどうでしたか?」
宿に戻り、明日香がニッコリ笑顔で聞く。全員がそれなりの戦果を上げてきたため、明日香特製のお仕置きコースは無かったようだ。
そんなこんなで、情報交換をしてもう寝ようという事になり、全員がそれぞれの部屋に戻る。
明日香達も戻ろうとしたが、なんとなく外の風に当たりたくなり、外に出る。もちろん梓も一緒についてきた。この分ではどちらが姉なのか傍から見れば分からないが、本人たちはきちんと明日香が妹で梓が姉だという事を自覚している。
「ねぇ、お姉ちゃん?」
「何?明日香、私が出来る事なら何でもやるよ!だって、明日香のお姉ちゃんだしね♪」
そんな言葉に、明日香は少し悲しげに、
「そう、だよね…お姉ちゃんは、私のためなら、何でもしてくれる、よね…そういうお姉ちゃんだもん……」
そう呟くが、その言葉は梓には届かず、夜の闇と少し肌寒い風の中に消えていった。
「やっぱり、もどろっか。リュカは中にいるんしょ?」
「そうね、戻りましょうか。……ねぇ、ちょっとだし良いよね?明日香」
梓はそういうと、そっと手を差し出してくる。明日香は仕方ないなぁ、とは声に出さずにくすっと笑うと、そっと手を握り返した。
「ごめんね、リュカちょっと…って、ありゃ」
明日香が気付き、後から入ってきた梓も同じく、ぐっすりベッドの上で寝ているリュカに気が付く。服が少しはだけていたため、そっとブランケットをかけてやると、お風呂に入ろうと明日香が考えていると、
「ん、お風呂?私と一緒に入る?」
心でも読めるのかと思っていると、窓の外にふらふらと飛んでくる物体を目撃した。なんなのか、とじっと見つめているとこちらへ飛んできた。しかも、速度が落ちるような気配が全くない。
やばい、と思った時にはもう遅く、明日香達の部屋の窓からダイナミック入室を果たした。
「痛った~もう、いやです……さんざん、だなぁ…」
「え、えっと…誰?」
明日香が、不思議そうに突入をはたしておしりを痛めている少女に名前を聞く。
「あっと、私ですよね…リスティ・エルフェリアです…」
明日香が名前を聞いた後に思ったことは、
(また、何か起こりそうだなぁ……)
と言う感想だった。




