特訓の終わり
少し更新速度が遅くなって申し訳ありませんm(__)m
「二人とも!大丈夫!?」
明日香達二人が目覚めての第一声はこれだった。
目を開けると、アリシアは涙をぽろぽろと零しながら、マルモでさえも「良かった…!」と、本気で心配してくれていた。
「ぁ…あ、アリシア…緋焔、闢零?」
「大丈夫ですか!お嬢様!?」
「しっかり、して…ください…!」
緋焔と闢零も心配してくれていたようで、闢零に至っては、目元が赤くなっている。
「わ、私…!このまま、お嬢様が、目を、覚まさないか、と思って、心配、したんですよ……!」
「あ、はは…ごめんね、ちょっと、無茶しちゃったかな……」
力なく笑っていると、アリシアが近づいてきて。
「今回だけは、私たちのミスです。まさか、『殺龍真祖』がこの空間に来ていたなんて、考えていませんでしたから」
「あ、そう言えば、アリシア。意識が無くなる前に聞いたんだけど『藍染の魔女』って何か分かる?」
その言葉を聞いた途端、アリシアとマルモの反応が変わる。
「それ、あの場所で聞いたの!?」
「え…そ、そうだけど…ど、どうかしたの?」
「その名前はマルモの魔法の師匠の二つ名よ!」
終始慌てている状況で、梓がぅぅ…と、フラフラとした動作で起き上がる。
「あ、梓!貴女マスターの姿見た!?」
「ふぇ!?ちょ、いきなりどうしたの!?」
いつもなら考えられないくらいの、マルモのてんぱりっぷりに寝起きの梓といえども、驚いてしまう。
「お、落ち着いて、マルモ。梓さんが困ってますよ…」
アリシアが様子の違うマルモに戸惑いつつも、宥めようと試みたが「それどころじゃないの!」とマルモにしては珍しい大声で反論していた。
「わ、分かったから…まず、マルモのマスターっていうのが明日香の言っていた『藍染の魔女』って名前なら多分聞いたわ。でも、姿まではよく見えなかった。私、あの時は軽く死に掛けてたから」
梓が自嘲気味に笑っていると、マルモも少しは落ち着いたのか、いつもの調子に戻り。
「ご、ごめんなさい。マスターが生きてるってわかって舞い上がっちゃったの…」
「あ、そういえば何だったけ…確か『七天の皇女』『紫電の紅姫』あと、ふ、ふる…」
「『黄槍の戦姫』でしょう?」
アリシアが、明日香の思い出せなかった、最後の名前をフォローしてくれた。
「そう!それだよ!その四人が、アリシア達の師匠なんでしょ?」
明日香がそう言うと、アリシアが。
「確かに、『黄槍の戦姫』は私の槍術の師匠で『藍染の魔女』はマルモの魔法の師匠ですけど、『七天の皇女』は違いますよ」
梓は、その言い回しから察したのか、あっ…という顔になる。
「まさか『七天の皇女』ってまさか──」
「そうですよ。貴女達の本当の母親、風城翠さん。かつて存在した、幻のギルドであり、最強のギルド『極光の歌姫』のリーダーです」
アリシアの言葉に二人ともが、沈黙する。
梓に至っては、自分の母親に傷を治してもらっていたのだから。
「……私たちのお母さん、生きていたんだね……」
明日香のその言葉には、少し安堵の色が含まれていた。
いくら、自分の親の顔も見たことが無かったとしても、母親であることには変わりない。
だからこそ、明日香は翠が生きていたということに安心したのだろう。
「でも、それなら私達のお母さん達はどこへ行ったの?ここって、空間移動が簡単にできないって、マルモが、言ってたじゃない」
「でもね…翠さんたちは規格外なのよね…」
マルモが、苦笑しながら明後日の方向を向く。
「あ…確か、お母さんは私達のために新しい世界作ったんだっけ…」
明日香も思い出したのか、つられて苦笑いする。
「そ、そうね…考えたら負けってやつね…」
梓も仕方ない、といった表情でつぶやくと。明日香が、でも…と、少し寂しげに呟く。
「お母さんって、どんな人なんだろ……会ってみたかったな…」
そんな、無意識に近い呟きに、アリシアはそれなら…と言って、何かを唱えると、周囲の魔力が集まり始め、赤髪の男が現れた。
「我を呼び起こしたのは誰だ?」
アリシアが私よ、と言うと、赤髪の男も納得したのか、なるほどな、と笑うと。
「それで?我を呼んだ理由はなんだ?」
「明日香達の母親、翠さんの事観る事出来る?さっき『殺龍真祖』にやられたばっかだけど」
アリシアが赤髪の男と話しているが、その内容から考えると。
「ちょ、ちょっと待って!まさかその男の人が七番目の天龍なの!?」
「ああ、そうだ。我は七天の頂点に立つ龍、オルディアだ。先ほどは情けない姿を見せたな、さすがの我でも『殺龍真祖』相手では相性が悪い」
「そういえば、さっきから皆が言っている『殺龍真祖』って何のことなの?」
話についていけていない明日香はとっさに質問する。
マルモは、話すことを忘れていたのか、ごめんなさい、と伝えて。
「まず、竜種と有利に戦うことのできる能力、というか技能を身に着けているのが『殺竜使』これは、正直な話才能があれば誰だってなる事が出来るわ。それこそ竜種だってね。そして、生まれた時から、龍殺しの能力を持っている人間それが『殺龍真祖』なの。その力は並みの竜種だったら、近づくだけで死に至ってしまうほどに強力なものよ。ちなみに、明日香達は人龍だから効果は約半分に抑えられるわ」
マルモの説明を聞いて、明日香は顔を青ざめさせる。
「わ、私たち…そんな危ない奴と戦ってたの…!?」
「なんだ、そなた達が、あやつと戦っていたのか…して、名は何というのだ?」
「御影明日香よ」
「藤堂梓」
二人ともが名前をオルディアに伝えると、オルディアは納得したように。
「成る程。そなたたちが翠の二人の娘か。そうなると、話は別だ。翠の事を教えるわけにはいかん」
その言葉に納得のいかない二人は「どういうことよ!?」とオルディアに詰め寄る。
さすがの天龍も、二人のしかも翠の娘を邪険に扱うことは出来なかったらしく、おとなしく理由を話し始める。
「そもそも、翠がここに来ること。そして『殺龍真祖』がここに現れる事自体がイレギュラーだったのだ。それにそんな物は我は持ち合わせていない」
オルディア自身も想定外の出来事だったのか、額に少し冷や汗が浮かんでいるように感じられた。
「だが、それ以外にはそなたたちが私に勝った時に授けろ、といったものがあったな」
「そんなのあったの!?」
明日香が驚いて聞き返すが、何か気づいたらしく、あ……と、俯いてしまう。
「で、でも私たち、あなたを倒してないからそれも貰えない……」
落ち込んでいる明日香を励ますように、オルディアは心配するなと肩をたたき。
「そなた達は我が斃された『殺龍真祖』を撃退したのだ。もらう資格は十分にある。だから、受け取るがいい、そなた達のギルド『黒薔薇の騎士団』のギルドマスターの証を」
オルディアが虚空から呼び出したのは、黒曜石のような石に、緻密な薔薇の絵が掘られたブローチだった。
「これが……お母さんからの私たちへの贈り物……?」
「それだけではないですよ」
振り向くと、明日香と梓の前に膝をついているアリシアとマルモの姿があった。
「ど、どうしたの二人とも!?」
「私たちは、凜さんを含めて、この特訓が終わったら明日香さん達のギルドに入ることになっていたんです」
二人の話を聞いて、明日香達は少し迷い気味だ。
そんな話を聞き、迷いを見せていた明日香達だが、二人で顔を合わせてこくりとうなずくと。
「……わかったわ。貴女達が私たちのギルドの最初のメンバーになってくれる?」
「もちろんです!」
アリシアは嬉しそうに、マルモもしょうがないわね、という表情はしているが嬉しそうだった。
「さあ、帰りましょう。私たちの家へ」
梓の言葉に、明日香は嬉しそうに私たちの……と反復していた。
「あ、そうだ。貴女達に『四聖姫』の意味教えてあげるわ」
空を見て、とマルモが言うので、空を見上げると。
「うわぁ…綺麗……」
空には、全てを覆い尽くすのような巨大な虹が現れていた。
「これ……こんな大きな虹見たことない……!」
「もともとは『虹姫』って名前にしようとしてたらしいんだけど、その時にはメンバーが翠さんを合わせて5人だったから『五神姫』になったってマスターが言っていたわ」
その時に見た虹をここにも作っちゃえってノリで作ったらしいわ。とマルモが言っていたが、明日香はその虹に心を奪われていた。
それほどに、その巨大な虹は美しかった。まるで神が作り出したものを見ているかのように。
「───さあ、戻りましょうか。『マスター』」
アリシアの優しい声に、明日香も微笑んで。
「帰ろっか──皆の家に」
二人の少女は手をつないで、もう二人の少女たちはその二人を見守るように、門の中へと歩んでゆく、手をつなぐ二人の胸には、小さな黒いブローチが飾られていた。
この話で一応第一章は完結です。
この後は閑話として三本ほど本編とは関係のない話を投下させていただきます
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