赤双と黒衣
今回は世界観説明となっているのでかなり短いです
「この辺で良いですかね…」
明日香との戦いの後、アリシアは火山から出て一番近い森林の最奥部に来ていた。
木々が鬱蒼と茂り、光すらも遮られる薄暗い森のなかでアリシアは何が起きても対応できるように警戒している。
ただ、その警戒の度合いは場所とは不釣り合いな位だ。この場所では七天龍と数種の魔物を除くと、全てがSSSランク以下のアリシアには警戒の必要の無いくらい弱い魔物達だ。
「…ッ!そこっ!」
何かに気付き、短槍を自分の真後ろ――ただの木に投げたならスコンという音と共に槍が刺さる筈なのに、何時までもその音がしない。
「………よく気付いたな……」
代わりに聞こえたのは魔法がかかっているのだろうか、男とも女ともとれない声だった。
「あなたが、今日明日香さんと戦っているときにずっと私達を観ていた人ですね」
「安心しろ。今のところお前たちに危害を加える気は無い」
アリシアは冷静さを保ちながら。
「この際、そんな事はどっちでもいいです。今はなぜあなたがここに来ることができたのかです」
アリシア達のいる空間は時空間の狭間にある明日香達のギルド、その中にある扉でしか入ることしかできない。
そして、入る時にいた人間は凜一人だけだった。ということはこの状態で入れる人間はまず存在しないのだ。
だというのに今、アリシアの目の前に謎の人間がここにいる。
「それは教えられないな」
「なら、私はあなたを捕まえさせて頂きます」
アリシアが槍を構えると、黒衣は良いのか?と意味深な事を聞く。
「…どういうことです?」
黒衣の口から出てきた言葉はアリシアを、ここにいるならばマルモや凜でさえも驚くような言葉だった。
「私は『夢現戦争』の後、消息不明の『五神姫』を知るものだ」
「っ!?どういうことですか!?師匠達の行方は誰にもわからないはずです!」
黒衣の言った『夢現戦争』とは明日香達の母親風城 翠と7人の仲間今は無き『極光の令嬢』、闇のギルド『漆黒の死神』そして数十、数百の異世界との戦争の事を言う。結果としては『極光の令嬢』が『漆黒の死神』を退け、邪神を封印した。
『五神姫』は『極光の令嬢』の中の五人、風城 翠、黒羽 雪那、エルザント・ノーブルス、リゼリア・クロスロード、藤宮 凜の事だ。
「後、私は私情を挟む主義は無いがお前にだけは言っておこう――――私は雪那を許さない」
そう言って黒衣は姿を消した。
「『雪那を許さない』か…私の師匠に一体何が…」
アリシアに槍術を教えたのは他ならない雪那なのだ。目の前で師に関することを言われて平然としていられるわけがない。
「でも…今は自分の力を昔の…いえ、それ以上に強くしなくてはなりませんね」
アリシアはそう呟くと、軽やかな足取りで森を抜け湖に向かう。
いずれ戦うことになるあの黒衣の人間との勝負に備え、アリシアは自分の力を取り戻しに、それを知らない明日香は緋焔から事情を聞き、再び七天龍との戦いに望むのだった。




