過去なんて関係ないー1
少し短くなりました。
アリシア達に二人の実力が見てみたいと言われ、一週間後に一度手合わせをすることになった。
「二人が翠さんの娘さんですか?」
後ろから白衣を着た少女が歩いてくる。梓と同い年くらいだろうか、少女は二人の体を見て。
「ギリギリ勝ち...ですかねぇ...」
「何のこと?」
明日香が言葉の意味を聞いてみると。
「それは勿論む――」
「そこまでよ、凜」
マルモに凜と呼ばれた少女は、少し不機嫌そうに顔を膨らませたが、それ以上は何も言わなかった。
こほん、と咳払いをして明日香の方へ向きなおすと明日香達に改めて自己紹介をする。
「では、改めて。初めまして明日香さん、梓さん。私の名前は藤宮 凜と言います、よろしくお願いしますね」
「こちらこそ宜しくね凜さん」
凜は「さんはなくても良いですよ、恥ずかしいですから」と照れくさそうに言ってきたので。
「分かったよ、宜しくね凜」
「じゃあ、早速封じた記憶の解除をさせてもらいたいので、私についてきてくれますか?」
明日香達は凜の後ろについていくと、凜の部屋だろうか機械や何だかよくわからないものが溢れている部屋に連れてこられた。
「この部屋の奥で記憶の解除をしますね」
凜が部屋の本棚を動かすと、奥にもうひとつ部屋が存在しその中へ入る。
「さて、明日香さん達はこの円の真ん中に立って貰えますか?」
二人は言われた通り、円の真ん中に立つ。
凜が円の前に立ち、何かの模様を書き始めた。
「これで、準備完了です。明日香さん達の記憶以外に初歩の魔法等も記憶に加えるので、少し頭に負担がかかるかも知れません。それでも構わないですか?」
凜の質問に二人はこくり、と頷いた。
「それでは、『記憶再接続』」
円が輝き、明日香達が光に包まれる。
「うっ...あっ、頭がぁ...」
「くっ...あっ...ぐぅ......」
二人が苦しげに声を上げ、数秒後光が二人から離れると床に倒れてしまう。
凜は駆け寄り二人に声をかける。
「だ、大丈夫ですか!?」
明日香は苦しげだが、体に異常は無いようで、いつもより弱々しい笑顔で。
「だ、大丈夫...じゃないかな...でも、おねぇちゃんの方がたぶん...大変だよ」
明日香に言われて、凜が梓を見ると。
「ぅ...あすかぁ...」
明日香の足を掴んで、「うぅ...」と唸っていた。
「確かに...大変と言えば大変ですね...取り敢えず、医務室に連れていきますね」
と凜が梓を担いで医務室に運んでいった。
「ふぅ~、お姉ちゃんは何で私に抱きついたまま寝たりするんだろう...」
明日香はそんなこと考えながら、記憶した技を使える用にするため外へ歩いていった。
「ふっ!...何かこの感覚久しぶりだな...」
「ふふっ、私も一緒に練習させてもらってもよろしいですか?」
明日香の後ろからアリシアが話しかける。
「うん、良いよ♪」
明日香はアリシアと共にしばらくの間技の練習を続けた。
次の日からは、二人とも一人で練習をするようになり、あっという間に約束の一週間後の日になる。
「明日がアリシア達との勝負の日...頑張らなきゃね!」
アリシアが空き部屋を自由に使って良いと言っていたので、一階に有った空き部屋を自分の部屋にしていた。
明日香は疲れの溜まった体を直ぐにベッドに倒す前に、シャワー位は浴びた方がいいと思い浴室に向かう。
「はぁ...疲れがとれる~♪」
明日香は流石に自分の部屋にまで梓は入ってこないだろうと考えていたが、その考えは甘かったようで。
「あ~す~か~!!一緒に体の洗いっこしよ♪」
「お、お姉ちゃん!?何で私がお風呂に入ってることが分かったの!?」
梓は親指をグッとたて。
「魔法使って明日香の部屋から水の流れる音がしたから来ちゃった♪」
これが才能の無駄遣いってヤツなのね...等と考えていると。
「あら?今日は大人しいじゃない明日香?」
「だってお風呂で暴れるのは良くないもん...」
明日香のその言葉を聞いて梓の中のシスコンとしての魂と百合少女の魂が反応して。
(何、この可愛い生き物!?お持ち帰りしなくちゃ!)
明日香は梓の良からぬ事を考えていたことに感づいたのか、浴槽に飛び込み身を守ろうとする。
「ふふっ、そんなことしてもムダよあすか♪」
ちょっ、そこは、ダメだって!という声を無理やり抑え、明日香の大切な所をじっくりといじり倒した。
そこから数十分は、明日香の悲鳴混じりの喘ぎ声が浴室中に響いていた。
「ひ、酷い目に遭った...」
「そう?私には明日香も楽しんでいるように見えたけど?」
「そ、それは...おねえちゃんがあんなに激しくするからじゃん!」
明日香は必死に梓の言ったことに反論するが。少しはその通りなのでどうしてもキッパリと否定できない。
「じゃあ、次は激しくないようにしなきゃね♪」
梓がそんな事を言うので明日香は、疲れをとったはずなのに溜め息しか出ず。
「明日はアリシア達との勝負の日だよ...?」
大丈夫かなぁ...と悩んでいる明日香の後ろからいつものような軽いノリではなく、真剣な声で。
「......心配しないで、私これでも結構頑張ったんだから......」
「...その言葉信じるからね」
梓は何事もなかったかのように、それじゃあまた明日♪と言って自分の部屋に戻っていった。
「......本当に頑張らなきゃいけないのは、私なのかもしれないのに......」
向かえたアリシア達との勝負の日。
明日香はいつも通りより早く目が覚めてしまい、外を走っていると。
「ハァッ!」
(あれってお姉ちゃん?)
明日香が隠れて見る先には梓の姿があり。
「これじゃまだ足りない...もっと威力を上げないと...」
梓は、魔法弾を木の幹に当てている。梓は、誰かの気配感じたのか周囲を見渡す。
(ば、バレてないよね...?)
気配は気のせいだと感じたのか、梓は特に気にせずそのまま帰っていった。
「私の知らないとこでお姉ちゃん特訓してたんだ......私もお姉ちゃんに負けないように頑張らなきゃ!」
明日香はお姉ちゃんには負けないと心に誓うのだった。
「明日香さん達ここですよ」
凜に連れてこられやって来たところには、巨大なホール状のドームのようなものがあった。
「ここは私達のギルドが訓練用に使っていた場所です。元々は翠さんや他の人が使っていたんですけどね」
凜が少し苦笑ぎみに言うと、明日香は。
(そっか...凜はお母さん達がいた頃からずっといたんだ..)
「このパネルに乗って中に入るんですよ」
凜の言う通りにパネルに乗るとドームの中に転送される。
目の前には、アリシアとマルモが既にいた。
「明日香、梓あなた達に先に言っておくわね。常識に囚われているあなた達には私たちを倒せないわ」
マルモの一言にカチンと来たのか、梓が切り返す。
「ふ~ん、言ってくれるじゃない。これでも結構常識には縛られてないと思うけど」
梓が手のひらに炎を作り出す。
「案外、そう思っていても常識って消えないものなんですよ」
アリシアの挑発に梓は。
「じゃあ、アリシアやマルモはどうやってその常識を越えたのかしら?」
「それは、機密事項です♪だって、いま教えるわけにはいかないでしょう?」
凜が上から様子を見ていたようで。
「準備が出来ましたよ。ドームの中を調整して、相手の攻撃で肉体へのダメージが無いようにしておきましたから」
それじゃあ、頑張ってくださいね。と凜は楽しそうに言っていた。
「さて、始める前にあなた達にも武器を渡しておくわね」
マルモは明日香に二本の剣を、梓には杖を渡した。
「それでは...試合開始です!」
凜の声と共に異世界での初めての戦いが始まった。




