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黒薔薇の騎士団  作者: すずしろ
EX Episode-2
37/77

見つけた居場所

閑話一本目です。今回も敵サイドのことに軽く触れさせていただきました。

 私は、今何処に向かっているのだろう。歪んだ空間を通り抜けた後に私の視界に入ったのは、真っ暗な森。クロエさんに連れられて歩いていく先の景色は一寸の先も見えない。

 心の中で不安が募り始めた頃、クロエさんが木の幹の前に立って何かを行っていた。

 「さ、こっちよついて来て、もうすぐ着くから」

 クロエさんは私の心を読んだかのように的確な言葉を言ってきてくる。声に出ていたのかどうかは分からないけど、声に出ていなければきっと顔に出ていたのだろう。

 しばらく歩いていると、雰囲気が変わったのが肌で感じ取れた。説明はできないけど、あまりいい空気ではないことは私でも分かった。やはり、表向きの活動をしていないギルドともなると、こんな雰囲気になるのかもしれない。

 「ここが…クロエさんのいるギルドですか……?」

 私が見たのはつや消しの黒で、外面を視認されにくくしている漆黒の巨大な城だった。良く見えないが中世風の造りになっているようだった。

 「そうよ、さあ入って。貴女も私たちと同じギルドの一員なのだから」

 クロエさんの言葉に誘われて恐る恐る私はギルドの中に入った。

 次の瞬間私を迎えたのは騒がしい男達の声と、グラス同士を合わせる音などとにかく五月蝿かった。

 「お!義姉さん!今帰りですか!ん…?そこの女は誰ですか?」

 クロエさんが帰ってきていたことに気づいたがたいの良い男の人が私のことを不審そうな目で見ている。

 その他にも私に気づいた男の人たちは私のことを舐め回すように見てきて、正直かなり気持ちが悪かった。

 私が困った表情をしていると、クロエさんが見かねたように男達へ注意する。

 「あんたら…いつもいつも女が来たらこんな感じだよね…どうにかならないの?あと、この娘はあたしのお墨付き、あんたらよりも確実に強いからね?」

 クロエさんの言葉に、男の人たちはさっきから見ていた目を逸らす。まあ、見られることがなくなった分ましだと思う。

 あの後、長い廊下を歩いていると、その脇でギャンブルをしている人とかの姿もあって、かなり大規模なギルドだってことが分かった。

 「白亜、今からギルマスの部屋に入るから、覚悟しておいてね」

 クロエさんの声音が真面目なものに変わり、私もそれを聞いて覚悟を決める。

 扉を開けた先にいたのは────


 「ふぁぁぁ………ああ、ねみぃ…ん?おお、クロエ帰ってたのか、でそこの金髪美少女は誰だ?」

 大きな椅子に座って眠そうに欠伸をしている男の人だった。顔も悪いというわけでもなく、優男という雰囲気がある人だった。それでも、ここのギルドマスターということは相当な実力の持ち主なのだろう。

 「この娘は白亜、新しく入った子よ?契約書類ギアスロール飛ばしたはずなんだけど、見てないの?」

 クロエさんの言葉で、男の人は急いで書類が山のように積もった机を漁っていた。

 ちょっとして、私が書いたあの入団書を見つけたようで、書類をじっと見て、私のほうを見る。その夜色の瞳は私の心を覗いているような気がして、少し怖かった。

 「おお…確かにあったな…すまない、こっちのミスだ。ようこそ俺のギルド『漆黒の死神ドミニオンゼファー』に分かっているとは思うが、ここは闇のギルド汚れ仕事や、殺しの依頼なんかも届くから覚悟はしておけよ」

 その思い言葉に、私は改めてもう戻れない道を歩んでいることを実感した。


 「貴女の部屋はここよ、何かあったら呼んでね。もし男どもだったら死よりも恐ろしい目に合わせるから」

 クロエの一瞬見せた表情に、私は苦笑して扉を閉じる。

 私は、自分以外誰の気配もない部屋で、

 「私…本当にこれであってたのかな……?」

 部屋にあったベッドに倒れこんで考える。あの世界に自分の居場所がないのは、もう分かっていた。でも、このギルドに入る必要はあったのか?本当にクロエの話が本当なのか?そんな疑問は後から後から沸き上がってくる。

 結局あの後、歩きっぱなしでここまでたどり着いたのだ。空腹だし汚れているしと、散々なのだ。

 空腹は後でも何とかなるから、まずはお風呂に入りましょう。

 お風呂場のドアを開けるとそこにはユニットバスがあったのでお湯を張っておきます。

 お風呂が沸くまで少し時間がかかるし、部屋に何があるか────

 「………動かないで……」

 いきなり、私の首筋に冷たい金属を押し当てられる感覚。声色から聞いて、小さな女の子なのだろうが、私が小さな女の子の気配に気づけないなんてありえない。

 この子もこのギルドの一員なのだろう、私が捕まるまでのあの流れに迷いも詰まった所も一つもなく、流れるような作業で私を捉えていた。

 「何…する気…?」

 「……教える、気は無い……」

 自分の視界で捉えられる範囲で電子機器を探す。見えたのは、テレビ、冷蔵庫と私が武器として使うにはそれなりに使えそうだ。

 私は力を使うイメージをして、それを外に出すことをイメージして放出する。

 すると白雷が、私の周りを躍りだす。女の子は私の能力を警戒したようで、一瞬で距離をとる。

 「……殺られるまえに…殺る……!」

 少女は小刀を構えて、私に向かってくる。それに迎え撃って、私が迎撃しようとした瞬間。

 「アリナ~マスターが探してたよ~………何処行ったのぉ~……?」

 どこか間の抜けた声が、部屋の前を通り抜けていった。少女はその声を聞くと、どこかへ消えてしまった。多分、あの娘がアリナなのだろう。


 しかし、なんで私を襲ったりしたのだろう?特に私には理由が思いつかない。

 と、そんなことをしているとお湯が沸いたようで、浴室から暖かい空気が漏れ出てくる。

 「あ…お風呂沸いた…入ろ、考えてても仕方ないし」

 私は服を脱ぎ捨てて、浴室に向かう。下着だけの自分の姿を鏡で見て、

 「この姿も……作られたモノなんだよね……」

 白い肌、長くさらさらなブロンドの髪、美しい青色の瞳、人形のような出で立ちと言われていたが、実際に人形だと思う人間は一体何人いるだろうか。

 先ほどアリナに小刀を押し付けられた場所から、赤い血が流れていた。自分は人間ではないというのに、

 「考えるの…止めよ、その為にここに入ったんだから……」

 下着を脱いで、一糸纏わぬ姿になって浴室に入る。中は湯気で一杯になっていて、どうやらきちんと沸いているようだった。

 「はふぅ………癒される…、知った前も後もやっぱりお風呂はいいもの……」

 湯を手ですくって、肩にかける。湯船に結んだブロンドの髪が広がって、光を反射して湯船がきらきらと光る。

 湯船に顔をつけて、ぶくぶくと泡を立てながら改めて考える。なぜ、アリナが襲ってきたのかを考え直す。

 (あの娘と私の接点なんて無いはず…じゃあ、なんで襲ってきたんだろ……?う~わかんないー!!)

 そこからたっぷり数十分悩んだ結果、上せかけたという答えだけが残った。


 のぼせた身体を冷やすという意味でも、部屋の外へ出て何か冷たいものでも飲もうと、共用の食堂へと向かう。

 夜遅いといってもギルド内だからか、まだ食堂には結構な人数がいた。悪酔いしている人間もいるところを見ると、依頼が完了しそのままの流れで飲んで悪酔いした感じだろう。

 「アイスティーある……?」

 「はい、ありますよ♪ちょっと待っててくださいね」

 受付の少女が、笑顔で答えると厨房に向かって「アイスティー!」と叫んでいたので、白亜は適当な椅子に座る。

 周りを眺めて時間をつぶしていると、ことん、と机の上に氷の入った紅茶が運ばれてくる。お礼を言おうと、顔を上げるとそこに見えたのは。

 「………アリナ、ちゃん……?」

 ふりふりのメイド服を着た褐色の肌の少女、アリナの姿があった。まさか、つい先ほど殺し合いに発展しかけて、こんなところで鉢合わせるなんて夢に思わなかっただろう。

 「これ…おまけ、お腹空いてるでしょ……?」

 アイスティーと一緒においてくれたのは、サンドイッチだった。色鮮やかな具材を挟んでいて、空きっ腹の白亜にとってはこの上ないおまけだった。

 「あ、ありがと…一つ聞いて良い?」

 「……何?」

 白亜は恐る恐るその口を開いて、アリナに質問する。

 「なんで、アリナちゃんはいきなり私に襲い掛かってきたの……?」

 「……どっきり……その後、ご飯作ってあげようと思ってた…」

 なんというか、斜め上過ぎる答えだった。あそこまで技術を使ってのドッキリ、というのも苦笑ものだが、少なくとも自分に敵意を持たれていることは無いと分かって安心した。

 白亜は、そっか…、と苦笑しながらアリナの作ったサンドイッチを口にほおばる。しゃきしゃきの野菜とハムの味が絶妙にマッチし、それを覆うようにパンの味がしてとても美味だといわざるを得なかった。

 「お、美味しい……」

 「気に入ってくれて、良かった……ご飯は、皆の心を休めてくれる。荒んでいても、壊れていても、狂っていても、ご飯を食べないとやっていけないから……」

 アリナはそう言うと、また食堂のほうへと戻っていった。


 改めて、アイスティーを飲みながら周りの人間を観察してみると、男ばかりではなく女の人も少なからずいるし、中にはアリナと同じくらいか、年端もいかないくらいの小さな子供達の姿もあった。

 「皆、何かあってここに来たのかな…?」

 「そういうのは聞かないほうが良いですよ」

 思わず呟いた一言に、横からの少女の声が返してくる。びっくりして、白亜の気道にサンドイッチが詰まって咳き込んでいると、水を持ってきてくれた。

 「けほっ…あ、ありがと…食堂の受付の娘よね?」

 はい♪、と返してくれる少女は茶髪のポニーテールを元気よく揺らして、快活そうな雰囲気を出している。

 「私はミュウ、見て分かるようにここのギルドで働いてます。本業は魔物の養成ですけどね、あとアリナはちっちゃいですけど16歳ですから」

 ミュウの言葉に、白亜は再び咳き込む──ということは無かった。少し前にも同じ様な少女を見たから、そういう耐性はくしくもついてしまったのだろう。

 「皆、言えないようなことがあってここに流れ着いたんです。だから、その傷を抉るようなことはしないほうがが良いと私は思いますよ」

 ミュウの寂しそうな顔を見て、白亜は言葉を失った。確かに、自分だって聞かれたくないことの一つや二つくらいはある。それを人に聞かれるなんて、たまったものではない。

 「そっか、そうだね……ごめんね、ミュウさん気分悪くさせちゃって」

 ミュウは別にいいよ、と手を横に振って大丈夫だと身体で伝えてくれている。

 白亜はサンドイッチ完食し、とアイスティーを飲み干して。

 「ありがと、美味しかったよ」

 そう言って、与えられた部屋へと戻ってゆく。


 ────ここが、自分の居場所。皆もおんなじ気持ちなんだ、だからそんな事は聞かないし、聞いちゃいけない。

 聞いて何ができるわけでもないのだから。話す人を傷つけるわけにもいかない。だって皆も私と一緒なんだから────

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