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黒薔薇の騎士団  作者: すずしろ
E-3 機巧と魔道の帝国
33/77

覚悟と決意

 ───ょう、鏡!───

 私を呼ぶ声が聞こえる。いつの間にか意識を失っていた私はその声につられて、重い瞼を開けると、そこに見えたのは泣きそうな顔をした柚姫だった。

 「鏡!気が付いた!?」

 「ぅ…柚姫…?」

 「そうだよ!心配して、国中駆け回ったんだから!」

 柚姫は胸を張って必死に言ってるけど、柚姫なら私の魔力を探せたはずだしそこまで時間がかからなかったと思う。

 その後、柚姫は心配そうな顔で私に話しかけてくる。

 「……ねぇ、白亜は、白亜は何処にいるの?」

 私は答えられない。答えることができない。だって、白亜は私の目の前で、どこかへ消えてしまったのだから。

 心配そうな瞳が私を見つめる。重々しい空気に耐え切れなくなった柚姫が。

 「……言えない訳でもあるの?」

 そう聞いてきた。別に、言えない訳ではない。ただ『白亜を知らない女性が連れて行った』と言えば良いだけなのだから。

 それ以上に私は───

 「……しい、悔しいの……私の目の前で白亜が連れ去られたのに、私は何もできなかった!何度声をかけても話を聞いてくれなくて、白亜は最後に『ごめんね』ってそう言って女の人についていった…そんな何もできなかった私が悔しいの!!」

 我ながらに滅茶苦茶だが、柚姫は静かに聴いていてくれて。それから、

 「なら…白亜を探しに行きましょう?鏡は私の右腕、私の行くところにどんな時でもついてきてくれる」

 柚姫は私に手を伸ばしてくれた。私はその手をそっと握り返す。

 その手はとても暖かくて、優しい手のひらだった。


 「柚姫、鏡華!二人とも大丈夫!?」

 あのやり取りの数分後、明日香達がここへとやって来た。恐らく明日香たちも自分達の魔力を探知したのだろうと考えていると、銀の髪と群青の瞳をした少女マルモがやって来て明日香に話しかける。

 「だめ、白亜はここにはいない多分…別の世界」

 その言葉を聞いて、柚姫は明日香に問いかける。

 「ねぇ、明日香は異世界から来たんでしょう?」

 質問の意図が分からない明日香は首を傾げたが、こくんと首肯する。

 柚姫はその答えを聞くと。

 「なら、私たちを異世界に連れて行って、お願い」

 いきなりのそんなお願いに明日香も戸惑いを隠せないようで「ふぇっ!?」と、動揺した様子が見られたが、梓が代わって…かどうかは分からないが話を進める。

 「ダメ、正直な所貴女達では実力が足りなさ過ぎる」

 その言葉に柚姫たちは言葉を詰まらせる。確かに正論だ。明日香たちの実力と自分達との実力では天と地ほどの差、とまではいかなくとも、エベレストとマリアナ海峡くらいの差はあると自負している。

 だが、それだけで引き下がるほど柚姫もできてはいない。

 「別に、私たちを守って戦ってくれなくてもいい。私たちを連れて行ってくれれば後は自分達で何とかする」

 柚姫の言葉に梓はう~、とうなりながら頭をぽりぽりとかく。

 すると明日香が、驚きの一言を口にした。

 「別に良いんじゃないの?私たちの修行場で私たちの闘いについていけるくらいまで強くすればいいんだし」

 「ちょっと、明日香!流石にお姉ちゃんでもそれは許容できないわ!今はこんなのでもギルドマスターなのよ!?」

 「私だって無責任に言ってるわけじゃないよ?最低限でも私たちの戦いについていけないと絶対に白亜は取り返せないと思うから」

 明日香のその言葉に引っ掛かりを覚え、梓はその理由を問いただす。

 「取り返せないってどういうことよ?」

 「マルモに聞いたけど、ついさっき出て行った魔力の反応は二つ、一つは普通の魔力だったって言ってたけど、もう一つがかなり異質な魔力だって言ってた。多分私たちを襲った『殺龍真祖ドラゴンキラー』と同じタイプだと思うって言ってたから多分あいつらの仲間だよ」

 明日香の言葉を聞いて納得する。

 殺龍真祖は明日香達竜の血を持っている種族の天敵のような相手だ。ただし、それを抜きにしてもあの黒衣を纏った者は恐ろしく強かった。

 あそこで記憶が途切れてしまったが、恐らく何者かの加勢があってどうにかあの場を切り抜けたのだろう。

 「って言うことは、白亜もあいつらの仲間に…?」

 「そこまでは分かんない。でも、話を聞く限りでは仲間になったのかもしれない……」

 明日香はそこまで梓と話すと、柚姫たちのほうへと向き直る。そして、

 「二人は死ぬ覚悟はあるかしら?」

 明日香は言う。その言葉は今まで見てきた明日香の元気な声とは違い、冷たく威厳のある声だった。

 それは、幼い少女のものとは思えない歴戦の風格を漂わせていた。

 「……ええ、それで白亜が助かるのなら命だって何だって賭けてやるわ」

 「これでも私はヒメの右腕です、この程度のことで引き下がったりはしません」

 二人の答えを明日香はそう。と短く返す。

 そしてしばらく考え込んだ後、明日香が口を開いて告げる。

 「分かったわ。それじゃあ貴方達を異世界に───」

 言葉の途中で、突然穏やかな、だがその中に凜とした強さの含まれる声にさえぎられた。


 「は~い、そこまで~♪」

 その方向に全員の視線が集中する。鼻歌交じりで歩いてきたのは光の加減で青にも銀にも見える美しく長い髪を持つ少女エメルダだった。

 「二人とも何勝手に異世界へ行こうとしてるの~?」

 エメルダの無神経な問いに思わず柚姫が声を荒げる。

 「っ!そんなの白亜を取り返すために決まってるでしょう!!」

 「忘れたの?第零独立治安部隊にはいつ如何なるときも女王を警護すべし。という命令を背くのかしら?」

 エメルダの責めるような口調に、柚姫は反論する。

 「第零治安部隊は私と鏡華、そして…白亜の三人がいないと第零治安部隊とは思わない。だから、私は祖も命令を聞くつもりは無いわ」

 エメルダはその言葉を聞いてふ~ん、と言葉を漏らすとくすっと笑って、

 「じゃあ……私と戦って勝ったらいいわよ?もちろん私は一人、柚姫側は鏡華も入れて二人で良いわよ?」

 エメルダは楽しそうに笑っている。だが、柚姫は二対一という条件ならば恐らく勝てると踏んで頷く。

 「分かった…二対一なら───」

 「ダメよ、二人でもエメルダには勝てないよ」

 明日香は冷たく言い放つ。柚姫はそれを聞いて、思わず反論する。

 「どういうことよ!私達二人でも勝てないって!」

 「柚姫たち気付いてないでしょ、エメルダが本気の魔力を出してないことを」

 明日香にそう言われて、エメルダは苦笑しながら肯定する。

 「あはは~ばれた?流石に明日香ちゃんにはばれるか~やっぱりリーダーの娘さんだもんね」

 「やっぱり…な~んかおかしかったんだよね…闢零が最初にエメルダを助けたとき、『期待して待ってる』って言ったんでしょ?でも、闢零は私のことをお嬢様って呼んでるのよ?普通に考えたら『お嬢様』が引ったくりから物を取り返せるなんて考えないでしょう?」

 確かに、普通のお嬢様が引ったくりから物を取り返すなんてありえない光景だ。

 それこそ、どこかの職人になろうとしたお姫様とか、どこかの精霊王を怒らせた姉の妹の仲間達くらいしか思い当たらない。

 もちろんこの話は空想上であり決してリアルのアニメで今やってたり前クールでやってたアニメとかではない。

 「それに、いま『リーダーの娘さん』って言ったしね♪」


 エメルダは頭をぽりぽりとかくと、本来の魔力を開放する。

 柚姫たち二人以外は隠していた事には気付いていたが、その総量までは計れなかった。

 その魔力を明日香達は浴びて涼しい顔をしようとしていたが、いやがおうにも、冷や汗が出てしまう。

 「ごめんなさいね。それじゃあ、改めて明日香ちゃん達にはじめましてね、私は元『極光の歌姫シンセサイズ・ローレライ』所属虹の七姫セブンスレイが一人『青鎖の人形師ドールメイカー』よ」

 虹の七姫。その強さの目安は虹の色の中に入るほど強いとアリシアに言われていた。アリシアは赤、つまりその中では最弱ということになっている。その中で青色は内側から三番目。つまりリーダーを除いて三番目に強いということになるのだ。

 「嘘…これが…エメルダ様の本当の力………」

 柚姫は唖然としていた。確かに、明日香の感覚ではエメルダが見せていた魔力は現在の数十分の一程度だ。

 それが一気に膨れ上がれば、誰だって驚きはする。

 だが、柚姫が驚いているのはそこではない。今から戦う相手の本当の魔力を見て痛感したのだ。

 力不足だということは前々から感じていたが、エメルダにならば二人がかりで戦えば勝てると踏んでいたのだ。

 それが、本当の力を解放すると言われ、数十倍の魔力になったら普通の人間でも、そうでなくても心が折れてしまう。

 「さぁ、二人とも私と戦って勝つんでしょう?いらっしゃい、たっぷり遊んであげるから」

 エメルダが指をちょいちょい、と振り攻撃を促す。

 だが、柚姫と白亜はエメルダの魔力に飲まれて動けない。エメルダはその様子を見て、情けないなぁ…と呟いて。

 「それならこっちから──」

 「待って、二人の代わりに私が戦うわ。推したのは私だしね」

 そう言って前に出たのは明日香。腰には緋と蒼の鞘に包まれた剣があった。

 「流石にそれはダメだと思うんだけどな~だって、『異世界に行く』って行ったのはヒメちゃん達だよ?」

 エメルダの言葉に明日香も同意する。

 確かに言い出したのは柚姫たちだ。だが、それを許可した自分にも責任があると明日香は感じていた。

 明日香は心の中で二人に謝ると、エメルダに向かって、

 「確かにそうね、でも『弱いものイジメ』して楽しいの?」

 「っ……!?」

 明日香の言葉に、柚姫たちは思わず言葉を漏らしてしまう。

 それもそうだろう。別に、明日香に悪気は無いことは分かっている。明日香もエメルダとの勝負対象を自分達では無い様にするために考えていった言葉なのだろうが、それでも全く辛くないわけではない。

 「……ま、それもそうね。今の二人と戦ってもそっこーで倒しちゃうだけだし、明日香ちゃんの方が絶対に楽しいかな~」

 「それは交渉成立と受け取っていいのかしら?」

 エメルダはその言葉に笑顔で返答する。

 「それなら…遠慮なく行かせてもらうよっ!」

 明日香が一足飛びに距離を詰める。そのままの勢いで緋焔を鞘から抜き去り、逆袈裟に切り払う。エメルダはそれをすんでのところで躱し、召喚句を紡ぐ。

 「出てきて『アリア』お仕事の時間よ」

 そう言って呼び出されたのは、人間の形をした人間とは思えないほどの美しさをした人形だった。

 柚姫たちは明日香とエメルダのレベルの違う勝負をただ横で指をくわえて見ていることしかできなかった。

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