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黒薔薇の騎士団  作者: すずしろ
E-3 機巧と魔道の帝国
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初めての異世界へー2

 「貴女みたいな小さな娘でも盗むことは許さないわよ!」

 少女がビシッと、効果音がつきそうなくらい見事に明日香の事を指さす。

 明日香としても言い掛かりをつけられては不本意なので誤解を解こうとする。

 「私じゃないわよ!そこにいる男の人が───」

 そう言って、男を方に振り向くと、

 「………何処にいるのかしら……お嬢さん?」

 明日香の踵落しが完璧に決まって少なくとも意識は数時間は戻らないはずの男の姿がどこにもなかった。

 「流石に嘘までついて逃げようなんて性質が悪いわね……!ちょっと、お仕置きよ!」

 少女が、何かのデバイスのようなものを取り出すと。

 「手加減しなさいよ!『接続アクティベートグランシュヴァリオ』!」

 そう叫ぶと、空間が歪み、虚空から銀の甲冑を身に着けた騎士が姿を現す。

 明日香は本能的に騎士が魔物ではなく、少女に使役されている何かだということにまでは気付いたが、それ以上は考えていられる余裕は無かった。

 騎士が低いうなり声を上げ、襲い掛かってきたので、明日香は小さくため息をつくと、騎士を壊さない程度の限界まで手加減して。

 「あ、緋焔こっち来て『武装化アームド』」

 完全に話から緋焔を剣の姿に変え、構えると。

 「御影流『絶影』」

 刹那の内に敵の真上へと飛び、騎士を一刀両断する勢いで、大上段から振り下ろそうとした瞬間──

 「は~い、そこまで~」

 と、この一触即発の状況とは無縁そうな軽い声が響く。

 その少女は、闢零に様子を見ておいてと言った少女だった。

 騎士を従えている少女が、その少女を見て、様子を一変させる。

 「あ、エメルダ様!ようやく見つけましたよ!何度も言いますけど、勝手に城を抜け出さないで下さい!慣れている人はともかく、新人の人達に要らない心配をかけさせないで下さい!」

 今聞いた、エメルダ、という名前は先ほどマルモに撃たれた時に記憶した。


 確か、この国──エルフェディア王国の王女の名前だったはずだ。

 「だって~ずっとお城の中にいても、つまらないし~城下町のほうがずっと楽しいんだもの!」

 王女とは思えない発言に、その少女も頭を痛めているのか、深くため息をつくと。

 「そんなことを言っているから、こんなことが起こるんですよ……それより、この子たちが犯人じゃないなら一体誰なんですか?」

 少女が、尋ねると、エメルダは「よいしょっと」と、掛け声とともに男を投げる。

 投げた男のズボンからは、精緻な加工の施された白銀の手鏡が出てきた。

 「こ、これ王家の手鏡……成る程、こいつが犯人で間違いなさそうですね『接続アクティベートホロウオブケージ』」

 先ほどのように、少女はデバイスのようなものを操作すると、空間が同じように歪み、今度は人が数十人は入れそうな巨大な鳥籠のような檻がが現れた。

 少女は慣れた手つきで、男を檻の中に入れると、もう一度デバイスを操作し。

 「それじゃ、頼んだわよ。それとあなたもお疲れ様」

 そう言うと、最初から何もなかったかのように、檻と騎士の姿は消えていた。

 それから、少女は明日香のほうへと向き直り、深々と頭を下げる。

 「ごめんなさい!早とちりしてしまって!私の悪い癖なんです!」

 「いいよ、分かってくれたなら。別に何か言うつもりはないよ」


 少女が、ほっと一息ついた事とほぼ同時位のタイミングで見慣れた、少女──闢零と梓たちがこちらにやってくる。

 「明日香~!無事だった!?変なことされてない!?」

 梓が、明日香の肩をつかみながら、必死の形相で聞いてくるので、明日香は。

 「大丈夫だ……よっ!」

 背負い投げの要領で、梓を投げる。

 梓も流石に投げられ慣れているのか、器用に空中で一回転すると、器械体操選手ばりに見事な着地を決めた。

 「ちょ、明日香~いきなり投げるのやめてよ~ビックリするじゃない」

 梓は対して驚いた様子も無くごく自然に着地していた。

 少女はなんだかよくわからない状況にどうしようかと一瞬うろたえたが。

 「は…早いですよ……私達は、ヒメみたいに飛べないんですから…」

 ゼェゼェと息を切らしながら、ヒメと呼ばれた少女を見つめるのは、銀色のセミロングの髪を少しだけ遊ばせた、赤色の目をした少女だ。

 「ご、ごめんなさい鏡……次からは……あれ?白は?」

 「い、今……走って…来てる…」

 「そ、そう…本当にごめんなさい……」

 謝っていると、鏡と呼ばれた少女が、明日香の方見て。

 「ヒメがご迷惑かけて申し訳ありません。本人に悪気はないので許してやってくれると有りがたいのですが…」

 明日香は笑って、鏡華に答える。

 「別に気にしていないから良いよ。それより、まだ私貴女達の名前も知らないんだけど…」

 苦笑しながら、明日香がそういうと、鏡華は「す、すみません…」と、一瞬体を縮こまらせて。

 「申し遅れました。私は天音あまね 鏡華きょうかさっきの早とちりした人、立風たちかぜ 柚姫ゆきの──何でしょう……?片腕的なあれです」

 鏡華自身もよく分かっていなかったのか、微妙な答えだったが。

 「ちょ、鏡!前、『私の方が白よりも右腕に向いています!』って言ってたじゃない」

 「何言ってるんですか?そんなこと言った覚えはありませんよ?」

 鏡華は冷静に柚姫をスルーして。

 「とりあえず。白がこっちに来ていますから、少し待っておきましょうよ」


 鏡華の冷静な声に、柚姫はむ~、と不服そうだったが、納得したようでエメルダを捕まえながら。

 「とりあえず、白が来るまで待ちましょうか。話はそれからね、それでいいですねエメルダさん?」

 柚姫の冷たい声に、エメルダははぅぅ~、と助けを明日香たちに求めていたが、状況が状況だ。

 正直、迷惑をかけたのは客観的に見てエメルダのような気がするのであまり助ける気にはなれないというのが、現状だ。

 「お、遅れて…ごめんなさい…もう、終わっちゃいましたか…?」

 肩で息をしながら、遅れてやってきたのはブロンドのロングヘアー、青色の瞳に涙をためている少女だ。

 その見た目からは、動けるといったイメージはなく、どちらかというと大人しい印象を受ける。

 「大丈夫?白、無理しなくても良いのだけど…」

 「だ、大丈夫…もう少し息だけ整えさせて…」

 「普通はそれを大丈夫じゃないって言うんだけど……」

 鏡華の言葉は、白と呼ばれた少女には届いておらず、大きく深呼吸をしていた。

 「……ふぅ、もう大丈夫です。待っててくれてありがとうございます」

 最敬礼に近い頭の下げ具合に、もう二人は慣れているのか、特に気にすることも無く。

 「大丈夫よ白、って言うかあまり体力無いんだから無理しなくても良いのだけど…」

 「そんな事無いです。私の能力が近接系ですから体力を鍛えるのは当たり前ですよ?」

 「そうは言っても……」

 三人の会話に、明日香が入ってきて。

 「えっと…私たちも自己紹介済ませたいんだけど、いいかな?さすがに柚姫と鏡華は私たちの事しらないなんてちょっと不公平だから」

 明日香が申し訳なさそうな顔と上目づかいで柚姫達に聞いている。

 天然ロリの明日香がやれば破壊力が違うのか、三人ともが「ニャッ!?」と奇声を上げて動揺して。

 「ご、ごめんね…それじゃあ、お願いしていいかしら?」

 柚姫は申し訳なさそうに、明日香の方を見て。

 「でも、その前に私の自己紹介させてください。私は黒音くろね 白亜はくあです色々と至らない点もありますが、柚姫と同じ独立治安維持部隊に配属されています」

 明日香達の方を見て、見事な最敬礼をする。

 明日香達もつられて、いえいえ、と反応してしまう。

 「じゃあ、改めて。私は御影明日香、一応小さなギルドのリーダーを私とお姉ちゃんでさせてもらってます」

 明日香に続いて、梓も自己紹介を始める。

 「えっと…藤堂梓、です。私も、明日香と同じくギルドリーダーをやらせてもらってます…こんな感じでいいのかしら?」

 梓は、そういう機会がなかったのか、少したどたどしかったが、柚姫たちは特に気にする事も無く。

 「ふふ、よろしくね」

 笑顔で、握手を交わしていると、エメルダがふて腐れて、話に入ってくる。

 「そういえば、明後日からこの国の中央闘技場で大きな大会があるのよ。私主催の優勝賞品は確か、『天狼王の蒼爪』だったから、よゆーあったら参加してね~」

 そういうと、エメルダは次の瞬間ビルの合間を三角とびで上り、逃げ出していた。

 いち早く気付いた柚姫はほぼ同じタイミングで駆け出していた、もちろんエメルダを捕まえるためにだが。

 「ご、ごめんなさい!うちのお姫様が逃げちゃったので追いかけますね!あ、あと私とヒメと私は明後日の大会に出るので、もしも戦うことになったらよろしくお願いしますね!」

 白亜は急いでそう捲し立てると「待って~!」と言って、追いかけていった。

 運動が苦手そうに見えたが、実際はそうでもなく、周りのレベルが高いだけで白亜自身も十分身体能力は高く、かなり訓練しているように見えた。


 「じゃあ、私たちはどうしよっか?」

 「とりあえず、明後日の大会には出てみましょう。もしかしたら、対人戦で楽しめる人がいるかもしれないし、それに中々優勝賞品もよかったしね」

 明日香達も、これからの予定が決まったようで「おー!」と元気のいい掛け声をだしていた。

 大会は明後日、やることも決まって、明日香達が決めたことは。

 「大会まで自由行動よーーー!!!」

 『おーーー!!!』

 と、今日一番の声が、コンクリートジャングルに響き渡った。

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