明日香と赤双の戦姫ー2
連続投稿にさせていただきましたm(__)m
「『武装化緋焔・闢零』!」
明日香は手早く、二人を剣の姿に変える。
「もう…明日香さんに手加減は必要ありませんね…『顕現爆裂式突撃銃槍・リベリオン・アルヴァ』!」
アリシアの呼び出した二本の槍は驚くほど対称的だった。爆裂式突撃銃槍は無骨な実用性を重視したような形の槍だが、リベリオン・アルヴァは雪のように白く、武器として扱うことより貴族の家などに飾ってあるような槍として扱った方が良いのではないかと思うほど、美しい槍だった。
「それが…アリシアの本当の武器…」
「謝るのなら今のうちですよ?明日香さん。ここからは明日香さんと本気で戦わないといけなくなりますから」
明日香は何を今更、と考えていた。アリシアに『もしも』なんて言葉が出てきたのは、自分が弱いから、自分が強いということをアリシアが分かっていないからだと、明日香は思っている。だからこの戦いで手加減などされては明日香がこの戦いを望んだ意味がなくなってしまう。
「誰が謝るものですか。全力戦ってくれるのなら寧ろ好都合よ」
「そうですか…なら行きますよ!」
アリシアが爆裂式突撃銃槍を構え明日香に突っ込む。爆裂式というだけあり、明日香は警戒する。緋焔とぶつかり甲高い金属音が鳴り響く、それと同時にアリシアが小声で何か呟きトリガーを引く。
「爆ぜなさい」
刹那、先端が爆発する。予想していたとはいえ、ゼロ距離での攻撃への対処は難しい。その為、明日香は闢零を使わずに待機させていた。
(闢零ッ!)
(はいッ!)
闢零はすぐさま明日香の身体に氷の膜を張り、明日香を爆発から守る。カシャンという儚い音と共に氷は砕け、火山の熱によってすぐさま水蒸気にまで変えられる。
アリシアの爆撃を防御し明日香が攻撃を仕掛ける。次は闢零も加えた、双剣での攻撃スタイル、本来の戦い方だ。
「御影流『断絶』!」
緋焔と闢零が明日香の手元で舞い踊り、アリシアを襲う。アリシアもその程度で動じる事もなく冷静に明日香の剣舞を槍で弾き、いなす。
激しい金属音が辺り一体を覆い尽くす。周りに棲んでいる魔物でさえ、この戦いには手出しができない。そういう戦いなのだ。
(このままじゃ、ジリ貧…何か方法は無いの…?)
明日香といえどアリシアと打ち合えるほどの攻撃を、何時までも続けられる分けがないのでいかに今の状況を抜け出すかが明日香の最優先事項だ。
(お嬢様、属性剣ならば相手の不意をつけるはずです!)
緋焔の提案を受け、明日香は、
(私…まだ慣れてないけど緋焔、制御任せても良い?)
(私達はお嬢様の剣、お嬢様の指示には従います)
(任せてください…!私達は…お嬢様の為に創られた霊剣ですから…!ちょっとの魔力じゃ…私達は壊れたりしません!)
「じゃあ、任せたよ!」
明日香は後ろへ跳び、アリシアと距離をとる。
「何をするつもりですか?まさか降参、何て言いませんよね?」
「そんなわけないでしょう?」
明日香が魔力を自分の手から炎の魔力を緋焔に、水の魔力を闢零に送るようにイメージする。
『我が、寵愛を受けし紅の剣よ。その刀身に紅焔を纏い、灰塵へと還せ』
(はっ、ぅあ…お、お嬢様の、魔力が、んっ、私の、中にぃ…)
緋焔が悩ましげな声を上げているが、明日香は気にせず闢零にも。
『我が、寵愛を受けし蒼の剣よ。その刀身に蒼氷を纏い、永久の凍獄へと導け』
(あっ…くぅ…わたし、の…なか、おじょう、さまで…いっぱい…)
二人に魔力を流すと、それぞれの刀身に炎と氷が纏う。
「さぁ、二回戦を始めましょう?」
明日香が属性剣を使うと、戦況は明日香の方向へ傾く。アリシアも表情にはできるだけ出していないが、苦しげな状態だということは読み取れる。
(明日香さんの属性剣…魔力でリーチまで伸びるなんて、想定外ですね…)
通常、属性剣は剣に属性を付加させるだけで魔法剣士だけが使うような、正直なところ使い道があまり無い。だから、明日香の属性剣のようなリーチが伸びるような効果等は完全に想定外だったのだ。
「御影流『双戟連刃』」
二刀の魔力の斬戟を次々とアリシアに向けて、飛ばす。
「出し惜しみもそろそろ厳しいですね…黒羽流奥義『征龍域』」
アリシアの一定の間合いに入った斬戟が全て弾かれる。アリシアは明日香を見て。
「まさか、ここまで明日香さんが強いとは思いませんでしたよ…そろそろ『もう一本』使わせて頂きますね」
そう言うと、アリシアは盾を捨てもうひとつの槍アルヴァ・リベリオンを手に持つ。
「明日香さんには先に教えておきます。私が『赤双の戦姫』と呼ばれるようになった、ひとつの由来を」
「貴女が前に言っていた『双槍使い』でしょ?」
明日香がそう言うと、フッと笑って。
「その通りです。明日香さんは私の槍さばきに耐えられますか?」
今度は明日香がアリシアに代わり不利になる。槍が一本と二本では攻撃密度にも差が出てくる、それにアリシアは二本で戦うことを主流としていたのか、こちらの方が動きが鋭い。
(うっわ…想像以上に厳しいなぁ…私の魔力も二人に渡しっぱなしだから、多分もって後5分位かな…?)
明日香がアリシアの連続突きをさばきながら考える。
(決めていかないと不味いかな…)
(なら、一つ私に提案があります)
緋焔が明日香に聞いてくる。この状況での打開策なら、聞かないわけにはいかない。
(じゃあ、聞かせてもらえる?)
(はい。ただ…お嬢様が承諾してくれるかどうかです)
緋焔にそう言われて、明日香は表情が変わる。緋焔の作戦を明日香が聞くと。
(…ッそんな事私にしろっていうのッ!?)
(ですが…ッ!この作戦以外では恐らく私達が魔力切れでやられてしまいます!)
緋焔の言う事ももっともだ。だが、いくら明日香の所有物であっても人の形を、人の心を持った少女を使う作戦は明日香にとっては余りにも酷だ。
(分かった…分かったわよ!!その代わり命令よ!絶対に死なないこと!)
明日香の今にも泣きそうな言葉を聴いて、緋焔と闢零も分かりました。と答える。
(……絶対に死んだら許さないんだから……!)
緋焔達には聞こえないほど小さな声で呟いた。
「食らえッ!」
明日香が緋焔と闢零を投げる。流石のアリシアもその考えには至らなかったようで一瞬の驚きが生まれた。
明日香はその刹那とも言える時間でアリシアに肉薄していた。『征龍域』といえども万能ではない、自分が警戒を解いてしまっていては征龍域は意味を成さなくなる。
「『顕現双龍』!続いて、御影流『絶影』!」
明日香の剣が、アリシアの服を軽くだが切り裂きアリシアの素肌が露になる。
明日香はアリシアの切れた服の合間から見えた胸を見て。
「私と同じ位…?」
「ほっといて下さいっ!75はあるんですから!」
アリシアの言い放った言葉を聞いて、明日香は仲間を見つけたような、だが仲間を見つけてしまったという哀しみを湛えた笑みと共に。
「わたし…78…あるよ…?」
そ…んな…と崩れ落ちるアリシアを見つめながら、明日香は手を伸ばして。
「私達…仲間、だよ…?」
「アリシア、落ち着いた…?」
「え、ええありがとうございます」
明日香の告白にアリシアが崩れ落ちて、数分後ようやく落ち着く。
その間に明日香は緋焔と闢零を取りに向かっていた。幸い二人に傷は無いようで明日香は次にこんな作戦考えたら許さないんだから!と今にも泣きそうな顔で緋焔達に命令していた。
「結局、微妙なまま終わっちゃったな……」
明日香がそう呟いているが、アリシアは。
「そんな事ないです。貴女の勝ちですよ明日香さん」
「で、でも私…アリシアに一回も攻撃を当てられてないよ?」
勝ちだと言っているというのに明日香は勝ちを認めようとしない。そんな明日香にアリシアが。
「何言っているんですか、明日香さん。明日香さんは私の服に切れ目を入れたじゃないですか。それだけでも充分に合格ですよ」
「むぅ…分かった。今回は私の勝ちにする…。だけど、次はちゃんと勝つんだからね!」
ツンデレの娘がするような、相手を指差すポーズで言っている。黒髪ポニーテールの娘がそんな事を言うと何か違和感があるような気がするが、可愛ければ全く問題ない。
「さて、一回帰りましょうか。明日香さんとはいえ私の後に七天龍と戦うのは無理ですから」
「そうだね…私も疲れちゃって…ね、むく…」
言い終わる前に、緊張から解き放たれたせいか体が先に限界を迎えたようで、明日香の身体がフラッと倒れこむ。
小柄な身体をアリシアは優しく受け止め。
「全く…明日香さんは、本当に寝顔も…かわいいんですから…」
くぅ…くぅと寝息をたてている明日香を、そっと地面に置いて。
「緋焔さん達後は頼みますよ。私にはもうひとつやることがあるので」
そう言い、緋焔に何か耳打ちすると何かを渡し何処かへ行ってしまった。
「さぁ、闢零私達はお嬢様を取り敢えず外に連れていくわよ」
「…はい、お姉さま…お嬢様、私貴女の剣で良かった…」
緋色の髪の少女は眠った黒髪の少女を背負って歩き、蒼色の髪の少女はその少女の寝顔を見守る様に寄り添って、火山の外へ歩いていった。
本当は1パートにまとめようとしたんですがちょっと量が多すぎるような気がしたので2パートに区切らせて頂きましたm(__)m




